薬剤師・うるおいコンシェルジュ
「疲れていると、ついつい甘いものを食べ過ぎてしまう」「ダイエットをしたいけれど、お菓子がやめられない」ということはありませんか? 食事以外のものでお腹をいっぱいにしてしまい、必要な栄養が摂れないと、健康によくないばかりか体の乾燥や老け顔を進行させてしまいます。そうした悪循環から抜け出すためのポイントを、「うるおい」と漢方の専門家で薬剤師の大塚まひささんに教えていただきました。
スイーツを食べたいとき、カラダが本当に欲しているのは…
甘いものを食べたくなり、「チョコレートが食べたい!」と思ってチョコレートの箱を開けたら、食べても食べても止まらず、1パック全部食べてしまう。あるいは、しょっぱいものが食べたくなり、スナック菓子をたくさん食べてしまう。
チョコレートやスナック菓子を食べているときは幸せだけど、食べ終わって空の袋や箱を見ると、「大丈夫だろうか」といった不安を感じる。「ご飯も食べずにお菓子でおなかいっぱいにしてしまった」という罪悪感を覚えたり。そんな人は少なくないと思います。
実はそれって、カラダの中からの「疲れました」「ストレスマックスです」「消化器が疲れています」「これからほうれい線ができます」「たるみます」「お肌が乾燥しはじめますよ」といったサインなのです。
「甘いものが食べたい!」「チョコが食べたい!」と感じたとき、カラダが本当に欲しているものはお米や芋類などです。もしかして、お米をあまり食べないようにしたり、糖質をカットしたくて穀類や芋類、栗やかぼちゃを食べないようにしたりしていませんか。
それらが不足しているから、本来必要な分をチョコレートで補おうとして甘いものが食べたくなっている、ということはよくあるのです。
「チョコレートを食べたいときにお米!? えー? 全然食べたくないよー」と思われるかもしれません。でも、だまされたと思って、チョコを食べたくなったときに、玄米おむすび1個や、干し芋、甘栗などを食べてみてください
すると不思議なことに、カラダは調い、チョコレートを欲しなくなります。
もし、それでもまだチョコを食べたい気持ちがあれば、食べてみてください。「あれ? 思ったほど食べたいものじゃなかったかも?」と感じるかもしれませんし、「やっぱりチョコは美味しい!」と感じても、少しの量で満足することができるようになると思います。
不調のサインは「味覚」「顔色」「苦手な気候や季節」などに現れる
漢方では、人間のカラダには五臓六腑(五臓=肝・心・脾・肺・腎/六腑=胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)という生理機能があると考えています。
現代医学でも「五臓六腑」と言いますが、漢方の表す五臓六腑の方が、働きが広いです。食べたものや飲んだものから“うるおい成分”を作ったり、全身に回したりする「うるおい製造工場」とも言い換えられます。
五臓が不調になると、私たちのカラダは様々なサインを出して、自分に教えようとします(六腑は五臓をサポートする役割を果たしています)。
不調のサインは「顔色」「感情」「苦手な気候や季節」「動き」「体臭」などになって現れてきます。そして「これを食べたら調います。だから食べたいです!」という食べものも教えてくれているのです。
「甘いものが食べたい」というのは、漢方でいう「脾(ひ)」が弱っているサインです。脾は甘いもの(穀類や芋栗かぼちゃなど、天然の甘味のもの)で調うからです。
弱ったときに甘いものを食べれば調うとわかっている脾が、私たちに「甘いものを食べて脾を調えてほしい」というサインを出すのです。
そこで、昔ならば甘いものといえばお芋だったかもしれません。けれども現代では、チョコやクッキー、ケーキ、アイスなど魅力的なスイーツがあふれています。
頭の中で「甘いもの=チョコレート(あるいはクッキーやケーキなど)」と勘違いをして、そうしたスイーツが食べたいのだと脳内変換してしまうのです。
たるみ、胃の不調、湿気が苦手…「脾」が弱っているサイン
漢方でいう脾とは、現代でいうならば胃に近い働きをしていて、消化、吸収、栄養に変えて全身に運搬すること、内臓や外見の位置を保つことに関わっています。
脾が不調になると、甘いものや黄色いものを食べたくなるほか、カラダに次のようなサインが現れます。
■消化器系、位置を保つことのバランスが乱れる
脾は消化器系を担当しているので、脾が弱ると、食べても食べてもおなかがすく、逆に食欲がなくなる、消化が悪い気がする、胃がもたれるというサインが出てきます。
また、外見や内臓の位置を保つ働き、血は血管の中を流れている、カラダの中に必要な水分はカラダの中にとどめておくといった「保つ」という働きもしています。
