親が知らないスマホの危険な世界―SNSがらみのリアル事件簿

「犯罪にあっている子どもなんてごく一部。ウチの子は大丈夫でしょ」と思ってはいませんか? オンライン化が進んだ近年、SNSやネットゲームがらみの事件・犯罪に巻き込まれる子どもたちが急増しています。警察庁の「2019年の犯罪情勢」によると、SNSが原因で事件に巻き込まれた18歳未満の被害児童数は過去最多の2095人。もはや他人ごとではありません。元捜査一課刑事の佐々木成三さんに傾向と対策を伺いました。

接点はSNSやオンラインゲーム

ここ最近、SNSやゲームがらみの子どもの誘拐や監禁事件を多く目にするようになりました。

犯人の多くは大人の男性。30〜50代の、子どもからすると立派な〝おじさん〞が、子どもを連れ去り、ひどい場合は長期間監禁、最悪の場合は殺してしまうこともあります。

その2人の接点となるのが、SNSやオンラインゲームです。

読者の皆さんは、ほとんどがおそらく今の小・中学生の親世代でしょう。少し子どものころのことを思い出してみてください。子どものころ、〝おじさん〞くらい年の離れた大人と知り合う機会がどれだけあったでしょうか。近所のおじさんか友だちのお父さん、習い事の先生くらいではないでしょうか。

当時の親は、子どもに対して「知らない人と話をしてはいけません」と言っていたものです。

ところが今はどうでしょう? 知らない大人と子どもが共通の趣味を通じて知り合うのが、当たり前になっています。子どもにとって、ゲームで一緒に遊ぶ人は、もはや〝知らない人〞ではありません。

子どもは、聞かれれば自分の名前や住所を教えてしまうでしょう。それがどれほど危険かということまでは、わからないからです。

常識的に考えれば、いいおじさんが小学生や中学生の女の子と知り合いたいとは思わないですよね。つまり、そういう男は、社会的な一般常識からずれているのです。おそらくゲームという共通の話題がなかったら、何も話せないはずです

「#家出」「#神待ち」「#淋しい」などの書き込みから発展

2019年、大阪の小学校6年生の女児の誘拐事件は記憶に新しいでしょう。家出願望のあった少女は、SNSで知り合った男の家で監禁されていました。しかも、場所は大阪から遠く離れた栃木県です。

自宅近くの公園で待ち合わせ、はるばる栃木まで連れ出されたのです。結局、少女が靴も履かずに逃げ出し、交番に逃げ込んで無事保護されました。

SNSで「#家出」「#神待ち(神=家出して困っている少女が泊まる場所や食事を提供してくれる大人のこと)」と発信すると、大人たちが群がってきます。

私が捜査一課にいたころ、中学2年生の女の子が家に帰ってこないと、ご家族から届けがありました。ご両親に協力していただき、その女の子のネットの利用状況を調べたところ、ゲームの掲示板に「家出したい」と書いてありました。

驚いたのは、それに対する反応です。なんと10分間で、約20人の男から反応があったのです。

「助けてあげるよ」「協力するよ」「迎えに行ってあげるよ」こんな甘い言葉をかけてきます。女子生徒はそのうちの一人の大学生と連絡を取り、車に乗っていました。

結果的に女子生徒は無事保護されましたが、彼女は最後まで「大学生はいい人」だと言っていました。一方、大学生は「性交渉が目的だった」とはっきりと供述しています。

また、2019年10月、ツイッターに家出願望を書き込んだ、14、15歳の少女3人を自分のところに来るように誘い出し、借家に住まわせるなどした男が、「未成年誘拐」の罪で逮捕された埼玉県の事件もありました。

「未成年者誘拐」で捕まった男たちは、ほとんどが「俺、誘拐していませんよ」といいます。でも、子どもを連れまわしたことを認めた時点で、未成年者誘拐です。

14歳未満を親(保護者)の承諾なしに連れ出したら、子どもが自分の意思で来たにせよ、「未成年者誘拐」になります。これを犯罪者はもちろん、親も知らないことが多いのです。

