管理栄養士/日本抗加齢医学会指導士
ここ数年、老化の原因として注目を集めている「AGEs」をご存じでしょうか? AGEsとは、私たちのからだと免疫力に悪影響を与える物質のことで、身近な食べものに含まれているようです。そこで、管理栄養士で日本抗加齢医学会指導士の森由香子氏に、AGEsをできるだけ抑える食べ方について伺いました。
「AGEs」は免疫細胞の機能を狂わせる
ハム、ベーコン、チキンナゲット、ピザ……。これらの加工食品は、子供から大人まで、大好きな人が多いメニューといえるでしょう。ハムやベーコンはさっと焼くだけで食べられますし、チキンナゲットやピザはデリバリーで簡単に手に入るので、感染症予防対策として家で食事をすることが増えた昨今、食卓に登場する回数も増えがちだったかもしれません。
でも、免疫力アップの面からは、こうした食事はあまり頻繁には食べないほうがよいと言わざるを得ません。理由は、単にカロリーが高いからではなく、これらの食品には、AGEsが大量に含まれているからです。
AGEsとは、英語のAdvanced Glycation End productsの略称で、日本語に訳すと「終末糖化産物」となります。いわば、たんぱく質の最終形態で、私たちのからだにさまざまな悪影響を及ぼし、免疫力も低下させる困った物質です。
AGEsには、体外からとりいれるものと、体内でつくられるものと2種類あります。体外からとりいれるものは、私たちが口にする食事の中にすでに含まれているもので、糖とたんぱく質が加熱調理されることでメラノイジンという成分がつくられる、「メイラード反応」によって生み出されたものです。
体内でつくられるものは、食事からとった糖が血中に増えると、それが血中のたんぱく質と結びつくことがきっかけとなって生まれます。この現象を「糖化」といい、糖化した成分は、いくつかの化学反応を経て、AGEsになってしまうのです。
こうして私たちの体内に増えたAGEsは、血液の中の免疫細胞の機能を狂わせ、血管にダメージを与え、各臓器に運ばれるとすい臓や腎臓、脳の機能にも悪影響を及ぼしてしまいます。そのため、AGEsは近年、老化や病気の大きな原因として注目されるようになり、「抗糖化」は「抗酸化」に並ぶ健康のキーワードとなっています。
AGEsの悪影響を防ぎ、健康を維持するためには、まずは、できるだけ体内でAGEsがつくられないように、糖分のとりすぎに注意すること、そして、できるだけ体内にAGEsを取り込まないようにすることが大切です。
食品に含まれていたAGEsに関しては、多くは体内で分解されるのですが、7%はそのまま残ってしまうので、やはりAGEsが多い料理は、あまり食べないにこしたことはないのです。
冒頭に挙げた4つの「AGEsが高い食品」の具体的な数値は、下記になります(一般社団法人AGE研究協会調べ)。
ロースハム(100g) 2263exAGE
ベーコン(生・30g) 4039exAGE
チキンナゲット(1パック) 6661exAGE
ミックスピザ(半ピース) 21783exAGE
バターで炒めてつくったオムレツが2892exAGEくらいですから、以上の4つがいかに多くのAGEsを含んでいるか、おわかりいただけるでしょう。
調理法を変えるだけで、AGEsの量をグッと減らせる!
AGEsを食べ物として体内にとりいれる機会は、できれば減らしていきたいものです。実は調理法をちょっと変えるだけで、同じ食材でも体内に取り込むAGEsの量をグッと少なくすることができます。
AGEsは、糖とたんぱく質を加熱することで生まれるもので、調理する温度が高温なほど、また、調理時間が長いほど、多く発生することがわかっています。ですから、同じ食材でも、工夫次第でAGEsの量を抑えることができるのです。
調理法でいえば、「揚げる→焼く→炒める→煮る→ゆでる・蒸す→生」の順に、AGEsの量は減っていきます。
たとえば、牛肉(サーロイン生)1916exAGEは、焼いてステーキにすると26843exAGE。豚(ロース生)1246exAGEは、しゃぶしゃぶで2853exAGE、ショウガ焼きにすると13768exAGEになります。
他にも例を挙げてみましょう。
ジャガイモの場合
コロッケ 6928exAGE
ポテトサラダ 249exAGE
卵の場合
目玉焼き 4304exAGE
ゆで卵 382exAGE
生卵 164exAGE
ブリの場合
照り焼き 7412exAGE
ブリ大根 1966exAGE
ブリ(生) 779exAGE
調理法ひとつでこんなに違うのかと、驚かれるのではないでしょうか。AGEsは、基本的に糖とたんぱく質を高温で加熱するとできるので、こんがりと焦げ目がついている料理には多い傾向があるのです。
もうひとつ、大事な情報をプラスしておきます。もはや私たちの家庭になくてはならない存在となっている電子レンジによる調理についてです。
実は、電子レンジ調理は、ゆでた調理に比べてAGEsの量を増やすことが報告されています。電子レンジはマイクロ波で食品の分子を振動させて高温状態にするので、焼き色がつかなくてもAGEs化が進むのだそうです。
便利な電子レンジではありますが、AGEsの増加を抑えて免疫力を保つためには、長時間の加熱は避けましょう。過度に加熱するとたんぱく質は糖質や脂質と化合物をつくってしまうため、消化にもよくありません。
