いずれアメリカと激突!? 大陸国家の中国が海洋進出を急ぐ背景とは

2021年に入り、沖縄県石垣市の尖閣諸島沖に中国の沿岸警備隊にあたる海警局の船が日本の領海に侵入する領海侵犯が相次いでいる。中国政府は海警局に武器使用を認める「海警法」を施行するなど、尖閣周辺海域の緊張が高まっている。日本からみれば、あまりにも横暴な中国の振る舞いだが、一連の行動を「反日感情の高まり」などで片付けると本質を見誤る。中国が海洋進出にこだわる背景を、人気予備校講師の茂木誠氏が解説する。

「鄧小平時代」に始まる海洋進出の野望

南シナ海の南沙諸島の要塞化、尖閣諸島への領海侵犯に空母建造など、近年、海洋進出への野心を全く隠さなくなった中国。その源流をたどっていくと、1970年代に中国共産党の実権を握った鄧小平に行き着く。

鄧小平は改革開放を進め、社会主義市場経済を導入。国を開き、上海などの沿海中心の経済発展を進める一方で、領海の守備を名目に海軍を増強していく。その過程で劉華清という中国海軍のトップが海軍のハイテク化と「列島線構想」を立案した。

列島線構想とは、2010年までに中国海軍が沖縄、台湾、フィリピン以西の東シナ海と南シナ海を制圧し、2020年には小笠原諸島、グアム以西の西太平洋も制圧するという計画だ。

列島線構想

列島線構想を実現するには海軍の増強が不可欠だが、海軍を充実させるには莫大な費用がかかる。これを賄うために鄧小平は西側諸国の投資を呼び込んだ。

日本に対しても日中友好を演出。当時、来日した際に尖閣諸島のことを問われた鄧小平は、「尖閣問題については、われわれの世代では解決できないので、これは将来の世代に任せましょう。それよりも今は投資で儲けましょう」と受け流している。

現代の中国の横暴なまでのふるまいの背景には劉華清が唱えた「列島線構想」がある。東シナ海では尖閣諸島に侵犯を繰り返し、日本領である沖ノ鳥島に対しては、「沖ノ鳥島は島ではなく岩礁だ」という主張を繰り返している。

こうした言動も単なる反日感情からくる嫌がらせではなく、「列島線構想」という壮大な野望を実現するための地固めといえる。なぜ、尖閣諸島が狙われるかは、中国側から東シナ海、南シナ海を見た地図を見ると直感的に掴むことができる。

中国の海洋進出に蓋をする日本列島

東シナ海は日本の九州、沖縄を含む南西諸島、台湾によって、南シナ海はフィリピン、マレーシア、ベトナムで完全に蓋がされている。劉華清が「第1列島線を防衛ラインとして、太平洋に進出する」と述べた「列島線構想」の実現には、東シナ海、南シナ海の蓋に穴を開ける必要があった。

中国から見た海洋

その端緒が南シナ海の南沙諸島であり、東シナ海では尖閣諸島になるのだ。南西諸島(沖縄)には米軍が駐留し、中国の東海(東シナ海)艦隊の太平洋進出を阻む障壁となっている。しかし、尖閣諸島を押さえることができれば、そこを風穴に台湾の併合という一手を打つことも可能になる。

加えて、尖閣諸島周辺の東シナ海の海底には、石油や天然ガスが眠っている。国連の調査によると、その埋蔵量はイラクと同じくらいだとされ、ここにも中国と日本によるサバイバル・ゲームという争いの本質が見え隠れする。

四千年、同じことを繰り返してきた中国の歴史

中国が海洋進出にこだわる背景を理解するには、中国史についてざっくりと押さえておく必要がある。中国史を振り返ることで、「なぜ、今なのか」「この先、どうなるのか」が見えてくるためだ。

実は中国史は単純で、登場する国、人物は変わっても、栄枯盛衰はワンパターンだ。教科書には秦、漢、隋、唐、宋、明、清など、いくつもの統一国家誕生の歴史が書かれているが、純粋な漢民族の王朝は、漢、宋、明だけで残りは遊牧民が建てた王朝だ。

どの王朝も、広すぎる国家を経営するために築いた巨大な官僚機構に腐敗が広がる一方で、北の国境の防備を固めるための軍事費がかさみ、農民の税負担が増す構造から逃れることができなかった。

その結果、人民の不満が頂点に達すると革命が起き、混乱に乗じて北方民族が侵入。国内はいくつかの小国に分かれ、荒廃し、再び強力な指導者が統一を目指す。中国は典型的なランドパワーの国(大陸国家)で、常に北から南下しようとする遊牧民の脅威にさらされてきた。

遊牧民による強力な騎馬軍団への恐れを象徴するのが万里の長城だ。紀元前3世紀、秦の始皇帝が匈奴の攻撃から国土を守るために建設された。しかし、8000キロ以上に及ぶといわれる城壁の全面に訓練された軍隊を張り付かせるのは至難の業だった。