ちなみに16歳以上18歳未満でも親の承諾なしに深夜(夜11時〜早朝4時まで)に連れ出した場合、青少年保護育成条例の違反になります。

「#淋しい」「#自殺したい」といった書き込みの女子高生を探して自宅に連れ込み、性犯罪を犯すのも代表的な手口の一つです。2017年10月に神奈川県座間市で男女9人が殺害された事件は、SNSに「死にたい」などと自殺願望を書き込んだ若者が狙われました。

犯人は「金と欲のためにやった。心が弱っている子を狙ったほうがラクだと思った」と供述。「ツイッターはかかりがいい」とも述べています。

昔は事件に発展しなかったのは、今のようにアウトプットする場がなかったから。でも今は、不特定多数の人に「自殺したい」とアウトプットできるのです。そこにガーッと群がってくる大人たちがいるということです

フィルタリングや利用制限だけでは防げない

家出願望がある少女に対して善人を装い優しい言葉で近づき、誘拐・監禁する......。もちろん悪いのは犯人である男です。少女を責めることはできません。

ただ、SNSやオンラインゲームで知り合っただけでは、少女は誘拐されたり、監禁されたりすることはなかったはずです。何が言いたいのかというと、“最後に行動を起こすのは子ども自身”だということです。

これは、親と子でのネットリテラシーの差が如実に表れた事件だと思います。子どもにスマホを買い与える際に、アダルト関連や違法サイトなどの有害情報を見られないように制限しただけで安心している親がほとんどではないでしょうか。

子どもがスマホで何をやっていたのか、事件後に親は初めて知って驚くのです。

13歳未満の子どもは自分のGoogleアカウントを持てません。親の皆さんが子どもにゲームをさせるためだけの目的でアカウントを子どもに渡し、子どもは親のアカウントでゲームをやっていたはずです。

ゲームをやらせている以上、少なくとも親御さんは、日頃の親子の会話の中で、子どもが自分のアカウントでどんなゲームをしているのか、アカウントを持たせることでどんなことができるのか、SNSをどんなふうに利用しているのか、知っておいてほしいのです

親子の「会話」の中で、危険性を伝え続けよう

わが家でも、会話の中で危険性を伝えています。例えばオンラインゲームをしている息子に「何やってんの?」と聞くと「○○」とゲーム名を言います。「知らない人とゲーム一緒にしてない? 会ってない?」「ゲームはしてるけど、会ってはいないよ」「ゲーム上で知り合った人とは会うなよ」というように。

だからといって、「知らない人とゲームをするな」というのは、現実的ではありません。実際、アンケートでは「知らない人とゲームをしたことがある」と答える中学生は7割もいます。

「知らない人とゲームをするな」というのは、「オンラインゲームをするな」ということと一緒です。オンラインゲームをすることを許す以上、知らない人とゲームをするな、というのは現実的に無理なのです。

ですから最低限、「ゲーム上で知り合った人とは会わない」ことをルールにする必要があります。

ゲームをする目的は何なのかを明確に持たせることも大切です。

「なんでオンラインゲームをやっているの?」と聞いたら、「楽しいから」と答える子がほとんどでしょう。「それはわかるけど、ずっと楽しいことだけやっていていいのか」という話になりますよね。

頭ごなしにダメ、と禁止するのではなくて、子どもを納得させる必要があります。なぜ長時間ゲームばかりやることがダメなのか。

ゲームでコミュニティーを作っている子もいるかもしれない、プログラミングへの興味につながる子もいるかもしれない、eスポーツの選手になりたい子だっているかもしれません。オンラインゲームに関しては、明らかに子どものほうが詳しいはずです。

それならば、親もオンラインゲームをやってみましょう。子どもと一緒にゲームをすればいいのです。

たとえ興味がなくても、子どもを守るためです。頭ごなしに否定せず、ゲーム上ではどんな状況があり得るのか、どんな危険があるのか、どうしてそこまでハマるのか(やってみると意外と面白かったりします)がわかるでしょう

【人物像当てクイズ】どんな人物を思い浮かべますか?

私が子どもたちに行っている「スクールポリス」の活動は、犯罪リスクの低減を目的としています。

次はその講演の中で、中学生や高校生に出している問題です。このプロフィールを見て、どんな人物を思い浮かべますか?

