医学博士
歳を重ねるにつれて、下半身の筋肉の衰えや「冷え」が気になるものです。その対策としては、筋肉運動だけでなく、食べものも大きく関わるのだとか。西洋医学、東洋医学の両方に精通する医師の石原結實先生に、「体を温める食べもの」について教えていただきました。
加齢とともに“硬くなる”病気にかかりやすくなる
体を冷やす食物は、下半身の筋肉をはじめとした体の諸器官を硬くし、老化を早める原因となる。
人間は、体温が高く、赤血球が多いゆえに、体が赤くて柔らかい「赤ちゃん」で生まれ、年齢とともに体温が下がっていき、白髪、白内障、
「白」は雪の色が白く、冷たいことからして、「冷える色」と言ってよい。宇宙の物体は、冷やすとすべて硬くなる。「水を冷やすと氷になる」「食物を冷凍庫に入れると硬くなる」ように。
よって、人間も歳とともに、体温が低くなっていくと肌がカサカサと硬くなり、筋肉や関節も硬くなって、立ち居振る舞いも硬くなっていく。それと並行して、内臓も硬くなり、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などの血栓症(血の固まり)、ガン(癌=广の中の嵒〈「嵒」は岩の意味〉)……等々、硬くなる病気にかかりやすくなる。
つまり、「老化」とは、ある面「冷え(体温低下)」から起こることを雄弁に物語っている。
よって「老化」を防ぐためには、体温の約40%は筋肉で産生されているのだから、日常生活の中に、ウォーキングほかの筋肉運動を積極的に取り入れて、体温を上げる必要がある。
そのほか、入浴、温泉、サウナ、岩盤浴……等々、やってみて「気持ちがよい」と感じられるものがあれば、どんどん活用して、体を温める必要がある。さらに、体の中心である「お中」=「腹」には一日中、一年中ハラマキを巻いて内臓を温めて活性化させると、体全体が温まってくる。
その上で、年齢とともに、「体を温める食物」を多く摂るように心がけることが大切だ。
積極的に摂りたい! 体を温める「陽性食」
西洋医学、栄養学では、食物の価値は、タンパク質、脂肪、糖、ビタミン、ミネラルの五大栄養素と含有カロリーで判断される。
しかし、漢方医学では、2000年も前から食べると体を「温める(陽性)食物」と逆に「冷やす(陰性)食物」を厳然と区別し、病気の治療や健康増進に役立ててきた。
夏には、キュウリ、スイカ、冷や奴、ビール、ソーメン……などを食べるとおいしいのは、こうした食物が「体を冷やす食物」だからである。逆に、冬には肉、卵、醤油、ネギ……等々でつくるすき焼きが人気を博す。体を温める食物でつくられているからである。
含有カロリーとは全く関係なく、外観が青、白、緑の冷色の食物は体を冷やし、赤、黒、橙の暖色の食物は体を温める。
年齢とともに体温が下がっていくので、歳をとるほど、体を温める「陽性食」を多く摂る必要がある。何しろ、体温が1℃下がると免疫力が約30%低下するとされているのだから。
なお、体を冷やす「陰性食」も、次の図のように、熱(火・日光)や塩を加えると、外観の色も暖色に変わり、体を温める「陽性食」に変化する。
陰性食も陽性食に変えられる
色が濃くても体を冷やす食物はコーヒー、トマト、カレーで、その訳は、それぞれエチオピア、南米、インドと、熱帯が原産だからだ。暑い地方原産の食物は体を冷やす。
玄米、胚芽パン、芋類、アワ、キビ、ヒエ……など黄色〜うす茶色の食べ物は、人類が主食にしてきた、体を冷やしも温めもしない「間性食」なので、いつ、誰が食べても問題ない。
ヤマイモの知られざる老化防止効果
また、漢方医学には、「相似の理論」という一見、荒唐無稽のように思えるが、宇宙の真理をついた理論がある。簡単に言うと「同じような形のものには、似たような働きがある」というもので、「飛行機は鳥に、船は魚に似せてつくられている」というものだ。
人間の下半身(脚、腰)は、植物の根に相似する。よって、脚、腰、尻などの下半身の筋力が弱って起こる「老化」の症状には「植物の根」が効くのである。
強壮・強精・老化防止作用がある食物として、「ゴボウ5時間、ニンジン2時間、ヤマイモたちまち」といわれる。このことから効果は「ヤマイモ」が一番と考えられる。よって、ヤマイモの効能を説明していく。
ヤマイモは日本、台湾に野生するヤマノイモ科の多年生つる性草本。ジアスターゼ、カタラーゼ、グルコシダーゼなどの諸酵素が豊富に含まれているため、「とろろ飯」「とろろソバ」などを食べすぎても、すぐに胃がスッキリするものだ。
昔から、ヤマイモ、ウナギ、ドジョウ、納豆、オクラ……等々、ヌルヌル・ネバネバ食品は、精力剤になるといわれてきたが、ヌルヌル・ネバネバの主成分はムチンで、タンパク質の吸収をよくし、滋養強壮効果を発揮する。
江戸時代の『和歌食物本草』に「とろろ汁、折々少し食すれば脾臓(=胃)のくすり気虚を補う」とある。
『神農本草経』にもヤマイモについて「虚弱体質を補って早死を防ぐ。胃腸の調子をよくし、暑さ寒さにも耐え、耳、目もよくなり、長寿を得られる」とある。
漢方でも、胃や腸、腎臓の働きを強化し、「消化促進、寝汗、下痢、頻尿、帯下、腹痛、咳、糖尿(病)……」に効く、としている。
漢方薬「八味地黄丸」は主成分がヤマイモ(山薬)で、「足腰の冷え、むくみ、痛み、頻尿、老眼、白内障、インポテンツ、乾燥肌(皮ふのかゆみ)、骨粗しょう症……」等々、老化による症状や病気に対する妙薬だ。
ヤマイモの粘り気のもう一つの成分「デオスコラン」には、血糖を下げる作用があることが、証明されている。最近、富山大学などの研究で、ヤマイモに含まれる「ジオスゲニン」という成分が、
①記憶力を増強させる
②アルツハイマー病の原因物質=アミロイドβタンパク質を減少させる
という可能性があることが明らかにされている。
1948年長崎市生まれ。医学博士。長崎大学医学部卒業、同大学院博士課程修了後、スイスのベンナー・クリニック、モスクワの断食道場、コーカサス地方の長寿村などで自然療法や断食療法、長寿食などの研究を行う。現在はイシハラクリニックの院長の他、健康増進を目的とする保養所を伊豆高原で運営。また、テレビ、ラジオなどのメディアや講演でも活躍中。先祖は代々、鉄砲伝来で有名な種子島藩の御殿医。
著書は『「減塩」が病気をつくる!』『高血圧の9割は「脚」で下がる!』(いずれも小社刊)、『「食べない」健康法』『「体を温める」と病気は必ず治る』など300冊以上にのぼり、米国、ロシア、ドイツ、フランス、中国、韓国、台湾、タイなどで合計100冊以上が翻訳されている。