薬剤師・うるおいコンシェルジュ
気温が低くなるにつれ、体調を崩す人が増えていきます。「病は気から」というけれど、そもそも「気」とは何なのでしょうか? 漢方とうるおいの専門家である大塚まひささんに、「気」の正体と、病気を遠ざけるヒントについて伺いました。
5つもある「気」の働き! 不足するとどうなる?
目には見えませんが、「気」は全身をめぐっていて、カラダの働きのあらゆる原動力になっているものです。気は生きているものすべてにあります。健康であれば、カラダの中にたっぷりとあり、頭のてっぺんから足の先までしっかりとぐるぐるとめぐっているものです。
気には次の5つの働きがあります。
●推動作用……「動かす」働き
●温煦(おんく)作用……「温める」働き
●防御作用……「カラダを守る」働き
●気化作用……「性質を変える」働き
●固摂(こせつ)作用……「もれを防ぐ」「位置を保つ」働き
それぞれについて見ていきましょう。
気が不足した状態を「気虚」(ききょ)といいますが、不足したときにどういうサインが出るかもお伝えしているので、ご自分が気不足かどうかを見極められるようになるはずです。
●推動作用……「動かす」働き
文字通り、カラダを動かしたり、カラダの中を動かしたりする働きのこと。「気・血(けつ)・水(すい)」(栄養、うるおい成分)を動かすことや、代謝にも関わっています。肌のターンオーバーにも関係します。
何らかの原因で気が不足すると、カラダを動かす原動力、エネルギーがない状態になるため、「疲れやすい、だるい、やる気がない」というサインが出てきます。
また、カラダの中にあるものを動かせないので、腸にある便を動かせずに便秘になったり、新陳代謝が遅くなったりします。肌のターンオーバーの乱れにもつながり、くすみになって教えてくれたりします。
●温煦作用……「温める」働き
カラダを温める働きのこと。何らかの原因で気が不足して、温煦作用が弱くなると熱を作り出せず、カラダを温められなくなるので寒く、冷えるようになります。冷え性の原因の一つですね。
●防御作用……「カラダを守る」働き
風邪、インフルエンザ、新しいウイルスなどの菌やウイルス、花粉、金属のアレルゲンなどからカラダを守る働きのこと。
「病は気から」というのはその通りで、気がカラダの中に満ち溢れていれば、病を寄せつけません。気が不足すると、防御作用が弱まり、邪気(カラダに入るとよくないもの)を入れてしまうのです。
具体的には、すぐ風邪をひく、毎年インフルエンザにかかる、新しいウイルスにも感染しやすい、花粉症である、金属や食物アレルギーがある、敏感肌である、肌が弱い(女性ならコスメでお肌が荒れやすい、男性ならひげそりのカミソリ負けをしやすいなどが目安)といったサインが出てきます。
●気化作用……「性質を変える」働き
食べたり飲んだりしたものを気・血・水に変えたり、カラダの中の水分を汗や尿に変えるなど、気は「性質を変える」働きも持っています。
したがって、気が不足して「気化作用」が弱くなると、食べたり飲んだりしたものが栄養に変わりにくくなります。食べても太れないとお悩みの方は、気不足により気化作用が弱くなっていると考えられます。
その他の具体的なサインとして挙げられるのは、カラダにいいと言われるサプリメントを飲んでも効果を感じにくい、汗が出ない、尿が出ないなどです。
●固摂作用……「もれを防ぐ」「位置を保つ」働き
あるべきものをあるべき場所に保つという働きのこと。カラダの各パーツ(目尻、ほお、口角、あご、胸、おなか、お尻など)や内臓の位置を保つこと、カラダの中に必要な栄養や水分を体内に保つこと、血が血管の中を流れること。これらは、気の働きのおかげです。
気が不足して、固摂作用が弱くなると、カラダのパーツの位置や形を保てないので、全体的に下がり気味になります。たとえば、たるみ、ほうれい線、しずく型の毛穴などがそのサインです。ボディラインやフェイスラインが、ボテッとたるんだりもします。
内臓の位置を保てなくなることもあり、それが胃下垂などになって教えてくれます。また、カラダの中のうるおいや栄養をカラダの中にとどめておけないので、たとえば、水分をとったらとった分だけ汗や尿として出てしまうとか、汗がなかなか止まらないというサインが出てきます。乾燥の始まりです。
気の働き5つを解説しながら、気が不足したときにカラダが教えてくれるサインをお伝えしました。気が不足すると、これらのサインがすべて出てくるというわけではありません。100人いたら100通りの気不足のサインの出方があります。
ある人は「ほうれい線」として出てきたり、ある人は「汗が止まらない」というサインで出てきたりします。合わせ技でくることもあれば、時によって違うサインが出てくるというケースもあります。
ですので、気不足かどうかをはかるには、気の5つの働きを知っておくことが大事です。働きから連想できるサインがあるので、気不足で生じるサインを全部覚えていなくても、いつでも自分自身の状態をひも解くことができるでしょう。「気不足だ!」と思ったら、気を補う食事やライフスタイルを心がければいいのです。
「気」をチャージするにはどうすればいい?
こんなに重要な役割を担っている「気」が不足するのは、何が原因なのでしょうか。
それは「気の使いすぎ」か、「気を補っていない」かです。
気は生命エネルギーなので、毎日ただ生きているだけで消耗します。消耗した分を補わなければ当然、不足してしまいますし、いつもよりも働いたり動いたりすれば、いつもよりも気を補わなくてはなりません。
「(人や物に)気を遣う」というときの「気」も同じ「気」です。気を遣ったときは、気を消耗しているのです。声も気なので、話したり歌ったりすれば、気を消耗します。
現状維持するには、消耗した分の気を毎日補っておく必要があります。また、今よりもさらに元気に、エネルギーに満ちあふれた人になりたければ、消耗分にプラスしてさらに多くの気を補う必要があるのです。
では、気をチャージするには何をしたらよいかというと、穀類や豆類などを採ること、しっかり休むこと(遅くとも23時までには寝る)などが挙げられます。
「気」という文字はもともと「氣」と書きます(諸説あり)。中が「米」であることにお気づきかと思いますが、気はお米で補うことができるのです。
「Whole food(ホールフード)」の考えに基づき、白米ではなく「玄米」の方が気を補うパワーは強いのでおすすめです。
薬剤師/漢方臨床指導士/うるおいコンシェルジュ 株式会社Orient代表取締役。大学を卒業後、製薬会社にてMR(医薬情報担当者)、臨床開発受託機関にて抗がん剤臨床開発職を経て、漢方に出会う。自身に漢方薬を試したところ、月に鎮痛薬を80錠飲んでいた状態から2週間でゼロに。万年の不機嫌や吹き出物もなくなり、漢方のすごさを体感する。本格的に漢方を学び、漢方臨床指導士資格を取得。漢方にあるマイナスイメージを払拭し、心身ともに美しくなれる漢方を広めるため、オリジナル漢方茶「うるおい美漢茶®」を創る。販売数10万袋超、愛飲者は延べ5000人にのぼる。「うるおい漢方セミナー」主宰、執筆活動も行っている。