スマホがあれば地図はいらない!? 登山で絶対やってはいけないこと

登山中の男性二人

登山では、非日常的な空間に出向くことから、日常生活の常識が通用しないことがあります。情報収集の方法や服装を誤ったり、登山中に考えなしで行動したりすると、危険な状況に陥るケースも少なくありません。そこで今回は、日本山岳文化学会常務理事の野村仁氏に、登山で遭遇する危険をおさらいしてもらいつつ、登山でやってはいけないことを解説してもらいました。

登山で遭遇する危険

登山は、新鮮で開放的な景色を楽しめるのが魅力ですが、いたるところに危険が潜んでいます。まずは、登山で遭遇する危険を確認してみましょう。

遭難

登山やハイキングをしている人の中には、自分だけは遭難しないと思っている方もいるでしょう。しかし、遭難の危険性は年齢や性別、経験によらず、誰にでも平等にあります。

たとえば、分岐点を一つ見落としただけで道迷いになります。普通のルートでもミスが起こるから厄介です。

また、転倒が遭難につながることもあります。転んだときに、岩に頭や手足を強打したり、とっさに手をついて手首を骨折したりする事故が発生します。

ケガをした状態で下山するのは危険な場合もあり、救助要請をするのが無難です。

このように遭難の多くは小さなミスから起こっています。高山だけでなく低山でも遭難のリスクがあるので、登山をするときは他人事だと思わないことが大切です。

体調不良

登山やハイキングでは、平地の生活に比べて体に大きな負担がかかり、体調不良を引き起こすことがあります。たとえば、低体温症です。

低体温症とは、低温の環境下で体温が維持できなくなる状態をさします。体温を下げる要因は、低温や風、濡れの3つです。

心臓・肺・脳の温度を基準としたコア体温が36度に下がると、寒さを感じ、体の震えが始まります。この状態は、低体温症の最初のサインです。

35度に下がると体の震えが最大になり、疲れて周囲に無関心になっていきます。34度に下がると意識障害が始まり、自力で回復できない状態になります。

そのほか、脱水症や熱中症なども登山で起こりやすい病気です。いずれも兆候が見られたら適切に対処しなければなりません。

山歩きでやってはいけないこと【情報収集編】

登山を決行する前に、インターネットの情報を確認する方もいるはずです。しかし、登山に関しては、ネットの情報を過信しすぎてはいけません。

たしかに、ネットの情報は文章が短くて読みやすいです。地図やグラフ、写真なども多く、参考になります。印刷物になったガイドブックよりも、ネット情報のほうが新鮮だという考えもあります。

ただし、ネットの情報には主観的な内容が多く、エリアの精通者がアドバイスしているわけではありません。

知らない人が発信する情報をそのまま信用するのは危険です。不正確な内容を判断して、批評的に読み取れるなら問題はありませんが、それができるのは登山の上級者でしょう。

また、ネットに記録されている登山情報はバラバラです。たとえば、ルートに岩場の危険箇所があったとしても、上級者は簡単に通過できるので、何も記録しない可能性があります。

反対に初級者であれば、「死にそうに怖かった!」と真逆の内容を記録するかもしれません。

登山の安全性を高めるために、目的エリアの登山地図を購入したり、登山の入門書を通読したりすることをおすすめします。

山歩きでやってはいけないこと【行動編】

登山の登り・下りでやってはいけない行動を解説します。

出発に遅れてはいけない

日が暮れて暗くて歩けなかったという遭難が多発しており、その原因は登り始めの時刻が遅いことにも関係しています。

理想的な登山開始時刻は朝7時以前です。

現在、都市近郊の山では9時に登り始めるのが普通で、10時に出発する人も少なくありません。ただし、9時~10時の出発ではリスクが高いという意識を持つ必要があります。

