「ウチの親、認知症かも…」預金凍結される前にすべき相続手続き

寿命が延びて“人生100年時代”といわれる昨今、親の介護や認知症に直面する人が増えています。さらに、2019年に相続法が改正されたことで、相続に関する状況も変化してきています。これまで1万件以上の相続の「現場」を見てきた税理士法人レガシィさんに、親が認知症になった場合の円満相続のヒントをうかがいました。

認知症になった親の「お金」はどうなる?

医学が発達して寿命が延びてきた半面、新しい問題が出てきました。それが「認知症」の問題です。認知症を会計学的にいうと、心臓の能力(耐用年数)より脳の能力(耐用年数)が早く弱まるようになったということになるでしょうか。

認知症が相続の現場でここまで問題になるとは、20年前まではなかなか想像できませんでした。認知症の兆候があると「預金凍結」され、本人でも預金が引き出せなくなることがあります。預金凍結は、本人が亡くなったあとの話だけではないのです。

2025年には、認知症の人は730万人になるとされ、80歳以上の高齢者の2人に1人は認知症になるといわれています。その規模で預金凍結がされてしまったら、どれだけ大きな影響があるのでしょうか。

 預金が凍結されるかどうかは、本人の認知症の度合いと、金融機関の判断によっても違います。認知症ということがわかると、実の子どもでも預金の引き出しができなくなることがあります。銀行の窓口で、「最近、父親が認知症になってしまって、代わりに来ました」などといってしまうと、最悪の場合、お金が引き出せなくなってしまうかもしれないのです。

親が認知症になる前にできる対策

このように、親が認知症になってからでは取り返しのつかないこともあります。では相続に関して、認知症になる前に何かできることはあるのでしょうか。対策をいくつか紹介しましょう。

【対策1】「家族信託」で親の預金管理を任せてもらう

家族信託を一言でいうと、「親の預金管理を子どもに任せること」です。かたい言葉で説明すれば、資産を持つ人が、特定の目的(例えば自分の老後の生活や介護などに必要な資金の管理や給付など)に従って、保有する預貯金や不動産、有価証券などを信頼できる家族に託し、管理や処分を任せる仕組みです。

家族信託というと難しく聞こえますが、年を重ねて自分の預金通帳の管理が億劫になってしまったときに子どもに任せることも、「預金に関して家族に信託した」ということになります。親が認知症などで判断能力を失ってしまうと、銀行は預貯金を凍結するため、子どもはお金を引き出すことができなくなります。資産が凍結されると、不動産の売却も叶わなくなり、例えば親が「自宅を売ったお金で老人ホームに入居する」と決めていたとしても、その資金が調達できなくなってしまいます。

そうなる前に本当に信頼できる家族に財産を管理してもらうことができるので、比較的誰でも気軽にできる手法ですが、口約束だけではもちろん成立しません。実際の手続きも複雑なため、税理士、弁護士、司法書士などが契約書を作成します。

家族信託をしておけば、財産の管理だけでなく、運用、処分もできます。例えば不動産を長男に託した場合、建物を建てるのか、壊すのか、人に貸すのか、その判断も託すということです。

【対策2】銀行の「代理人カード」をつくっておく

「家族信託までするのはちょっと……」という人への対策としては、普通預金口座の代理人カードがあります。代理人カードとは、いってみれば「2枚目のキャッシュカード」です。口座名義人である親と一緒に銀行の窓口に出向き、代理人カードを申請すると、預金を代理で下ろすことができます。

代理人カードがつくれるのは、本人と生計を同一にする親族です。つくれる枚数は銀行によって違いますが、ほとんどが1~2枚です。代理人カードがあれば、親自身がキャッシュカードを紛失したり、体調が悪くなって暗証番号を伝えられない状態になっても、家族はカードを使い続けることができます。もちろん、親が認知症になっても使い続けられます。

ただし、銀行ではキャッシュカードの種類によって、1日あたりの引き落とし限度額は決まっていますから、基本的に大きな金額は引き出せません。あらかじめ確認しておくといいでしょう。

なお、代理人カードは親である本人の意思に基づくものですので、親が亡くなった場合は口座が凍結され、同時に代理人カードも使用できなくなります。

認知症になってからでも対策はできる

では、親が認知症になった「あと」に何かできることはないのでしょうか。先ほどもお話ししたように、本人が認知症になってしまう(判断能力が十分でない)と、預金口座が凍結されてしまうことがあります。親が認知症になり、預金口座が凍結されてしまってから解除する方法はただ1つ。それが2種類ある成年後見制度のうちの「法定後見制度」(以下、一般的に浸透している「成年後見制度」と記述します)です。

成年後見制度とは、家庭裁判所に申し立てをおこない、家庭裁判所が選んだ後見人が財産を管理する制度です。後見人は、凍結された口座からお金を下ろすことはもちろん、不動産の売却などもできます。実際は、本人の判断能力が低下し、財産の管理ができない、不動産の売却ができない、介護サービスや介護施設の利用契約を結べないなどの現実に直面し、子どもなどの親族が申し立てをすることで制度の利用がはじまることが多いようです。

ただ、この申し立ての手続きは非常に煩雑で、手間も時間もかかります。私たちが実際に成年後見制度を利用している人に話を聞くと、かなり大変だといいます。「いつも拘束されているような気がする」ともおっしゃっていました。

成年後見人に選ばれるのは、弁護士や司法書士などの専門職の人たちがほとんどで、子どもなど親族が成年後見人になれる確率は低いのです。第三者が後見人になれば、定期的に報酬が発生します。たとえ子どもなどの親族が後見人になったとしても、自由に財産を使用できるわけではなく、常に裁判所のチェックが入ります。大きなお金の使用には裁判所の許可も必要で、正当な理由がなければ許可されません。

親の入院や、介護施設への入居など、大きなお金を動かす場合にももちろん、裁判所の許可が必要になります。しかし、一度この制度を利用してしまえば、不便でも従わざるを得ません。成年後見制度は、判断能力が低下した本人を手厚く保護できる一方で、柔軟性が低く、正直なところ、家族にとっては面倒な手続きが増えることが多いようです。

ただし、日々の食材や消耗品など、ATMで下ろせるくらいの小さなお金であれば、子どもが代理で対応することは可能です。父親が認知症になったあるご家庭では、娘さんが父親のキャッシュカードを預かり、週に1回まとめて買い出しをしてあげているそうです(もちろん事前に暗証番号を聞いておくことが必須です)。

また、ある程度子どもにお金の余裕があるケースでは、もう1つの考え方として、「相続まで待つ」という方法もあります。認知症などで親の判断能力がなくなってしまったあと、実際に大きなお金が動くのは入院か、介護施設に入るときくらいです。入院費用に関しては、75歳以上では医療費の自己負担も1割です(現役並みの収入がある人は3割)。また、1カ月にかかった医療費の自己負担額が高額になってしまった場合には、高額療養費制度も利用できます。

子どものほうで、親の入院や介護施設の入居にかかるお金がまかなえそうであれば、親のお金を使うことはひとまず諦めて建て替えておき、相続まで待つことも検討してみてはいかがでしょうか。

次回は、親の介護が必要になった場合の相続で注意すべき具体的な対策を紹介します。

 

PROFILE
税理士法人レガシィ

累計相続案件実績日本一であり、専門ノウハウと対応の良さで紹介者から絶大な支持を得ている、相続専門の税理士法人。公認会計士、税理士のほか、宅地建物取引士を含め、グループ総数970名を超えるスタッフが、銀行・不動産の名義変更から相続税申告まで、すべての相続手続きをワンストップで対応する。