「ウチの人、アルコール依存症かも……」どう対処するのが正解か

酔いつぶれている男性

「このごろ、あの人昼間でもお酒のニオイがする」「最近、身なりが不潔っぽくなってきた」…。家庭や職場などで、お酒を飲みすぎている人や、飲みすぎによる異変を感じられる人がいたとき、どのように対処すればいいのでしょうか? 依存症のリスク者に対して「やってはいけないこと」、そしてすぐに「やったほうがいいこと」を、アルコール依存症の専門医である垣渕洋一先生に教えてもらいました。

周囲の人が依存症についての偏見や誤解をなくす

まず、飲酒をしすぎる家族や友人にもっともやってはいけないのは、一方的に責めたり説教したりすることです。認知症や統合失調症などの合併症がない限り、当事者は自分の問題に気づいていて、飲みすぎを指摘されることも増えているはずです。単に注意するだけだと「また責められた」と思うだけで、かえって壁をつくってしまいます。

身近な人に意識してやっていただきたいのは、飲まずにいられなかった人の心情を理解すること、理解しようとすることです。

仮に依存症にまで症状が進行している場合、その人は体も心も、また社会的にも厳しい状況に置かれています。回復した体験者に話を聞くと、「とにかく精神的な苦痛から逃れたくてお酒を飲んでいた」と振り返る人が多いのです。

これについては依存する薬物が合法であれ違法であれ相違はありません。その胸の内を周囲の人がわかろうとすること、また「依存症とはどんな病か」を学び、正しい知識や情報を得て、偏見や誤解をなくすことを心がけていただきたいと思います。

今すぐできるのは、ネットなどで飲酒習慣スクリーニングテストである「AUDIT」などを受検する、ネットや書籍でアルコール依存症に関する知識を得るなどのことです。

どんなタイプの人がお酒にハマりやすいのか

飲酒問題を抱えやすい人と、適量をコントロールできる人に何か違いはあるのでしょうか。現在の研究では、遺伝子的な「依存症のなりやすさ」はあっても、共通する性格は「ない」とされています。ただし臨床経験上では、依存症の人に共通する性格の傾向には、以下のようなものがあると言えます。

「頑固」で完璧主義な人

「意志が弱い人ほど、お酒に依存しやすい」と考える人がいますが、これは大いなる誤解で、実はこれまでに「意志が弱い依存症者」に会ったことがありません。むしろ逆で、おしなべて頑固で「完璧主義」と感じられる性格の人が多いようです。

かたくなでこだわりが強いため、物事に白黒をつけたがり、飲みすぎを家族や主治医に指摘されてもすべてはねのけ、誰がなんと言おうとも飲む。対人関係も不器用なため、孤立してお酒にハマり、本物の依存症になっていくのです。

角度を変えてみると、周囲に飲みすぎを注意されて「強い反発」を感じる人ほど、「お酒に依存しやすいタイプ」だと言えるかもしれません。

ただし、頑固で完璧を求めるということは、精神的なエネルギーにあふれていることの裏返しでもあります。これをいい方向に生かせれば、真面目にコツコツ働くなど非常に大きな力を発揮します。実際、依存症者には社会的にも経済的にも成功した人が少なくありません。

「いい子」「優等生」と言われる人

若くしてアルコールに依存する場合に多いのが、世間的に見れば「いい子」や「優等生」と言われる過剰適応タイプの人です。

覚醒剤などの違法薬物の依存者は、もともと貧困や暴力などの家庭問題を抱えていることがあり、非行から薬物の道に入っていくことがよくあります。

一方、アルコールは20歳以上なら適法で手にとりやすいため、一見ごく普通の家庭で育った人がストレスに対する自己治療としてお酒を用い、やめられなくなるケースが目立ちます。ただ、表向きは恵まれた環境でも、実は両親の不仲や親の飲酒問題、DVなどの問題からさびしさや孤独感を抱えていて、それをなぐさめるためにお酒にハマっていくパターンも多いのです。

大人の顔色をうかがってばかりの生活が続くと、本音を抑えて我慢することが普通になり、思考と行動が伴わない「自己不一致」の状態になります。そのアンバランスな心を調整しようと、アルコールに依存するようになるのです。

