いまや高齢者の約40%が1日5種類以上の薬を、25%が1日7種類の薬を飲んでいるといわれています。年を重ねれば仕方がないと思われるかもしれませんが、薬剤師の宇多川久美子氏によれば、「健康のために飲んでいる薬が、老化を促進させている」のだそうです。よかれと思って服用している薬がまるで逆効果というのは、いったいどういうことなのでしょうか?
薬によって大事な「酵素」がムダ使いされる
若いときと同じ状態を目指そうとして薬を飲む──実はこれこそが、逆に老化を促進してしまうことになるといったら、驚かれるでしょうか。
その大きな原因は、薬を飲むことで、身体にとって大切な「酵素」が使われてしまうから。つまり、酵素のムダ使いをしてしまうのです。
私たちが口にしている食べ物は、体内に入ると吸収しやすいように消化され、分解されます。そして分解された栄養素はエネルギーとなり、このエネルギーは体内でムダなく代謝されていきます。そのように口にするものをエネルギーに変え、代謝するときに必要なのが酵素です。
酵素とは生命活動のカギを握るもので、酵素不足は老化を早めてしまうことにつながります。
では、薬が体内に入ったときはどうでしょうか。
やはり、食べ物と同様に体内で分解され、代謝されていきますが、この過程で食べ物に比べ、大量の酵素がムダに使われてしまうのです。
それでは、薬を飲むと大量の酵素が使われ、老化を促進してしまう理由を詳しく見ていきましょう。
薬を飲むことは、「異物」を体内に入れるということ
薬は人工的につくられた合成品であり、身体にとって異物です。それに対して私たち人間は生き物であり、自然そのものです。私たち人間が古来から口にしている食べ物なら、どうやって分解すればいいのか身体は知っています。
でも、化学合成品である薬の場合、人間の身体は、それをどうやって体内で分解するかということを長年の知識として持ってはいないのです。
薬を身体に入れるということは、身体にとって負担がかかることなのです。合成品であるにもかかわらず、私たちはそれに「薬」という名前がついた瞬間に、「いいもの」だと思ってしまいます。「お医者さんが出してくれたものだから間違いない」と、何も疑わずに化学合成品を口にしてしまっているのです。
例えば頭が痛いときに頭痛薬を飲めば痛みが治まります。このように〝薬が効く〟ということは、薬という化学合成品を体内に入れて起こった化学反応です。それでも、頭痛に悩まされる方は、「頭痛が治まったんだからよかった」と思うことでしょう。でも、ものには光と影があります。痛みがなくなったという光があれば、必ず影の部分があるということです。
よく考えてみてください。頭痛薬は、頭の痛みだけに作用するものでしょうか。薬とは、身体のなかでよい作用をもたらす一方で、一歩間違えれば毒にもなります。副作用のない薬はないのです。
私たちの身体は1人ひとり違います。それどころか、同じ人であってもそのときによって体調が違い、薬に対する感受性も違います。Aさんには支障のない薬が、Bさんには合わないといったことも当然起こります。薬を飲んだときに私たちの身体のなかでどのような化学反応が起こるかは、実は誰も知ることはできないのです。
今や薬を1種類しか飲まないという方は少ないでしょう。病院に通う75歳以上の40%が5種類以上の薬を、25%が7種類以上の薬を飲んでいる時代です。何種類かの薬を飲めば、薬同士がどのような化学反応を起こすのか、誰にもわからないということになります。
薬と薬の組み合わせは無限大にあり、重ねて服用することで起こる化学反応までは知る由もありません。薬を飲むということは、思っているほど単純なものではないのです。
なぜ薬を飲むと、酵素が大量に減ってしまうのか?
