血糖値の急上昇も“物忘れ”の原因。脳をいたわる食べ方とは

食事風景

「血糖値」と「物忘れ」が関連しているとは想像しづらいが、国内外の様々な研究によって、実はこのふたつには密接な関連があることがわかってきている。脳に悪い影響を与えないようにするには、どのようなことに気をつけて、どのような栄養の取り方をすればいいのだろうか?

「血糖値が上昇→脳の機能低下→物忘れ」

カナダで行われた研究を紹介しよう。血糖値の高い50代、60代の人を対象に、脳の機能と血糖値の間に何らかの関係がないか調べたものだ。この研究では、過去2か月ほどの血糖値の平均値を示すHbA1cヘモグロビンエーワンシーという数値が高い人ほど、記憶力を測るテストの成績が悪くなった。要するに、血糖値が高い状態が続くと、物忘れをしやすくなるというわけだ。すでに糖尿病になっている人だけではなく、ただ血糖値が少し高いだけでもその傾向があるとされている。

とはいえ、脳が働くための主なエネルギー源はブドウ糖。血糖値が高いということは、脳にとって栄養が豊富な好ましい状態では? こういった疑問が浮かぶ人もいるのではないか。

だが、この考えは間違い。血液中のブドウ糖は、そのままでは体の細胞や脳の神経細胞が取り込むことはできない。重要な役割を果たすのが、血糖値が高くなるとすい臓から分泌されるホルモンのインスリン。その働きによって、ようやくブドウ糖を取り込み、エネルギー源として利用できるようになる。

インスリンは血糖値が急上昇したり、高い状態が続いたりしたら、体の細胞に働きかけることで手いっぱいになってしまう。この結果、脳の神経細胞は血液中のブドウ糖を取り込めず、エネルギー不足になって機能が低下。これに伴って記憶力も低下し、物忘れをしやすくなるという仕組みだ。

こうした体のメカニズムにより、物忘れをなくすには食生活を改善し、血糖値を上昇させないのが非常に有効ということになる。

高血糖がワーキングメモリに悪影響を与える

高血糖によって脳の機能が低下すると、記憶にかかわるメカニズムのなかでも、特にワーキングメモリの働きが悪くなることがわかってきた。この結果、うっかりした物忘れが多くなってしまう。

ワーキングメモリは、日常生活で欠かせない同時作業に関連する機能。何かの作業や行動をしながら、ごく一時的に記憶する働きだ。この機能が低下すると、料理を温めようと電子レンジに入れたのに忘れる、何かに気をとられて何を探していたのか忘れるといった、記憶が抜け落ちるタイプの物忘れが多くなる。

やかんを火にかけたまま忘れて、あやうく火事を起こすところだった……といった危険な物忘れも、このワーキングメモリの機能低下によって起こることが多い。高血糖によるものなら、原因がはっきりしているので改善は十分可能だ。

高血糖が続くとアルツハイマー型認知症の原因に

高血糖が引き起こすのは、単なる物忘れだけではない。アルツハイマー型認知症にも深くかかわっていることを知っておこう。

血糖値が高い状態が続くとインスリンが大量に分泌され、のちに酵素によって分解される。大きな問題なのが、インスリンを分解する酵素は、アルツハイマー型認知症を引き起こす脳のゴミ、アミロイドβも分解する働きがあることだ。

インスリンが大量にあると、酵素はその分解に追われて、アミロイドβにまで手が回らなくなる。こうした状態が多くなると、脳の中でアミロイドβが蓄積し、脳の神経細胞がダメージを受けて、やがて記憶障害などが起こるようになってしまう。血糖値を上げないように心がける食生活は、物忘れのずっと先にあるアルツハイマー型認知症の予防のためにも大切なのだ。

朝食は緩やかに消化吸収されるご飯に限る!

