松生クリニック院長
腸が冷えると何が起きるのか
私はこれまで35年近くにわたり、5万人以上の大腸内視鏡検査を行い、腸を見てきました。その経験から、日本人の腸にかかるストレスは年々悪化してきていると感じています。一番深刻なのが「冷え」によるストレスです。
近年の健康ブームで腸に関心を持つ人が増え、「腸活」という言葉が提唱されたり、「腸内環境を整える」という謳い文句の健康食が流行したりしています。しかし、肝心の腸が冷えきって動きが停滞している「
そもそも冷えとは気温や服装、食習慣などによって起こる血行不良です。血行不良によって栄養素が全身にまわりにくくなったり、細胞のはたらきが低下したりすることがあるのです。
この冷えが慢性化すると、腸そのものが冷えて動きが悪くなり、そこからさまざまな不調を引き起こします。その代表格が便秘や腹痛、下痢、お腹の張り、残便感などです。
便は本来、栄養が吸収された後の老廃物です。便秘で腸に便が残って腐ると、悪玉菌が増加し、悪玉菌が発生させる有害物質が肌荒れ等の原因になります。そして意外なことですが、排泄力の低下は、不安やうつ状態も引き起こします。
また、冷えが慢性化すると血管や内臓のはたらきをコントロールする自律神経の調子もくるい、交感神経が優位になって、腸のはたらきを悪化させてしまうのです。
さらに、腸が冷えてはたらきが悪くなると、免疫力の低下をまねきます。小腸に免疫細胞・リンパ球が集中しているからです。免疫力が低下していると、そのシステムがうまくはたらかなくなり、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。
私は大腸の内視鏡検査をする前、大腸をカラにするために服用してもらった腸管洗浄液の泡を消す目的で、
そこで実際に、ぬるま湯を入れる前後で患者さんの心拍数を測ってみたところ、多くの方が副交感神経のはたらきがよくなって心拍数が下がり、リラックスすることがわかりました。大腸が温まって副交感神経が優位になると、停滞していた大腸がはたらきはじめるのです。
いまや大腸がんは男女とも「がん死因」の上位
便秘くらいだと、単なる不調で病気ではない、と軽く考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、腸を専門に多くの患者さんを診察してきた私には、腸の不調を訴える人が増える一方であるという事実が気になります。
その象徴といえるのが、大腸(直腸と結腸)がん患者の増加です。大腸がんは2017年のがん統計によると、男女ともにがん死因の上位を占めています。
S状結腸・直腸は、腸による老廃物の排泄の最終地点として、食べたものに含まれる添加物などのがん化促進物質が、最も濃縮された状態で下りてくる場所です。便秘になることで、それらの内容物がS状結腸・直腸に長くとどまってしまうことが、大腸がん発症の要因のひとつになっているのではないかとも考えられます。
たかが便秘、されど便秘です。以前は少なかった大腸がんの発生数がこれだけ増えたのは、日本人の腸内環境の悪化がからんでいることは間違いないでしょう。
さらに、1970年代の日本ではほとんど見られなかった、潰瘍性大腸炎やクローン病といった腸の疾患も急増しています。いまや潰瘍性大腸炎患者は22万人超も存在し、世界第2位です。
大きな病気を未然に防ぐためにも、日頃から腸を温め、腸を元気にする習慣を取り入れるにこしたことはありません。
様々な病気の予防につながる「4つの基本習慣」
腸は消化・吸収・排泄だけでなく、免疫にも大きく関わる重要な器官。だからこそ、「腸」の健康を守るための対策を講じることは、様々な病気の予防にもなります。
腸を元気にする4つの習慣をご紹介します。
①腸を温める食品をとる
私が最も重要だと考えるのは「食べ物」です。日本人の腸内環境の悪化は、食生活の悪化によるものが大きいと考えられるからです。流行の健康法に踊らされず、本当の意味で腸を温める食べ物をとることをおすすめします。
②腸のはたらきをよくする食生活をする
腸内細菌のバランスを整える、酸化ストレスを減らす、免疫力を高める、大腸の緊張をとく……こういった目的にも、「食」によるアプローチが有効です。
③腸を温め、元気にする運動を行う
適度な運動は、大腸の運動を促進します。ハーバード大学の研究チームによると、運動が不足すると心臓病や糖尿病、大腸がん(結腸がん)、乳がんが増え、調査した2008年の運動不足による死者は世界で350万人を超えたそうです。
④腸を温め、元気にする生活習慣を取り入れる
運動以外にも服装や入浴、睡眠、姿勢なども腸の健康に関わってきます。
あなたは大丈夫? 「腸冷え度」をチェックしてみよう
では、あなたの腸は今どんな状態でしょうか。確認してみましょう。
次の質問のうち当てはまるものにチェックを入れてみてください。
□ 下半身や足先、手先などが冷えやすい。
□ 湯船にあまりつからず、入浴はシャワーだけのことが多い。
□ 腕や足を露出する服や、お腹が出る服を着ることが多い。
□ 車や電車での移動が多く、あまり歩かない。
□ 運動や体を動かすことがあまり好きではない。
□ 朝は食欲がなく、朝ごはんは抜くか、飲み物だけということが多い。
□ 温度差が激しくなると体調が悪くなる。
□ お腹が冷えると、腹部膨満感 や便秘になりやすい。
□ 夏はクーラーの利いた室内にいることが多く、手足が冷たい。
□ ビールなど冷たいお酒が好きでほぼ毎日飲んでいる。
▶チェックの数が0〜1
腸冷え対策はバッチリ! もしそれでも便秘や下痢など腸の不調を抱えているなら、別の原因があるかもしれません。ほかに腸に負担をかけていることはないかチェックしてみましょう。
▶チェックの数が2〜4
まだあまり自覚症状がない方もいらっしゃるかもしれませんが、徐々に腸が冷えはじめています。からだを温める習慣を取り入れて、健やかな腸を取り戻してください。
▶チェックの数が5〜7
危険信号が点滅! かなり冷えが進んでいます。腸だけでなく、からだ全体も冷えを感じているのでは? まずは生活習慣を見直して、何が腸を冷やしているのかを自覚し、変えていきましょう。
▶チェックの数が8〜10
腸もからだも相当冷えきっています! 冷えが原因で腸が不調になっている可能性が高いです。このままの生活を続けていると、もっと症状が悪化する恐れも。いますぐ生活を変えましょう。
1955年東京生まれ。松生クリニック院長。医学博士。東京慈恵会医科大学卒業。同大学第三病院内科助手、松島病院大腸肛門病センター診療部長などを経て、2004年、東京都立川市に松生クリニックを開業。現在までに5万件以上の大腸内視鏡検査を行ってきた第一人者で、地中海式食生活、漢方療法、音楽療法などを診療に取り入れ、治療効果を上げている。おもな著書に『「腸ストレス」を取り去る習慣』『「腸の老化」を止める食事術』『「炭水化物」を抜くと腸はダメになる』(いずれも小社刊)などがある。