箱館戦争終結後、「朝敵」の榎本武揚がなぜ政府の要職に就けたのか

五稜郭

榎本武揚(1836~1908年、享年73)――幕臣の子として生まれる。戊辰戦争では函館で最後まで抵抗を見せるが、降伏。のち赦され明治新政府で外交官を経て、政治家として様々な大臣職を歴任。帆の後半生を送った。退官後は、生活に困っている旧幕府出身者の救済に力を尽くした。明治四十一年、七十三歳で没した。

黒田清隆らが盛んに赦免運動を展開

榎本武揚ら旧幕軍が箱館(函館)で樹立した「蝦夷共和国」に対し、官軍の総攻撃が始まったのは、明治二年(一八六九年)四月下旬のことだった。

榎本らが立て籠もる五稜郭めがけて連日海と陸から激しい砲撃が加えられ、陥落は時間の問題となった、そんな五月十二日、攻める側の官軍参謀・黒田清隆より榎本のもとに降伏を促す使者が派遣される。

榎本はその勧告を拒絶すると、自身のオランダ留学で持ち帰った『海律全書』(海上国際法)二冊を黒田に贈った。

「開化途上の日本には必要なこの書が戦火で失われないように」

添え書きにはそう記されていた。黒田はこの期に及んで国の行く末を想う榎本の赤心に感激し、酒樽を贈って応えた。榎本とはそういう男だった。のちに榎本は政界に進出し栄達を遂げるが、その際、「新政府に寝返った変節漢」と陰口をたたかれもした。しかし、彼自身は一片の私心もない憂国の士であった。

明治五年三月六日、榎本は二年半の禁固生活の後、晴れて自由の身となる。このとき三十七歳。榎本のような人物を埋もれさせておくのは国家の損失であると、黒田や西郷隆盛らが盛んに赦免運動を展開し、それが奏効したのである。

出獄して二日後、黒田のもとに呼ばれ、蝦夷から改称したばかりの北海道の開拓を命じられる。

働きどころを得た榎本は勇躍、北海道に渡った。まず、取り掛かったのは埋蔵資源の調査である。石油や砂鉄、石英、鉛鉱、陶土などが対象だった。

それが一段落すると、次は北海道・北東部の物産調査。榎本は開拓が始まったばかりの道なき原野を倦むことなく踏査した。その結果、釧路の石炭、厚岸の塩、広尾・浦川の穀類や麻、たばこ栽培などが有望であると報告書に述べている。

千島・樺太をめぐる領土問題を解決に導く

北海道調査を成功させた榎本が次に命じられたのは、外交官として対露交渉に当たることだった。当時、日本とロシアは樺太をめぐって領土問題でもめており、これを解決できる人物は榎本をおいて他になしと黒田が強く推挙し、実現したものだった。

明治七年三月五日、榎本は天皇より特命全権公使露国公使館在勤を拝命する。その五日後、全権一行は横浜から船に乗り、シンガポール、インド洋、スエズ運河経由でマルセイユに到着。そこで汽車に乗り換え、当時の露都ペテルブルグに到着したのは六月十日ごろのことだった。

樺太問題に関する会談は六月下旬から翌年五月にかけて、回を重ねて開かれる。その結果、「日本は樺太全島をロシアに譲渡する代わりに、千島列島を領有する」という千島・樺太交渉条約が、榎本と露国外務大臣ゴルチャコフとの間で締結・調印される。

どうにか大役を果たし、ほっとした榎本だったが、実はもう一つ使命があった。それは、ロシアの国情視察である。彼は広大なシベリア大陸を横断することでその使命を果たそうとした。

明治十一年七月二十六日、榎本は二人の若い日本人留学生と共にペテルブルグを馬車で出発した。目指す極東のウラジオストクまではおよそ一万キロ。榎本らはこれを六十五日間かけて踏破した。

なにしろ、シベリア鉄道が着工される十三年も前の話だ。当然、道路事情は悪い。おそらく、悪戦苦闘の日々だったに違いない。それでも、計算上は一日あたり百五十キロ強を走ったことになる。これはかなりのハイスピードである。

退官後は旧幕府出身者の救済に尽力

しかも、榎本はただ無闇に馬車を急がせたわけではなかった。途中、彼は鉱物・地質・化学・気象・地理・植物・民俗学などの身に付けた諸学問と、英・仏・蘭・露・独・漢・蒙の七カ国語を駆使し、シベリアの大地を精力的に調査して回ったのである。

こうした苦労の末に帰国後、『西比利亜(シベリア)日記』を完成させる。まさに、旺盛な行動力と博覧強記の知識をあわせ持つ榎本にしか成しえない任務だったのである。

その後の榎本だが、伊藤博文や黒田清隆、山県有朋、松方正義などの各内閣で逓信、文部、外務といった大臣職を歴任。順風満帆の後半生を送った。

退官後は、生活に困っている旧幕府出身者の救済に力を尽くした。明治四十一年、七十三歳で没した。

 

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