「とりあえず塾」が一番危険! 女の子の中学受験でまず決めるべき事

「中学受験をしたい」と言い出す女の子

「ママ〜、私、塾に行きたい。ハルカちゃんもアオイちゃんも、4年生になったら塾に行くんだって。ねぇ、いいでしょう?」

小学校3年生の秋ごろ、女の子のご家庭に突然舞い込んでくる〝塾に行きたい宣言〟。

「そういえば、幼稚園のころも、1年生のころにも同じようなことがあった……」という人も多いのではないでしょうか。

「ナツキちゃんがピアノを習っているから、私も習いたい」
「ミドリちゃんと一緒にダンス教室に行きたい!」

子どもがやりたいことはできるだけやらせてあげたい、子どもの可能性はできるだけ伸ばしてあげたいと思うのが親の心情。そうやって、いくつかの習いごとをさせているご家庭も多いでしょう。

それと同じような感覚で中学受験塾に通い始めるケースが首都圏では珍しくありません。一方、男の子の場合は、「○○くんが塾に行くからボクも」ということはあまりなく、「ウチは中学受験させる」と親が決めてから塾に入れることがほとんどです。

そうして親は、「娘が行きたいと言ったから」という理由で塾に入れます。なかには、「とりあえず塾には通わせるけど、ウチはまだ中学受験をするかは決めていない」というご家庭もあります。

でも、こうした考えはとても危険です。なぜなら、このレールに乗ってしまうと、もれなく中学受験をすることになるからです。他の習いごととはわけが違い、親や子どもの気持ちが複雑にからみ合って、途中でやめることが非常に難しくなります。

では、なぜ親は安易にわが子を塾に入れてしまうのでしょうか? 3年生のなかばをすぎて、もしお子さんが突然、「私、オリンピックに出たいからフィギュアスケートを習う!」と言ってきたらどうしますか?

フィギュアスケートのような特殊なスポーツは、幼いころから始めていないと一流の選手にはなれないし、第一お金がかかるし……などと、おそらく相当冷静に考えるはずです。

でも塾の場合は、多少お金がかかっても「勉強だから、しないよりはいいか」と考えてしまう。この単純な考えから〝中学受験沼〟にハマってもがき苦しんだ親子、大きく関係を悪化させてしまった親子を、私はこれまで何度も見てきました。

だからこそ、言いたいのです。「みんなが行くから」「子どもが行きたいと言っているから」といって、本当に中学受験塾に入れて大丈夫ですか?

「とりあえず塾へ」が一番危険

私は関西と関東でそれぞれ約10年ずつ、中学受験の指導に携わってきました。長年中学受験にかかわってきて感じるのは、十数年前と比べて、今の中学受験はその動機やモチベーションが大きく変わってきているということです。

かつての中学受験は、「ウチは代々慶應だから、この子も絶対慶應に」「私の母校の神戸女学院に入れたい」「女の子ならなにがなんでも雙葉」などの確固たる志望校があり、そこを目指すというものでした。

わが子を合格させるために小さいうちから塾に通い、専業主婦のお母さんがガッツリサポートするという、ある意味とてもシンプルな構造だったのです。

ところが今は、「まわりがみんな受験するからウチもしておこうかしら?」「地元の公立はあまりよくないと聞くし……」などの、ぼんやりしたイメージのまま中学受験を始めるご家庭が少なくありません。受験できる学校の数も偏差値の幅も広く、選択肢が多い首都圏で特にその傾向が強くなります。

また、今のネット社会ではさまざまな子育て情報があふれています。「幼児期に英語をやっておいたほうがいい」「プログラミング学習はこれから必須になる」「サピックスの○○校舎に入れるなら、2年生から入塾しておかないと入れなくなる」「大学入試改革は先が読めないから、今のうちに大学附属校に入れておいたほうが安心」など、あげていくとキリがありません。

少子化でひとつの家庭が育てる子どもが一人または二人となると、一度しかない子育てで失敗したくないという思いが強まり、「あれもやらせなきゃ」「これもやらせておかないと」と、目先の情報に振り回されてしまう。その結果、家庭内のコンセンサスや動機、志望校不在のまま、とりあえず中学受験を始めるご家庭が増えてきています。

「合格がゴール」ではない

「なぜ中学受験をするのですか?」

私がカウンセリングをする際、必ずお聞きする質問です。10代をのびのびすごさせたい。よりよい環境で学ばせたい。難関中学に入れることで東大に一歩近づきたい──。ご家庭によって、理由はさまざまです。

でも、それは私立中高一貫校でなければ実現できないのでしょうか? 公立中学ではダメなのでしょうか? カウンセリングや指導をしていると、行きたい学校に行けなかった場合、お子さんの人生がまるでおしまいのように考えていらっしゃるご家庭が一定数あるように感じます。

