誹謗中傷が多発する子どものネット世界―被害を受けたらどうする?

「小学生・中学生のネットトラブルの発生件数で、常に上位にくるのが“誹謗中傷”です」。そう語るのは、元・捜査一課刑事でデジタル捜査班長の佐々木成三氏。複雑なネット・トラブルから子どもを守るには、まずは親が正しい知識を身につけ、ネット社会の安全ルールをきちんと伝える必要があります。特にどんなことが大切なのでしょうか。

なりすまし投稿による誹謗中傷

最近では、SNSから数多くの誹謗中傷メッセージを受けた女性が自殺に追いやられてしまった事件をはじめ、ネットでの誹謗中傷が社会問題となっています。

それは、小・中学生でも同じなのです。誹謗中傷や、ネットによる悪口や仲間はずれは減ることがありません。

例えば、次のようなケースが挙げられます。

  • 女子中学生が、無料通信アプリで、ある女子生徒数名から自分とわかるような隠語で「うざい」「大嫌い」「消えろ」などの悪口を書き込まれた。生徒はその後、学校に行けなくなった。
  • 複数の中学生が、ある男子中学生に黙って無料通信アプリのグループをつくり、その男子中学生の悪口のやりとりをしていた。それを知った本人は、「仲間はずれにされている」と思い、学校を休みがちになった。
  • 小学生の男子が携帯ゲーム機で、ある小学生女子児童の顔をおかしな顔でキャラクター化し、ネットの掲示板に公開した。その後、それを見たほかの男子たちがからかうようなコメントを掲載した。

また、なりすまし投稿による誹謗中傷も増えています。他人になりすましてネットの掲示板などに嘘の書き込みをしたり、友だちをおとしめるような書き込みをしたりするのです。

例えばB君が、C君のことが気に入らず、C君を陥れたいと思っていたとします。そこでまず、B君は別のA君になりすまします。 A君になりすましたB君が、「Cは、○○という店で万引きをして補導されたらしい」と嘘の書き込みをします。

するとそれを知ったC君はA君に抗議。「万引きなんてしてないのに、適当なことを書くなよ!」と怒ります。身に覚えのないA君は、「そんな書き込みはしていない」と言います。これも調べればすぐにB君の仕業だとわかってしまいます。

「ネット上なら誰が書いたかわからない」と思っていたB君はびっくり。慌てて削除してももう遅い、というわけです

気軽なリツイートも罪になる

ここで怖いのは、その投稿を見た第三者が、内容を信じ込む、あるいは面白がってさらに拡散してしまうことです。拡散により間違った情報を広めてしまうことは、書き込みをした当事者と同じくらい、罪深いことなのです。

また誹謗中傷を直接書き込みしていなくても、「いいね!」やリツイートをしただけで、同じ罪に問われます

元大阪府知事の橋下徹さんが自身に関する記事をリツイートされ名誉を毀損されたとして、ジャーナリストに慰謝料を請求した訴訟で、橋下さんに勝訴判決が下されたということが話題になりました。

ジャーナリストは控訴しましたが、二審でも一審の判決が支持されました。たった1回のリツイートが名誉毀損になるケースがあるのです。

リアルな世界でも、例えば誰かが友だちの悪口を言って、「そうだよね」とうなずいただけで「、あの子も一緒に悪口を言っていた」とされてしまうことがありますよね。それと同じではないでしょうか。

本当はそう思っていなくても、とりあえずうなずいてしまう。そうかもね、という程度に気軽に返事をしてしまう。リツイートの気軽さにも、そんな危険が潜んでいる気がします。

誹謗中傷する人たちの特徴

誹謗中傷する人たちに共通する、3つの特性があります。

1つは、間違った正義感を持っていること。「私は正しいことをしている」という間違った認識や価値観のズレがあり、偏った意見を発信してしまうのです。

2つ目は、想像力の欠如です。投稿したら、これがどうなるのか、自分の言動が犯罪になるという想像力がないのです。

誹謗中傷する人は、10代など圧倒的に若い人が多いそうです。

物事の奥行きをよく考えず、軽い気持ちで発信してしまうのでしょう。

実は私も、ある番組のコメントの説明不足によりプチ炎上し、「1時間土下座する動画をアップしろ」「メディアに出ることを喜んでいる姿に吐き気がします」といった誹謗中傷を受けたことがあります。その中傷コメントもまさにそうでした。真実をわかっていないのに、ずれた視点で指摘しているのです。

刑事ドラマなどはいい例です。私は刑事ドラマを見ることができません。なぜならあまりにも現実と違うからです。

「なんでいつも崖の上で犯人と対峙しているんだ?」「なぜいつも拳銃を一丁持って、犯人がたくさんいる工事現場に行くんだ? 殺されに行くようなものだよな」「こんなに拳銃をぶっ放したら訴えられちゃうな」「自分の推測で取り調べをしたら冤罪が生まれるよな」

こんな感想を持ってしまうからです(笑)。でもテレビドラマはあくまでもエンターテインメント。違うと知っているから楽しめる面もあります。リアルはもっと奥深いものです。