万里の長城

万里の長城ができた後も北方民族は何度となく南下し、度重なる戦闘と土木事業が王朝の財政を蝕んできた。秦は対匈奴政策によって財政的に疲弊し、重税への反抗から起きた国内の反乱がもととなって滅んだ。

中国史は基本的に、このサイクルの繰り返しだ。そして、北方民族による侵略の最悪のケースが、13世紀、フビライ・ハンに率いられたモンゴルだった。中国全土を征服され、モンゴル人の国、元にのみ込まれることになった。

その元に1世紀以上支配された後、モンゴル人を追い払って作られた王朝が明だ。現在残っている万里の長城が明代のものであるのは、それだけ北の脅威を深刻に捉えていたことの表れだろう。

こうした歴史の繰り返しが、現在まで中国が南へと海洋進出してこなかった理由ともつながっている。端的に言えば、国力を投じて海に出る余裕がなく、また海から攻めてくる敵もいなかったので海軍を整える必要もなかったのだ。

中国の海洋進出を可能にしたソ連の崩壊とシーパワー派の勝利

この状況が変化した理由は2つある。1つはソ連の崩壊だ。中央アジア諸国が独立、ロシアのエリツィン政権の混乱も影響し、北の国境やベトナムに駐屯していたロシア軍が削減され、長らく悩まされてきた陸の脅威は薄れた。もう1つは、がちがちのランドパワー派だった毛沢東以来の経済政策が行き詰まり、共産党内ではシーパワー(海洋国家)派の鄧小平が権力を握ったのだ。

毛沢東は商工業にあまり興味を持たず、土地をすべて国有化し、共産党ががっちりと管理する陸軍重視、農業重視の体制を作った。その過程で同じ共産党政権の隣国であるソ連と手を切り、中国独自の社会主義を目指す「大躍進政策」を始めたのだ。

ところが、計画経済と人民公社をベースにした政策はうまくいかず、農業重視にもかかわらず大量の餓死者が出る状況となった。それでも毛沢東は権力を手放さず、「文化大革命」でシーパワー派を弾圧。10年間の大混乱の末、毛沢東の死により鄧小平の時代がやってくる。

鄧小平以来の改革開放路線が進み、それに加えて、ソ連の崩壊で北からの脅威に備えていたエネルギーを南に向けられる余裕が生まれたのだ。プーチンが実権を握ったロシアは力を取り戻していくが、現在の中露関係は資源と兵器の取引で良好な状態にある。ロシアは、石油やガス、兵器を大量に購入してくれる中国と関係を悪化させる気はない。

一方、南では東西冷戦が終わったことで、フィリピンから米軍が引きあげるなど、軍事的な空白が生まれた。この空白を見逃さずに中国海軍は南下、南シナ海の南沙諸島へ進出する。2014年から珊瑚礁に大量の砂を運び込み、コンクリートで大規模な埋め立てを始め、合計6つの環礁を実効支配した。

中国側の動きにフィリピン側は反発し、オランダ・ハーグの仲裁裁判所に提訴した。仲裁裁判所は「中国の主張に根拠なし」という司法判断を下したものの、習近平政権は「判決は紙切れ」と一切取り合わなかった。

海に守られてきた日本人的な感覚からすると、この「傲慢さ」に驚くかもしれないが、これがユーラシアスタンダード。常に外敵と陸続きの国境で争ってきたランドパワーの大国は、自国の利益のためにルールを破ることを何とも思っていない。むしろ屁理屈だろうが何だろうが押し通したもの勝ちという感覚なのだ。

中国の今後の海洋進出のカギを握るのはやはりアメリカ

今のところ、「列島線構想」は当初のスケジュールから遅れてはいるものの、ゆっくりと実現に向かって動いている。中国の国防費は1989年以来、毎年ほぼ二桁の伸びを続け、海洋資源やシーレーンの確保、軍事的野心のすべてがつながったビッグプロジェクトとなっている。

ただ、現況ではハワイの真珠湾にアメリカ太平洋艦隊の司令部があり、グアム、サイパン、沖縄にもアメリカの海軍が駐屯している。これらのアメリカ軍に出て行ってもらわなければ、中国の考える「列島線構想」の「第2列島線」を実現することはできない。

アメリカではバイデン大統領が誕生した。トランプ前大統領は、中国には強硬姿勢でのぞんできたが、今後、アメリカの極東戦略が見直され、アジアでの米軍の活動が縮小されるなら、中国は間違いなく好機と見て東シナ海へ出てくるだろう。

 

PROFILE
茂木誠

東京都出身。駿台予備学校世界史科講師。ネット配信のN予備校世界史講師。首都圏各校で「東大世界史」「難関国立大世界史」などの国公立系の講座を主に担当。iPadを駆使した独自の視覚的授業が好評を博している。「もぎせかチャンネル」でも時事問題についての情報を動画配信している。