糖質は体内で分解され、体や脳のエネルギー源として使われるブドウ糖になる。このため、ダイエットの敵だからと、糖質を必要以上に悪者扱いするのは良くない。食卓からまったく遠ざけてしまっては、脳の働きが悪くなって記憶力も低下してしまう。摂り過ぎは良くないものの、適量は毎日絶対に必要だ。

糖質を摂るのに最適なのは朝食。このときに主食をちゃんと食べて、1日のはじまりに、脳が必要とするエネルギーを与えることが大切だ。

特におすすめなのが和食のご飯。同じ糖質の多い食品でも、パンや麺類とは違って粒状なので、ゆっくりと消化吸収されていく。この性質から、脳にブドウ糖を長時間、安定して供給することができるのだ。物忘れのない1日にするにはスタートが重要。ご飯を食べて、脳をしっかり働かせるようにしよう。

ご飯の大盛りやおかわりは禁物

昼食は必ずご飯を大盛りにする。おかわり自由なら、絶対に利用する。こういった大食漢の男性は少なくないだろう。

しかし、こうした食べ方をすると、メタボにつながる恐れがあるだけではなく、血糖値も急上昇する。これではいけないと、すい臓からインスリンが大量に分泌。血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれ、血糖値は急激に下がっていく。この結果、脳はエネルギー不足になり、パフォーマンスが低下して、物忘れをしやすくなってしまう。

大食いをした場合、食事後3時間半ほど過ぎると、腹八分目の食事をしたときよりも血糖値が下がる。つまり、たくさん食べたにもかかわらず、空腹を感じるようになるのだ。そこで、甘いものなどについ手が伸びて、また血糖値を急上昇させるという悪循環になりやすい。ご飯の大盛りやおかわりはデメリットが非常に多いのだ。

酢っぱい料理を食べるだけで、血糖値の上昇が緩やかになる!

血糖値のコントロールは、糖尿病の予防のためにも重要。そのことはよくわかっているのだが、体力を使う仕事をしているので、ご飯を減らすのはけっこう辛い。こうした人の場合、血糖値を下げる効果のある調味料の力を借りよう。

血糖値のコントロールが可能なのは、ごく身近な調味料である酢。何らかの方法で酢を摂るだけで、血糖値の上昇が緩やかになることがわかっている。摂取するタイミングは、食前・食中・食後のいつでもかまわない。

うれしいことに、摂取の仕方は何でもいい。ハチミツや果汁などで味つけして直接飲んでも、酢の物やドレッシングをかけたサラダ、酸っぱい料理やすしを食べてもOKだ。酢には血糖値コントロールの効果に加えて、1日に大さじ1杯の量を摂取すると、血圧を下げる働きもある。酸っぱい料理をもっと食べるようにしよう。

よく噛むだけで脳が活性化され血流アップ

また、脳の働きを良くして物忘れをなくすために、毎日、誰でも簡単にできる方法がある。食事のとき、よく噛んで食べることだ。

認知症との関係を調査した様々な研究によって、自分の歯が多く残っている人ほど、脳の健康を保てることがわかっている。噛むことが脳に与える影響は、一般的に想像されるよりもずっと大きい。

東北大学の研究では、脳が元気に働く人の歯は平均15本ほどあったが、認知症の疑いのあるグループは10本弱しか残っていない。また、名古屋大学の研究によると、アルツハイマー型認知症の人は、そうではない同年代の人と比べて歯が3分の1程度しかなかった。

星城大学が行った、ネズミを使った興味深い実験もある。ネズミの奥歯を削って噛む力を低下させたところ、明らかに記憶力が低下したというものだ。それだけではなく、奥歯を治してもとのように戻し、再びよく噛めるようにしたら、記憶力がもとのように改善されたという。

歯は食べるのに必要なだけではなく、脳を正常に保つためにも欠かせないものなのだ。なぜ、噛むことが脳の活動を盛んにさせるのか、最近の研究で明らかになってきた。ポイントのひとつは「歯根膜」。その名のとおり、歯の根元部分にあるクッションのような薄い膜のことだ。

何かものを噛むと、歯は歯根膜に向けてわずかに沈み込む。その力を受けて、歯根膜の内部にある血管が押され、脳に向けて血液を盛んに送り出す。こうした体のメカニズムにより、よく噛むほど脳の血流が良くなり、活性化されていくのだ。歯が多く残っている人ほど、アルツハイマー型認知症が少ないのは、その原因となる脳のゴミ、アミロイドβを脳から勢い良く押し流すためだと考えられている。

毎日、食事のときに、これまで以上によく噛むようにしよう。いくつになっても、しっかり噛むことができるように、歯磨きなどのメンテナンスも大切だ。

 

PROFILE
ホームライフ取材班

「暮らしをもっと楽しく! もっと便利に!」をモットーに、日々取材を重ねているエキスパート集団。取材の対象は、料理、そうじ、片づけ、防犯など多岐にわたる。その取材力、情報網の広さには定評があり、インターネットではわからない、独自に集めたテクニックや話題を発信し続けている。

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