英語学習を「中学からやり直す」のが逆に遠回りになる理由

仕事で英語を使うことになって、「中学英語に戻って勉強し直すか」と考える人は多いでしょう。ところが、このように単語や文法から学び直すのは、地道なようであまり得策ではありません。脳医学者の瀧氏は、脳の「真似する力(模倣力)」を活かせば、効果的に英語を身につけることができるといいます。

聴いてわからないことは話せない

大人になって英語をやり直そうというときに迷うのは、どこから手をつければよいのかということでしょう。ひと口に英語を身につけるといっても、漠然としていて何をどうすればよいのかわからない人も多いかと思います。

一つの方法として、中学英語からやり直すという人がよくいらっしゃいます。中学校の教科書を読んだり、参考書にある文法事項から復習しようというのです。書店に行ってみると、そうした人を対象にした「やり直し英語」と銘打った本も見かけます。確かに、そうした方法もありますが、あまり効率的ではないというのが私の考えです。

なぜ大人になって英語を学び直すのか、その目的をもう一度確認してみましょう。それは、単に試験でいい点数を取るためではなく、外国人と話してみたい、海外旅行を楽しみたい、世界を舞台にして仕事をしてみたいというものではありませんでしたか。

つまり、英語をツールとして、さまざまな人とコミュニケーションをしたいということだったはずです。そのために磨くべき能力は、いかに相手の英語を間違いなく聴いて、いかに自分の思っていることを正確に伝えるかという実践的なコミュニケーション力です。

ところが、中学英語をやり直すためにおこなうことは、机に向かって本を読み、文法や単語を一生懸命に覚えることが大半だと思います。いわゆる座学です。それでは、コミュニケーション能力はなかなか向上しません。

もちろん、私は中学英語をすべて否定しているわけではありません。相手と正確にコミュニケーションをとるには、ある程度の文法の知識と単語力が必要です。そうした力が欠けていると感じている人は、一定の時間をとって文法や単語の勉強をすることも必要でしょう。

ただ、あまりそれらにとらわれていると、大切な時間がどんどんとたってしまいます。文法の知識を完璧にしないといけないなどと思っていると、いつまでたっても次に進めません。

コミュニケーションにとって、それよりも大切なのは、聴く力(リスニング)と話す力(スピーキング)です。ですから、読み書きをしている時間があったら、聴いて話す練習をしてほしいのです。文法や単語というのは、座学ではピンとこなくて覚えられなくても、リスニングやスピーキングといった実践をしているうちに身につくことがよくあるものです。

英語の模倣と運動神経の密接な関係

世界で活躍するサッカーやテニスの日本人アスリートが、流暢な英語を話す場面を、よくテレビで見るようになりました。とくにサッカーでは、ドイツ、スペイン、イタリア、オランダと、各国のリーグを渡り歩く選手になると、インタビューで何カ国語も話しているのを見ます。

そんな光景を見ながら、「スポーツで練習をしながら、語学までマスターしてしまうんだから、大変な苦労があるんだろう」と思う人は多いでしょう。

もちろん、かなりの苦労はあるでしょうが、それだけではないと思います。実は、脳の研究によると、運動がよくできることと語学が堪能であることには関係があるようなのです。語学も運動も、もとをたどれば模倣からはじまります。

アスリートならば、走るフォーム、投げるフォーム、跳ぶフォームなど、どれをとっても、もともとは真似からはじまります。最小限のエネルギーで最高の結果を出すには、人間工学的に理想の形を模倣して基礎をつくり、科学的な分析結果を加えていくことで伸びていくわけです。

そして、模倣が上手にできるかどうかは、運動神経に関係があります。というのも、目や耳から入った情報をもとに、自分が思った通りに体や口を動かせるかどうかは、運動神経の働きにかかわってくるからです。ですから、運動が得意な人は英会話も得意だということは、けっして不思議なことではありません。つまり、運動能力と模倣力とは関係しているといってよいでしょう。

