あなたと上司が対立したとき、組織は必ず上司の側につく【佐藤優】

佐藤優

部下は上司を選べません。どんな上司に当たるかは運みたいなもので、とんでもない上司についてしまったときは、どうするのが賢明なのでしょうか? その上司が異動するまで我慢するか、イチかバチかでさらに上に訴えてみるか……。元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんが、上司への対処法と組織の本質について教えてくれます。

外交官の組織は軍隊と同じ

外交官の世界には厳格な序列があります。まず大使館のトップは全権特命大使、その次が特命全権公使、次に公使、参事官、一等書記官、二等書記官、三等書記官と続いて、最後の副理事官までの細かいランクがある。

同じランクの人は着任順で上下が決まるし、同日の着順なら着任の申告をした時間の早い方が上。全員序列がついていて、きれいに1列で上から下へ並ぶのです。

なぜこれほど上下関係をはっきりさせるかというと、その方が命令が迅速に行き渡り、速やかに実行できるから。これは軍隊と同じです。

軍隊などの生きるか死ぬかという厳しい組織では上下関係が厳格です。外交の世界も諸外国との交渉、やりとりという一種の戦闘状態ですから、必然的にそうなります。

このような組織でタブーなのが命令に背くこと。すなわち「抗命」です。いちいち下の者が上の命令に反対していたら、あっという間に敵の攻撃にやられてしまう。上の命令を絶対として迅速に行動し対応することで、敵を制圧することが可能になります。

これは会社組織でも本質的には同じです。企業もまた競争に勝つための戦闘集団であると考えれば、基本的に上の命令には逆らえません。

そもそも、組織が機能するには、そこにいる人間が歯車にならざるをえないという宿命を持っています。まず、その現実と本質をしっかり認識しておきましょう。

したがって、部下が上司に歯向かってもほぼ100%の確率で負けます。組織は常に上の味方。そう思って間違いありません。最近でこそセクハラやらパワハラで下が上を訴え、上司が飛ばされることもありえます。ただし、一時的に下が勝ったように見えても、2年くらいすると訴えた方も異動になるケースが圧倒的です。組織というのは基本的に反抗者を嫌います。これはどんな国でも、どんな組織でも、どんな時代でも一緒です。

ですから、上の人間にまともにぶつかることは避けましょう。間違っても、下手な正義感で自分が組織を変えてやろうなどとは思わないことです。

上司の8割は「おかしな人」だと考える

企業組織が本質的に軍隊と同じだとしたら、腕のいい上司は組織を軍隊だと思わせずに部下の士気を上げます。上からの命令で部下を動かすのではなく、あくまで表面上は部下の主体性に任せる形で、下が自発的に仕事にとり組むよう持っていくのです。

最近は、部下やスタッフがモチベーションを上げて仕事がしやすくなるよう、上司やリーダーがお膳立てや環境整備をすることが新しいリーダーシップだと言われています。

たしかにそのような側面は必要ですが、結局はリーダーがうまく下をおだてながら、組織の論理の中にとり込んでいくということです。昔から優秀なリーダーや上司は、この論理の中で上手に部下を操っていました。

ただし、このような優秀な上司やリーダーの数は組織の中でせいぜい2割程度。大多数の8割はそんな器用さも持たないか、それどころか自分の立場を利用して高圧的に命令するだけの人物です。

上司に逆らえる人、逆らってはいけない人

基本的に組織である以上、上の命令には背けません。ただし例外は「数字を毎回出す人」と「専門知識や特殊能力のある人」。こういう人は多少の意見も許されます。

ただその場合でも、言い方が非常に大切です。一方的に自分の考えを主張するだけでは通るものも通りません。たとえ論理的に正しくても、上や会社を否定するような提案の仕方では敵をつくるだけです。どんなに会社に必要な人材でも、いずれスポイルされてしまうでしょう。

意見をする際の大義名分としての便利な言葉がいくつかあります。たとえば「士気」や「利益」、「効率性」という言葉。「今のやり方ではなく、このようにすれば部署の士気が上がる」とか、「こうすれば利益が出る」「こう変えれば効率が高まる」という言い回しをするのです。自分のためではなく、あくまで組織のために意見を言っていることを強調する話し方なら聞いてもらえる可能性はあります。

ただし、組織に対して異を唱える場合、一つの案件に対して3回までというのが僕の考え。その3回も、できるならそれぞれ違う理由が望ましい。それで3回意見しても受け入れられなければ、潔くあきらめて組織の決定に従うこと。

大切なのは、自分の意見に固執する偏屈な人間だと思われないことです。「あいつはいろいろ言うが、最終的には従うやつだ」となれば印象も違うし、以後も意見を言うことが許されます。意見を主張するときは、ここまでという見極めと引き際が大切です。