少し話がずれてしまったかもしれませんが、安易な誹謗中傷は、ドラマをリアルだと思い込み、論点のずれた指摘をしていることと同じです。

SNSで自分の意見をアウトプットできる場があるのはいいことですが、奥深さを知った上で発信をしないと、的外れな発言になってしまいます。

誹謗中傷する人の特徴の3つ目は、間違った承認欲求があることです。

「これをすれば周りに評価や共感をしてもらえる」という認識が強く、みんなに認めてほしいのです。「いいね!」をもらえることで承認欲求を満たしているのでしょう。

加害者にならないために

親御さんはぜひ、軽い気持ちでの投稿が、犯罪につながってしまうことをお子さんに教えてあげてください。

子どもは、自分が被害者になる危険性はもちろん、時として加害者になってしまう可能性もあるということを、理解しなければなりません。

【加害者にならないためのポイント】

  • 匿名の投稿であっても、誰かが傷つくようなことは投稿しない
  • 実際に顔を合わせて言えないなと思った言葉を投稿しない
  • ネットに一度書き込みをしてしまったら、永久に消すことはできないことを知っておく
  • 本当かどうかわからない情報に対して、軽々しく「いいね!」やリツイートをしない

匿名であっても、法的な手段によって発信者を特定することができます。プロバイダの記録から、書き込みを行った本人を特定することができます。

誹謗中傷した SNSの投稿やアカウントを削除しても、サイトの管理者のサーバーに記録されていたり、投稿した内容を他人がキャプチャやスクリーンショットで撮影している場合が多いのです。それらの情報から投稿内容や投稿者が明らかにされることも多いでしょう。

多くのSNSでは、誹謗中傷は利用規約で禁止されています。もしも精神的な被害や金銭的な被害を与えてしまった場合、損害賠償を請求される可能性もありますし、事実でない噂を書き込むなどして人の心や体を傷つけてしまった場合、傷害罪や名誉毀損罪、侮辱罪になることがあります。

また、先ほどもお話ししたとおり、誹謗中傷に「いいね!」をしたり、リツイートしたりしただけでも、誹謗中傷したことと同等になり、損害賠償の対象になります。

今警察は、ネット上の脅迫的な誹謗中傷を積極的に事件化する傾向にあります。それは、ネット上の書き込みを犯行予告、あるいは犯行の前兆として捉え、重大な事件に発展することを防止する目的があります。

SNSの書き込みやダイレクトメッセージ(DM)、そして口頭や文書で誹謗中傷した時点で犯罪が成立し、それらが被害者に届き、被害者が目にした時点で犯罪が既遂(犯罪が完成すること)したことになります。

自分の言葉が間違って相手に伝わって傷つけてしまうこともあります。大人でもこのようなことはよくあるのですから、子どもならなおさらでしょう。

そして、誤解をされたとき、それを解く習慣をつけることも大切です。もし自分が同じ立場だったらどう思うか、想像力を働かせてみること。リアルに面と向かって本人に言えないことは、ネット上でも言ってはいけないことを伝えてください。

誹謗中傷の被害を受けたら

もちろん、未成年が誹謗中傷の被害者になる場合も少なくありません。10代の死亡原因の第1位が自殺であることを考えると、誹謗中傷を野放しにしておくことはできません。

私自身、SNSがプチ炎上し、誹謗中傷をされたことがあるとお伝えしましたが、エゴサーチ(自分の名前やハンドル名を検索し、ネット上での自分の評判をチェックする行為)をしてしまうと、マイナスの内容しか入ってこない状態です。

ネットの中だけを見たら、正直なところ、私のことをわかってくれる人は誰もいませんでした。そんなとき、仲よくしているドランクドラゴンの鈴木拓さんから連絡が来ました。ご存じの方もいるかもしれませんが、鈴木さんもよくネットで炎上をしている芸人です。

その鈴木さんの言葉に、私は救われました。どんな言葉を言われたと思いますか?

突然ですが、クイズです。次の二つの単語の間に入る文字を考えてみてください。

現実  逃げろ

いかがですか? もしかすると多くの人が「現実 “から” 逃げろ」と答えたのではないでしょうか。

答えは「現実 “に” 逃げろ」です。ネットの中のトラブルは、ネットでは解決しません。炎上を収めるには、鎮火するまで待つしかありません。

私の発した言葉の真意がわかるのは、私のリアルな友だちです。本当の私を知っている友だちは現実の中にいます。リアルな友だちに「大丈夫だ」「気にするな」と言ってもらえることで、どれだけ救われるでしょうか。

ネットだけ見ていたら「俺は本当にダメなんだ」と思ってしまうかもしれません。でもネットでいくら炎上をしていても、実は私の発言などまったく気にしていない「サイレントマジョリティ(多くの静観者)」が圧倒的です。

ただ、マイナスのことを言う人たちが発信し続けるので、それが目立って見えるだけ。何千万人が気にしていなくても、100人が誹謗中傷したら、それだけでまいってしまう人もいます。

被害を受けた場合は、お子さんが大人にすぐに相談できるような関係性をつくっておくことが大切です。大人は「親」でなくても構いません。

その際、誹謗中傷されたメールを見るのはつらいかもしれませんが、証拠となるため、消去しないようにしてください。

 

PROFILE
佐々木成三

1976年、岩手県生まれ。元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補。デジタル捜査班の班長として主にスマートフォンの解析を専門とし、サイバー犯罪の捜査にも関わる。また、数多くの重要事件捜査本部において、被疑者の逮捕、取り調べ、捜査関係者からの情報収集、被害者対策、遺族担当に従事し、数多くの実績をあげた。2017年、「事件を取り締まるのではなく、犯罪を生まない環境をつくりたい」という思いから埼玉県警を退職。現在は、多数のテレビ番組にコメンテーター、デジタル犯罪防止アドバイザーとして出演するほか、一般社団法人スクールポリス理事を務め、小中高生らが巻き込まれる犯罪を防止するための講演など、幅広い活動を行っている。

元捜査一課刑事が明かす手口 スマホで子どもが騙される

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  • 作者:佐々木 成三
  • 発売日: 2021/02/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)