私たちの体内に薬という化学合成品が入ると、体内にある酵素がたくさん使われます。酵素ジュースや酵素ダイエットなど、最近酵素が注目されていますが、酵素とは、食べ物を消化するときや、アルコールを分解するときなど、身体のなかでAのものをBに変換するときに必要なもの。
酵素は、身体のなかで起こる化学反応に対して、触媒として機能する分子であり、人間の生命活動には欠かせないものなのです。
食べ物と同じように、薬が体内に入ったときも、酵素が使われ、消化・吸収されます。ただ、食べ物と違うのは、すでにお話ししたように薬が異物だということです。異物である薬が体内に入ると、身体はそれを解毒しようとします。
解毒とは、異物を分解して毒性のない状態にすること。肝臓で酵素を大量に消費して化学合成品である薬を解毒し、身体にとって無害なものに変換しているのです。薬を何種類も飲み、解毒するものがたくさんあれば、それだけ肝臓を酷使することになり、肝臓も疲弊してしまいます。
体内にある酵素には、大きく分けて2つの働きがあります。1つはすでに述べたように体内に入ったものを消化・吸収するための「消化酵素」。もう1つは身体を正常に働かせるために働く「代謝酵素」です。
大量の酵素が使われてしまうケースとして、わかりやすい例が「白髪」です。酵素が正常に働いて代謝がいいと、髪もツヤツヤしているはずです。実は髪の毛は、体調をよくあらわす部分で、疲れていると髪の毛がパサついたり、逆に恋をしていると髪にツヤが出たりします。
「一夜にして髪が白髪になった」という話を聞いたことはありませんか。実際は黒髪が一瞬にして白髪になるということはなく、次に生えてくるところが白髪になるということなのですが、このようなことは実際起こることなのです。
髪の毛はメラノサイトという色素細胞からつくられますが、チロシナーゼという酵素の働きで黒色のメラニンを生成します。酵素は、実はストレスにとても弱いのです。
一夜にして白髪になるのは、何か大きなストレスがかかったときです。白髪になるのは、色素がなくなってしまったからではなく、ダメージを受けたために酵素が働けなくなってしまったからなのです。
私たちは酵素とストレスの関係は知らなくても、白髪の方を見て「ご苦労されているのかな」と自然に思ってしまいますが、これは間違いではないのです。
私たち人間が薬を飲むということも、実はストレスです。薬を体内に入れることで酵素を大量に使っているうえに、ストレスにもなっている、つまり二重の意味で酵素を減らしてしまっているのです。
薬は常に「いい作用」と「リスク」が隣り合わせ
薬を飲むことによって酵素が大量に使われてしまうと、当然のことですが代謝が悪くなります。代謝が悪くなると、血行も悪くなり、結果として体温が下がります。薬を飲むと身体が冷える気がするという方もいますが、これも当然のことなのです。
例えば痛み止めを飲んだとしましょう。ドクン、ドクンといった痛みがあるとすれば、それは血管が怒張して(ふくれて)神経を圧迫しているから痛いわけです。痛みを止めるには、逆に血管を収縮させればいいということになります。
血管が収縮すれば当然、血流は悪くなります。血流が悪くなれば、体温は下がります。だから薬を飲むと身体が冷えてしまうのです。もしこのような薬を常用していたとすれば、体温は下がっていくでしょう。
痛み止めを常用していた人が飲むのをやめたら、体温が35度台から36度台になったというのは、よく聞く話です。身体が冷える原因が、まさか薬にあったとは思わないでしょう。
例えば「血行をよくする薬はどうなのですか?」と聞かれれば、たしかに薬を飲んだときは血行がよくなるでしょう。でもそれは、見えている主作用に過ぎないのです。
薬を飲んで血行がよくなったからといって、その人の身体が血行のいい身体に変わったわけではありません。血行がよくなったのは、薬を飲んだそのときだけの話。
血行をよくする薬であっても、体内では代謝をして解毒をするという作業をしています。すると血行は悪くなります。血行が悪くなるから、もっと血行をよくする薬をたくさん飲まなくてはいけなくなります。だから薬が一生手放せなくなってしまうのです。
血行をよくする薬を飲んで、血行が悪くなってしまうのは、おかしな話ですよね。薬は常にいい作用と同時にリスクと隣り合わせなのです。
薬を飲むと「免疫力」が下がる理由
人間にはもともと、病気にならないように予防する力、病気になっても病気を治してしまう力が備わっています。これが免疫力です。風邪をひいたとき、「免疫力が下がっているから……」と言ったりしますが、もともと大人も子どもも、病気を予防し、病気と闘う免疫力が備わっています。この免疫力を十分に働かせることが、私たちの健康に大きくかかわっているのです。
先ほど薬を飲むと体温が下がると説明しましたが、体温が1度下がると、免疫力は13〜30%低下するといわれています。さらに基礎代謝が12%下がり、体内酵素の働きも50%低下するという報告もあります。免疫力が下がれば、それだけ重大な疾患につながりやすくなります。
逆に言えば、免疫力をアップさせるには平熱を上げることが大切です。体温が上がると、免疫力は確実に上がります。その理由は、免疫力には血液が深くかかわっているからです。
体温が上がると血行がよくなります。血液は私たちの体内を巡り、身体中の細胞に酸素や栄養を届け、代わりに老廃物を受け取る役目をしています。そして血液のなかには免疫機能を持った白血球が存在しています。免疫力の正体は白血球にあるのです。風邪などのときに熱が上がるのは、免疫力を高めて、風邪のウイルスと闘おうとしているからです。
ただし、私はすべての薬を否定しているわけではありません。急性の症状で、すぐに症状を抑えるべきものに対しては、積極的に使うことも必要です。
ここまでお話ししてきたことをまとめましょう。
薬は異物である→異物であるものを代謝するときに大量の酵素が使われる→酵素が使われると代謝が下がり血行が悪くなる→体温が下がる→免疫力が下がる──ということになります。
病気を治すために薬を飲んだら、免疫力が下がってしまう、そして若くありたいと思って薬を飲んだら、かえって老化が進んでしまう、というのは、矛盾しているようですが事実なのです。
一般社団法人国際感食協会理事長。ハッピーウォーク主宰。薬剤師・栄養学博士。
1959年生まれ。明治薬科大学卒業。薬剤師として総合病院に勤務していたが、「薬で病気は治らない」現実に目覚め、病院を辞め、自らも薬をやめたことで、不調だった身体が健康になり、生き方が大きく変わる。現在は自身の経験を活かし、医者依存、薬依存から脱却できる、病気にならない、病気を治す方法を広める啓蒙活動を行っている。