5年生から急に勉強が苦手になる「10歳の壁」を乗り越える方法

詰められている子ども

それまで学校の勉強にも問題なくついていけていた子どもが、小学5年生ころから急に苦手意識をもってしまい、それが引き金となって問題行動に走ってしまうことがあります。そこには、子どものアンバランスな精神面での成長が関係しているのです。処遇困難な子どものケアに取り組んでいる土井ホーム代表の土井髙德先生に、この「10歳の壁」を乗り越える方法を解説してもらいました。

自分を客観視する「メタ認知能力」とは

「10歳の壁」という言葉があります。これは、まず学習面での「知的な壁」を指します。小学4年生までは学習内容を理解し、授業に十分ついていけて、成績も上位にいる。このような子どもでも、10歳、つまり小学校5年生になると急についていけなくなり、成績が下降することがあるという意味です。

また、10歳の壁というのは、単に「勉強が難しくなる」ことだけで起きるわけではありません。勉強についていけない場合、子どもが「ほかの友だちより勉強が苦手だ」「成績が悪い」ということに、自分自身で気づく時期でもあるからです。

それまでは多少親に文句を言われても、テストの点が悪かったことをさほど深刻に考えないものです。「親に叱られるのはイヤだ」と思っても、根本的に自覚しているわけではありません。親が「いいよいいよ、40点なら上出来だ」と言っていたら、それで本人はごきげんになってしまう。

しかし10歳ごろになってくると、親がもし「いいよ」と言っても、自分自身で「これはまずい」という気持ちになります。他人と自分を客観的に比較したり、勉強ができないことでバカにされていたりして、なんとなく「わかって」くるのです。

これは「メタ認知」という能力が育ってくるからです。つまり、自分自身を客観的に見る「もうひとりの自分」が自分の中にいるということです。自分自身の行動を、俯瞰して見ることができるようになります。

だから子どもはこの時期以降、不安定になりやすいのです。

「10歳の壁」を乗り越えるには

この「メタ認知能力」は、自己モニターと自己コントロールの力から成り立っています。これによって自分の弱さや劣等感に気づくのです。

もっとも、メタ認知能力が育まれていれば、「なるほど、この部分は◯◯君のほうが優れているけど、自分にはこういういい部分がある」というように、自分で洞察して問題解決ができます。

つまり、「10歳の壁」はメタ認知能力の2つの観点を表しています。一方では自己モニターで、他方は自己コントロールです。

両者のバランスが良ければ問題ありません。ただ、これがアンバランスだと問題が生じます。特に自己モニターが先行し、自己コントロールが伴わないと問題行動に走ってしまいがちです。

では、「10歳の壁」を乗り越える方法を考えていきましょう。人間はさまざまな姿勢、スタンスで他人に接します。石のような態度、柔らかなゴムのような態度などなどです。

こちらが「石」だと、相手がぶつかってきたときに硬すぎて、まったく受けつけずにはね返して傷つけてしまうことになります。かといって軟らかすぎるとグニャリとなって応答できません。

反抗期、思春期の子どもは、誰でも親に反発し、怒りをぶつけてきます。このとき、親は「硬質のゴム」くらいの意識でいましょう。そうすると、相手がぶつかってきても怪我はさせずにすむし、しっかり受け止めて、それをきちんと返すことができます。

こうしたときに、あなたが硬質のゴムの意識で「受け止める」「丁寧に返す」という態度を一貫性のある姿勢で保持し続けていることが重要です。ある時は石で、ある時はグニャグニャのスライムでは正しい応答ができません。

いいところ探しを習慣づける

親の気持ちが疲弊していると、どうしても子どもの欠点にばかり目が行ってしまいます。小さなことから大きなことまで、あれもこれも欠点に見えてきます。

そんなときは、気分転換も大事ですが、子どもを1日3回以上ほめることをお勧めします。「ほめるところなんて、そんなにないわよ! 欠点ならいくらでも見つかるけど!!」と言いたくなるかもしれません。

でも、欠点というのは実は長所の裏返しですから、欠点が多いほどいいところも見つかるはずです。たとえばこんな感じです。

◎なにをやっても遅い→冷静であわてることがない
◎落ち着きや集中力がない→好奇心旺盛で興味が多方面に向いている
◎人の意見を全然聞かない→自立心が旺盛で意思がしっかりしている
◎騒いでばかりいてうるさい→にぎやかで楽しい
◎ボソボソ言ってはっきりしない→穏やかで優しい

欠点を探すつもりで見れば欠点でしかないことも、見方を変えればすべて長所になる可能性があります。

なんとなく気持ちがネガティブで子どもの欠点ばかりが目につくときなどに、ぜひやってみてください。これを習慣づけることで、必ず子どもとの関係にいい変化が生まれます。

子どもの成長は〝らせん階段〟を上るイメージ

子どもは必ずしも一直線に成長していくとは限りません。たとえば「朝起きたら挨拶をする」とか「歯を磨く」といった生活のルールを教え、やっとできるようになったかな、と思ったら、次の日はできなかったりします。

