「あれ誰だっけ…?」“心配ない物忘れ”と“危険な物忘れ”の大きな違い

思い出せない人

街で知人にばったり出会い、顔は覚えているが、名前が出てこなくて冷や汗をかく。昨日見たドラマのタイトルが思い出せなくてイライラする。話をするなかで、「あれ」「それ」という言葉が以前よりも増えてきた…。いよいよボケてきたかも…と不安になるかもしれないが、実は心配ない物忘れと、認知症の恐れのある要注意な物忘れには大きな違いがあります。

「一部」なのか「全体」なのか

40代あたりから、多くの人は物忘れをすることが増える。ただ、物忘れと一概に言えるわけではなく、大きく分けて二種類の物忘れがある。普通の物忘れは「一部」を忘れ、認知症によるものは「全体」を忘れる。こう覚えておくといいだろう。

「約束」に関する物忘れで考えてみよう。心配のない物忘れは、約束をした時間や待ち合わせの場所などを忘れることが多い。これに対して、認知症の人の場合、約束をしたこと自体を忘れてしまう。

「昨日の夕食」で考えると、おかずに何を食べたのか、すぐに思い出せないのが普通の物忘れ。一方、認知症なら「約束」のケースと同じように、夕食を食べたことそのものが記憶から抜け落ちてしまうのだ。

月に数回程度、単純な物忘れをしても、それほど心配することはない。とはいえ、まだ40、50代の場合、やはり気になるもので、老化が原因だと認めるのもしゃくに触るだろう。

できるだけ物忘れをなくすため、これから紹介する具体的な覚え方や思い出し方、脳力アップの習慣などを心がけるようにしよう。

なお、「全体」を忘れることのほかにも、認知症予備軍である「軽度認知障害(MCI)」を疑うべききざしがある。同じことを繰り返し話したり聞いたりする、最近話題になっているニュースを答えられない、電話で聞いた内容を人に伝えることができない、ものをたびたびなくすようになった、といったことだ。

加えて、話の内容の誤りを指摘した場合、素直に認めることなく怒り出すようなら、MCIの可能性がぐっと高くなる。

自分や家族の物忘れが要注意なものだった場合、「もの忘れ外来」や神経内科などを受診することをおすすめする。

ワーキングメモリは「記憶の黒板」

物忘れを防止する具体的な方法を紹介する前に、記憶の仕組みについて解説しておこう。

人間の記憶は、キープする時間によって3つに分けられる。まず、長い期間にわたって記憶される「長期記憶」。家族や身近な人の名前やエピソード、幼い頃の思い出、学んだ知識ほか、すぐに思い出せる多くの記憶がこの長期記憶に当たる。

次に、数10秒から数10分ほどで忘れる「短期記憶」。例えば、はじめてかける電話の番号がこれで、要件が済んだらきれいさっぱり忘れてしまう。覚えておきたい場合は、語呂合わせなどで覚えやすくしたり、繰り返し思い出したりしなければならない。その結果、長期記憶に変換され、脳内に長くとどめることができる。

短期記憶と関連しているが、少し違う働き方をする記憶が「ワーキングメモリ(作業記憶)」。物忘れと強くかかわっている機能で、何かの作業や行動をしながら、ごく短時間のみ記憶するときに使われる。

例えば、会話をしながら聞いたことを覚えて、質問や相づちにつなげる。夕食の買い物をしながら、合計がいくらになるか、買ったものの金額を順番に足していく。テレビで見たレシピや雑学をノートにメモする。こういった日常生活でよくある様々なシーンで、ワーキングメモリは活躍している。

ワーキングメモリは、記憶を脳に深く刻み込むようなことはしない。ほんの一時的にわずかな数の記憶を蓄え、すぐにあっさり消去する。そして、新たに一時的な記憶を蓄えるという仕組みになっている。いわば記憶の黒板やメモ帳のようなものだ。

ワーキングメモリが働くのは、おでこの裏側にある「前頭前野」。思考や判断、コミュニケーションといった〝人間らしさ〟をつかさどる重要な部分だ。進化の歴史の中で新しく生まれたところで、その分、萎縮が早く始まり、加齢によって機能が少しずつ衰えていく。また、あまり使わないでいても、だんだんうまく働かなくなる。

こうした結果、買い物の途中で特売品に気を取られて、肝心のものを買い忘れてしまう……といったよくある物忘れをするようになる。認知症が原因ではない、こうした日常的な物忘れをなくすには、前頭前野を活性化させて、ワーキングメモリの機能を低下させないようにすることが非常に重要だ。