お弁当の温め直しなども、できればしないほうがよいでしょう。するにしても、アツアツにはせず、最低限の温度にすることをおすすめします。
なるべく避けたいメニュー・ベスト5
近年、「これが抗糖化食材だ!」という製品や情報が世に出るようになってきましたが、実際に人間の体内に対して効果があると確認されているものは少なく、まだまだ研究が必要なようです。特に、AGEsを分解するパワーを持っている食材については、報告が少ないのが現状です。
ですから、私たちがAGEsの悪影響からからだを守るためには、糖のとりすぎに注意し、AGEsが多く含まれている食品を避けるしかありません。
ここで、AGEsが高い、ワースト5のメニューを発表しておきましょう(数値は一般社団法人AGE研究協会の調べによる)。
第5位 カツカレー 17337exAGE
第4位 シーフードピザ 19676exAGE
第3位 ミックスピザ 21783exAGE
第2位 サーロインステーキ 26843exAGE
第1位 カルボナーラスパゲッティ 27033exAGE
カルボナーラはAGEsを大量に含んでいるベーコンを炒めてつくりますし、やはりAGEsが高いパルメザンチーズも入っています。とてもおいしいメニューですが、免疫力のことを考えた場合、食べる頻度は少なくしたほうがよさそうです。
先程も述べたとおり、AGEsは糖とたんぱく質が加熱されてできるもので、加熱の温度が高く、加熱の時間が長いとその量は増えます。ですから、こんがりとおいしそうな焼き色がついた食材は、基本的にAGEsが多いと思ってだいたい間違いありません。
先に挙げたワースト5のほか、とんかつ、唐揚げ、焼き鳥、フライドポテト、ポテトチップスなどは、いずれもAGEsが高い食品です。
反対にAGEsが少ない食品は、生野菜や刺身など、加熱されていないものです。また、糖化を防ぐ効果が認められている数少ない成分のひとつに、食物繊維が挙げられます。
以上をまとめると、やはり野菜をしっかり食べておくことが大切だと思います。
食事をするときは、野菜から先に食べること、1食あたり生野菜なら両手いっぱい分、加熱したものなら片手にのるくらいの量を食べるように心がけましょう。ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、食物繊維が豊富なブロッコリーなどの緑黄色野菜がおすすめです。
どうしてもAGEsが多いメニューを食べたいときは、ビタミンや食物繊維が豊富な野菜を一緒にたっぷりとって、抗糖化と抗酸化を図りましょう。
糖尿病対策にも! 毎日とりたい「酢」と「レモン」
抗糖化の観点から、積極的に日々の料理にとりいれていきたい食材が、酢とレモンです。
糖化を防ぐためには、血糖値の上昇と、AGEsの増加を防がなければなりません。血糖値は食後約1時間後がもっとも上がりやすいのですが、AGEsも食後1時間後がもっともできやすいことがわかっています。
食後の血糖値の急上昇を防ぐことは、抗糖化対策の鉄則。血糖値が上がりすぎると、糖尿病の引き金になりますし、血管を傷つけ、動脈硬化の要因にもなり、結果的に免疫力の低下を招きます。
そんな、血糖値抑制効果が期待できるかもしれない食材のひとつが、「酢」なのです。食事に大さじ1杯(15)の酢をとりいれた場合と、そうでない場合とでは、ピーク時の血糖値に10%以上の差が出ることが、お酢のメーカーが行った臨床実験で明らかになりました。
酢には胃腸のぜん動運動を抑制し、炭水化物の消化スピードを遅らせるはたらきがあり、その結果、消化物がゆっくり小腸に移動するので、糖の吸収がゆっくりになると考えられます。
たとえば、毎日食べるごはんを酢飯にすると、食後の血糖値のコントロールに期待が持てるでしょう。
さらに、肉や魚料理の下ごしらえに酢を活用すると、AGEsの発生を低く抑えられることも報告されています。メニューとしては、酢を使った酢豚やサンラータン、酢漬け、酢の物、マリネ、ピクルスなどもおすすめです。
一方、レモンですが、こちらは下ごしらえに使うと、食品中のAGEsを減らすはたらきがあることがわかってきました。肉をマリネしてから焼くと、ただ焼く場合に比べAGEsの量が半分に減ったという報告もあるようです。
これは、レモンに含まれるクエン酸が、糖とたんぱく質の結合を抑えるからだと考えられています。酢の物などをつくるときは、お酢と柑橘類の果汁を合わせて活用してみてください。
香りも良くなりますし、お酢のパワーにレモンのビタミンCが加わることで抗酸化作用も期待できます。糖化と酸化を防いで免疫力を上げるために、どんどん料理に活用していきましょう。
管理栄養士。日本抗加齢医学会指導士。東京農業大学農学部栄養学科反る行。2005年より東京・千代田区のクリニックにて、入院・外来患者の血液検査値の改善にともなう栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導などに従事している。また、フランス料理の三國清三シェフとともに、病院や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを行う。抗加齢指導士の立場からは、<食事からのアンチエイジング>を提唱している。