飲む言い訳の定番「酒は百薬の長」には根拠がなかった!

お酒

お酒が好きな人は、自分の中でいろいろな理屈をつけて、なんとかして飲む理由を見つけようとします。もしあなたが「『酒は百薬の長』って言うくらいだから、少し飲むのは体にいいはずだ」と思っているなら、それはただちに見直した方がいい考え方の一つです。その言葉の起源と医学的な見地、そして身体を壊さない飲み方について、アルコール専門医の垣渕洋一先生にうかがいました。

もとは酒税のためのキャッチコピー

飲む理由としてよく使われる「酒は百薬の長」という言葉、もともとは「酒はどんな良薬よりも効果がある」という意味でした。

起源ははるか昔、西暦8年から20年ごろに中国を支配した「新」の王莽という皇帝が発した言葉です。この皇帝は財源として酒税を創設し、その際に消費を促進するために、以下の文句を民に宣布したと言われています。

夫鹽食肴之將 (それ塩は食肴の将)
酒百薬之長  (酒は百薬の長)
嘉會之好   (嘉会の好なり)
鐵田農之本  (鉄は田農の本)

(訳)そもそも塩は食物でもっとも大切なもので、酒は多くの薬のなかでもっとも効果があり、祝いの席に欠かすことはできない。鉄は農耕の基本であり、名山や大きな湖沼は豊饒な倉庫である。

 実はこの言葉、酒税をたくさん確保するためのキャッチコピーで、2000年を経てもこの言葉だけは生き続けています。そう考えると、王莽の皇帝としての評価は高くありませんが、コピーライターあるいはマーケターとしては超優秀だと言えるでしょう。

この言葉は兼好法師の『徒然草』にも記されていますが、ここでは「百薬の長とはいえど、万の病は酒よりこそ起れ」というように、「酒は百薬の長とはいえ、多くの病気は酒から起こっている」と指摘しています。

実際にその通りで、アルコールは脳に対しては「気分が晴れる」などの薬理効果はあるかもしれませんが、肉体的な健康という視点でのメリットはゼロ。いいことは一つもないというのが真実です。

うまく使えばメンタルヘルス的なメリットがあるとしても、飲酒量が増えて臓器障害などの副作用が表れては元も子もありません。たとえ少量であれ、体のためには飲まないのがベストです。

では、適量で抑えて飲み続けるのなら体にいいかといえば、その解釈も誤りです。

一時期、ワインをよく飲むスペインやフランスの高齢者は長寿だと話題になりました。ワインに含まれるポリフェノール(活性酸素による酸化から体を守る物質)が、この場合の健康長寿に一役買っているのは事実です。

しかし、アルコールは組織で代謝されるときに活性酸素を出すので、その分を割り引いて考えなければなりません。これまでの多数の研究から、この地域における長寿には、伝統的に食されている「地中海食」の影響が大きいことがわかっています。

海産物やオリーブオイル、ナッツに含まれるオメガ3などの脂肪酸をたっぷり摂取しながら赤ワインを飲む。こうした食のスタイルが健康につながり、心疾患、糖尿病、肥満などの生活習慣病のリスクを低下させているのです。

ワインを飲む人たち

また、食生活の他に、孤独になることが比較的少ない大家族主義のライフスタイルや、細かいことをあまり気にしない大らかなメンタリティなどが融合する形で長寿につながったと考えられています。

寿命は個々の遺伝子の違い、仕事、家庭環境などの総合的な結果であり、一概に「ワイン=百薬の長」という単純なものではないのです。

「ローリスク」の節度ある適度な飲酒量とは

とはいえ、すぐにはお酒をやめられそうにないという場合、健康リスクの少ない「適量」を守りながら飲み続けるのは次善の策として有効です。

国が定めた健康づくりの指針「健康日本21」では、アルコール依存症の発症リスクが少ない「節度ある適度な飲酒」を定めています。男性の場合、1日平均でアルコール量20g以下(純アルコール量換算で1日20g以下)。

