外交官の酒宴は真剣勝負! “飲まれない”酒とのつき合い方【佐藤優】

佐藤優

ビジネスパーソンにとって、酒とのつき合い方は意外に大きなポイント。酒が入ると人が変わったり他人にからんだりして、それまでの人間関係を壊してしまうような例がたくさんあります。逆に上手に酒が飲めれば、これほど人との関係を円滑にできる手段はありません。酒はまさに諸刃の剣です。外交官として要人と渡り合ってきた佐藤優さんが、お酒との適切な距離感やつき合い方について教えてくれます。

日本人は意外に飲酒機会が多い

人によりますが、酒の量によって完全に理性がなくなってしまう瞬間があります。これは徐々にそうなるのではなく、ある量を境にして一気に酩酊する。いろんな種類の酒をチャンポンするのがよくないといいますが、やはりアルコールの絶対量が一番の問題。だから、自分はあともう一杯飲んだらヤバいという目安、限度を知っておくことが必要です。

究極的に酔っ払うと人はどうなるか? 大きく分けて二つのタイプがあります。一つはダウン系。完全に酩酊状態になり倒れてしまうタイプ。ひどくなると意識を失って体が震え出し、失禁してしまう。ここまでくるといわゆる急性アルコール中毒で、救急車を呼ぶ必要があります。

こういう人とは別な意味で厄介なのが、意識は完全に飛んでいるのに、体だけは元気で動き回るタイプ。たとえば、朝気がつくとまったく記憶がない。どうやらタクシーに乗ってどこかに行ったらしく、領収書だけポケットにある。体中が痛いが、自分はいったいどこで何をやらかしたのか……。

こうなるとかなりまずい状況。事件を起こしたり事故にあったりするタイプで、人を巻き込む可能性が高いようです。

いずれも極端な例ですが、酔っ払うと意識を失ってダウンするタイプか、フラフラ行動するタイプか、大きくどちらかということだけでも知っておきましょう。若いころは特に飲み比べだとか、一気飲みだとか勢いにまかせてやってしまいがちですが、くれぐれも無謀な飲み方はしないことです。

限度を知っておくには、自宅や自室で自分が飲んでいる姿を動画で撮って、後で見てみるのもいいかもしれません。飲んだとき自分はどんな言動をするのか。客観的に自分の姿を見て、あまりの見苦しさに酒をやめたという人もいます。自分の酔い方の傾向を知っておくために、有効な方法だと言えるでしょう。 

一般に酒に弱いとされている日本人ですが、一方でこれほど頻繁に酒を飲む国民も珍しい。一度にたくさんは飲めませんが、少量を継続的に飲む。晩酌で毎日飲む習慣や、居酒屋に毎日あれだけ人が入っている光景を見て驚く外国人は少なくありません。

逆に、アメリカなどは酒に対していいイメージがなく、基本的にあまり飲まない人が多い。酒に対する感覚は国によって大きく異なります。

“自分が話したこと”は忘れがち

外交官は公式の場でも、ホームパーティのような非公式の場でも飲む機会が多いため、酒が飲めないと厳しいし、また飲めたとしても、きれいに飲める人でないと苦労します。

酒席を設けるのは表向きはお互い親密な関係を築くためというものですが、別な狙いがあることも多いです。よく外交の世界では「片方の手で握手しながら、もう片方の手で殴り合う」といわれます。

酒が入ると誰でも口が軽くなるもの。それを利用して普段聞けない話を聞き出す。あるいは酩酊状態で失態を演じさせて心理的に相手より優位に立つ。インテリジェンスの世界ではそちらが本当の目的です。

それだけに、外交官だった当時、酒の席はある種の覚悟を持って臨みました。余計なことを話さない。必要以上に酔って失態を演じたり、弱みを握られない。逆にこちらは相手の情報や弱みを握ってやろうと狙います。外交官時代の仕事がらみの酒は、正直な話、けっして楽しいものではありませんでした。

