医学博士
医学が明らかにした「空腹」のスゴい効果
寿命の「長・短」の要因を挙げろ、と言われたら、私は「下半身の筋力の維持」とともに、「空腹」を経験したかどうかをあげる。
明治の末〜大正〜昭和の初め生まれの長寿者たちは、粗食で、よく歩き、家事や農作業などの肉体労働を余儀なくされた人たちである。
東京近郊で病院を経営している私の友人が、「仮に同じ日に、70代、80代、90代の人が入院してきた場合、一番早く退院するのは90代の人、次が80代の人、その次が70代の人。もし、病院で亡くなられるなら、70代の人が一番多く、90代の人が一番少ない。年配の人ほど、若い時、よく歩いているのが要因だろう……」と言っていたのを思い出した。
もう1つは「空腹」である。1948(昭和23)年生まれの私でさえ、中流階級の家に育ちながら、1955(昭和30)年頃までは食物の量や種類が少なく、何度も「空腹」を経験したものだ。
終戦の1945(昭和20)年以前の、戦前、戦中の時代を生きた明治の末〜大正〜昭和の初め生まれの人は、もっと厳しい「空腹」の時代を過ごされてきた。
しかし、この「空腹」こそが、長寿の大きな要因であることが、近年の医学によって、明らかにされている。例えば、次のような効果である。
(1)老化防止
空腹(断食)が長寿(
明治末〜昭和初め生まれの方々は「空腹」を嫌というほど経験し、その結果、大いに活性化した長寿遺伝子のおかげで、今日の「長寿」がある、と言ってもよい。
(2)ホルモンの合成による健康効果
胃腸から「グレリン」(ホルモン)が合成されることで、「胃腸の働きの促進」「炎症を抑える」「心臓の働きをよくする」「自律神経の働きを調整する」「記憶力の増強」など、さまざまな健康効果が期待できる。
(3)免疫力のアップ
白血球は、30億年前に地球上に誕生したアメーバー様の単細胞生物が、分化・分裂・増殖をせず、原形をとどめたまま血液という海(血潮)の中を泳いでいる姿であると言ってよい。
我々(動物)が、満腹の時は、血液中も糖、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラル類……などの栄養素が一杯で、それを食べる白血球も「満腹」であるゆえ、体外から侵入してくる病原菌やアレルゲン、体内で発生するガン細胞や老廃物をしっかり食べようとしない。つまり、満腹の時は免疫力は低下しているのである。
逆に、我々が空腹の時は、血液中の種々の栄養素も不足気味で、白血球も「空腹」なので、病原菌、アレルゲン、ガン細胞を貪食する力が旺盛になる。よって空腹時は免疫力が増強する。
(4)
空腹(断食)時は、人体を構成する60兆個ともいわれる細胞の中に存在する、古いタンパク質、老廃物、ウイルスなどの病原体を、細胞自身が消化して処理(auto=自身の、phagy=食べる:自食作用)して病気を治し、老化を遅らせる。そのことを証明した日本の大隅良典博士に2016年のノーベル生理学・医学賞が授与された。
(5)若返り
雌のニワトリの産卵期間は約1年半だという。その後、卵を産まなくなった鶏は、以前は廃鳥処分にしていたとのこと。しかし最近は、産卵しなくなった「老鶏」に15日間の水断食をさせると、古い羽毛が抜け、新しい羽毛が生えてきて(養鶏学の用語で〝強制
空腹(断食)が老化や病気を防ぐことが、これまでの説明でおわかりいただけたかと思う。
日本にも「腹8分に病なし、腹12分に医者足らず」という格言がある。「病」のところを「老化」に置きかえると「腹8分に老化なし」とも言える。
よって、「少食にする」「腹8分以下にする」「空腹の時間をつくる」ことが、老化を防ぎ、若々しさを保つ王道と言ってよい。
「1食抜く」ことの驚くべき効用
少食を実践するならば、「1日3回の食事のままで、1食を腹7〜8分以下にする」という方法もあるが、食事するとつい食べすぎて、腹7〜8分以下が実践できないという方なら、「1食抜いてみる」というのも一法だ。
「1食=4分」抜くことで、腹12分-腹4分=腹8分になり、たちまち病気や老化と無縁になるのだ。1日の生活のリズムや、仕事の時間、食欲の有無などから、一番抜きやすい食事を決められてよいが、生理的には「朝食抜き」が一番理に
朝は吐く息が臭い、目ヤニがたまっている、鼻汁が多い、尿が濃い……等々排泄が旺盛な時間帯である。その時、固形物を食べて胃腸が働き出すと、排泄現象がとまり、体内、血液内が汚れて病気の要因となる(漢方では「万病一元、血液の汚れから生ず」という)。よって、「朝食を抜く」ことで、排泄現象を持続させると体内・血液内も浄化され健康によい。
しかし、「朝食抜きでは力が入らない」という人は、紅茶にハチミツか黒糖を入れて飲まれるか、人参2本・リンゴ1個を刻んで、ジューサー(ミキサーではない!)にかけて作る生ジュース(コップ2杯)を飲まれるとよい。
人体を構成する60兆個ともいわれる細胞の活動源は、ほぼ100%「糖」に頼っている。そもそも「空腹」とは、血糖が下がった時、脳が感じる感覚なので、糖分を摂れば、空腹感はない。
リンゴは「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」(英国の
