“ストロング系”には要注意! アルコールの依存性は覚醒剤をも上回る

ストロング系飲料

普段の行動が制限されると、どうしてもストレスがたまり、身体と心は無意識のうちに“他の何か”で発散させようとします。その対象が害の少ないものであればいいのですが、簡単に手に入る「お酒」に向かってしまう人もいます。知らずのうちに深みにハマってしまわないために、アルコールそのもの性質について、アルコール依存症の専門医である垣渕洋一先生に教えてもらいましょう。

ほとんどの人が知らないアルコールの正体

毎晩晩酌していたりすると、自分でも気づかないうちにアルコールに依存していくことがよくあります。その背景には、飲酒のデメリットに対する認識の甘さや誤解もあるようです。

たとえば、健康セミナーなどで飲酒についてお話しするとき、よくさせていただく質問があります。その問いとは、次のようにごく簡単なものです。

 

Q. アルコールとは、いったいなんでしょう?


(1)嗜好品 (2)食品 (3)薬品

 

アルコールは水、米、野菜、肉や魚のように、生きるために必須なものではないので、食品ではありません。その人の好みで、飲んでも飲まなくてもよいから嗜好品と理解されることが多いですが、脳と体への影響を考えるとれっきとした「薬物」です。つまり、正解は(3)になります。

ところが、この問いに正答できる人はごくわずか。それは、不眠をきっかけに寝酒を始めたという患者さんから、こんな悩みをよく打ち明けられることからもわかります。

「睡眠薬はクセになるから飲みたくないんです。それで、つい寝酒をしてしまって……」

つまり「副作用がある薬に頼るのは心配だから、睡眠薬代わりにお酒を飲むのが習慣になってしまった」という説明なのですが、矛盾点はもうおわかりですよね。

そこで、「いえ、飲酒する人に薬嫌いの人は一人もいませんよ。お酒こそ立派な薬物ですから」とお伝えすると、たいていは「えっ!?」と驚いた反応が返ってきます。

診察室でこのようなやり取りをすることはしょっちゅうで、それほど薬物という認識がないまま飲酒している人が多いのです。

「ストロング系飲料」は依存症への近道

こうしたことを知らないまま、習慣飲酒を続けてアルコールに強く依存するようになると、「何のためのお酒か」ということは忘れられ、「ひたすら早く酔いたい」という欲求が先立つようになります。

昨今、そんなニーズに合ったお酒として人気沸騰中なのが「ストロング系飲料」です。

「ストロング系」と呼ばれるのはいわゆる缶チューハイの一種で、通常の製品に比べてアルコール度数が高く、おまけにコスパが高い、飲みやすいという、飲む人にとっての好条件がそろっていて、若い女性にも人気があります。同じ量(1本500ml)の製品でコスパを比べてみましょう。

【ビール】
285円・アルコール度数5%=アルコール1g当たり11.4円


【ストロング系】
163円・アルコール度数9%=アルコール1g当たり3.6円

つまり、同じ量のアルコールを3分の1の値段で買えるのですから、手っ取り早く酔いたい人に好まれるのは当然です。

普通の缶チューハイのアルコール度数は高くても6%程度ですから、9%以上で低価格となれば、コスパに敏感な飲酒者は手にとりたくなるでしょう。しかも、ストロング系の多くはレモンやグレープフルーツ、オレンジなどの柑橘系の爽やかな味に仕上がっているので、「ちょっと一口」の気軽さで、たくさん飲んでしまうのです。

ただし、その正体はお酒というより「危険ドラッグ」といっても過言ではありません

中身は「エチルアルコール+人工甘味料」という組み合わせで、「化学調味料を入れたアルコールのよう」という声もあります。ビールのように、発酵を経てじっくりつくられるものではありません。

このストロング系飲料は、女性のアルコール依存症者が増えていることの一因だとも言われています。

2018年度の国民健康・栄養調査によると、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している人の割合は、男性が15.0%、女性が8.7%。2010年度からの推移で見ると、男性で増減は見られませんが、女性は有意に増加しています。年齢階級別に見ると、その割合は男女ともに50歳代がもっとも高く、男性22.4%。女性は15.6%です。

