「高尾山で遭難」はレアケースではない――やってはいけない山歩き

山歩きする人たち

山歩きは老若男女を問わず手軽な趣味として人気です。低山であればリスクは少ないと思うかもしれませんが、実は山は高低にかかわらず遭難する可能性があります。安易な考えで山に登ると、思わぬアクシデントで家族や知人に迷惑をかけてしまうことになりかねません。日本山岳文化学会常務理事の野村仁氏に、低山で発生する遭難について解説してもらいました。

「疲れて歩けない」で救助要請

「○○山で△人が遭難し、うち□人が死亡」――。このようなマスコミの報道を耳にすると、遭難に対して悲惨で恐ろしいイメージを抱くことでしょう。

一般的に山の遭難といえば、絶壁から落ちる「転落」、アイスバーンを滑り落ちる「滑落」などがイメージできます。そのほか、風雪の中で体温が奪われて動けなくなったり、巨大な雪崩に飲み込まれたりするケースも思い浮かぶでしょう。

しかし、実際の登山やハイキングでは、もっと軽い例で遭難している例が多くあります。具体的には、「疲れて歩けない」という理由で救助を要請する方もいるくらいです。

この理由で救助要請が多発している山は、一番人気の高尾山(東京都)です。高尾山では、登山途中に気分が悪くなり、動けなくなって救助要請する人が多くなっています。

高尾山で観光客が救助を求めたとき、消防署に設置されている山岳救助隊が出動して対応すると、山岳遭難としてカウントとされます。

このように低山では、疲労や体調不良のような軽い症状によって遭難することがあるので、決して油断できません。

低山で遭難してしまう3つの理由

低山で遭難を回避するためには、遭難の理由を知ることが重要です。低山で遭難してしまう理由を3つ解説します。

理由1.転倒

転倒は、転んでその場で止まり、転落も滑落もしない状態です。整地されていない道を歩く最中に、浮き石にのったり、踏み外したりして転んでしまいます。

転倒事故が起こっているのは、特別に危険箇所とはいえない一般登山道や木道、平坦な場所です。初歩的なミスが転倒につながるので、一歩一歩に集中して転倒の原因になるものを避けて歩くことが大切です。

理由2.道迷い

道迷いは、正しいルートから外れて現在位置がわからなくなることです。ただし、それだけでは遭難とはいえません。

自分で正しいルートに戻るのを断念して救助要請をすれば遭難となります。それほど迷いやすくない普通のルートで、ミスをして迷う方が多い傾向です。

暗い山道をライトで歩くと、道迷いのリスクが何倍にも高まります。道迷いのリスクを減らすためにも、日没の2時間前に下山できるように計画を立てましょう。

登山計画書

理由3.疲労・病気

登山やハイキングは平地での生活に比べて体に大きな負担がかかることから、さまざまな疲労・病気が生じます。

疲労の例は、脱水や熱中症、脚のけいれんなど、病気の例は、心臓病や脳卒中などが挙げられます。

こんなにある低山の遭難事例

「どうして、こんな所で…?」という場所で起こった遭難事例は、危険を事前に回避するための反面教師になります。低山で起こりやすい遭難事例をご紹介します。

事例1.丹沢山地(神奈川県)

神奈川県西部にある丹沢山地は、首都圏の登山者やハイカーに人気のスポットです。最も登山者の多い山として塔ノ岳(1,491m)があります。

遭難した登山者は男性3人(70~71歳)です。男性たちは、午後3時ごろに塔ノ岳の山頂に到着しました。あとは登山口までまっすぐに下りるだけであり、特に問題がないはずでした。

しかし、約2時間30分後、見晴茶屋という山小屋のある所まで下って、彼らは歩けなくなりました。なぜなら日没に際して、誰も灯りにできる道具を持っていなかったからです。

連絡を受けた家族が最終的に警察署に通報し、午後8時に山岳救助隊に救助される騒ぎになりました。

男性たちは、ケガをして歩けなくなったわけではありません。それにもかかわらず、遭難してしまったのです。

事例2.房総半島のハイキングコース(千葉県)

現代登山史において有名な中高年グループの遭難事件です。11月の夜、千葉県・房総半島のハイキングコースで、30人のハイカーがこつぜんと姿を消して行方不明になりました。

山を知っている人であれば、大きな遭難ではないと気づいたかもしれません。コースを間違えて時間をロスし、夜になってしまったことが想定できたからです。

結果として、翌日の朝には遭難者から連絡が入り、全員の無事が確認されました。

遭難の理由は、ルートがわからなくなって、山中で迷ってしまったことでした。いわゆる道迷い遭難です。正しい方向がわからなくなって途中で引き返し、焚き火を囲んで夜を明かしていました。

下山口の清澄寺では対策本部が設置されており、警察・消防・機動隊など約300人が動き始めていました。

下山した遭難者たちは、報道陣から道に迷った理由や計画の不備、責任の所在などについて、質問を浴びせられました。このように低山といえども遭難はつきものであり、一歩間違えれば大ごとになってしまうので注意しましょう。

低山の遭難を回避するためには?

ルートを間違えて道に迷っても、まだ遭難ではありません。

自分たちで脱出できず、行動不可能になったとき、はじめて遭難とみなされます。また、入山したまま消息不明となって、家族や職場などの関係者が捜索依頼をしたときも、遭難とみなされます。

つまり、自分たちが遭難したと思っていなくても、通報されてしまえば遭難とみなされてしまうということです。反対に通報されていなければ、遭難とみなされません。

しかし、下山が遅れたときは関係者が心配します。仮に登山者と連絡が取れなければ、通報されてしまう可能性も高まるでしょう。

したがって、低山で遭難を回避するためには、連絡が取れなかった場合の対応を関係者の間で取り決めておくことが大切だとわかります。

たとえば、下山が遅れたときに、「翌日〇〇時までは待機する」というルールを共有しておけば、遭難騒ぎに発展するリスクが軽減されます。

気軽さを求めて低山に登ったのに、遭難騒ぎで多大なストレスを受けるのは本末転倒です。低山ならではの遭難リスクを知っておき、適切な対策を怠らないようにしましょう。

 

PROFILE
野村仁

1954年、秋田県生まれ。1990年ごろより『山と渓谷』などを中心に活動している編集者・ライター。この5年ほどは、山岳遭難関係の記事を中心に執筆している。学生時代に登山を始め、登山歴は約30年。最近数年間はフリークライミングに熱中。里山歩きからテント泊縦走まで、幅広く登山を行なっている。日本山岳文化学会理事(遭難分科会、地名分科会メンバー)、編集室アルム代表。

やってはいけない山歩き (青春新書プレイブックス)

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  • 作者:野村 仁
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: 新書