目安としては、ビールの中瓶かロング缶1本で500ml、日本酒なら1合弱、25度の焼酎なら100ml、ワインは小さなグラス2杯程度に相当します。

適切な飲酒量

この数字を見て「適量って、たったこれだけ!?」と思ったかもしれません。基準値を知ると、「飲みすぎ」の人がいかに多量の飲酒をしているかがわかるでしょう。

しかも、女性の場合はアルコールの影響を受けやすいので、適量は男性の半分の量になり、アルコール量で10g以下です。また、性別にかかわらず高齢者やお酒に弱い人、飲むとすぐに顔が赤くなる人も、標準的な適量より少量にするのがよいとされています。妊娠中は少量でもハイリスクな状態になるので、注意が必要です。

飲む間隔については、この酒量で、なおかつ週2日の連続した休肝日を設けるのが理想です。

依存症になりやすい「ハイリスク」の酒量とは

次に、健康を脅かすハイリスクな酒量についても見ていきましょう。「健康日本21」では、生活習慣病のリスクを高める飲酒を1日の平均アルコール量で男性40g以上、女性20g以上としています。

細かく線引きすると、男性で1日平均40g(女性では20g)前後が「ミドルリスクの酒量」、さらに1日平均量60g(女性では30g)を超えた場合は「多量飲酒」で「ハイリスク」になります。

量の目安は、1日に日本酒3合、ビール1.5L(500mlの中瓶なら3本)、25度の焼酎なら300ml、ワインだと6杯程度で、これだけの量を飲むと体に悪いだけでなく、「仕事の能率が落ちる」など社会的な問題も無視できなくなります。

これはいわば「完全にアウト!」の量。続けて飲んでいたら、飲酒問題が必ず起こってきます。この「60gの壁」を越えて飲んでいる一般ビジネスパーソンは大勢いるはずで、日本には約1,000万人存在すると推計されています。

「健康日本21」の調べでは、がん、高血圧、脳出血、脂質異常症などの飲酒に関連する健康問題のリスクは、1日平均飲酒量と共に直線的に増加することがわかっています。

また、すべての要因による死亡率、脳梗塞、虚血性心疾患については、男性で44g、女性で22g以上の飲酒で危険性が増していくことが研究で明らかになっています。

では、どれくらい飲み続けたらアルコール依存症になるのでしょうか。長期の大量飲酒がアルコール依存症の原因になることはたしかですが、「お酒をこれだけ飲んだら依存症になる」という、年齢や性別ごとの明確な基準量があるわけではありません。個々のアルコールへの感受性が関係してくるからです。

大まかな目安として、男性はおおよそ日本酒5合くらいの飲酒を毎日10年程度続けた場合、女性はその半分の約5年でアルコール依存症になると言われています。

自分の基礎的な飲酒量を把握しよう

では、あなたが普段飲んでいる酒量について、チェックしていきましょう。

お酒の容器には必ずアルコール濃度が表示されているので、計算式によって体に入るアルコール量が計算できます。そして、飲酒量を測る単位を「ドリンク」といいます。簡単に言うと、純アルコール10gが1ドリンクということになります。

あなたが1日何ドリンク飲酒しているのかを調べてみましょう。たとえば1日ビール1本(500ml)と日本酒2合を飲む人の酒量は次のようになります。

(ビール500ml1本)2.0ドリンク+(日本酒2合)4.4ドリンク
=合計6.4ドリンク

ドリンクの計算方法

この表にないお酒の場合、以下の方法で計算できます。

飲料の量(ml)×濃度(20度なら0.2)×アルコール比重(0.8g/ml)
=純アルコール量(g)

 

純アルコール量÷10
=ドリンク数

 

(例)アルコール度数8%のチューハイ1缶(350ml)
=350×0.08×0.8
=22.4g
=2.2ドリンク

 飲みすぎかどうかに気づくうえで、まずはあなたの酒量のベースラインがどのくらいなのかを知っておきましょう。それを記録することが第一歩です。

1日何ドリンク飲んだのか、できれば体調や飲んだときの状況もノートに書くなどして「見える化」し、客観的に観察することが対策の始まりです。便利なアプリもあるので利用してみましょう。

 

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PROFILE
垣渕洋一

東京アルコール医療総合センター・センター長。成増厚生病院副院長。医学博士。筑波大学大学院修了後、2003年より成増厚生病院附属の東京アルコール医療総合センターにて精神科医として勤務。アルコール依存症の回復には行動変容が重要だという信念のもと、最新の知見を応用した治療を行い多くの回復者を送り出している。臨床のかたわら、学会や執筆、地域精神保健、産業精神保健でも活躍中。

「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本