江戸無血開城を実現した勝海舟が新政府入りを蹴った意外な事情

勝海舟

勝海舟(1823~1899年、享年77)幕末、微禄の幕臣の子として生まれる。西郷隆盛との会談で江戸城を無血開城に導いた立役者。明治に入ると政府とは距離を置いて旧幕臣の救済に努める。

生計の道を断たれた旧幕臣を救済

勝海舟―。咸臨丸の艦長として日本人初の太平洋横断に成功した人物であり、のちに陸軍総裁となって官軍総参謀の西郷隆盛と直談判し、江戸無血開城を実現して江戸市中を戦火から救った立役者である。

彼がいなければ明治維新の夜明けは間違いなく遅れていたはずである。そんな維新の最大の功労者である海舟は、明治になってどんな人生を送ったのだろうか。

江戸開城のとき、海舟は四十六歳。この年(明治元年=一八六八年)の十月、徳川家は駿府静岡に移住となり、海舟も旧幕臣らと共に静岡に移り住んだ。

海舟が東京に戻ったのは明治五年のことである。新政府から海軍大輔(次官)として迎えられた海舟は、もと住んでいた家の近くにあった赤坂氷川町の旗本屋敷を買い取り、そこに住んだ。妻妾と子供たち(四男五女)でにぎやかな家庭だったという。

海舟は翌六年、参議兼海軍卿(大臣)となる。七年には元老院議官に任ぜられるが、すぐにこれを辞し、以後、政局に関わることはほとんどなかった。薩長の人材で占められた新政府に嫌気がさしていたのである。

海舟は自邸に閉じ籠り時局を論じたり執筆活動に明け暮れたりしたが、やがて暇を持て余した海舟はあることに熱中する。旧幕臣の救済がそれである。

幕府の解体によって生計の道を断たれた旧幕臣たちは家財道具を売り払い、その日その日をどうにか過ごしていた。それにも困ると、娘を遊廓に売ったり、一家離散したりする例も珍しくなかった。

海舟は同じ旧幕臣としてこうした状況を憂慮し、生活に困っている人の品物を預かり、これはと見込んだ人物に購入話を持ちかけた。つまり、骨董品売買の仲介である。やはり刀剣が多く、備前吉房などの逸品が海舟の手を経ている。書では千利休や芭蕉、西行、定家のものなどがあった。

海舟からこうした骨董品をよく購入したのが、学者で官僚、のちに日本近代哲学の父と言われた西周である。掘り出し物があると聞くと西はすぐに海舟邸に飛んで来るほど骨董好きだったようである。

しかし、そんな骨董品売買の仲介も明治十年代に限られ、明治二十年に伯爵となってからはパッタリ止めてしまった。その理由として、このころから旧幕臣たちも士官や就職で生活が安定してきたからとみられている。

生誕の地である墨田区(本所)には銅像が建立されている

伊藤博文とは対決姿勢を貫く

海舟は翌二十一年に枢密顧問官、二十三年に貴族院議員となるが、政治の場で活躍することはなかった。野にあって自慢話や大言壮語を好き勝手にいい、著述に健筆をふるった。

特に伊藤博文内閣を痛烈に批判した。海舟は伊藤が嫌いだったのだ。優秀な人材が次々と死に、どさくさに乗じて成り上がった伊藤など所詮小物と見ていたのである。

海舟は第二次伊藤内閣による日清戦争でも終始批判する立場を貫いた。伊藤ら政府高官が、日本はいまや欧州と並ぶ文明国であるとして、ほかのアジア諸国を一段低く見るようになっていたことが我慢できなかったのである。

日本だけが優越意識を持ち、アジア諸国を蔑視して戦争を進めようとするのは愚の骨頂である、と海舟は断じた。のちの日本人にも当てはまる卓見であった。

その後、海舟は西南戦争で逆賊となった西郷隆盛の名誉回復とその功績を称える運動を展開、西郷の子供たちの面倒もみた。

明治二十五年、そんな海舟の身に悲劇が起こる。嫡男で海軍少佐の小鹿が四十一歳で病死したのだ。嫡男の突然の死に落胆した海舟はいったん絶家を決め、財産をすべて徳川家へ返上すると宣言する。

江戸っ子に徹した潔さ

ところが徳川慶喜のとりなしがあり、慶喜の十男の精を小鹿の娘伊代の養子に迎え勝家を相続させる。慶喜の子供を迎えることで徳川からもらった禄、これまでに受けた恩を返すことになるという海舟独特の論理だった。

三十一年、海舟は軍事大国へと突き進む日本の未来を憂いながら、七十七年の生涯を閉じる。壮年までの人一倍強い上昇志向に比して、維新後の海舟はこれが同一人物かと疑うほど無欲だ。

海舟ほどの大物なら、望めば新政府でどんな要職にも就けたはずである。きっと海舟は、自分は幕臣・勝海舟に徹しようとしたのだろう。いかにも江戸っ子の海舟らしい潔さである。

 

 

seishun.jp

seishun.jp

seishun.jp

seishun.jp

seishun.jp

seishun.jp

PROFILE
歴史の謎研究会

歴史の闇には、まだまだ未知の事実が隠されたままになっている。その奥深くうずもれたロマンを発掘し、現代に蘇らせることを使命としている研究グループ。

日本史の表舞台から消えた「その後」の顚末大全 (できる大人の大全シリーズ)

日本史の表舞台から消えた「その後」の顚末大全 (できる大人の大全シリーズ)

  • 発売日: 2019/04/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)