一般社団法人「輝きベビーアカデミー」代表
テーブルの上に乗る、お友だちをたたく、道路で走り回る……。子どもが起こすこうした問題行動について、頭を悩ませるお母さんも多いでしょう。問題行動を放置すると、家族だけでなく周囲の人々にまで迷惑をかけてしまうこともありえます。しかし、ダメと言ったからといって簡単にはやめることなどなく、解決策が見つからないから厄介です。今回は、一般社団法人輝きベビーアカデミー代表の伊藤美佳氏に、子どもの問題行動への対処法を教えてもらいました。
ダメと言われると逆にやりたくなる
目が離せない年齢の子どもを抱える親御さんは、一日に何度もダメという言葉を言ってしまいがちです。
しかし、ダメという言葉を発しても、ほとんどの子どもは困った行為をやめません。それどころか、走っちゃダメと言われると走り出したり、テーブルの上に乗っちゃダメと言われると乗り出したりします。
なぜ、親がダメというほどやりたがるのでしょうか。
仮に「ピンクの像を想像しないで」と言われたとしましょう。頭の中は「ピンクの象」でいっぱいになります。脳には否定語が通用しないので、「ピンクの象」のほうが強化されてしまうのです。
ダメという言葉以外に、「危ないよ」「ケガをするよ」と注意するお母さんもいますが、子どもには無意味です。子どもは、たいしたことがないと思っています。
命に関わる危険な行為をしない限りは、ダメという否定語は使わないようにしましょう。
ダメなことを叱らずにやめさせる3つの方法
問題行動を目にすると、子どもを叱りたくなってしまうかもしれません。やってほしくないことを叱らずにやめさせる方法を3つ解説します。
方法1.してほしいことを伝える
ダメという言葉を使う代わりに、してほしいことを伝えましょう。たとえば、テーブルの上に乗ってほしくないのであれば、別のイスに座ってほしいことを伝えたり、ママのそばにいてほしいことを伝えたりします。
ただし、子どもには同じ手が通用しません。一度放った言葉は、二度と使えないと心得る必要があります。
試行錯誤しながら、ボール遊びやお絵描きなど、さまざまな言葉を使うようにしましょう。
方法2.問題行動に意識を向かせる
頭でわかっていても、ダメだと叱ってしまったり、叩いてしまったりする気持ちはわかります。でも、怒りたくなったら、ダメと言われた子どもの気持ちになりましょう。
叱ったり叩いたりすると、子どもの意識は母親の行動や顔に向き、不快な情報を排除するほうにエネルギーを使ってしまいます。問題行動に子どもの意識を集中させなければ、やめるようにはなりません。
やめさせたいことに意識を向けさせるには、問題行動をやめるメリットを言葉で投げかけます。
たとえば、指しゃぶりをしている子どもがいるとしましょう。その場合、指しゃぶりをしたら叱るのではなく、指しゃぶりをやめると歯並びがきれいになることを教えます。
問題行動をやめてくれたら、わかってくれたことに対して、感謝の言葉を伝えましょう。すると、子どもは認めてくれたことに満足して、良い行動が習慣化されていきます。
方法3.悪かったと思うチャンスを奪わない
幼稚園に勤務していたとき、年長クラスにL君という男の子がいました。L君は元気がよく、周囲の子どもに命令してたたくクセがあり、問題児として認識されていました。
私のアドバイスを聞き入れてくれた担任の先生は、L君の行動について何も言いませんでした。その後、L君は問題行動をやめず、やがて友達から無視されるようになります。
普通の大人であれば、この段階で問題を解決したくなってしまうでしょう。しかし、無理やりL君に謝らせても、L君は悪かったと思わない可能性があります。
担任の先生は唯一、みんなの役に立つお手伝いをL君に続けさせました。すると、やがてL君は心穏やかなクラスのリーダーになったのです。
子どもは自分の気持ちを受け止めてもらって初めて、良い行動がとれるようになります。問題行動をやめさせるには、悪かったと思うチャンスを奪わないことが重要です。
【ケース別】問題行動への対処方法
ダメという言葉を使っても、子どもが言うことを聞かないケースはたくさんあります。具体的な事例をあげて、問題行動をやめさせる対処方法を確認してみましょう。
ケース1.買い物のおねだり
スーパーで買い物をするとき、子どもにおねだりされるケースもあるでしょう。お母さんにとっては定番の悩みです。一般的には、絶対に何を言われても買わないと決めている方や、根負けして買い与えてしまう方がいます。