「朝食」を紅茶か、人参・リンゴジュースですますのであれば、昼食はミニ断食あけの「補食」になるので、「そば」「うどん」「パスタ」「ピザ」……などの軽食ですまされるとよい。朝食・昼食を軽くすませると、夕食は基本的には食べたいだけ食べても1日のトータルでは「腹8分」になる。
この「石原式基本食」を実践された人からは、「6ヶ月で10㎏やせた」「血糖値が下がった」「血圧が下がった」「風邪をひかなくなった」「10年間不妊症だったのに子宝に恵まれた」「心身ともに軽くなり、記憶力がよくなった」「白髪が黒くなってきた」……などという嬉しい便りをたくさんいただいている。
【石原式基本食】のススメ
〈朝〉
・食べない または、
・お茶に梅干し または、
・生姜紅茶=紅茶に黒糖・ハチミツ(+すりおろし生姜)1〜2杯 または、
・人参・リンゴジュース1〜2杯 または、
・生姜紅茶1〜2杯に、人参・リンゴジュース1〜2杯
〈昼〉
・そば(とろろ、ザルなど)にネギ、すりおろし生姜、七味唐辛子を存分にかける。
・具沢山のうどんにネギ、すりおろし生姜、七味をしっかりふりかける。
・パスタやピザにタバスコを存分にふりかける。
〈夕〉
・アルコールを含めて何でもOK。ただし、根菜や魚介類の料理を存分に食するとなおよい。
もし、日中、空腹を感じたら、チョコレート、黒アメ、黒糖を食べたり、黒糖やハチミツ入りの紅茶を飲み、血糖を上げてやるといい。
数値に異常なし! 自らが少食で健康の証左
そして私自身の例も紹介しておこう。
私は、幼少時より虚弱体質で、よく風邪をひき、肺炎や軽い結核も患ったことがあった。
小学校高学年になり、50m走や草相撲で、ほかの級友たちに負けないことがわかると、自信もついて、ずい分元気になった。
しかし、中学3年から大学1年までは下痢と便秘を毎日のようにくり返し、試験や、何かの行事があると悪化するという、今思えば「過敏性腸症候群」で悩んだ。
一般の西洋医、それに漢方医にもかかったが、薬石効なし。しかし、大学1年の時、ひょんなことから、「
そんなことで食事療法に興味をもち、東大内科の教授や駒込病院長などを歴任された二木謙三博士の『食べ物と病気』や、今でも91歳でお元気に診療や研究を行っておられる森下敬一博士の『健康と美容の食生活』……等々を貪るように読んだ。
どの本にも「玄米食が健康によい」と書いてあるので、早速、玄米食を始めると、あれほど苦しんだ「便秘」「下痢」「腹部膨満感」「しぶり腹」の症状が完全によくなった。
体が元気になると、何かスポーツがしたくなり、バーベルで体を鍛え、ベンチプレス、スクワットの挙上重量で競うパワーリフティング部に入部した。大学2年生の時である。玄米、菜食+魚介食くらいの食生活ながら、メキメキと力をつけ、大学4年の時は、体重58㎏の軽量級ながら、ベンチプレス100㎏、スクワット150㎏を挙げて、九州学生パワーリフティング大会で優勝した。
全階級で競うボディビル・コンテストでも3位に入賞した。ウェイトトレーニングは71歳の今日も続けている。
食生活は、25歳から46歳までは、
朝……人参・リンゴジュース コップ2杯
昼……とろろそば
夕……イカ刺、タコ刺をつまみにビール、焼酎のお湯割り(または日本酒)を飲み、ご飯、味噌汁、納豆、エビの天ぷら、根菜の煮物やキンピラ……などの和食
というのが、ふつうの食事であった。
他人様には恥ずかしくて言えないが、極端な偏食で、肉、卵、牛乳、バター、魚が嫌いで、動物性食品は、エビ、カニ、イカ、タコ、貝、カキなど魚介類しか食べない。
47歳から60歳までの約13年間、みのもんたさん司会の「午後は○○おもいッきりテレビ」(日本テレビ系)に毎月1〜2回出演していたので、少々有名になった。すると、東京のクリニックにいる日は、昼休みの12時〜1時までは、雑誌の取材の記者が来られるようになり、その人と一緒に熱い紅茶にすりおろし生姜、黒糖を入れた生姜紅茶を1〜2杯飲むだけの「昼食」になり、大好物のとろろそばが食べられなくなった。それで今は、
朝……人参・リンゴジュース2杯 生姜紅茶1杯(黒糖入り)
昼……生姜紅茶1〜2杯
夕……ビール、焼酎、根菜煮物、納豆、魚介の刺し身、エビの天ぷら
という食事が基本だ。昼間にかりん糖やクッキー、チョコレートをつまむことはあるが。
この1日1食生活にすると、空腹を感じるどころかむしろ、体調がますますよくなった。お陰で71歳の今日まで40年間、病気知らずの生活を送っている。
1948年長崎市生まれ。医学博士。長崎大学医学部卒業、同大学院博士課程修了後、スイスのベンナー・クリニック、モスクワの断食道場、コーカサス地方の長寿村などで自然療法や断食療法、長寿食などの研究を行う。現在はイシハラクリニックの院長の他、健康増進を目的とする保養所を伊豆高原で運営。また、テレビ、ラジオなどのメディアや講演でも活躍中。先祖は代々、鉄砲伝来で有名な種子島藩の御殿医。
著書は『「減塩」が病気をつくる!』『高血圧の9割は「脚」で下がる!』(いずれも小社刊)、『「食べない」健康法』『「体を温める」と病気は必ず治る』など300冊以上にのぼり、米国、ロシア、ドイツ、フランス、中国、韓国、台湾、タイなどで合計100冊以上が翻訳されている。