こうした流れから、一部の専門家からは「ストロング系飲料の法規制をすべき」との声も上がっています。日本の政策では、大麻や覚醒剤などの違法薬物は厳格に取り締まっているのに、一方でストロング系飲料のように危険な製品が簡単に手に入るのはバランスがとれないのではないか、というわけです。

ただし、お酒に規制をかけることの難しさは歴史的事実からも明らかです。1920年代、アメリカが「禁酒法」を施行した際にはかえって事態が悪化し、結局13年しか続きませんでした。

むやみに規制しても別の形で新しいものが出てくるだけなので、度数が高くなるほど酒税を上げるなど、手にとりづらくするための理にかなった対策が求められます。

アルコールの依存性の高さは違法薬物をもしのぐほど

それでも、違法薬物である覚醒剤などよりはアルコールの方が害が少ないと思われる人も多いでしょうが、「依存性の高さ」という視点で見ると、必ずしもそうではありません。

各々の薬物の「依存性の強さ」を比較すると、実際は「合法だから安心」という解釈は誤りであることがよくわかります。

薬物の依存性の強さは、「薬物自己投与装置」を使った「比率累進実験」という方法で調べることができます。この装置は、依存症になった実験動物がレバーを押すと自分に薬物が投与される仕組みになっていて、実験動物は依存した薬物が欲しいあまり、ひたすらレバーを押し続けます。

アカゲザルを使った実験結果があります。次の表だと、上の4つが合法薬物、下の3つが通常で言う違法薬物です。

依存性の表

実験では、当初はレバーを99回押しても空回りで100回目にようやく薬物が投与される設定にします。がんばって100回押したら、徐々に薬物が投与されるまでの回数を上げていきます。薬物によって、あきらめずにレバーを押し続ける回数はだいたい決まっていて、この回数が多いほど「依存性が高い」と言えます。

結果は表の通りで、覚醒剤が2690〜4530回、コカインが6400〜1万2800回なのに対し、アルコールは1600〜6400回です。

この数を見比べてみると、違法と合法で差がないどころか、合法のアルコールのほうが依存性が強いと言えるくらいです。

メディアでは芸能人の違法薬物の使用が格好のネタになっているので、コカインなどはとても悪いもの、怖いものと思われがちですが、依存性の高さから見ると、むしろ「合法薬物のほうが危険」とも言えます。

“総合的な有害さ”はアルコールが一番

では、「有害さ」という面からアルコールと違法薬物を比較すると、どのような結果になるでしょうか。

「使用者への有害さ」と「他の人への有害さ」の両面から、依存性薬物の有害性を比較したイギリスの調査があります。それによると、アルコールの「使用者への有害さ」はヘロインや覚醒剤より低いものの、依存者の周囲の人を多く巻き込んでいくこともあって、「他の人への有害さ」は非常に高くなっています。

表

総合的に見て、アルコールの有害さはダントツで高いという結果が出ています。臨床でも、禁煙をめぐってDVが起きた、離婚になったという話は聞きませんが、アルコール依存症ではDVも離婚も非常によく発生しているのです。

「合法の薬」が「違法の薬」より依存性が弱いわけではないこと、アルコールの危険性は違法薬物をもしのぐほど高いことを、ぜひ頭に入れておいてください。

 

seishun.jp

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PROFILE
垣渕洋一

東京アルコール医療総合センター・センター長。成増厚生病院副院長。医学博士。筑波大学大学院修了後、2003年より成増厚生病院附属の東京アルコール医療総合センターにて精神科医として勤務。アルコール依存症の回復には行動変容が重要だという信念のもと、最新の知見を応用した治療を行い多くの回復者を送り出している。臨床のかたわら、学会や執筆、地域精神保健、産業精神保健でも活躍中。

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