子どもたちに聞くと、「すげえ金持ちの実業家か?」「若いけど会社の社長なんだ」など、自分のまわりでは知り合えない若手のビジネス成功者をイメージするかもしれません。

正解は、「振り込め詐欺グループのリーダー」です。

振り込め詐欺グループのリーダーは「詐欺をやっているよ」と言って近づいては来ません。当たり前ですよね。皆さんをだまそうとしているのですから。

振り込め詐欺をするような人は、誰が見ても「詐欺師です」とわかるような人は少なく、真面目なエリートビジネスパーソンのようなタイプも多くいます。

そういった人たちから、豪勢なマンションに住んでいることを匂わせながら、「今度うちでパーティーをやるから君も来ない?」と言われたら、どうしますか? 何かいい話があると思い、行ってみたいと思いませんか?

上記の質問で、「若くて成功した、かっこいい社長」だと思った人は、ついて行ってしまう人が多いかもしれません。

実際パーティーに行ってみると、たくさんの人がいて、自分も同じようになりたいと強く感じ、投資詐欺や闇バイトを手伝うことになってしまった大学生を私は知っています。途中で抜けようと思っても、身元が割れてしまっているため抜けられなくなります。

そもそも「25歳で高級ベンツを現金で買う」「毎日パーティーをしている」という上っ面だけの情報を見て、その人物の本質を見抜くことはできません

性別も年齢も隠して「別人格」になりきれるのが、SNSの怖さ

年齢に関係なくいろいろな人と知り合える。これがSNSの良さであり、怖さでもあります。とくに子どもの場合、SNSではいきなり趣味の話からスタートすることが多いですよね。

例えば、オンラインゲームや好きなバンドなど、共通の話題があれば、年齢・性別問わずつながってしまいます。そこで、子どもは簡単に人を信用してしまうのです。

ゲームが強い、ゲーム上で人をまとめるのがうまい、お金を持っているといった間違った物差しで人を信用してしまいます。中学生の女の子のグループに入るために、40代の男性が女性の名前でアカウントをつくってその輪に入っていた、などという話はザラにあるのです。

SNSは未来の友だちを探すという意味ではとてもいいと思います。私も、SNSを通じて幅広い業界の人と知り合うことができていますし、仕事においても必要不可欠です。

ただ、子どもに知っておいてほしいのは、SNSでは別人格を作ることができるということ。

私は、ネットの中だけで人を見極めることは難しいと思っています。もちろん、大人でも、です。ネットの中では本性を隠せます。それどころか、性別や年齢も隠せます。別人格で人と接触することができます。

ネットの中で知り合った〝素敵な〞人と、素直に「会ってみたい」と思うのが、子どもです。だからこそ、子どもに早くスマホを持たせて、早くからネットリテラシーを学ぶ機会を増やすことが大切です。

私は小学生からスマホを持たせるべきだと思っています。コロナの影響でこれからますますオンライン化が進み、スマホを持っているかどうかで教育格差さえ生まれる時代です。

子どもにスマホを持たせた上で、どう使うか。この教育は待ったなしの状況なのです。社会人になったとき、ネットリテラシーを持っているかどうかは、いつからその教育が始まっているかによると思います。

情報漏洩の怖さや、スマホ(SNS)によってどのような犯罪に巻き込まれる可能性があるかを知っている。早い時期からそういった教育を始めておけばそれだけ、ネットリテラシーの高い社会人になるでしょう。

 

PROFILE
佐々木成三

1976年、岩手県生まれ。元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補。デジタル捜査班の班長として主にスマートフォンの解析を専門とし、サイバー犯罪の捜査にも関わる。また、数多くの重要事件捜査本部において、被疑者の逮捕、取り調べ、捜査関係者からの情報収集、被害者対策、遺族担当に従事し、数多くの実績をあげた。2017年、「事件を取り締まるのではなく、犯罪を生まない環境をつくりたい」という思いから埼玉県警を退職。現在は、多数のテレビ番組にコメンテーター、デジタル犯罪防止アドバイザーとして出演するほか、一般社団法人スクールポリス理事を務め、小中高生らが巻き込まれる犯罪を防止するための講演など、幅広い活動を行っている。

元捜査一課刑事が明かす手口 スマホで子どもが騙される

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  • 作者:佐々木 成三
  • 発売日: 2021/02/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)