※本記事は、林修先生唯一のビジネス書である『林修の仕事原論』(青春出版社)より、抜粋してご紹介します。
相手の期待値を読み、そして超える
公言しているように、僕は友達の少ない人間です。基本的に人間嫌い。自分から人脈をどんどん広げようという気がまったくありません。
そんな僕からすれば、名刺交換しただけで「人脈が広がりました」と喜ぶ人は信じがたい存在です。立ち話をして、お互いの連絡先を知っただけの関係が人脈になるわけがない。相手も人脈だとは認識していないでしょう。本当の人脈というのは、そう簡単に広がるものではありません。
新しい人と知り合う、あるいは紹介される、といったことが日々繰り返されているとしても、人脈が広がったなどとは言えません。真の人脈は、仕事を通して、しかもうまくいった仕事を通して初めて広がっていくものなのです。
では、一緒に仕事をしましょうとなったとします。その際、相手が僕にこれぐらいの仕事をやってほしいと思った期待値を超えていくことが真の人脈につながります。
そういう姿勢で取り組むことで、相手は「林さんに頼んでよかった。またお願いしよう」という気持ちになってくれるものです。だからこそ、まず相手の期待値の水準を読み、そのうえで、それを超えていかねばならないのです。
一つわかりやすい例を挙げましょう。
この国にはお年玉というしきたりがあって、毎年お正月には、個人差はあるものの、子どもはかなりの額のお金を手にします。大人にとってはなんとなく不条理な制度なのですが、自分もかつてもらっていたという人が大半ですから仕方ありません。
一方、もらう子どものほうは、案外「予算」を組んでいるものです。昨年度実績に基づきながら、このおじさんは5千円、このおばさんは3千円、といった具合に。
そう、これこそがまさに期待値です。そして実際にお年玉をもらう際、「このおじさんは5千円だな」と思っていたとき、もしポチ袋から1万円が出てきたら、「え、1万円? おじさん、ありがとう!!」となるものです。
これが期待値を超えるということです。一方、期待値5千円のおじさんが5千円くれた場合は、もちろんありがたいとは思うでしょうが、どこかで「ノルマ達成」という気持ちになってしまうのも事実です。
これを仕事に当てはめるとどうなるでしょうか。期待通りの仕事をすることももちろん大切です。しかし、それは当然のことであって、相手も織り込みずみ。次につながるかどうかはわからないのです。
ここは極めて重要なところです。相手の期待値通りにやればそれで合格だと思う人も多いでしょうが、それは最低条件をクリアしたにすぎないのです。
それに対して、相手の期待値を超えて、「えっ? そこまでやってくれるんだ」という領域に飛び込めば、驚きを伴った真の感謝を得られます。それが、「じゃあ、次もよろしく」という展開を生むものなのです。
ノルマをこなせば合格と思うか、何としても期待値を超えてやると思うか。その気構えの違いは、すべてにおいて決定的な差をもたらします。
自分とかかわったすべての人を幸せに
さらには、自分とかかわったすべての人に「よかった」と言ってもらいたい、幸せになってほしいと思うことも大切です。そんなの自分にメリットがないじゃないかと思う人もいるでしょうが、それでもいいではありませんか。
そういう思いで仕事をしていると、不思議なくらい自分に戻ってくるものです。もちろん、「自分に戻ってきますように」などと願うようではいけません。
期待値を超えてやろうとする気概で仕事をして築いた人脈と、先に述べたようなパーティーで名刺交換しただけというレベルの人脈はまったく違います。それがわかっていない人があまりにも多いのには驚かされます。
志の低い人とは距離を置く
ただ、こう思う人がいるかもしれません。「最初の依頼を得るために交流会でせっせと名前と顔を売るんであって、実際に仕事をしなければ広がらないなんて困る」
そういう人には、僕のもう一つの人脈の広げ方を紹介しましょう。それはSNSをうまく活用することです。僕の場合はブログですが、ツイッターやフェイスブックなど、個人が発信できるメディアはいくつもあります。
メディアは自分の資質から選んだほうがいいでしょうね。僕の場合は「長文体質」なので、140字のツイッターは合いません。しっかり構成した、長めの文章なら自信があるというのがブログを選んだ理由です。
たとえば、僕は定期的にMLB(野球の米メジャーリーグ)について、自分なりに論理的に(つまりは理屈っぽく)分析した記事を多数書きました。そうしているうちに、その内容を評価してもらってMLB専門番組のコメンテーターの依頼をいただいたんです。また、シャンパンについての記事を見たワイン雑誌の編集者から、エッセイの依頼を受けたこともあります。
これは僕の体験談ですが、人それぞれ、その人の資質に合った方法があるはずです。たとえば、カルチャースクールなど、趣味の世界を通して広げていくのがうまい人もいるでしょう。ちなみに、僕の妻の母親は句会で世界を大きく広げています。
ただし、単に多くの人と知り合えばいいとは思えません。先にも述べましたが、無条件に名刺を配る形で広げると、人脈の質を管理しにくくなります。
特に志の低い人間とつき合うのが怖い。名刺交換した相手から連絡があって人脈が広がったと思っていたら、単に飲み仲間が増えただけだったということにもなりかねません。
自分が上を目指したいと必死に努力をしても、「ほどほどでいい」という人と一緒にいると、人は感化されてしまいます。低きに流れるのはあまりにも容易だからです。そのうえ、そういう人は一度つき合うとなかなか離れず、足を引っ張ってくることさえあって本当にタチが悪いのです。
友達が、仲間が悪いのではなく、そういう人間を交際範囲に入れてしまった自分が悪いんです。「あの人は、ああいう人とつき合っているんだ」という判断基準は、今でもなかなかの効力を持っています。そういったことまで考えて、あくまでも自分の責任で、自分の交際する相手を選んでいきましょう。
1965年愛知県生まれ。東進ハイスクール、東進衛星予備校現代文講師。東京大学法学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。その後5カ月で退社し、予備校講師となる。現在、東大特進コースなど難関大学向けの講義を中心に担当。テレビ番組のMCや講演など、予備校講師の枠を超えた活躍を続けている。