逆にいえば、アスリートでない人であっても、模倣のトレーニングをすれば、英会話が上手になる可能性が高いということは想像できます。たとえば、サッカーやスキー、ダンスのように、体を動かすことで模倣力が高まり、英語の習得にもいい影響を与えるのではないかということです。

ここで大事なのは、受け身の立場でただスポーツ中継を見ているのではなく、自分自身も体を動かすことです。ビデオでもインターネットでもいいので、上手な人の体の動かし方や使い方を真似てみましょう。それによって、脳の模倣力がアップしていくはずです。もちろん、義務感でやるのではなく、あくまでも趣味の一つとして楽しくやることが重要です。

「歯みがき」と同程度に習慣化するコツ

書店に行くと、1週間で英語ができる、1カ月でペラペラになれるといった本を見かけますが、にわかには信じがたく思っています。脳のしくみから考えても、そんなに短期間に身につくことは考えられません。それができるのは、過去にある程度のレベルまでいった人でしょう。

また、寝ているあいだに英語が上手になる睡眠学習という手軽な勉強法もあるようですが、どれだけ効果があるのかは疑問です。睡眠時には脳は外からの情報を必ずしも適切に受け入れる状態になっていないと考えられているからです。残念ながら、ラクに英語を身につける方法というのはそうそうないと考えられます。

そんなことを書くと、「つらいのなら、やっぱりやめた」と言う人が出てくるかもしれませんが、ちょっと待ってください。ラクはできないけれども、つらさを感じることなく上達することはできます。

その一つが、英語を習慣化することです。私たちは、日常生活でさまざまなことを習慣化していますが、英語をその一つに組み込んでしまえばいいのです。たとえば、朝の歯磨きや洗面は、ほとんどの人が習慣化していることでしょう。

よく考えると、朝のあわただしい時間に面倒な行為ではあります。事実、幼児のころは面倒だと感じたことでしょう。しかし、何年、何十年も毎朝繰り返しているうちに習慣化されて、苦に感じなくなるどころか、それをしなければすっきりしません。

英語の習得も同じことです。最初は面倒と感じるときもあるかもしれませんが、毎日少しずつ続けていけば、「英語をやらないとすっきりしない」という状態になるはずです。こうなればしめたものです。

「でも、習慣化するまで続ける自信がない」という人もいるかもしれません。たしかに、どうしてもある程度の時間はかかりますから、習慣化するまでに一定の努力は必要になってきます。でも、そこまでわかっているならば、ラクをするより楽しく続ける工夫をすればいいのです。「楽」ではなく、「楽しく」が大事です。

まず第一歩は、自分の好きな洋楽や洋画をきっかけにするのがいいでしょう。それも、最初から30 分も1時間も英語に接するのが大変ならば、まず1日に15分だけと区切って音楽を聴いたり、映画を観たりするのです。

このときに、最初からあまり無理はしないように。脳が疲れてしまっては、翌日からまたやろうという気が湧いてきません。むしろ、もう少しやりたいなと、名残惜しいくらいでやめるのがポイントです。脳がその続きを知りたがって、毎日続けることができるようになります。

「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、その反対に、英語が上手になって聴き取りの力がついてくれば、自然と英語が好きになっていくものです。そこまでくれば、楽しく続けることができるようになるでしょう。

勉強と思うからつらいのであって、趣味の一つと思えば楽しいもの。世の中にはいろいろな趣味がありますが、英語のリスニング、スピーキングを趣味にできれば、これほど強いものはありません。しかも、自分の力が向上したことを、はっきりと実感できる趣味なのです。

「何のために英語を学ぶのか」と考えたとき、必要に迫られたから、強制されたからといった受け身の姿勢ではなく、自分の人生を豊かにするために、自分が学びたくてやっているのだという積極的な姿勢に変わることが大切なのです。

 

 

PROFILE
瀧靖之

東北大学加齢医学研究所教授。医師。医学博士。1970年生まれ。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。東北大学加齢医学研究所機能画像医学研究分野教授。東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授。MRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究に従事。

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