大陸国家の思惑に翻弄されてきた朝鮮半島。その行動原理とは

2021年初頭、北朝鮮は朝鮮労働党大会で金正恩総書記がこれまでの経済政策の失敗を率直に認め、北朝鮮を大きく変えていくというメッセージを発信した。一方のアメリカも、新大統領のバイデン氏がトランプ前政権の北朝鮮へのアプローチを全面的に見直すなど、朝鮮半島情勢は新たな段階に入ったといえる。では、日本は北朝鮮や韓国とどう向き合うべきなのか。人気予備校講師の茂木誠氏によると、朝鮮半島の歴史を紐解くことで半島国家が抱える特有の事情がわかるという。

元に日本侵略を提言した朝鮮王朝とは

地理的要因から、朝鮮半島はずっとランドパワー(大陸国家)の脅威にさらされてきた。同じ半島国家でも、たとえばイタリアは中世を除けば、大国に攻め込まれた歴史がない。イタリアの場合はアルプス山脈が国境線となり、自然の要害となってくれたが、朝鮮半島の付け根にはそうしたものが存在しないからだ。

しいて言えば白頭山と鴨緑江があるが、攻め込む敵を遮るには川の流れも穏やかで浅瀬も多い。朝鮮半島は、歴史的に何度もランドパワーの侵略を受けた。朝鮮半島では新羅、高麗、朝鮮と王朝が移り変わったが、朝鮮半島で王朝が変わる直前には、必ず中国でも王朝交代が起きている。

朝鮮半島の王朝は大陸の勢力図の変化に敏感で、大国が栄えているときは頭を下げて従い、新興勢力が台頭してきたときには、どちらにつくと有利かを天秤にかけながら、面従腹背で存続を図ってきた。常に大国に服従して安全を確保することを「事大主義」という。

たとえば、唐の時代は新羅が栄え、唐が衰えて宋の時代が始まると朝鮮半島でも王朝が変わり、高麗となった。しかし、その宋がモンゴルの騎馬民族である元にのみ込まれたときは、その勢いのままに朝鮮半島も元に支配されてしまった。

モンゴルの侵攻は民族最大の危機だった。高麗は30年ほどの間に6回も国土を蹂躙され、国王は降伏。人質にとられた王子は、フビライ・ハンの娘と政略結婚させられ、元の属国と化すことになった。この王子が即位して忠烈王となり、フビライに取り入るために日本への侵略を進言した結果、起こったのが「元寇」だ。

このように、いったん強国の支配下に入ると服従し、同化しながら生き延びるのが事大主義だ。また、支配を受け入れる前には必ず強烈な派閥抗争が生じるのも半島国家の宿命と言える。たとえば、モンゴルに降伏するまでの間、高麗の宮廷では親モンゴル派と反モンゴル派が分裂。中国が漢民族の明朝から満州人が建国した清朝に変わるときにも、親清派と親明派が争うことになった。

日本の敗戦で親日派を一掃

現在の北朝鮮と韓国の歴史も、基本的には同じ流れの中にある。ただし、「事大する」支配勢力には大きな変化があった。19世紀末、ランドパワーの大国であった清の力が落ち、シーパワーの新興勢力・日本が台頭したからだ。

当時、朝鮮半島は李氏朝鮮の末期で、宮廷は親清派と親日派に分かれて暗闘を繰り広げていた。日清戦争で日本が清に勝利すると、朝鮮国王は「日本が新たな後ろ盾になる」と考え、清への朝貢をやめ、大韓帝国として独立を決断した。

その後、もう一つのランドパワーの大国ロシアが朝鮮の権益に手を伸ばすものの、日露戦争で日本が勝利すると、親日派が政権を掌握し、日本との合邦運動を展開。1910年の韓国併合に至った。

しかし、朝鮮半島を併合していた日本が第二次大戦で敗れると、北朝鮮はソ連・中国というランドパワーの、韓国はアメリカというシーパワーの力を借りて独立する。

日本統治時代、金日成ら北朝鮮を建国したグループは満州経由でソ連に亡命し、沿海州でソ連極東軍に編入されていた。一方、韓国を建国する李承晩ら在米韓国人はアメリカで大韓民国臨時政府を樹立し、独立の機会をうかがっていたのだ。

日本の敗戦により親日派は国賊として一掃され、アメリカ軍とソ連軍が朝鮮半島に進駐。北緯38度線を境界線とする。北では金日成らの親ソ派が朝鮮民主主義人民共和国を、南では李承晩らの親米派が大韓民国を建国し、派閥抗争の末、朝鮮戦争を引き起こすことになったのだ。これにアメリカと中国が軍事介入して膠着状態となり、南北の分断が固定化された。

その後、北朝鮮は初代の金日成、金正日、金正恩と続く金一族を個人崇拝させる、事実上の専制君主制の国家となり、21世紀の今日まで生き延びてきた。〝北朝鮮こそ真正の社会主義国だ〟と主張する主体思想を柱に、アメリカと妥協するソ連(後のロシア)、中国を批判。国際社会と距離を置き、1993年に核拡散防止条約(NPT)から脱退し、身を守るために核開発を進める。

