スクエアクリニック院長
スクエアクリニック副院長
発達障害の認知度が上がるなか、少しでも落ち着きがないとすぐに「多動では?」と疑うケースが増えているようです。そうした傾向について、スクエアクリニック院長の本間良子氏は、「すぐに病気と決めつけるのではなく、困っている症状をなくしていくべき」と指摘。しかも、いつもの食生活を見直すだけで改善することが多いのだそうです。
「いつものメニュー」をやめただけで落ち着きを取り戻すわけ
発達障害で「ADHD(注意欠陥多動性障害)」が広く知られるようになってから、落ち着きがないお子さんを持つお母さんたちから「うちの子は落ち着きがないので、ADHDではないでしょうか」という相談が非常に増えました。
でも、考えてみてください。子どもって、落ち着きがないものですよね。興味があればそこに行き、飽きればまた別のところに行き……。よく動くからといって、即「多動」と結びつけるのはどうかと思います。
今は学校の先生のほうが敏感で、ちょっと落ち着きがないだけで「一度、病院で診ていただいてください」と言われてしまうことも多いようです。
お母さんたちは得てして「発達障害」と診断名がつくとホッとされるようです。
しかし、落ち着きがないから何かの病気、と決めつけるよりも、その症状を診て、いい方法をトライ&エラーで探しながら治療していくほうが、結果的にお子さんも幸せなのではないでしょうか。
落ち着きのないお子さんは家庭でも学校でも「ちゃんと集中しなさい」と叱られがちです。
でも、これらも実は食べものが影響していることがあります。
その原因の一つがグルテン(小麦)とカゼイン(乳製品)です。
「グルテンフリー」「カゼインフリー」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。男子テニス世界ランク1位に上りつめたN・ジョコビッチ選手が実践している食事法として、有名になりました。
グルテンとは小麦たんぱく質のこと。小麦粉を水でこねるとモチモチしていますが、あのモチモチ成分がグルテン。パンやラーメン、うどん、ピザ、パスタ、ケーキ、ドーナツ、クッキーから餃子の皮や揚げ物の衣まで、小麦粉を使ったありとあらゆる食品に含まれています。
一方のカゼインは、乳製品に含まれるたんぱく質で、牛乳やヨーグルト、チーズやバターに含まれています。
ジョコビッチ選手はこれらを摂取しない(フリー)食事で集中力などが増し、パフォーマンスが向上したことを著書の中で明かしていますが、これは多くのお子さんが集中力や落ち着きなどを取り戻すのにも有効です。
朝食にトーストとヨーグルト、昼食は給食のパンと牛乳、夕食にはフライや餃子──気づかないうちに、こんな小麦と乳製品ばかり食べ続けていませんか。
グルテンやカゼインは、免疫力や栄養吸収に関わる小腸の粘膜を傷つけ、炎症を引き起こすリスクが高いことがわかっています。この炎症そのものが「落ち着きのなさ」を引き起こします。
炎症はいわば火事のようなもの。体内で火事が起こっていれば、落ち着きがなくなるのは当たり前のことなのです。
その「体によさそうな成分」が多動を引き起こす
そしてグルテン・カゼイン以外の原因をもう一つ。グルタミン酸も、落ち着きをなくす原因になります。
グルタミン酸はアミノ酸の一種で、独特のうまみを引き出します。もちろん、自然の食材にも含まれていますが、ここで問題になるのは、人工的に作られた、いわゆる「うまみ調味料(化学調味料)」と呼ばれるもの。レトルト食品やめんつゆ、だしの素やスナック菓子をはじめ、あらゆる加工食品に多く含まれています。
加工食品の裏にある食品表示には「アミノ酸等」と書いてあるので、一般的にはわかりにくく、「アミノ酸なら体にいいんじゃない?」と誤解されやすいのです。
一見、体によさそうなグルタミン酸ですが、もともとは脳に刺激を与える物質です。私たちが小さい頃は、グルタミン酸が含まれた化学調味料をたくさん使ったほうが、頭がよくなるとさえ言われていたほどです。
グルタミン酸を過剰に摂取してしまうと、脳が興奮状態になります。
学ぶべき適切な刺激だけが必要な時期の子どもの脳に、過剰な刺激を与えてしまうため、大事な刺激をキャッチできない状態になります。
脳ではどのようなことが起きているか、わかりやすくたとえてみましょう。
お母さんが大事な電話をしている横で、子どもが大騒ぎをしているとします。「ちょっと、電話が聞こえないでしょ!」と子どもに怒りたくなりますね。ほかの刺激が強すぎて大事なことがわからなくなるのは、これと同じような状態です。
だから先生が言った大事なこと、お母さんが言った大事なことを、大事なこととして脳がキャッチできないのです。
学校の授業でも「今日は大事なことが3つあります」と言われても、1つくらいしかわからないため、「学習障害では?」と思われることもあります。
グルタミン酸をとり続けることは体内に毒素をためることと同じです。そして毒素がたまれば炎症が起きます。とればとるほどもっと刺激が欲しくなります。
