寝る前のホットミルクは逆効果!「睡眠の質」を高める食事術とは

新型ウイルス感染症の流行もあり、免疫力を高める方法に注目が集まっています。栄養をしっかりとることはもちろん、「質のよい睡眠」も免疫力の向上には欠かせません。管理栄養士の森由香子氏は、「食事のとり方」が免疫力に影響を与えていると指摘します。ぐっすり眠るための食事術を教えていただきました。

毎日朝食をとると「睡眠の質」が変わる!?

私たちは睡眠中、日中の活動で疲れた脳とからだを休め、健康維持に欠かせないさまざまなホルモンを分泌し、傷ついた組織を修復しています。睡眠の質や時間が十分でないと、からだの組織はどんどん疲れ、免疫力は低下してしまいます。

実際、睡眠時間が7時間未満の人は、8時間以上の人に比べて、約3倍も風邪にかかりやすかったとか、眠りの質が良い人ほど、風邪の発症率が低下していたなど、睡眠と免疫の密接な関係を裏付ける報告がいろいろあります。

問題は、どうすれば質の良い睡眠をとれるかですが、実はここに、食事が大きくかかわっています。良い睡眠のために大事なのは、生体リズムを整え、睡眠ホルモンをしっかり分泌させること。それがうまくいくかどうかは、食事のとり方が非常に重要なのです。

毎日の睡眠の質を上げるために、まずおすすめしたいのが、「必ず朝食を食べること」です。

私たちが生体リズムを整えるためには、朝起きて血糖値を上げ、インスリンを分泌させる必要があります。インスリンは、すい臓から分泌されるホルモンで、血中の糖分を一定に保つはたらきをしています。

私たちは、朝食を食べることで、睡眠中に下がっていた血糖値を上げ、生体リズムをリセットしています。朝食を食べないと血糖値が上がらないので、からだはちゃんと目覚めた状態にならないまま日中に突入することになるのです。

生体リズムがリセットされないということは、体内時計が狂ってしまうことを意味しています。本来、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンは、朝の光を浴びて14〜16時間くらい経過して暗くなると分泌がはじまり、私たちを眠りに誘いますが、生体時計が狂うと、夜になっても分泌が抑制されてしまうのです。

メラトニンの分泌が抑制されれば、夜はよく眠れず、日中は眠いままの日々が続き、睡眠負債が貯まっていくことになるでしょう。免疫力も下がり、風邪などの病気にかかりやすくなりますし、がんや生活習慣病、認知症、肥満などになってしまう可能性が上がっていきます。

ですから、良い睡眠をとり、免疫力を上げておくためには、朝食は絶対に食べたほうがよいのです。

そんな、朝食にぴったりの食材が、サバやイワシなどの青魚です。

青魚には、トリプトファンの材料となる成分がしっかり入っているので、朝食で食べておくことで、体内でのメラトニンの生成に役立ちます。さらに青魚のEPA・DHAは、インクレチンというホルモンを分泌させ、インスリンの分泌を促進する働きがあります。

「そうは言っても、朝からサバやイワシなどは調理していられない」という方は多いと思います。そこでおすすめしたいのが、缶詰の活用です。缶詰なら、気軽に使えますし、そのままおかずとしてすぐ食べられます。もちろん、サラダに加えたり、みそ汁に入れたりしてもOKです。

毎朝、朝食を必ず食べ、おかずに青魚の缶詰をプラスすれば、体内時計が正しくはたらき、夜になれば睡眠ホルモンもしっかり分泌されるはずです。さっそく明日からトライしてみてください。

「寝る前のホットミルク」をオススメできない理由

睡眠の質の向上のために、次におすすめしたいのが「牛乳」です。理由は、牛乳にトリプトファンをはじめ、たんぱく質の構成成分であるアミノ酸が豊富に含まれているから。これらは、睡眠ホルモンであるメラトニンの大事な原料になる成分です。

そもそもたんぱく質は、免疫力をアップさせるために、もっとも重要な栄養のひとつです。体内のたんぱく質が足りなくなると、ウイルスなど病原体を殺すはたらきを持つナチュラルキラー細胞(通称「NK細胞」)や、抗体が減少してしまいます。

新型コロナウイルスの流行で、よく耳にするようになった「抗体」とは、免疫ブログリンと呼ばれるたんぱく質で、体内に入り込んだ病原体から私たちを守るためにつくられるものです。

〝一度はしかにかかると体内で抗体ができるので、もうはしかにはかからない〟という話は、皆さんもご存じでしょう。ですから私たちは、免疫力を保つためにも、積極的にたんぱく質を摂取する必要があるのです。

その点、牛乳は、9つある必須アミノ酸のすべてを含んでいる、優れたたんぱく源。免疫力アップにぴったりの牛乳を毎日飲んで、しっかりたんぱく質を補給していきましょう。

しかし、牛乳を飲む際、ひとつ注意していただきたいことがあります。よく、寝る前にホットミルクを飲むとよく眠れるといわれていますが、実はこれは、あまりおすすめできません。意外に思われる方も多いと思いますが、理由は大きく2つあります。

まず、時間の問題です。メラトニンは、朝の光を浴びて14〜16時間くらい経過して暗くなると分泌されます。7時に朝の光を浴びて朝食を食べたとすれば、だいたい夜の9時から11時です。牛乳から摂取したトリプトファンがメラトニンになるまでにはそれなりに時間が必要なので、寝る直前では間に合わないのです。

もうひとつの問題が、牛乳には脂質や糖質も含まれていることです。これらの成分が胃の中にあると、睡眠中も消化器のはたらきを誘発し、からだの機能が目覚めてしまう可能性があるのです。寝る前に牛乳を飲むことにより、質の良い睡眠を得るどころか、かえって眠りの質を低下させてしまうことになりかねません。