なので、脾が弱ると、外見ではフェイスラインのたるみ、ほうれい線、目尻、口角が下がる、胸、お尻、お腹が下がるというサインが出てきます。胃下垂や流産になりやすいということもあります。
形を保てないということから、ボディラインやフェイスラインがボテッとしているのも特徴です。また、ひどくなると、立っていられない、座っていられないので、だるくてすぐに横になりたくなります。
特にご飯を食べた後に、横にならないと片づけができないということもよくあります。
■口、唇、肌に現れる
脾のバランスが乱れると、唇が割れる、唇や口のまわりにできもの(ニキビやヘルペスなど)ができる、口内炎ができる、味覚に異常があるなどのサインが出てきます。また、肌にツヤがなくなります。
■顔色が黄色になる
脾が不調になると、肌の色が黄色っぽくなります。これはもともと肌の色がイエローベースとかブルーベースといったことではないので、脾を調えれば肌色が血色の良い色になることもあるのです。女性はファンデーションをつけてしまうので、顔の色みはわかりづらいかもしれませんが、首を見ると肌の色がわかります。
■梅雨や土用が苦手、湿気が苦手
梅雨や土用は、脾が活発に働くため弱りやすくなります。土用とは、立夏・立秋・立冬・立春の直前約18日間のことですが、特に立秋の前の夏の土用は、脾が弱くなる時期です。
夏に暑い日が続いて、冷たいものばかり食べていると胃の調子が悪くなることからも、この季節は脾が弱くなりやすいとイメージできないでしょうか。
脾が弱くなると、脾に水分が停滞してしまい、カラダが重くなったり、消化が悪くなったりします。また、「類は友を呼ぶ」というように、カラダの中に水分(湿気)を溜め込んでいると、外気の湿度が高い時、カラダの中に水分を招き入れてしまうのです。そこでますます体調が崩れてきます。
このことからも、脾は湿気が苦手です。湿度の高い時期である梅雨時期や、日本の夏、また、湿度の高い部屋が苦手と感じる人が多いです。少しでも湿気を感じると、寒がりなのにエアコンの「ドライ」を入れるというのも脾が弱い人の特徴です。脾を調えると、雨の日も湿度が高い日も、変わらない体調で過ごすことができます。
カラダが発しているサインを読み取るだけで、健康になる
脾が不調になると顔色が黄色になって教えてくれますが、調えるのも黄色のものです。黄色の食材は先述の芋、栗、かぼちゃなどです。甘味のあるものは、玄米、はちみつなどもそうです。これらを食べると脾が調うので、脾が弱っているとカラダは自然とそういうものを食べたくなります。
ところが、ここで「甘味」を間違えてチョコレートを選んでしまうと、先述のとおり、無限チョコレートループに入ってしまいます。
さらに残念なことに、普通にお店で買えるスイーツのほとんどは、「白砂糖」を使っています。白砂糖は精製された調味料ですので、完全な姿ではありません。そういうものは、カラダに「湿」(しつ)をためこみやすくなります。
湿とはドロドロの水分のことです。カラダの中に湿がたまると、カラダがダル重く、そしてむくみやすくなるのです。
前回、「Whole food」の話をしましたが、Whole foodをおすすめするのはそうした理由からです。
カラダが本当に欲するものとは違う食べものを摂り続けていたら、必要な栄養素(脾が弱っている場合は、お米や芋、栗、かぼちゃ)が摂れないままなので、うるおいを作り出すことができず、肌や髪、体内はもちろん、思考までもが干からびてしまいます。
ストレスだからしょうがない、チョコレートが好きだから、疲れているからしょうがないということではないのです。ただただ、脾からのサインであることを知らないがために、カラダの声を聞いてあげられていないという状態です。
カラダが発しているサインを読み取り、間違った脳内変換を正しく変換できるようになったら、本当に食べたいものを食べるだけでカラダはみるみる健康になり、うるおいで満たされて美しくなっていきます。ぜひ知識を持って、ご自分を癒してほしいと思います。
薬剤師/漢方臨床指導士/うるおいコンシェルジュ 株式会社Orient代表取締役。大学を卒業後、製薬会社にてMR(医薬情報担当者)、臨床開発受託機関にて抗がん剤臨床開発職を経て、漢方に出会う。自身に漢方薬を試したところ、月に鎮痛薬を80錠飲んでいた状態から2週間でゼロに。万年の不機嫌や吹き出物もなくなり、漢方のすごさを体感する。本格的に漢方を学び、漢方臨床指導士資格を取得。漢方にあるマイナスイメージを払拭し、心身ともに美しくなれる漢方を広めるため、オリジナル漢方茶「うるおい美漢茶®」を創る。販売数10万袋超、愛飲者は延べ5000人にのぼる。「うるおい漢方セミナー」主宰、執筆活動も行っている。