登山では、出発に遅れないように注意してください。

休憩しすぎてはいけない

山歩きに慣れるまでは歩くことが苦しく、休憩時間を楽しいと感じてしまいやすくなります。

しかし、10分以上休んでしまうと体が冷えてしまいます。歩くためにウォーミングアップされていたのが、静止時の状態に戻ってしまい、次に歩き始めるのも辛くなります。

また、休みすぎたことが原因となり、予定していた時間で歩けなくなり、最後のほうでバタバタしてしまうのはよくありがちなパターンです。

歩いているときは絶対に転んではいけない

全遭難者のうち半数近くが、転倒したミスから遭難しているといわれています。

転んだときに運悪く岩に頭を強打すれば重症か死亡でしょう。がけの上から投げ出されて滑落死する事例もあります。

日ごろから転倒しない歩き方を心がけることが生死を分けることにつながります。登山で歩いているときは絶対に転んではいけません。

下りのときは走らない(急がない)

下りは登りよりも体力的に楽です。山歩きに慣れた人でも、下りはやさしいと勘違いしていることがあります。

しかし、下りの動作は平地や登りよりもずっと難しく、ルートの状況によっては転落や滑落の危険をともないます。

元気のある若者ほどゴールが近いと感じると、急ぎ足で下ってしまいがちです。下るときは走ったり急いだりしないように、山にいる時間を味わう余裕を持ちましょう。

スマートフォンのGPSマップだけに頼らない

スマートフォンのGPSマップを登山やハイキングに利用したい方もいるでしょう。使うのはありですが、地図の代わりにするのは危険です。

なぜなら、広い地図範囲を確認する操作が、スマートフォンでは難しいからです。

スクロールを繰り返す必要があり、現在のルートがどういう順序でどこにつながっているのか、スムーズに確認できません。

山域やルート全体の概念が頭に入っている上級者なら、GPSマップだけでも地図代わりに使えるかもしれませんが、それでも紙地図を使うよりは迷いやすいでしょう。

スマートフォンのGPSマップは、紙地図を補助するツールとして利用するのが無難です。

山歩きでやってはいけないこと【服装編】

登山の服装に関してやってはいけないことを解説していきます。

ジーンズで山に行ってはいけない

登山をするときはジーンズを着用してはいけません。登山において、下半身に着るパンツ類は、何より動きやすさが求められます。

その点、デニム生地は厚ぼったくて動きづらいです。ただでさえ登りが苦しいのに、足を持ち上げるたびにひざが突っ張るので、疲労が蓄積されやすくなります。

ジーンズが登山に向いていないもう一つの理由は、素材がコットンであることです。コットンは吸収率が高く、水分をため込む性質があるため、体を冷やして疲労させてしまいます。

日用品の雨ガッパを使ってはいけない

登山用ウェアの中で最も重要な装備がレインウェアです。レインウェアの目的は、雨をさえぎる防水性以外にもあります。防水性と同じくらい重要なのが透湿性です。透湿性とは、水蒸気を通して外に逃がす性質をさします。

レインウェアの生地は、透湿性防水素材のフィルムを中に貼り合わせていて、雨水を通さずにムレを外へ排出する機能を持っています。

また、襟の大きさや立ち方、フードの形などは、雨が吹き込みにくいと同時に、視野が確保しやすいように設計されています。

したがって登山では、作業用のゴム引き雨ガッパやレジャー用のビニールガッパを代用しないように気をつけてください。

以上、山歩きでやってはいけないことを中心にお伝えしました。山歩きでやってはいけないことが、山の危険に結びついて遭難の要因になると、おわかりいただけたのではないでしょうか。

日常生活で当たり前のことが、登山では当たり前ではなくなります。これから登山を検討している方は、山歩きでやってはいけないことに注意して、楽しい山登りの思い出を作ってください。

 

PROFILE
野村仁

1954年、秋田県生まれ。1990年ごろより『山と渓谷』などを中心に活動している編集者・ライター。この5年ほどは、山岳遭難関係の記事を中心に執筆している。学生時代に登山を始め、登山歴は約30年。最近数年間はフリークライミングに熱中。里山歩きからテント泊縦走まで、幅広く登山を行なっている。日本山岳文化学会理事(遭難分科会、地名分科会メンバー)、編集室アルム代表。

やってはいけない山歩き (青春新書プレイブックス)

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  • 作者:野村 仁
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: 新書