もし自分が数字を出して結果を残している、もしくは特別な専門知識や能力で会社の役に立っている自信がないのなら、会社に対して意見するのは控えた方がいいでしょう。

もちろん、社員の扱いがひどくてもう我慢がならない、辞める覚悟があるというのなら話は別です。でもそこまででないのであれば、今は我慢のとき。自分の存在が会社にとって大きくなってからにすることが賢明です。

そうでないと、単に勘違いした面倒な問題社員として、それこそ各部署をたらい回しにされてしまいかねません。

権力の本質は人にイヤなことをさせる力

人間は、肉体的にはとても脆弱な動物です。肉体を覆う毛もなければ、鋭い爪や角、牙も持っていない。道具を持たない1対1の戦いになると、猫にだって勝てないかもしれません。そんな弱い個体がこの厳しい自然環境で生き抜くには、集団、組織をつくらなければならなかった。その中で力を合わせ、知恵を出し合って自然や環境に対峙してきたからこそ、今の私たちがあるわけです。

人間が人間として生き延びるには、組織や社会が不可欠。ただし、組織が生まれればその中でどうしても上下関係や権力が生まれる。権力を簡単に言えば、「人にイヤなことをさせる力」です。そしてこのことは、組織の中で常に僕たちが直面する現実です。

みなさんも、会社という組織の中でそのような不条理な思いにとらわれたことは一度や二度ではないはずです。

厳しいことを言うようですが、現代社会で人間が集団で行動して組織をつくり、さらに国家をつくる以上、真に平等で自由な社会などというのは幻想にすぎません。

古今東西、どの時代どの社会を見ても、常に形を変えて支配、被支配の関係は存在し続けています。封建時代は現在よりそれは強かったかもしれませんが、現在は個々の組織の中に厳しいヒエラルキー、上下関係が存在しています。

そう考えると、人間とはなんとも矛盾した存在です。僕たち個々の存在としては自由や平等を求めますが、同時に集団、群れをつくらざるをえない人間である以上、上下関係や権力構造から逃れることはできません。

その点で、現代社会は最も分裂した時代だと言えます。現代の先進国は自由平等や基本的人権が基本。しかし一方、厳しいビジネス社会の競争原理の中で、それぞれの職場においては軍隊的な上下関係がより先鋭化しているのです。

生き残る人の上手な“逃げ方”

趣味の肩書を持つというのもいいでしょう。仕事と関係のない肩書は直接本業に役立たないかもしれませんが、会社とは別の集団や組織に属し、別なヒエラルキーの中に自分を置くことができれば、そこでの人間関係が自信につながり本業にもプラスに働く可能性もあります。

これはまさに「逃げ場」をつくるということです。権力や組織がまともに牙をむいてきたとき、おそらくほとんどの人は対抗することができません。僕たちができる唯一のことは逃げること。実は逃げるというのはとても大事で、猫などを見ていても、得体の知れないもの、大きなものが出てきたらまず逃げる。

彼らは徹底していて、自分より体が小さい生き物に対しては、それが自分より弱いかどうか、食べられるものかどうかを確かめます。それが判明したら、攻撃して食べてしまう。たとえ小さくても、牙や爪などがあって激しく抵抗する動物には警戒して手を出しません。

自分より明らかに大きな体の相手に対しては、まず百%逃げ出します。これが犬の場合、猟犬などはそうですが、相手の体が大きかろうが明らかに強そうであろうが、飼い主が闘えと命令したら向かっていきます。猫は絶対にそういう行動はとりません。

現代のビジネス社会に生きる僕たちは、ぜひ猫の生き方を参考にしましょう。職場でどうしてもイヤなことがあったり、イヤな上司に出会ったりしても、そこで対決しようなどとは考えないこと。その場からできるだけ逃げてしまうのです。

職場以外の人間関係やコミュニティがあれば、そこは逃げるのに最適な場所です。そこで自分をとり戻したり、仲間同士で飲みに行ってグチを聞いてもらったりする。これだけでどれだけ救われるかわかりません。

逃げるという意味では、会社を休んでしまうというのも手です。仮病でもかまいません。どうしても仕事をする気分にならないのであれば、思いきって休んでしまいましょう。

無理に出社しストレスに身をさらしてうつ病になってしまうより、仮病でもズル休みでもして適当に肩の力を抜いてしたたかに仕事を続けてくれる社員の方が、会社としてもありがたいはずです。

いざとなったら逃げる。人間関係、上下関係で擦り切れてしまいそうになったら、この方法をぜひ思い起こしてください。

 

 

 

PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

「ズルさ」のすすめ

「ズルさ」のすすめ

  • 作者:佐藤 優
  • 発売日: 2017/09/01
  • メディア: Kindle版