子どもが巣立つ前に伝えておきたい事―母からの“言葉の贈りもの”

親子が一緒に暮らす時間は意外と短いもの。親のあとをついてくるのが当たり前だったのに、あっという間に反抗期を迎えて会話がなくなり、そのまま親元を離れてゆく…。そんなふうに「子どもに伝えておきたいことが置き去りになったまま」というお母さんは多いかもしれません。子育て関連の執筆・講演活動を精力的に行っている若松亜紀さんによる、息子さんへの「言葉の贈りもの」をご紹介します。

「しないこと」より「すること」に注目して、夢に一歩前進

英語がペラペラになりたい。やせてきれいになりたい。お金持ちになりたい。生きていると、いろんな欲求が芽生えます。「夢」とも言い換えられます。

欲を持つのはすばらしいことです。君も自分が成長できるものをどんどん持ってください。なぜならそれは、命のガソリンになるからです。

歌好きが高じてアイドルになった少女も、魚博士になり、絶滅と言われたクニマスを発見したさかなクンも、世界最高齢でエベレスト登頂に成功した三浦雄一郎さんも、スタートはみんな「欲」です。君もたくさんの「したい」を見つけ、好奇心いっぱいに生きてください。

さて、それを叶える、よい方法があります。それには、「しないこと」より「すること」を決めるんです。すると何をしたらいいか、はっきりします。

秋田の小学校で「クマ対策講習会」がありました。人里まで下りてくるクマが増え、登下校の子どもたちもバッタリ出くわすかもしれないからです。

講師は猟友会のおじさんです。

「死んだふりはいけません。死にます」で笑いを取ったおじさん。

気を良くしたのか流れるように話します。

「鈴もそれほど効果はねえ。背中を見せて逃げてもいけねえ」

いろいろ教えてくれるのですが、子どもたちは困り顔。クマに会ったらどうするか、具体策がつかめません。

理由は簡単、おじさんが言うのは「しないこと」ばっかりだからです。

するとおじさん、最後にナイス発言をしました!

「放課後は集団でまとまって帰れ。そんでクマに会ったらみんなして、カサを突き出し、ばっと開け。クマは大きいものが怖いから、驚いて逃げだすど〜」

困り顔が「そっか!」に変わりました。「すること」がわかったからです。

欲や夢、目標を持ったら「しないこと」より「すること」を決めてください。

ダイエットも「ケーキを食べない」の「しない系」は失敗しやすく、「食べたくなったら歯みがきする」の「する系」が成功しやすいんだって。かつて朝バナナダイエットがはやったのも、することが明快だったからです。

「すること」を決める

それだけでぽーん! と未来へ跳び出せます。

「反省会」より「どうするかい」で、力とアイデアがあふれ出す!

小さい頃から、事が終わると「反省会」がありました。

野球の練習試合の後は「石につまずいてこけたのが悪かったと思います」

学校の終わりの会でも「しん君に笑わせられて鼻から牛乳が出ました」

そのせいか、大人になっても「今日、一人反省会だから」としみじみ缶ビールを傾ける人がいます(だんなだ)。

けど、思うんです。「大事なのは、これからだべさ」と。だって牛乳が噴出したのは終わったことです。それを鼻に(口にか?)戻すことはできません。

この先こけないためにどうするか、笑わせ攻撃にどう対抗するか。頭を使うべきはそこ、「次、どうする?」です。

これに関して、姉ちゃんの塾の先生がすばらしかった!

姉ちゃんは高校入試を前に塾通いをしました。ところがある日のテストで、第一志望の高校に50点足りないことが判明! 姉ちゃん、母ちゃん、先生の3人で話し合いがもたれました。

「50点足りないな」

先生が切り出すと姉ちゃんは、散る間際のチューリップのようにうなだれて答えました。「はい……がんばってはいるんですけど……。英語とか、なかなか点数取れなくて」

頭のまわりに「どよ〜ん」という字が見えるようです。

しかし、反省会はここで終了。先生はここからサクッと次の対策=「どうする会」に移ったのです。

「50点ということは、1教科10点上げればいいということだ」
「へ?」

下を向いていた姉ちゃんの目が、先生をとらえました。

「10点なら、なんとかなると思わないか」
「思います」
「英単語は1問2点だ。何個書けたら10点だ?」
「5個です」
「それならできそうか?」
「できます!」
「よし、じゃあ英語は単語を覚えよう。1日何個なら覚えられる?」
「10個なら!」

面接室に入るとき、床の木目しか見えないほどだった姉ちゃん。出る頃には先生をまっすぐ見つめ、ほっぺをぴっかぴかに光らせていました。

先生は知っていたんです。テストは終わったこと、大切なのはそれを踏まえて何をすればいいか、なのだと。

だから、「反省会」より「どうする会」です。

困ったことがあったら「どうするかい?」って人に自分に問いかけてごらん。「グラウンド整備で石も寄せる」「先に笑わせる」…「これから」のアイデアと、たーーーっくさんの勇気があふれ出します。

わかっているのにやらかした…そんなときは「プレイバック法」

ふるまいや言葉選び、しくじるときってありますよね。あるいは、「そう来る?」というとき。母ちゃんが開く子育てサロンに来た、りょう君もそうでした。

りょう君はおむつ外しの真っ最中。遊びに夢中でおもらしをしました。隣の部屋でパンツを替えながら、ママはどっかん大噴火!