アメリカではこのような状態になっている人を「アドレナルジャンキー」と呼んでいます。興奮するようなゲームやエナジードリンクなど、アドレナリンを放出するような刺激を求める人たちです。
興奮したとき、「アドレナリンが出た!」という言い方をしますね。
アドレナリンが放出される瞬間は気持ちがいいのですが、アドレナリンやノルアドレナリン、コルチゾールも大量に分泌されるので、ホルモンを生産・分泌する副腎が疲れてしまいます。
そして「何もしていないのに疲れた」という状況になるのです。
わが家の息子が幼稚園の頃の話です。家では化学調味料を使っていませんが、ある日、外食する必要があり、ある中華料理店に入りました。そこで中華料理を食べたあと帰宅すると、息子が見たこともないような興奮状態になってしまったのです。
中華料理に大量に含まれた化学調味料のせいだということは、すぐにわかりました。普段口にしていないだけに、わかりやすく症状に表れたのです。
子どもはただでさえ体が小さく、キャパも少ないもの。大人は大丈夫でも、子どもには大きな影響を与えることもあります。
レトルトなどの加工食品を一切食べさせないというのは難しいと思いますが、もしもお子さんに落ち着きがない、多動傾向にあると思ったら、過剰な摂取をしていないか振り返ってみましょう。
「やる気がない子」の食事メニューの共通点
多動とは反対に「引きこもりがち」なタイプのお子さんの食事の傾向として顕著なのが〝炭水化物好き〟です。クリニックでもお母さんが、よく「この子、炭水化物しか食べないんです」とおっしゃることがあります。
私たちの体のエネルギーを作っているのは、約60兆個もの細胞の一つ一つの中にある、ミトコンドリアです。言ってみればミトコンドリアは「エネルギーの産生工場」です。
「やる気がない」お子さんや「引きこもりがち」なお子さんに共通して言えるのは、このミトコンドリアの機能が低下していること。
筋肉や神経などの体の中の活動はすべて、ミトコンドリアで産生されるエネルギーによって動かされています。そしてそのエネルギーは、食べものを原料にして作られます。
私たちはやる気のない子を見ると、つい「心の問題」にしてしまいがちです。でも、ミトコンドリアの機能が落ちれば、誰でもエネルギー不足になります。つまり、やる気のなさにも食べものが関わっているのです。
食生活によって、子どもが疲れやすくなったり、やる気を失ったりすることを頭の中に入れておいてほしいのです。
普段の食事内容を聞くと、おにぎりやお餅、パンはもちろん、おやつにはおまんじゅうやおせんべいばかり食べているといいます。
炭水化物をたくさんとると何が起こるのかというと、血糖値の乱高下です。まるでジェットコースターのように食べると急激に上がり、しばらくすると急激に下がる。
血糖値の急激な変化が起こると、とても疲れます。その結果、何をやるにも疲れるから面倒くさい、やる気が出ない、となってしまいます。
実は、「炭水化物ばかり食べている」とおっしゃっているお母さん自身が炭水化物好きで、ご家庭では、朝昼晩と炭水化物がメインで食卓に出てくることが多いのです。
朝はトースト、昼は給食でご飯かパン、夜は丼などなど。
ちなみに先に説明したミトコンドリアを効率よく働かせるために必要な栄養素にビタミンB群がありますが、ビタミンB群は炭水化物(糖質)をたくさんとると、その代謝に多くが使われてしまいます。
そこでまた力が出ない、元気が出ない、という悪循環に陥ってしまうのです。
子どものやる気のなさを叱ったり、注意したりする前に、一度ご家庭の食卓を見直してみてはいかがでしょうか。
スクエアクリニック院長。米国抗加齢医学会フェロー。米国発達障害児バイオロジカル治療学会フェロー(Medical Academy of Pediatric Special Needs Fellowship)。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学病院総合診療内科入局。副腎疲労の夫をサポートした経験を活かし、米国で学んだ最先端医療に基づく栄養指導もおこなう。
スクエアクリニック副院長。米国抗加齢医学会フェロー。米国発達障害児バイオロジカル治療学会フェロー(Medical Academy of Pediatric Special Needs Fellowship)。医学博士。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学院医学研究科修了。自身が原因不明の重度の疲労感に苦しんだことをきっかけに、アドレナル・ファティーグ(副腎疲労)の提唱者であるウィルソン博士に師事。帰国後、日本初の副腎疲労外来を開設。近年は、副腎疲労治療を応用し、認知症状や発達障害など脳のトラブルにも治療効果を上げている。
共著に『老化は「副腎」で止められた』『ボケない人がやっている脳のシミを消す生活習慣』(ともに小社刊)等。
スクエアクリニック
http://www.squareclinic.net/