実際には、ホットミルクを飲むと、内臓の温度がいったん上がります。眠気は、一度上がった体温が下がっていくときに出現するので、ホットミルクを飲んだあと、しばらくすると眠くなる可能性はあるにはあります。

しかし、先ほど述べた通り、牛乳をおなかに入れてしまったことで、からだが熟睡できなくなる可能性は否定できませんし、どうせなら、就寝時間頃に分泌されるメラトニンの原料になるように、早めに飲んだほうが得策です。ですから牛乳は、毎日、日中のうちに、せめて夕方には飲んで、質の良い眠りと免疫力アップに役立てるようにしましょう。

寝る前に最適なのは“ぬるめのお茶”

夜のリラックスタイムの飲みものは、ホットミルクではなく、「ぬるめの湯でじっくり淹れたお茶」を、ゆったりした気分で味わうのがおすすめです。

緑茶には、抗酸化作用をはじめ、抗がん作用、抗菌作用、血圧や血糖の上昇を抑える作用など、さまざまな健康効果があり、免疫力アップのためにも、1日に何杯もいただきたいものです。

でも、緑茶にはカフェインも含まれ、カフェインには覚醒作用がありますし、利尿作用もあるため、いざ寝ようと思ったらトイレに行きたくなって目が覚めてしまった、ということもあり得ます。

そこで、夜に緑茶を飲むなら、ぬるめの湯でじっくり淹れたものにしましょう。60度ほどに冷ましたお湯で、いつもより時間をかけて淹れるのです。こうすると、カフェインの抽出が減るだけでなく、うまみもたっぷり抽出されます。苦みは減ってしまいますが、甘みが感じられておいしいです。温度が低いと、緑茶に含まれているビタミンCの損失も少なくてすみます。

緑茶のうまみや甘みを出す成分はテアニンといい、比較的低い温度で溶け出す性質を持っています。リラックス効果もあるので、テアニンがたっぷり溶け出したぬるめのお茶は、寝る前に気持ちを落ち着かせるのに最適な飲み物といえるでしょう。

そもそも温度の高い飲み物を飲むと、カフェインが入っていなくても、温度の刺激により目が覚めてしまいます。水出しした冷たいお茶の場合は、テアニンが豊富でカフェインは少なくなりますが、あまり冷たい飲み物を飲むとからだが覚醒してしまうので、おすすめできません。

深い眠りへと誘ってくれる話題の成分「グリシン」

続いて、よい眠りを誘う食べものをご紹介しましょう。皆さんは、グリシンという成分を聞いたことがありませんか? 私たちの睡眠をサポートしてくれる健康食品として、サプリメントなどでも市販されている、話題の成分です。体内時計に作用して、睡眠のリズムを調節するはたらきがあると考えられているのが、グリシンです。

実際、寝る前にグリシンのサプリメントをとると、眠りの質が上がり、翌朝もすっきりと目が覚め、日中の作業効率も良くなったという実験結果も報告されています。

では、体内時計を整えるために、サプリメントを買うしかないのかといえば、そんなことはありません。グリシンはうまみの成分の仲間であり、食べ物にも広く含まれているアミノ酸だからです。

しかも、エビ、ホタテ、イカ、カジキマグロなど、おいしくて家庭のメニューにもよくとりいれられる食材に豊富に含まれています。いろいろなメニューが思い浮かぶ食材ばかりですので、サラダに、ソテーに、煮込み料理に、いろいろアレンジして、意識的に召し上がってみてください。

ぐっすり眠るために毎日とりいれたい、4つの品目

アミノ酸のグリシンは「GABA(ギャバ)」の原材料にもなります。GABAは、アミノ酸の一種で、正式な名称は「γ–アミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)」。英語の頭文字をとって、GABAと呼ばれています。サプリメントや一部のお菓子などで有名になりましたが、いったいどんなものなのか、よく理解している人は少ないのではないでしょうか。

GABAの大きな効果は、リラックス効果。体内で神経伝達物質としてはたらき、ストレスを和らげて、脳の興奮を鎮める効果があると考えられています。リラックスにより血圧を下げる効果が認められているため、特定保健用食品・通称トクホとしても認められています。

そんなGABAは、実は私たちを眠りに誘う効果を持っています。自律神経のバランスを整え、主に日中活動しているときに高まる交感神経を鎮め、休息しているときに高まる副交感神経を活発にしてくれることで、自然な眠りへと導いてくれるのです。

GABAはトマトなどの野菜、茶、米、大豆などに豊富なので、これらの食品の摂取を心がけていれば、GABAを自然と体内にとりいれることができるでしょう。

先程、アミノ酸のグリシンがGABAの原材料になると言いましたが、GABAが作られるのが睡眠中。睡眠の質が悪かったりすると、体内でつくられるGABAが減ってしまい、ますますリラックスできなくなって、睡眠の質が落ちるという悪循環に陥りかねません。

トマトなどの野菜、茶、米、大豆には、グリシンも含まれています。この4品目を忘れずに食事にとりいれ、眠りの質を維持していきましょう。

 

seishun.jp

PROFILE
森 由香子

管理栄養士。日本抗加齢医学会指導士。東京農業大学農学部栄養学科卒業。2005年より東京・千代田区のクリニックにて、入院・外来患者の血液検査値の改善にともなう栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導などに従事している。また、フランス料理の三國清三シェフとともに、病院や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを行う。抗加齢指導士の立場からは、<食事からのアンチエイジング>を提唱している。

免疫力は食事が9割 (青春新書プレイブックス)

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  • 作者:森 由香子
  • 発売日: 2020/12/12
  • メディア: 新書