中高年ひきこもり―スキルを過信して会社を辞めてしまった人の末路

「いい子」ほど陥りやすい従来タイプのひきこもり

「従来のタイプの中高年ひきこもり」は、思春期から20代前半における挫折が長期化したもので、本人の資質や不適切な養育経験、いじめなどによるところが比較的大きいひきこもりでした。

具体的には人づきあいが苦手で、コミュニケーション能力が低く、内向的で、自己主張があまり強くない方に多く見られるように思います。

このような方たちは同調圧力のある学校や会社での生活になじめず、人間関係を築くこともむずかしいために孤立してしまうことが多いのです。孤独が招くさびしい日々や息苦しい日々を送るうちにそれに耐えられずに不登校になり、あるいは会社へ行けなくなって、ひきこもってしまうケースが少なくありません。

私の体感ではさらに、まじめでやさしく、繊細で、敏感で、空気を読むことに長けていて、子どもの頃に親の顔色をうかがってきた方が非常に多いと感じます。このような人たちはともすれば、親に反抗することもないまま、社会の規範に逆らうこともない従順な「いい子」に育ちがちで、そして、この「いい子」であること自体が、ひきこもりのリスク要因となるのです。

なぜなら、自分の心を押し殺して、親の意向に従ってばかりいる「いい子」を続けているうちに、多くの場合、自分が何をしたいのか、何が好きで、何が嫌いなのか、つまり「自分の欲求」がわからなくなるからです。

自我の確立がなされず、自分というものが曖昧なわけです。このような状態では自己主張はできません。「嫌です」というひとことも言えず、相手の申し出を断ることもできません。学校では、自己主張しない子・なんでも我慢する子とみなされて、いじめの標的にもされやすくなります。

また、職場では、面倒な仕事を押しつけられても文句のひとつも言わずに黙々と仕事をこなす「都合のいい人」にされてしまいがちです。これでは仕事の量は増えるばかりで、やがて許容量を超えた時点で、心身ともに疲れはてて会社を辞めざるをえなくなり、そして、退職後にひきこもってしまうケースも見受けられます。

ちなみに、相手に説得されやすい人はそうでない人よりもひきこもりやすいですし、また、何かトラブルがあったときに、悪いのは自分だと思いやすい人はそうでない人よりも、やはりひきこもりやすい傾向にあります。

新タイプのひきこもりの生原因は「再就職の難しさ」

一方、「新しいタイプ」は中高年ひきこもりに多く見られる特有のタイプです。「新しいタイプ」とは、貧困や雇用、親の介護などが原因やきっかけとなって、ひきこもってしまわれた方々です。そして、彼らの多くが一人前の社会人として働いてきた経験を持っていることは、すでにお話ししたとおりです。

内閣府の中高年のひきこもりに関する実態調査では「35歳での無職の経験」が53.2%と半数以上いました。しかも、「働いた経験」という項目では、「正社員として働いたことがある」人が73.9%におよんだのですつまり、中高年のひきこもりの方々の多くは社会人として通用していたし、社会人として「まっとうに」生きてきた人たちなのです。

2018年の調査ではこのことを示す興味深い数字があります。40歳~64歳の中高年層のひきこもりの方々に、人と対したときの感情や感じ方について質問した項目を見ていきましょう―。

「自分の欠点や失敗を少しでも悪く言われると、ひどく動揺しますか」という質問に対して、「はい」53.2%、「どちらかといえばいいえ」46.8%と、かなり拮抗している。
「人といるとバカにされたり、軽く扱われたりしないか、不安になる」という質問への答えは、「はい」「どちらかといえばはい」が48.9%、「どちらかといえばいいえ」51.1%で、ほとんど差がない。
「初対面の人とすぐに会話できる自信がある」という質問に対し、「はい」「どちらかといえばはい」が44.7%、「いいえ」「どちらかといえばいいえ」が55.3%だった。

