見た目が9割!? 正しく人物を判定するたった一つの方法【佐藤優】

佐藤優

外交や諜報活動など、いわゆるインテリジェンスの世界で生きてきた佐藤優氏。そのような分野では、安直な人物判定をすると、ときに命とりになります。見た目、背後の人間関係、その人の過去、人間性――。私たちはどのような材料をもとに、どのような方法で相手を見極めるべきなのでしょうか。

文学でわかる人間の見分け方

みなさんは五味川純平という作家をご存じでしょうか。『人間の条件』『戦争と人間』をはじめとする大長編で一世を風靡しました。映画にもなっています。

残念なことに最近はめっきり読まれなくなりましたが、その小説『戦争と人間』の中に印象的な言葉があります。

「信じるなよ、男でも、女でも、思想でも、本当によくわかるまで。わかりがおそいってことは恥じゃない。後悔しないためのたった一つの方法だ」

 

「威勢のいいことを云う奴がいたら、そいつが何をするか、よく見るんだ。お前の上に立つ奴がいたら、そいつがどんな飯の食い方をするか、他の人にはどんなもの云い方をするか、ことばや、することに、表裏がありゃしないか、よく見分けるんだ……」

 

『戦争と人間』(五味川純平/光文社文庫)

戦前から戦中、戦後という日本の激動期をさまざまな登場人物と出来事でリアルに再現したという点で、五味川純平の小説は今でも金字塔です。一貫して流れているのは、戦争や国家という巨大な力の中で、個々の人間がどのように生きたか、そして生きるべきかという問題提起です。

先ほど挙げた会話部分は、拓郎という人物が共産党員だということで捕まって出所してきたあと、弟の耕平に言って聞かせる場面です。さまざまな人の裏切りや人間関係の葛藤、その経験をふまえて人間をどう見極めるかを語っていますが、私には圧倒的なリアリティで迫ってきます。

というのも、鈴木宗男事件の際、私もいわれのない罪に問われ、その過程で多くの人の裏切りや自己保身など、見たくないものまで見てきたという経験がある。だから一言一言に重みを感じるのです。

「どんな飯の食い方をするか」というのも言いえて妙。要は飯を食うためにどんな手段をとっているか、どんな仕事に就いてどんなやり方で収入を得ているか。また、お金を持っているとか持っていないとかではなく、お金の稼ぎ方を見ろ。誰かをダマしていたり、汚い手段でお金を儲けたりしているようなやつは信用できない、ということです。

また、「他の人にはどんなもの云い方をするか、ことばや、することに、表裏がありゃしないか」というのも見事にポイントを突いています。相手によって態度が違う人がいる。上にはこびへつらうくせに、下には高圧的に出るような人物は信用できません。

お金と人。この二つに対してどう向き合っているかで、その人物がわかるのです。みなさんもぜひ気をつけてください。

相手のどこを見るべきか

私たちは、自分が考えている以上に人を見た目で判断しています。アメリカのある研究結果によると、見た目が標準以上の人物は、そうでない人物よりパーティやビジネスの誘いが多いそうです。年収も当然高くなるとか。

また着ている服の色も大きいようで、どんな色の服を着た男性に魅力を感じるかという実験では、多くの女性が赤い服を着た男性に魅力を感じ、社会的地位が高いと感じるという結果が出ています。

人を見た目で判断しがちだというのは、必ずしも悪いことではありません。見た目も大事だし、そこからの判断が当たっていることもある。ただ、気をつけなければならないのは、それを利用して人を欺いたりダマしたりする輩も多いということです。

特に、分不相応に派手というか、高価なものを身につけている人物には気をつけた方がいい。私の経験からすると、官僚でも政治家でも、能力のない人、仕事のパッとしない人ほど高価なブランド品を身につけていました。見た目と仕事にギャップがあるのです。虚勢を張って自分を大きく見せようとするわけで、そういう人はやはり信用されなかったし、だからますます仕事ができなくなる。

ところが心理学の実験を待つまでもなく、その見かけに流される人も少なくありません。つまり、お金がある人は仕事もできて社会的な地位も高いはずだと考える。お金が一番の価値基準である資本主義の世の中では、そんな短絡的な判断がされがちです。

でも、当然ながら高価なものを持っているからといってお金持ちだとは限りません。社会的地位が高いかどうかもわからない。もしかしたらブランドのスーツは借金して買っているかもしれないし、高級腕時計は親のスネをかじったものかもしれません。

仮に本当に自分でたくさん稼いでいたとしても、どんな仕事で稼いでいるのか。それこそ詐欺まがいの悪徳商法で大金を稼いでいる人だっているわけです。経営者だと言っても、いわゆるブラック企業で従業員を散々痛めつけ、搾取してお金持ちになっているかもしれない。そうだとしたら、けっして信用できる人物ではありません。

すぐに理解しようとしない

結局、人を見た目で判断するというのはショートカットするということです。できるだけ短い時間で効率よく判断しようとするわけです。

スーツを着ていればちゃんとした社会人だと考えるのも、そう判断しておけばまず間違いない確率が高いというだけ。前述したように、スーツを着ているのは怪しい仕事であることを隠すためという場合もあります。制服もショートカットの一種です。学生服を着ていたら学生だとわかるし、警察官やキャビンアテンダントの格好をしていたらそういう人だとすぐわかります。

社会が複雑化、情報化してくると、一人ひとりについてじっくり考えていてはとても間に合わない。そこで着るもの、見た目を統一してわかりやすくする。そうすることで安心感が生まれるという心理もあるでしょう。

でも、実はそこに落とし穴、盲点があります。実際に外国ではニセの制服で警官を装った犯罪が多発していると聞きます。ショートカットを逆手にとれば、見た目ですぐに信用させることができるわけです。

そこで重要になってくるのが、「わかりがおそいってことは恥じゃない」ということ。見た目だけでは見えてこない本質を見極めるには、時間をかけなければならない。理解が遅いのはけっして悪いことではないという意味です。

何でも手っとり早くわかってしまいたいという志向が強い最近では、ビジネス書でも特にハウツー的な要素の強い本の方が売れています。すぐに役に立つとか、すぐに効果が出るものを求めたがる。タイトルも「5分でわかる」「すぐに結果が出る」などのフレーズが多い。

とにかく早く結果を出したい、世の中全体がせっかちに、功利主義的になってきているように感じるのは私だけでしょうか?

時間に追われる現代社会では、ショートカットで判断の時間を短縮することは避けられませんが、一方で対象をじっくり見極め、判断しなければならない問題や場面がある。そうしないと、私たちはさまざまなトラップに引っかけられてしまうでしょう。対人間であれ、対国家であれ同じことです。

「わかりがおそいってことは恥じゃない」という五味川純平の小説のセリフの深みと重みを、今こそ私たちが振り返るべき時期なのかもしれません。

 

 

PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

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