酒を飲んで相手がどんなことを話したか、メモをとるわけにはいきませんから、頭の中にしっかり刻み込みます。意外に難しいのが自分の言動。相手の言葉は覚えていても、自分が何をしゃべったかは忘れてしまいがちです。外交での飲みの席は、お互いニコニコしながら相手をいかに酔わせるかの勝負になることがあります。

ただし、上手に酒が飲める人は、酒の場で相手といい距離感で親しくなったり、気持ちを通わせたりすることができる。もちろん、相手の腹の中を探るという狙いもありますが、そんなお互いの事情や利害を承知したうえであえて近づく。

人間ですから、意外と利害関係から少しはみ出した部分に共鳴したり、感じ合ったりすることもあるわけです。

「飲んだ翌日」がいちばん大切

外交やインテリジェンスの世界の酒は、ある意味特殊かもしれません。しかし一般的な酒の席でも、気をつけておくべきことの基本は同じです。

無礼講と言われてそれをまともに受ける人はいないと思いますが、上司がどんなにハメを外していいと言ったところで、それは言葉上のこと。本当の無礼講などまずありえません。バカ騒ぎしたり、突然会社や特定の個人を非難したりするのは論外です。

あと私が気をつけているのは、飲んだときはまじめな話をしないこと。男性の場合、ついつい調子に乗って政治や経済の話、仕事の話などをしがちですが、気が大きくなっているし理性がきかなくなっているから、議論が口論になりケンカになる。

一番いけないのは相手を言い負かすこと。勝った方はそのときは気分がよくても、相手にはずっと感情的なしこりが残ります。それが職場の人間同士だと、人によっては陰湿に仕返しされることがある。まじめな話は酒の入らない席でやり、酒が入ったらバカ話に徹するくらいがいいでしょう。

それと、意味のない飲み会やはしご酒は極力避けること。会社のグチや誰かへの悪口を繰り返すような飲み会なら、最初から参加しない。誰かの悪口に下手に相づちを打つと、あとで自分が言ったことにされてしまうことだってありえます。

飲んでいる最中はもちろん、意外に大事なのが飲んだ次の日。遅刻はもちろんアウトですが、気持ちをいかに切り替えられるかが大事です。

たとえば前日に上司と酒を飲んで、腹を割っていろいろな話をした。だからといって上司との距離が近くなったとか、関係が深くなったと調子に乗らないこと。飲みの席は飲みの席。会社で仕事をしているときとは違います。そこは一度気持ちを入れ直して、何事もなかったかのように粛々と仕事をするのが正解です。すると上司は、こいつはちゃんと切り替えられるやつだと感じて、また次も安心して誘えます。

一番よくないのは、飲んだときの話を蒸し返すこと。飲みの席で、上司が「今度お前を課長にしようと思っているんだ」と話したとしましょう。本人はすっかり忘れているか、ちょっと口を滑らせたかなと反省しているかもしれない。

そこで次の日にその話を蒸し返されると、「こいつはちょっと厄介だな。飲んだときの言質をとるやつだ」となる。情報をとるために一緒に飲んでいるのかと警戒されるかもしれません。

そこまでではなくても、すぐに調子に乗るやつ、けじめのないやつだと思われてしまう可能性があります。昨日の酒の席を引きずらない。そのけじめをつけることが大切です。

もう一つ、飲んだとき、絶対に注意しなければならないのがセクハラとパワハラ。セクハラの疑いをかけられて人事課に絞られるくらいならまだいい方です。これからの時代、悪くすると刑事事件になって人生を棒に振ることだってありえます。

特に今の時代、やられた方も泣き寝入りするなんてことは少ないし、社会全体の意識がとても厳しい。セクハラ事件の多くは飲んでいるときに起きます。

パワハラも一緒です。ついつい気が大きくなって、感情的に部下をみんなの前で罵倒したりする。昔なら「飲んだ席のことだから」ですんだ程度でも、今はそうはいかない。部下を持つ人は、飲みの席では十分気をつけるべきです。

 

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佐藤優

PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

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