料理は最強の「脳トレ」

日常生活の中で、ワーキングメモリをとても手軽に鍛えられる作業がある。それは、毎日の食事を作ることだ。身近な作業で、料理ほど創造的なものはない。とにかくやることが多くて、しかも同時にこなさなければならない作業もたくさんある。最初から最後まで、脳は刺激されっぱなしだ。

まず、献立を決めるには、冷蔵庫に何が入っているのかを確認しなければならない。庫内に保存している食材を見て、これでは夕食を作るには足りないと判断したら、スーパーなどに買い物に行くことになる。

あらかじめメニューを決めない場合、難易度は一層アップ。売り場を回りながら、考えなければいけないポイントはいっぱいある。家族の人数、好み、健康状態、寒さや暑さ、食材の値段、量、栄養バランス、いまは何が旬か、昨日食べた料理との差別化……。こういった数多くの要素を考え合わせ、メニューを決めて購入する。

いざ料理をするときも、段取りはもちろん複雑だ。食材をきれいに洗って、包丁で料理に合わせた形に切って、煮たり焼いたりし、味見をしながら味つけをして、食器に美しく盛る。この間、メインの料理を加熱している間に副菜を作る、皿を出す、洗い物をするといった同時作業がいくつも必要になる。

出来合いの総菜や市販のドレッシングを使う場合もあるだろうが、できるだけ手作りにこだわってみよう。そのほうが考えることも実際の作業もはるかに多く、脳がずっと刺激されて活性化する。上手にできたことによって得られる達成感も、脳に好影響を与えるはずだ。

料理ほど自宅で簡単にワーキングメモリを鍛えられる作業はない、といってもいい。男性のなかには、料理をほとんどしない人もいるだろうが、じつにもったいない話。物忘れ防止はもちろんのこと、脳そのものの老化防止、認知症予防のためにも、ぜひ厨房に入ることをおすすめする。仕事で遅くなるから平日は難しいという人は、休日だけでも料理にチャレンジしてみよう。

「名前を思い出せない」は脳トレのチャンス到来

「ねえ、あれとって」「あれって、何?」「えーと、あれだよ、あれ」「ああ、あれね」……いまこの瞬間にも、日本各地でこうした不明瞭な指示代名詞を使った、不思議な会話が交わされていることだろう。

知人や有名人、ものの名前、曲やドラマのタイトルなどがすぐに思い出せないのは、典型的な物忘れのひとつ。この現象は「あれあれ症候群」とも呼ばれ、50歳前後から多く見られるようになる。年を取ってくれば、覚えているはずの名前がすぐに出てこないのは、ある程度は仕方がないことではある。しかし、会話の中で、「あれ」「それ」「これ」を使い過ぎるのはやめておいたほうがいい。

頭の中に、人の顔がはっきり浮かぶ、あるいは曲が鮮明に流れるにもかかわらず、名前や曲名を思い出せない。こういった場合、指示代名詞であっさり済ますのは、思い出すのをその時点で放棄することになる。

脳は使わないと怠け癖がついて、しだいに機能が低下していくものだ。「あれ」「それ」「これ」はとても便利な言葉ではあるが、会話の中で使えば使うほど、脳はさびついてしまうと考えよう。

認知症とは関連しない、年齢からくる単なる物忘れの場合、しばらく考えながら記憶をたどっていくと、知りたかった名前にたどりつけることが多い。すぐに思い出せなくても、焦らないでゆっくり考えるといい。

会話を「あれ」「それ」「これ」で成立させようとする相手は、家族をはじめごく身近な間柄が多いだろう。名前がすぐに出てこなくて、会話が少々ぶつ切れになっても、それで壊れるような関係性ではないはずだ。

「あれあれ症候群」は、加齢による老化現象のひとつではある。しかし、その先は認知症にまっしぐらというわけではない。会話をしているときに、名前がすぐに出てこなかったら、「脳トレ」のチャンスが来たとでも思って、できるだけ思い出すことを習慣にしよう。

 

PROFILE
ホームライフ取材班

「暮らしをもっと楽しく! もっと便利に!」をモットーに、日々取材を重ねているエキスパート集団。取材の対象は、料理、そうじ、片づけ、防犯など多岐にわたる。その取材力、情報網の広さには定評があり、インターネットではわからない、独自に集めたテクニックや話題を発信し続けている。