子どもの世界にもストレスがたくさん! “自力で克服する力”の高め方

ふさぎ込む子ども

親は意外に知りませんが、子どもの世界にもストレスの要因が多数あります。そこで重要になるのが、ストレスをはね返す力の育て方。親に虐待を受けて心身に深い傷を抱えた子どもたちが共に暮らす、「土井ホーム」の方法論が参考になります。その手法は、一般の子どもにも通じるノウハウです。同ホームを運営する土井髙德氏に、「レジリエンス」を高める方法を3つ解説してもらいました。

ストレスを避けることはできない

子どもの生活でもストレスは常にあります。たとえば学校の先生に叱られた、テストの成績が悪かった、授業についていけない、大嫌いな先生がいる、運動が苦手で体育の時間がイヤで仕方ない、隣の席の子が意地悪してくる……。いずれも子どもにとって大きなストレスになります。

特に友だち関係でのトラブルは、「いじめ」にまで発展していないとしても、最近の子どもたちにとって大きなストレスになることが多いようです。

人間が暮らしていくうえで、身体や心に悪い影響を与えるような「ストレス」は当然少ないほうがいい。これは子どもに限りません。いろいろな側面からこうしたストレスを減らす取り組みは必要ですし、意味があると思います。

しかし苦手なことがあったり、あまり好きになれない人間がいるのは、社会で暮らしていく以上は当たり前。それを避けるには引きこもっているしかありませんが、それが「ストレスのない幸せな生活」かといえば、もちろんそうではありません。

端的に言えば、子どもでも大人でもストレスを避けることはできないのです。ストレスを避けることが正解なのではありません。

大事なのはストレスからの回復力「レジリエンス」

困難に負けない子を育てるのにまず大切なのは、子ども自身の強さを育てるということです。強さというのは次のようなことです。

  • ストレスへの抵抗力、逆境に負けない強靱な力、折れない心
  • 受けてしまったストレスからの回復力

これらの力は本来、人の中に備わっています。

こうした内面に本来ある強靱でたくましい力を「ストレングス」といい、しなやかな回復力を「レジリエンス」といいます。この「折れない心」や「復元する力」を健全に育んであげる(エンパワー)ことが重要です。

特に重要なのがレジリエンスです。時間がかかっても力を取り戻し、自ら回復できる本来の力。それは、ちょうど荒波に転覆したヨットが自動的に復元する姿に似ています。

その力を持っていれば、「なんだかイヤだなあ」と感じることが起きても、深刻な状態にはならずにすみます。

「レジリエンス」を高めるのは家庭環境

レジリエンスには個人差があります。生来強い子もいれば、環境によって強くなった子、逆に環境によって非常に弱くなってしまっている場合もあります。

子どもが成長し、やがて社会の中で充実した生活を送るためには、社会に出るなり降りかかってくるいろいろなストレスにたやすく負けない力を、子ども自身が培っていく必要があります。

それは、家庭の大きな役割だといえます。

土井ホームにやってくる子どもたちは、虐待的な養育環境で育っていますが、こうした力が弱い傾向にあります。虐待は「魂の殺人」と言われます。

子どもたちは、心身にたいへん大きな打撃を受け、その影響は長期にわたってその人生に暗い影を落とすからです。子どもは過酷な状況や苦痛から自分を守るために、自ら「感情」を閉ざしてしまいます。

ときには加害に転化して非行などの「行動」に走ることもあります。虐待から逃れられても、その過酷な経験は大きな心の傷になり、生涯にわたって対人不信などの後遺症に悩まされます。先ほどのストレスに対する力でいえば、レジリエンスが低いのです。

【レジリエンスを高める方法1】
「メタ認知」能力を高める

それでは、どうすれば、レジリエンスを高めることができるのでしょう。

第1の方法が「メタ認知」能力を高めることです。「メタ認知」は聞き慣れない言葉かと思いますが、要するに「自分自身」を認識することです。いい換えると、「いま自分はこういう状況にある」と認知することです。

人間は常に外界(自分の外の世界)を認知して行動しています。ただ、多くの場合、それは知らず識らずのうちに行われます。つまり、外界は認知するものの、外界を認知している自分自身は認知していません。

この外界を認知している自分自身を認知することが「メタ認知」です。

たとえば、あなたはこの文章を今読んでいます。この文章は認知しているわけです。しかし、一歩引いて考えると、この文章を読んでいるあなた自身という存在や状況があります。それを認識することが「メタ認知」です。

メタ認知がなぜ重要か。それはメタ認知によって自分をコントロールできるからです。「いま自分はこういう状況にある」「腹が立っている」「でも、ここで暴れても意味はないからガマンしておこう」という形で自分をモニターして、自分をコントロールすることができるのです。