小学生が挑む中学受験は、その子にとって人生最初の大勝負かもしれません。しかし、そこで合格を勝ちとっても、思うような結果が出せなかったとしても、その子の人生は続いていきます。「人生100年時代」と言われている今、わずか11歳、12歳の勝負は、マラソンでいえばスタート地点からほんの数キロ走った程度での出来事にすぎません。

中学受験は人生のゴールではない。だからこそ、第一志望校合格だけをゴールに掲げた中学受験は危険です。そもそも首都圏では、中学受験で第一志望に合格できる子は全体の約3割にすぎないと言われており、残りの多くの子は第二志望、第三志望、第四志望……の学校へ進学します。なかにはすべて不合格で、公立中学に進学する子もいます。

第一志望に合格できなければ中学受験の価値がないと親や本人が思い込んでしまったら、その時点でその子の人生は終わってしまいます。そんな悲しい中学受験であってはいけません。中学受験をするのであれば、ぜひ本質的な目的も持つ必要があります。

夫婦で子育ての芯を確認する

私立中学に進学すると、本来は教育費のかからない義務教育の3年間、学費を払い続けることになります。そこまでしてわが子を私立中学に入れたいと思う親心には「よい環境を与えたい」という理由のもっと奥に、「わが子に幸せになってほしい」という気持ちがあるはずです。

幸せを獲得するための方法として「東大に行きさえすればなんとかなる」「良縁に恵まれればなんとかなる」という親の価値観を否定はしません。就職に有利、金銭的に苦労しない、といった側面も実際にあるでしょう。しかし、「親の価値観」と「わが子が幸せを感じられるかどうか」はまったくの別問題です。

以前、こんな悩みを聞きました。

「真面目に勉強していい大学に入りました。大学でも真面目に取り組んで、目指す企業に入ることができました。給料も悪くないし、すごくいい人たちばかりで人間関係にも不満はないのですが、幸せをまったく感じないんです……」

親はわが子の幸せを願うことはできても、幸せのレールをしくことはできません。人は、「自分なりの幸せ」を自分で決めることでしか幸せになれないのです。親や世間、社会に思い込まされた幸せに乗ったとしても、いつかほころびが生じます。

自分のような苦労を味わわせたくない、あの学校に入っておけば自分にも別の人生があったに違いない……。そうした気持ちから、わが子には中学受験をさせたいと考える親心もわかりますが、中学受験が幸せを確実に約束してくれるわけではありません。しかし、中学受験を「やってよかった」と思えるものにできれば、その経験は幸せを形づくる1ピースとして人生の糧になります。

「中学受験をしてよかった」と思っている家庭の多くに共通するのは、子育てにおいてブレない点です。

「自分の意思でものごとを選択できるようになってほしい」「チャレンジ精神を忘れずにトライしてほしい」などの芯があれば、入試の合否以上に、中学受験を通してどのように成長したかを見ることができるのです。

あらためて考えると、わが子について夫婦で真剣に話し合う機会は意外にないですよね。でも、みなさんも必ず一度は経験しています。それは、名前をつけたときです。

思い出してみてください。みなさんはお子さんに名前をつけたとき、どんな思いでつけられましたか? 「太陽のように明るい子になってほしい」「誰からも愛される人になってほしい」という思いを込めた方もいるでしょう。また、「この画数のほうが幸せになる」と画数の組み合わせを一生懸命調べたこともあったのではないでしょうか。「どうしてもこの字を使いたい」と、漢字から逆算して名前に意味をつけられたかもしれません。

どのような経緯があるにせよ、名前には希望と未来、そして親の愛情がたっぷり注ぎ込まれたことと思います。

生まれたばかりのころとは異なり、今はわが子の特性もいろいろ見えてきました。その特性をどのように伸ばせばいいか、どのような力を育めばいいかということも、よりくっきり見えてきているはずです。

志望校合格は「目標」であり、「目的」ではありません。どんな結果になっても、目的に近づければこれまでのがんばりを肯定的にとらえることができます。途中で迷いが生じても、目的に戻って考えれば立て直すことができます。

過酷な中学受験では大切な事を見失いがちになります。夫婦間で芯がぐらついていると、必ずどこかでほころびが生じます。子育ての芯をぜひ夫婦で確認、共有し、中学受験を通して少しでも芯を太くすることが目的であってほしいと思います。

 

PROFILE
安浪京子

株式会社アートオブエデュケーション代表取締役、算数教育家、中学受験専門カウンセラー。神戸大学発達科学部にて教育について学ぶ。関西、関東の中学受験専門大手進学塾にて算数講師を担当。生徒アンケートでは100%の支持率を誇る。プロ家庭教師歴約20年。中学受験算数プロ家庭教師として、きめ細かい算数指導とメンタルフォローをモットーに、毎年多数の合格者を輩出している。中学受験、算数、メンタルサポートなどに関するセミナーを多数開催、特に家庭で算数力をつける独自のメソッドは多数の親子から支持を得ている。

中学受験 女の子を伸ばす親の習慣

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  • 作者:安浪 京子
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