ママ「だからトイレに行こうって言ったでしょ!」
子「ごめんなさい」
ママ「お母さんにじゃなく、若松さんに謝ってきなさい!」

りょう君、湯気を上げるママ……いえ、湯気を上げる床を拭く私のもとへやってきました。そうしてしばし作業を眺めたのち、やっと思い出したようです。「あ、ぼく言いにきたんだった!」

そうして思いを込め、真剣なまなざしできっぱり口にしました。

「がんばれっ」

さらにママが炎上したのはご想像の通りです。

こんな場面で効くのが「プレイバック法」です。「戻って」「1回」やり直すんです。

この場合なら、

①「がんばれっ」発言の前に戻る
②ママが「言うのは『ごめんなさい』だよね」と確認
③りょう君、再チャレンジ

これだけです。

することがわかっているなら、落ち着いてやればできます。
「どうするんだっけ?」だけでいける子もいます。一旦リセットすると冷静に向き合えるからです。

君もこれから社会に巣立ち、いくらでも未知なる体験をします。友だちの結婚式に招かれ、ご祝儀袋を自分に向けたまま渡しそうになることもあるでしょう。そんなときにプレイバック。

①袋を引っ込める(前に戻る
②やり方を思い出す(確認
③相手に向けて渡す(再チャレンジ

誰かが逆向きにしていたら「どうするんだっけ?」と声をかけてやって。それで気づくかもしれないし、意味不明な顔をしていたら「こうするんだよ」とやって見せます。後輩指導も同じです。

「練習」とセットにすればよりカンペキ。先に「練習」、トチったら「プレイバック」。これで体にしみこみます。

一番の親孝行とは…

命を大切にしてください。自分の命も、他人の命も、です。これは世の母親すべてが願っていることです。全員に聞いてはいませんが、確信があります。なぜなら生命を生み出すのは、女である母ちゃんたちだからです。

「出産は鼻からスイカを出すくらい痛い」と言われます。そんなの想像できますか? 母ちゃんはできません。

そんな苦痛を乗り越えて生まれた君。ようやく会えた顔を眺め、意識もうろうとしながらも深く深く感じ入りました。

「踏まれたおにぎりみたい」。産道狭かったですか?

それでも「生きよう」と必死にお乳に吸い付く君が愛しくて、「この子を守る」と誓ったのでした。

仙台に実家のある知り合いが、震災の後こんな話をしてくれました。

「小さな子どもが二人いる友人がいてね、震災のとき大変だったんだって」

その「大変」は母ちゃんの想像を絶するものでした。

その友人の住む借家は海から距離がありました。津波情報は耳にしたものの、ここまで来ないだろうと、子どもたちと家にとどまっていたそうです。

ところがです。自然は予想を超えました。津波は達し、勢い借家は壊れて水に浮いた状態に。母子三人がいる2階にも海水が入り込みました。

「ここにいたら、水でやられる!」

そう判断した彼女は、子どもたちを抱え、屋根に這いあがりました。

ざぶ〜ん、ざぶ〜ん、そこにも波がかかります。大人であれば踏んばることもできるでしょう。ですが子どもはすべり落ちるかもしれません。まして小さな体に波をかぶり続けたら体温はどんどんうばわれます。それは彼女も百も承知のこと。ですが、二人を抱き続ける体力はありません。

そこでどうしたか?

彼女は右手に一人、左手に一人を抱え、波が来るたび腕を左右交互に上げ下げし一人ずつ波を避け続けたのです。屋根の上で漂流しながら、一晩中、ずっと。

暗幕のような闇の中、どんなにか心細かったでしょう。

朝日がさすのが、どんなにか待ち遠しかったでしょう。

どれくらいたったでしょうか。闇が白んできた頃、ごつん! 三人を乗せた屋根は何かにぶつかって止まりました。よその家です。

するとその家の2階の窓ががらりと開きました。中にいたのは見ず知らずの老夫婦。その方たちが中に招き入れてくれ、母子三人ようやく命をとりとめました。

「おじいちゃんとおばあちゃんが自分たちの服を貸してくれてね。水浸しの服を脱いで、それに着替えたの。その服、二人のにおいが染みついていてね。それ嗅いだら『あ〜、私たち生きてるんだ〜』って急に涙があふれてきた」

そう言って彼女は、体温を確かめるようにしみじみと子どもたちの頬をなでたそうです。

これを聞いて母ちゃんは、命を守ろうとする母親の執念を感じました。どうしてもこの子を生かしたい。小さくとも大きい、命の炎をつなぎたい。その一心で真っ黒な津波に立ち向かった女の、燃えたぎる思いを。

君の命は貴いんです。そうして誰の命も、まぎれもなく貴い。

一番の親孝行を知ってる? それは、親より長生きすることです。

親より先に逝ってはいけません、絶対に。

もしも……。もしもだよ。もう死んじゃいたいと思ったら、母ちゃんを思い浮かべて。お乳を吸う君を、愛おしく見つめる母ちゃんを。

命とはありがたいもの、大切にすれば死ぬまでもちます。母ちゃんからの一番の贈り物なんだからさ、尽きるまで大事にしてね。指切りげんまん!

 

PROFILE
若松亜紀

秋田県は、小京都角館や乳頭温泉で有名な仙北市生まれ。子どものころから「子どもが大好き!」。大学卒業後、7年間幼稚園に勤務するも、閉園により退職。その後出産・子育ての経験から、2005年、自宅を開放し「親子の集いの場・陽だまりサロン」をオープンさせる。2019年、秋田県児童会館「みらいあ」副館長に就任。著書に『これだけで子どもが変わる魔法の“ひと言”』(学陽書房)、佐々木正美さんとの共著『「ほめ方」「叱り方」「しつけ方」に悩んだら読む本』(PHP)、連載に「1,2,3歳」(赤ちゃんとママ社)等がある。直接会えないお母さんには本や講演で元気を届けたいと、日々「親も子も笑顔に!」をモットーに活動中。一姫二太郎の母。

 
巣立っていく君へ 母から息子への50の手紙

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  • 作者:若松 亜紀
  • 発売日: 2020/03/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)