のめり込みやすい人

「アスペルガー症候群」を含む「ASD(自閉スペクトラム症)」や、「ADHD(注意欠如・多動症)」などの発達障害を持っている人は、一つのことにハマりやすく衝動コントロールが悪い傾向にあります。そのため、アルコール依存症にもなりやすいことがわかっています。

飲酒問題は心の問題と非常に密接です。

お酒に依存するのは薬物の副作用によるものですが、強く依存するほど飲んでしまう根本には、不健康な心の状態や考え方があります。意志の強さだけで禁酒を成功させることはできません。薬物としてのお酒の有害性や、飲みすぎてしまう理由について知り、知恵をもって行動するほうが効果的です。

周囲が迅速に対処するほど回復も早くなる

症状が進んでいると判断されるようであれば、周囲の人ができる対応には次のようなものがあります。

保健所・精神保健福祉センターに相談する

どこに連絡すればいいのか迷うかもしれませんが、もっとも確実なのは保健所です。「精神保健相談」「酒害相談」「依存症相談」などを全国の保健所や精神保健福祉センターで実施しています。必ず情報を持っているので、まずは地域の保健所に相談してみましょう。病院に行くよりは抵抗が少ないので、連絡先を知っていると安心です。

医療機関に問い合わせる

明らかに症状が進んでいて心配なら、専門家の助けを借りることです。現時点で、精神科で依存症に対応している医療機関は多くはありませんが、近郊にあれば、まず電話などで相談してみるといいでしょう。

アルコール依存症を専門にしている医療機関の場合、入院が必要な重度の患者さんについては、家族からの相談で治療に入る例がほとんどです。当院でも9割は本人以外からの相談で、家族の他、産業医や産業保健師、職場の健康管理室、ケースワーカーから相談の連絡や予約が入ることがよくあります。

職場の健康管理室に相談する

職場の身近な人に異変が見られる、または働いている人が自分の飲酒量を異常だと感じている場合、会社に健康管理室があるようなら保健師や産業医に相談するのもよい方法です。最近、社会全体に企業の健康管理を求める流れがあり、そこにうまく乗れると飲酒問題の解決もスムーズになるでしょう。

欠勤、遅刻、予定外の休みが増える、業務効率が明らかに低下したのがわかる、仕事上のトラブルやお客さんからの苦情が増える、前はなかったうつ状態が見られる、健康診断の結果に異常が見られる……。

企業がこうした危険信号を見逃さないためには、全社員に向けた「飲酒問題を見抜く目を養う教育」も必要になります。企業側の体制が整えば、「スクリーニングテストを職場検診に組み込む」「特定保健指導で減酒指導を行う」などの方法で、産業医と人事、上司らが連携をとり、飲酒リスクがある社員にすぐ対処できるようになります。

では、実際に依存症が発見された社員への対応は、どのようにすればいいでしょうか。

入院治療が必要なアルコール依存症であると診断された場合、復職までには3か月の入院と、3か月の外来とデイケア参加(復職訓練を兼ねて)の合計6か月を要します。断酒が真に安定するには、そこからさらに2、3年かかります。

そのことを理解し、復職後に再発のリスクを抑える試みも求められます。

現役の方が依存症で入院した場合、退院の際の合同面接では職場の方に同席していただき退院後の計画を話し合います。具体的な対応としては、「職場の会合で飲まない、飲ませない工夫をする」「飲酒接待のない部署への配置転換」「外来通院や、自助会に参加しやすい状況を整える」などです。

治療を中断すると再発しやすいことを周囲も理解し、適切な接し方を心がけましょう。

 

 

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PROFILE
垣渕洋一

東京アルコール医療総合センター・センター長。成増厚生病院副院長。医学博士。筑波大学大学院修了後、2003年より成増厚生病院附属の東京アルコール医療総合センターにて精神科医として勤務。アルコール依存症の回復には行動変容が重要だという信念のもと、最新の知見を応用した治療を行い多くの回復者を送り出している。臨床のかたわら、学会や執筆、地域精神保健、産業精神保健でも活躍中。

「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本