神々と国土の歴史は、こうしてはじまった!
最近は、
しかし、日本には「八百万の神」といわれるくらいたくさんの神様がいます。しかも、神社ではほとんどの場合、
そのため、神社めぐりをしたときに、境内の案内板をよく読んでも、むずかしい神様の名前と数の多さに戸惑って、結局もやもやしたままで、知りたいことがわからずじまいという人が多いのではないでしょうか。
複雑に入り組んでいるように見える日本の神様の世界ですが、「はじまり」がわかれば身近に感じられるかもしれません。
日本神話における天地
『古事記』の序文には、「
ここでいう「乾」とは天、「坤」とは地のこと。そもそも「乾」と「坤」とは、〝森羅万象は陰と陽の二つの相対する性質を持つ「気」によって生じる〟という、中国古来の「陰陽思想」を反映したものです。
虚無の闇「混沌」の宇宙で、初めて陽の気と陰の気がまじりあった宇宙エネルギーのようなものが次第に凝集し始めます。
そのなかには万物の種(
高天原ができると、まず一番目にアメノミナカヌシ
そして、まだ固まりきらない国土に若い生命力の神であるウマシアシカビヒコヂ神(宇摩志阿斯訶備比古遅神)、天界(高天原)を永遠に存続させるアメノトコタチ神(天之常立神)が登場します(以上が別天神五神)。
さらに、国土をしっかり固める役目のクニノトコタチ神(国之常立神)が現れて、生命エネルギーに満ちた国土ができ、つづいて豊かな実りを象徴するトヨクモノ神(豊雲野神)が出現しました。
こうして天地で構成される世界が完成し、豊穣の源、生み殖やす生命力を秘めた国土が出来上がったところで、間に四代の神々を経て、最後にイザナギ
宇宙のエネルギーやものを生み成す生命力は、目に見えるもの、見えないものを問わず、世界の森羅万象、生きとし生けるものすべての源です。そうした根源的なエネルギーや生命力を象徴するのが、天地開闢のドラマで活躍する「別天神」「神世七代」の神々なのです。
すべての神様の始祖「アメノミナカヌシ神(天之御中主神)」
『古事記』によれば、高天原に最初に出現した神は「アメノミナカヌシ神(天之御中主神)」。八百万といわれる日本の多くの神々のなかでも第一番目の、すなわち日本の神界ピラミッドの頂点に位置する神様です。神話の系譜では、世界の根源に関わる「根源神」(始原神ともいう)です。
名前の「アメ(天)」は宇宙、「ミナカ(御中)」は真ん中、「ヌシ(主)」は支配するという意味で、時間的にも空間的にも無限な宇宙そのものを体現しており、そこから「天の中心に
根源神とは、世界の生成発展の基盤となるすべてを生み出す根本的な神を意味しますが、なかでも虚無の宇宙にいきなり現れたこのアメノミナカヌシ神は、いわば無と有の境界に位置する存在ともいえます。
そもそも日本神話の最初の国土創成神話に登場する神々は、イザナギ命・イザナミ命の二神を除いて、ほとんどが観念的な神。とくにアメノミナカヌシ神は、『古事記』によって日本の神々の世界が体系化されるときに、宇宙のはじまりを象徴するビッグバン的な神格として創り出された神様です。
記紀(『古事記』『日本書紀』の略)には、その事績が詳しく書かれていませんが、一般に中国の道教思想の影響を受けて生まれた神とされています。いわば「創作された神格」なだけに、後世になっていろんな解釈がなされていますが、やはり八百万の神々のなかでも一番偉い神様という位置づけが一般的です。
たとえば、
衆生の苦しみを救ってくれる「妙見 様」として人気に
アメノミナカヌシ神は、生活臭がゼロの観念的な神様なので、そもそも庶民との結びつきは弱く、広く一般庶民の信仰の対象となるのは鎌倉から室町時代以降のことです。
中国の道教には、天の中心にある北極星(
これがインド発祥の仏教思想と結びついて妙見菩薩と呼ばれるようになり、さらに、日本に伝来してからアメノミナカヌシ神の「天の中心の至高神」という性格と結びついて、妙見菩薩(妙見様)=アメノミナカヌシ神となりました。
妙見様=アメノミナカヌシ神は、全知全能の徳によって衆生の苦しみを救ってくれるありがたい神様です。また、物事の真相を見極める能力にすぐれ、運命をつかさどる神、叡智をつかさどる神でもあります。
とくに江戸時代には妙見信仰として民間に広まり、「妙見」の「万物を見通す眼力」の意から、眼病の神としても篤く信仰されました。『古事記』には、アメノミナカヌシ神を始めとする別天神の五神は、みな「
●天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
*ご利益 安産、長寿、招福、商売繁盛、出世開運、学業上達、技術向上、海上安全、厄除け、病気平癒など
*主な神社 秩父神社(埼玉県秩父市番場町)/日高神社(岩手県奥州市水沢)/相馬太田神社(福島県南相馬市原町区)/千葉神社(千葉県千葉市中央区)/東京水天宮(東京都中央区日本橋蠣殻町)/四柱神社(長野県松本市大手)/小松神社〈星田妙見宮〉(大阪府交野市星田)/岡太神社(兵庫県西宮市小松南町)/出雲大社(島根県出雲市大社町)/御祖神社(福岡県北九州市小倉北区)/久留米水天宮(福岡県久留米市瀬下町)など。
歴史作家。1947年、群馬県生まれ。法政大学卒業後、美術関係出版社勤務を経て作家に。神社・神話に精通しており、神道関係の著作を多く著している。
おもな著書に、20万部突破のロングセラーとなっている『「日本の神様」がよくわかる本』(PHP文庫)や『戦国武将の守護神たち』(日本文芸社)、『神社でたどる「江戸・東京」歴史散歩』(洋泉社)、『本当は怖い日本の神さま』(ベスト新書)など多数。