大統領はアメリカの最高権力者ではない―誰が分断を招いたのか?

コロナに世界中が苦しむ2021年1月6日、ホワイトハウス南側の広場でトランプ大統領の演説を聞いた支持者たちが連邦議会議事堂に乱入した。支持者は3時間にわたり建物を占拠、2001年に世界を震撼させたアメリカ同時多発テロでも守り抜かれた連邦議会議事堂は、アメリカ国内の混乱で陥落した。今回の乱入事件は“米国社会の二極化”を浮き彫りにした形だが、アメリカがここまで分断することになった要因は、国の成り立ちまで掘り起こさなければ見えてこない。

ウォール街には大統領も頭が上がらない

「アメリカ合衆国で一番偉い人は大統領ではない」というと驚かれる人もいるだろう。実はアメリカでは巨額の選挙資金を提供し、政治活動への資金援助を惜しまないウォール街の銀行や証券会社といった金融資本が、大統領と政府、議会の意思決定に強い影響を与えてきた。

なぜ、選挙で選ばれたわけでもない彼らがアメリカを仕切るようになっていったのか。話は100年ほど前に遡る。南北戦争後のアメリカは、イギリスを抜いて世界最大の工業国となっていく過程で、JPモルガン、ロックフェラーなどの新興財閥が巨大な力を持つことになった。特にモルガン銀行はアメリカ政府が資金難に陥るたびに国債を引き受け、貸し手としての発言権を増してきた。

そして、1907年の恐慌の後、モルガン、ロックフェラーらは、中央銀行の設立と出資について合意。通貨ドルの発行権を握ろうという大胆な動きだったが、当時のウィルソン大統領(民主党)が許可し、1913年にFRB(連邦準備制度理事会)が発足する。通常、国の中央銀行は国営、もしくは半官半民だが、FRBは100%民間による組織である。つまり、ウォール街の民間金融資本が国の財布を握っているのだ。

アメリカの大統領選挙を戦うには膨大な資金が必要になる。歴史的に共和党は富裕層、民主党は貧しい労働者や移民を支持基盤とする政党とされてきたが、実はどちらの大統領候補もウォール街から多額の献金を受けてきた。

その結果、どちらの党の大統領が選ばれても、結局はウォール街=FRBを支配する国際金融資本に頭が上がらない、という構図となったわけだ。

トランプが草の根保守から支持された本当の理由

オバマ大統領時代、民主党は日本のような国民皆保険制度、通称「オバマケア」を導入するというスローガンを掲げて当選した。しかし、民間保険会社(金融資本)の猛烈な反対を受け、できあがったオバマケアは国民が民間保険会社に加入するという保険制度になってしまった。

この例からもわかる通り、アメリカ人は長らく共和党と民主党の出来レースを見せられてきたようなものだ。大手のマスコミ、新聞、ラジオ、テレビのスポンサーに財界が付き、情報をコントロールし、演出してきた。しかし、ネットでの情報拡散によってそのカラクリが透けて見えるようになった。

しかも、リーマンショック以降、アメリカでは史上類を見ないほど貧富の格差が拡大した。国際NGOオックスファムの報告によれば、世界の上位1%の富裕層(その3分の1はアメリカ人)が、世界の富の半分を保有する状態になっている。

そんな状況下で大統領となったトランプ氏は、「オレは不動産王でカネはある。選挙資金はオレが出す。ウォール街からの献金は受けない。アメリカを裏から仕切ってきた奴らの言いなりにはならない」という立ち位置を明確に打ち出した。

あわせて、トランプ氏は「激増する中米からの不法移民に決定的な歯止めが必要だ」と、オバマ政権が進めてきた移民の受け入れにも強く反対した。格差への反抗と移民への強気の姿勢。この2つのわかりやすいスローガンが、アメリカ中部や南部に暮らす貧しい白人層、レッドネックと呼ばれる労働者階級と草の根保守の心をつかんだのだ。

というのも、彼らは金融資本とその周辺にいる「エスタブリッシュメント」と呼ばれるエリート層に強烈な不信感を持ちつつ、ヒスパニック系の移民が職を奪い、本来のアメリカ人のための社会保障制度を食い荒らしている、と考えているからだ。