つまり、メタ認知とは、「認知を認知する力」で、自分の気持ちや行動を客観的に見る力であり、自分の言動を制御する力です。

先ほど、虐待児童は生涯にわたって対人不信などの後遺症に悩まされるといいました。なぜそうなるかというと、虐待を受けて育つと、メタ認知の能力が育たなくなってしまうのです。

つまり、虐待を受け続けると、自分の気持ちや行動を客観的に見る力が育ちません。その結果、自分の言動を制御することができなくなってしまうといわれています。

子どもにメタ認知をさせるとは、たとえば「今、○○ちゃんは何どういう状況にいるのか考えてみよう」と誘導してあげること。子どもがそんなことできるわけはない、というのは思い込みです。

子どもにメタ認知をさせることで、自分の言動の理不尽さに気づかせることは可能です。悪いことをしたときにただ怒るのではなく、メタ認知を誘導することが重要です。

【レジリエンスを高める方法2】
「親子の応答」で安心感を与える

人間は必ずメタ認知能力を持っています。だから、成長する権利、発達する権利を周囲が保障してあげれば、必ずメタ認知能力が高まり、子どもは子どもらしく成長していきます。

また、なんらかの発達障害を持っている場合や、そうした傾向がある子どもは、もともとこの力が脆弱だと考えられています。ただ、生来この力が弱いとしても、子どもが十分な安心感をもてる安全な環境を保障することで、こうした力は少しずつ育っていきます。

つまり、メタ認知能力を高める上で重要なのは、安心感です。ここで必要なのが親子の応答です。

人との関係性を健全に保つことは、子どもの成長や発達にとって非常に大切な要素ですが、その基軸になるのが親子関係です。柔軟で弾力性のある、しなやかでたくましい心は、親子の応答の中で育ちます。

子どもは生まれてすぐに親に見つめられ、声をかけられて育ちます。生後まもなくの子どもはまだ視力が弱く、視野も狭くて視界はおぼろげです。それでも同じ顔がしょっちゅう近寄ってきて、同じような声を何度も繰り返し耳にしていると、「あ、おなかの中で聞いていたあの声だ」とわかるのです。

そのためには「親子の応答」で安心感を与えることが重要です。メタ認知とともにレジリエンスを高めるのが「親子の応答」なのです。具体的には、朝の挨拶のような当たり前のことを大事にしてください。

起きてくるなり「早く食べなさい」「なんで起きてこないの」「遅刻するわよ」「何度言ったらひとりで起きられるの」ではなく、まずは「おはよう」と、朗らかな声で言ってあげましょう。

「おはよう」「ごはんだよ」「たくさん食べなさい」「ゆっくりおやすみ」という日常の積み重ねは、すべての子どもたちの心を安定させます。だから、もし成長の過程でつまずくことがあっても、安全感にあふれた毎日の暮らしは、そうした困難を乗り越える力の基礎になります。

【レジリエンスを高める方法3】
「自尊感情」を育てる

そしてもうひとつ、子どもの発達にとって大切なのが「自尊感情」です。自尊感情というのは、自分で自分を「価値ある存在だ」と感じることで、自分自身を尊重できる感情です。自己愛(=ナルシシズム)とは違い、自分の存在そのものに価値を見い出せるということです。

この感情は、他者から大切にされた経験がないと育ちません。ここでも、まず大切なのは親子の関係なのです。

親に保護され、尊重されているということを通して、他者と自己の基本的な信頼感が形成されていきます。それが根底にあるから、人生を乗り越えていくことが可能になります。

これが子どもの発達の「普通」なのですが、わが「土井ホーム」に来る子どもはそうではありません。生まれてくるなり親にないがしろにされ、殴られたりしてきている。尊重されたり保護されたりした経験が乏しいために、「自分の価値」に気づくことがないのです。

つまり、自分に対する基本的な信頼感がないため、「自尊感情」が育ちません。そして、自尊感情と他者を信頼することは表裏一体の関係です。まず親に保護され、大事にされることで自分を尊重することを知り、それがあって初めて他者を信じることができる。自尊感情がないと、他者を信頼することさえできないのです。

自尊感情が育てば、他者に頼ることもできます。自分だけで解決できないときは、「この人に相談すればきっと助けてくれる」という判断もできるようになるのです。自立するということは、孤立することではありません。人とつながり、その相互性の中で人は生きているのです。

 

PROFILE
土井高徳

1954年福岡県北九州市生まれ。土井ホーム代表。学術博士。北九州市立大学大学院非常勤講師、福岡県青少年育成課講師、京都府家庭支援総合センターアドバイザー、産業医科大学治験審査委員会委員。ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞、福岡キワニスクラブから第24回キワニス社会公益賞を受賞。

ちょっとしたストレスを自分ではね返せる子の育て方

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