買い与えてしまうのは、教育上よくないと言われることもありますが、絶対に買い与えていけないわけではありません。
大切なのは、教育のために良いか悪いかではなく、おねだりに応じることでお母さんが困るか困らないかです。つまり、お母さんが自分で決めてかまいません。
正しい答えを考えるより、自分の気持ちを大切にしてください。正解を考えると辛くなってしまうし、子どもを見ていないことになります。
たとえば、おもちゃ売り場で子どもにおねだりされたとしましょう。お金がなかったり、子どもに文句を言ったりするのであれば、買わないほうが無難です。気持ちよく買ってあげられるなら、買ってあげてください。
子どもは心から満足すると、買ってとは言わなくなります。
ケース2.兄弟げんか
兄弟げんかをやめさせたいというお母さんも多いでしょう。けんかは人間関係を学べる機会ですが、あまりにうるさいと、お母さんはイライラしてしまいがちです。
子どもの泣き声を聞くと、解決したくなるかもしれませんが、我慢しましょう。
けんかの状況を見ていない親が判断すると、余計にこじらせてしまいます。その場の状況だけで誰かを悪者にしたり、責めたりしてはいけません。
一番効果がある方法は、外でけんかするようにお願いすることです。お母さんが不快な気持ちになるから、家の中ではケンカしてほしくないことを淡々と伝えます。
すると、子どもは外でけんかをしたがらず、当事者で話し合いを始め、いつの間にかけんかが終わります。話し合いで解決策を探る経験は、社会の縮図を学べる良い機会でもありますので、ぜひ試してみるとよいでしょう。
注意点として、年上の子が年下の子に意地悪をしている場合もありえます。その場合、年上の子に言い聞かせる必要があります。
ただし、その場では言ってはいけません。年下の子ばかりかまうお母さんに対して、やきもちをやいている可能性があります。
お風呂に二人で入ったときや、年下の子が寝たタイミングで、ケンカの内容について思っていることを教えてもらいます。悪かったと思っていれば、謝ることも検討させます。
ケース3.子どもどうしのトラブル
おもちゃの取り合いは、子どもどうしのトラブルとして珍しくはない光景だといえます。子どもにとって、友達が遊んでいるおもちゃは楽しそうに見えるのです。
楽しそうだと思うと、遊んでいる友達が見えなくなります。おもちゃしか目に入らなくなり、奪ってしまうのです。
お母さんとしては謝らせてしまったり、叱ってしまったりするかもしれません。しかし、本能にもとづく行動であり、叱ることでもありません。
「今この子が遊んでいるから終わってからね」と声をかけましょう。それで子どもが理解すれば理想的です。
私のスクールでは、ケースによっては子どもどうしのおもちゃの取り合いを見守り、おもちゃを取った子に遊ばせてしまうこともあります。もちろん、おもちゃを取られた子は大泣きです。
しかし、泣いている子どもがいる中で遊んでも楽しくありません。最終的に、おもちゃを取った子どもは、自分から返してしまいます。
人が遊んでいるものを取ってはいけないと学んでもらえます。大人が介入して怒ってしまえば、何が悪いのか学べなかったでしょう。
このように、子どもにダメなことをやめさせるには、大人が介入せずに見守ることも大切です。ただ、子どもの周りで倒れたら危ないものや、ひっくり返ったときに頭を打つものなどがないことを事前に確認しておきます。
周りの環境を整えたうえで、子どもの問題行動を見守るようにしましょう。
(株)D・G・P代表取締役。0歳からの乳幼児親子教室「輝きベビースクール」や「輝きベビー保育園」を生んだ「一般社団法人 輝きベビーアカデミー」代表。幼稚園教諭1級免許。日本モンテッソーリ協会教員免許。保育士国家資格。小学校英語教員免許。NPO法人ハートフルコミュニケーションハートフル認定コーチ。サンタフェNLP/発達心理学協会・ICNLPプラクティショナー。日本メンタルヘルス協会認定基礎心理カウンセラー。自身の子どもがモンテッソーリ教育の幼稚園で素晴らしい成長を遂げたことに感銘を受け、モンテッソーリ教師の資格を取得。保育園・幼稚園に通算26年間勤務。乳幼児教育の専門家として多方面に活躍している。著書に『引っ張りだす!こぼす!落とす! そのイタズラは子どもが伸びるサインです』(小社刊)がある。

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