当時、クリントン政権は北朝鮮核施設への空爆も検討したが、結局はとばっちりを恐れる韓国の要請で中止となり、経済支援によって北朝鮮を懐柔する道を選んだ。

しかし、この懐柔政策は何の効果も上げず、北朝鮮は核実験に成功。グアム島にまで届くミサイルの開発を進めている。このように金日成、金正日は巧みな外交手腕で、ソ連、中国、日本、韓国、アメリカ各国から経済援助や食糧支援を引き出して国家を運営してきた。

朝鮮半島の地政学的な役割とは

こうしたあり方が可能だったのは、北朝鮮が日本、韓国、中国それぞれにとって、いわば地政学的な〝必要悪〟となっていたためだ。とはいえ、破綻した経済は一向に回復せず、金正日政権終盤には経済改革を求める官僚グループが力を持ち始める。

彼らは隣国である中国の経済発展を目の当たりにし、金王朝は維持したまま、中国版の市場経済を導入しようと考えた。その中心人物が、金正日の妹の婿の張成沢と、金正日の長男金正男だった。そして、親中派の彼を後押ししていたのが、中国共産党政権だった。

中国は、北朝鮮を平和裏に親中政権へと移行させ、市場経済を導入。中国企業にとっておいしい市場とし、さらに日本海沿岸の港を手に入れようという思惑があった。そのために父・金正日と不仲だった金正男の亡命を受け入れ、正日亡き後の傀儡政権として擁立することを狙い、重要なカードとしてキープしてきたのだ。

ところが、父・金正日から「中国は歴史的に我が国を最も苦しめた国」「現在は我々と近いが(経済破綻のため中国資本を受け入れた)、将来は最も警戒すべき国」という遺訓を受けた金正恩は中国を強く警戒し、功労者である親中派の叔父・張成沢の一族を粛清。金正男もマレーシアの空港で毒ガスにより謀殺された。

この結果、隣国として脅威を感じる存在でありながら、唯一と言っていい支援国であった中国との関係が一気に悪化することになった。これまで中国が北朝鮮を支援してきたのは、中国にとって地政学的に北朝鮮の安定が重要だったからだ。

もし、北朝鮮が崩壊し、韓国が朝鮮半島を統一した場合、難民が中国に流出し、旧満州にある延辺朝鮮族自治州の独立運動を刺激することになる。そしてなにより、韓国はアリカと同盟関係にあるので中朝の国境近くに米軍基地ができてしまうことになりかねない。

正男の暗殺事件以降、金正恩はさらに反中の姿勢を明確にしている。日本海に向けて発射されたミサイルは、そのまま北京を狙うことができるという意思表明でもある。加えて、アメリカに対してもグアム島への攻撃計画を発表するなど、強硬姿勢を崩していない。

これは独裁者としての金正恩がその立場を維持するには、大国の圧力に屈するのではなく、自らの強い姿勢によってアメリカを話し合いのテーブルに引き出したというストーリーが必要だからだ。対等な立場で朝鮮戦争の講和条約を結び、国交を正常化し、平壌にアメリカ大使館を開かせたいという思いがある。

そういった意味では、北朝鮮は今後も周辺国にとってやっかいで横暴な振る舞いを続けていくだろう。それが核開発以降、中国と手を切った金正恩にとってサバイバルのための唯一の選択肢だからだ。

北朝鮮の暴走の先に待ち受けるもの

アメリカにとって、北朝鮮に軍事行動を起こす見返りはない。ただし、38度線を緩衝材に中国、ロシアの進出を阻む壁として一定の価値がある。トランプ政権時代の金正恩との首脳会談などはこうした思惑がアメリカ側にはあった。

中国の習近平としては、1つのシナリオとして、金正恩を軍事介入もしくはクーデターの形で強制的に排除した後、殺された金正男の長男、金漢率を擁立する可能性もある。中国が北朝鮮に親中派の政権を作ることができれば、日本海に出る港を手に入れることになり、念願の海洋進出に有効な一手を打つことができるようになる。

一方で、韓国は半島国家の歴史をなぞるように、シーパワーの大国・アメリカとランドパワーの大国・中国との間で揺れ動き、金大中政権以降は親中国派の力が強くなっている。半島国家の北側である北朝鮮は国境を接する中国を警戒し、南側の韓国は逆に中国に接近。そんな中で金正恩政権は暴走を続けている。

これが独裁体制の強化によるものなのか、弱体化の表れなのか。ミサイル攻撃の危機、金王朝崩壊による難民の流入の脅威にさらされる日本にとって、朝鮮半島情勢から目の離せない状況が続きそうだ。

 

PROFILE
茂木誠

東京都出身。駿台予備学校世界史科講師。ネット配信のN予備校世界史講師。首都圏各校で「東大世界史」「難関国立大世界史」などの国公立系の講座を主に担当。iPadを駆使した独自の視覚的授業が好評を博している。「もぎせかチャンネル」でも時事問題についての情報を動画配信している。