さらに草の根保守は、エスタブリッシュメントに対してこんなイメージを持っている。彼らはアメリカ合衆国建国の13州が集まった東部の名門大学を卒業し、政財界の中枢を独占。中部や南部に住む一般庶民の生活をないがしろにし、富を奪い、アメリカ国民を代表しているような顔をしている、と。

その結果、これまで共和党を支えてきた富裕層へのバッシングが起こり、共和党内で草の根保守が力を持つようになる。トランプは大富豪の不動産王であり、既得権益者だが、わざと野卑な言動を取ることで一般庶民の不満の受け皿となってきたのだ。

いつかは白人がアメリカのマイノリティに

そして、もう1つのポイントが移民問題だ。ヨーロッパでは、シリア難民にまぎれてアフガン人、チュニジア人、西アフリカの人々などが流入し、治安の悪化を警戒する声が高まり、移民の受け入れは大きな政治的問題になっているが、同じことはアメリカでも起きている。

アメリカでマイノリティといえば、かつてはアフリカ系(黒人)やアジア系を指していたが、2000年代以降その主流は中南米系移民のヒスパニックに代わった。彼らがアメリカに殺到するのは、出生地主義を採用するアメリカでは、不法移民の子もアメリカで生まれれば自動的にアメリカ国籍を取得することができるからだ。

合法、違法にかかわらず出稼ぎ労働者としてアメリカにやってきたヒスパニック系移民の2世、3世が国民となり、親族を呼び寄せているため人口が急増。このままいけば2050年にはアメリカ国内のヒスパニック人口は3割近くに達するといわれている。

イミグレーション

少子化が進む白人の人口が急増することはなく、ヒスパニックに黒人やアジア系を合わせると非白人が国民の過半数を超える時代がやってくる。しかし自由の国であるアメリカは、定住した移民を排除することができない。

選挙では数の力が物を言う。ヒスパニック系の大統領が誕生する日も遠くはないだろう。しかし、そうなったアメリカを「本来のアメリカ」ではないと考えるアメリカ人も少なくはない。

深まるアメリカの分断、その背景にあるものとは?

こうしたジレンマから白人の間で移民を制限しようという世論が生まれ、それに乗っていたのが共和党であり、移民反対で支持を広げたのがトランプ大統領だったのだ。

ヨーロッパの移民問題が、かつての中東やアフリカの植民地政策の後遺症として起きているように、メキシコをアメリカ化したことの反動が今、別の形で現れてきているのかもしれない。そして、トランプを支持した「草の根保守」が数の力を見せつけたように、将来はヒスパニック系の人たちが数の力を発揮し、自分たちを代表する大統領を誕生させる可能性もある。

南北戦争、公民権運動などを経て、現代のアメリカは法的には人種差別を否定する国となった。しかし、根底にはキリスト教右派が抱いている、異民族や異教徒への強い差別意識が残っている。その影響が強く表れているのが移民問題だ。

一方で、ヒスパニック側の視点で歴史を振り返ると、移民問題はメキシコ人がアメリカに奪われた土地を奪回しているだけ、という見方も成り立つ。現在のテキサス州からカリフォルニア州までの広大な領域は、かつてメキシコ領で、スペイン語を話すメキシコ人が住んでいたからだ。

アメリカの分断には歴史的な意識の分断があり、新型コロナウイルスによる1世紀ぶりのパンデミックは世界で経済危機を招き、分断をさらに深めてきた。

しかし、どんな経済状況下でも一票の価値は変わらない。民主党のバイデン氏がアメリカの新たな大統領となり、分断の修復に期待が寄せられている。アメリカの分断が今後も続こうが続くまいが、選挙で選ばれた人がリーダーになる。それが民主主義だ。

 

PROFILE
茂木誠

東京都出身。駿台予備学校世界史科講師。ネット配信のN予備校世界史講師。首都圏各校で「東大世界史」「難関国立大世界史」などの国公立系の講座を主に担当。iPadを駆使した独自の視覚的授業が好評を博している。「もぎせかチャンネル」でも時事問題についての情報を動画配信している。