これらの数字が表しているのは、中高年のひきこもりのかなりの方々は、個人の資質や性格などが原因でひきこもっているわけではないということです。

では、そのような「一人前の社会人」だった人たちがどのようにしてひきこもってしまうのでしょうか。40代、50代ともなると、給料もそれなりに高額になるため、リストラの標的にされやすく、突然、解雇を言いわたされるケースも少なくありません。

また、リストラには遭わなくても、職場での強烈ないじめや過酷な労働環境などに耐えられずに会社を辞めていく人もいます。最近では、郷里に住む親の介護のためにやむをえず退職する人も目立つようです。

中高年の人が会社を辞めると、新しい職をみつけることは至難の業で、東京や大阪などの都市部でさえ、再就職先をみつけることがむずかしくなるのです。最初のうちは、それまでのキャリアで培った自分のスキルを少しは活かせるような職場を望んでいた人も、不採用通知の山を見ると、高望みはできないことを思い知るようになるのでしょう。食べていくために非正規やアルバイトで手を打つ方もいるわけです。

しかし、たとえばアルバイトとしてコンビニやラーメン店などで働きはじめたとします。そこにはたいてい年下の上司がいます。20代の上司が、40代、50代の部下にえらそうに命令したり、怒鳴りつけているのを飲食店やコンビニなどで見たことがある方もいるかもしれません。中高年の部下は自分を必死で抑えているのでしょう、頭を下げ続けていたりするのです。ボロボロに傷つけられた心を抱えて働きつづけることにも、限界があります。

このように、ようやくみつけた非正規やアルバイトも苦痛になってしまったら、立ち直ってまた新しい職を探すのは、容易なことではありません。また、無職の状態では体裁も悪く感じられ、友だちとも会いたくないでしょう。

自分のスキルに対する過信が落とし穴

問題はこのような過程で孤立に追い込まれ、以前は自分のなかにあった自己肯定感も社会に認められている感覚も両方を削られていき、アイデンティティが完全に崩壊してしまうことだと思います。

つまり、パート先で年下の上司に小突かれつづけたり、何度も面接で落とされたりしているうちに、「自分は自分でいい」という自己肯定感は低下していきます。しかも、無職になってしまったことで、「そんな自分でいいと社会に認められている」という確信は当然のこととして、徐々にゼロに近い状態に陥るでしょう。

自己肯定感も、社会的に認められている感覚も両方を失い、生きるための「土台」であるアイデンティティが崩壊してしまったとき、人は絶望し、ひきこもらざるをえないのだと思います。さらに、最近の高齢化にともない、親の介護のためにやむをえず都会の会社を辞めて、Uターンをする人たちも増えています。

そのような人たちはたいてい、自分のスキルをもってすれば、郷里でも仕事がみつかるだろうと思っています。ところが、地方の雇用状況は都市部よりもさらに厳しく、とくにハイスペックな人たちを雇うような会社は、地方へ行けば行くほど少なくなります。

地域社会が崩壊し、核家族化した現代において、多くの日本人が孤独と背中合わせに生きていると考えられます。いざ何かが起きれば、このような孤独な人たちは独りで困難な局面に立ち向かわなければならないわけで、そのとき、その重みに耐えられずにひきこもってしまう人も少なくないと思います。

だからこそ、「自分は大丈夫」と高をくくっている人も「自分事」として、ひきこもりをとらえていただきたいのです。

 

PROFILE
桝田智彦

昭和49年、東京都世田谷生まれ。学生時代から作曲家を目指し20代前半にグループでプロの音楽家としてCDデビュー。作詞作曲の一翼を担い、ラジオや雑誌媒体においては単独でも活躍した。 その後デザイン職とSCS准スタッフに就きながら音楽活動を継続したが、30歳を前に親友を不幸な形で亡くしたことに壮絶なショックを受けひきこもる。その後、「人の役に立つ仕事を! 」と猛勉強の末、30代から大学・大学院へ進学、臨床心理士資格を取得。精神科クリニック勤務経験を経て現在、一般社団法人SCSカウンセリング研究所副代表、東京都公立学校スクールカウンセラー、私立大学付属中学高校スクールカウンセラー、親育ち・親子本能療法カウンセラーとして、ひきこもり・不登校支援に従事している。