できる日、できない日を繰り返して、「もう大丈夫かな」と思ったら、あるときからまた全然できなくなってしまう……。このようなことはよくあります。

けれど、どんな子どもも一直線に右肩上がりで成長していくわけではありません。まっすぐな階段を一段ずつ上っていくのではなく、らせん状になった階段を遠回りしながら上っていくのです。

私はこれを「円環的成長モデル」と名づけているのですが、このイメージで考えてみてください。最短距離でまっすぐ上るのではなく、ぐるっと遠回りだけど、勾配のゆるやかな階段をゆっくりと上っていく。それを着実に上っていけばいい。

大人は、「なんでぐるっと回っちゃうの? なんでそこでひと休みするの? こっちの階段ならすぐに上に着くのに」と考えてしまいがちですが、子どもの成長とはそういうものなのだ、と考えてください。

そうイメージしておくと、気持ちが楽になるのではないでしょうか。

「10歳の壁」を突破する3つのテクニック

「10歳の壁」に限らず、子育てで重要ないくつかのテクニックがあります。ここでは3つのテクニックを紹介します。

[1]スモールステップ―「小さな目標」を積み重ねて高い目標に導く

勉強に限らず、子どもの成長には個人差があります。その子の個性や成長速度に合わせた計画を立てて、導いていくことがとても大事です。

子どもを成長させたいと思うなら、いきなり高い目標を一方的に立てるのではなく、少しがんばれば必ず実現できる小さな目標を立て、それができたら次の目標をつくる、という方法が最も効果的です。

これを「スモールステップ」と呼んでいます。どんな小さなステップでも、できたら必ずほめましょう。

大事なのは、必ずできる小さな目標を立てること。それをひとつずつ達成しながら次に進んでいけば、子どもは小さな達成感を積み重ねて、最終的に高い目標に到達できます。目標を実現したという達成感、満足感を頼りに進んでいけるのです。

こうした、「スモールステップ」を大事にしてください。

[2]あらかじめの約束―感情や行動をコントロールできる

メタ認知の導入には「約束」も重要です。たとえば、昔ながらの光景ともいえますが、スーパーなどのお菓子コーナーの前でひっくり返って「買って買って」と大泣きする子どもがいます。

あまりにひどいと親は周囲に気兼ねして、結局根負けして、なにか小さいものを買い与えて静かにさせようとすることもあるでしょう。

ただ、これは結局子どもに、泣いて騒げば必ず好きなものが手に入る、ということを教えてしまい、その行動を強化してしまいます。

子どもにそうした傾向が見えたときは、「予告をする」「約束をする」ということを試してみてください。

「今日はスーパーへ一緒にお買い物にいくけど、これとこれを買う日だから、ほかのものは買わない」と予告します。メモに「買いものリスト」と「ほかのものは買わない日」と書いて、お財布に入れておいてもいいでしょう。

子どもは、なにかをほしがりはじめたときにダメだと言われても、「ほしいと言っているのに、なぜダメなのかわからない」と考えます。

でも、「今日はこれとこれだけ買う日だから」というついさっきした約束があれば、それでかなり納得できるものです。話してきかせれば幼児でもわかるので、「どうせ約束しても同じ」などと考えず、向き合ってあげてください。

そして、ほかのものを買わずに帰ってくることができたら、「今日は約束をちゃんと守れて、ホントにえらかったね」とほめてあげましょう。ただし、約束は一番多くても3つまで。約束が多すぎると逆効果になります。

[3]傾聴タイム―子どもの言うことをただ聞くだけでいい

意識的に子どもの話を「ひたすら聞く」という時間をつくることもおすすめです。これを「傾聴タイム」と呼んでいます。

子どもの話は「ただ聞く」だけでいいのです。話の途中で意見を言ったり、批判もアドバイスもしたりする必要はありません。「傾聴タイム」ですから、うん、うんとうなずいて聞いてあげるだけでいいのです。

できたら、相槌をうまく打ってあげてください。相槌が子どもの感情に言葉のラベルを貼ることになり、ひいては自省の力を養います。

アドバイスの内容より、相手が自分の話に耳を傾けてくれた、解決策を考えようとしてくれたというだけで、気持ちに整理がつくことも多いのです。

親でも教師でも、子どもの疑問、質問、悩みにすべてその場で即答できるものではありません。少し時間を置いて回答するという方法は、戦前の師範学校の教師向けマニュアルにも紹介されていた方法です。

 

PROFILE
土井高徳

1954年福岡県北九州市生まれ。土井ホーム代表。学術博士。北九州市立大学大学院非常勤講師、福岡県青少年育成課講師、京都府家庭支援総合センターアドバイザー、産業医科大学治験審査委員会委員。ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞、福岡キワニスクラブから第24回キワニス社会公益賞を受賞。

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