コロナ疲れにも影響あり!?…「自律神経は3種類」という新常識

出口の見えないコロナ禍に、社会全体が不安に包まれたような状態が続いています。ナチュラル心療内科院長の竹林直紀先生によると、そこには「自律神経の乱れ」が関わっているそうです。とくに「第3の自律神経」が鍵を握っているのだとか。どういうことなのでしょうか。

自粛生活のつらさは「自律神経」が関係していた

社会のしくみが複雑化すると同時に、人づきあいも複雑化し、「生きづらさ」を抱えた人が増えています。楽しみや幸福感よりも、心がざわつくことに焦点を合わせてしまい「漠然とした不安感」から逃れられなくなった人も少なくありません。

ストレスがいっぱいの現代社会の状況に加え、2020年は大打撃がありました。「新型コロナウイルス」の世界的な流行です。

コロナ禍(新型コロナウイルスの感染拡大で引き起こされるさまざまな影響)で、生活が一変した方も多いことでしょう。

これまでは当たり前だった通勤が「テレワーク」になり、自宅と職場が一体化するなど、働き方にも変化が生まれました。Zoomなどのビデオ会議アプリが普及し、ビジネスのさまざまな場面がオンライン化。同僚とのランチや仕事終わりの一杯ができない代わりに、オンラインで飲み会やランチを楽しむ人も増えたと聞きます。

その一方、リアルな場での触れ合いは遠ざかりました。そして、新しい種類の悩みが出てきたのです。たとえば……

「友人を誘っても『コロナが怖い』と相手にしてもらえず悲しい…」
「マスクをしてくれない人を見ると、腹が立ってにらんでしまう」
「夫婦ともにテレワークになり、四六時中顔を合わすのでケンカが増えた」

ウイルス感染そのものへの恐怖もさることながら、周りとの「距離感」に対する悩みが生まれました。誰もが今まで以上、人間関係に不安を抱えるようになったといっても過言ではないのです。

さらに、こうしたストレスは、「同調圧力」という言葉に代表される「社会からのストレス」として、多くの人を悩ませています。

これまでは個人間で起きていたストレスが、今は規模が大きくなり、社会レベルで起きているのです。私はこれを「ソーシャル・ストレス」とよんでいます。

ソーシャル・ストレスが蔓延する世の中では、いかに他人に振り回されず、自分を見失わずにいられるかが大事です。

では、どうすれば日々を快適に過ごしていけるか。

じつは、自分を見失う原因のひとつに、「自律神経の乱れ」があります。

人づきあいと自律神経のあいだに、どんな関係があるのでしょう。その鍵を握るのが、近年注目されている新しい考え方にもとづいた、「第3の自律神経」ともいわれる神経です。

第3の自律神経“交流ちゃん”とは?

自律神経は大きく3種類に分けられる──。この新しい考え方は、精神生理学者のステファン・ポージェス博士によって提唱されました。

ポージェス博士は、アメリカのイリノイ大学で長年にわたり、自閉症児や社会的コミュニケーションに問題を抱える人々の研究をおこなってきました。そのなかで、自律神経の新しい考え方を発見し、1995年に「ポリヴェーガル理論」と題して論文発表しました。

ポリヴェーガルとは、「poly(=複数の)」と「vagal(=迷走神経)」を組み合わせた造語で、「多重迷走神経」と翻訳されています。

ポリヴェーガル理論では、3つに分けた自律神経のうちのひとつを「社会的交流」の自律神経(社会神経系)とよびます。

人と人とがつながり、関係性を構築していくとき、この「社会的交流」の自律神経が働いてその場に適した対応がとれるといわれています。

たとえば、

・相手のにこやかな表情の挨拶に笑顔で返す。
・雑談中に、タイミングをはかって発言する。
・会議で微妙な空気が流れたとき、発言をひかえて様子を見る。

これらの行動は、自分を落ち着かせ、状況を客観的に察知できるからこそ可能です。つまり、「社会的交流」の自律神経は、良い気分で、無理なく、周囲とうまくやっていくために必要な役割を担っているのです。

コミュニケーションと自律神経の関係性を考えるとき、最大の鍵となるのが、この「社会的交流」の自律神経です。

そこで、この神経を身近に感じていただけるよう〝交流ちゃん〟と名づけ、話を進めていきます。

〝交流ちゃん〟には、ふたりの仲間がいます。

ひとりは〝可動ちゃん〟。

「可動化」の役割を担う自律神経です。パワフルで、闘争心が強く、逃げ足が速いのが特長。日中エネルギッシュに働いたりスポーツしたりするときだけでなく、怒りを感じたときや、対人関係でイライラしたときにも力を発揮してくれます。

もうひとりは〝不動ちゃん〟。

「不動化」の役割を担う自律神経で、鉄壁の守りを得意とします。理不尽な状況に遭遇したとき、フリーズ(身体が固まる、停止する)状態になって、危機的な状況をクリアしたり、やり過ごしたりします。

また、ふだんは〝交流ちゃん〟と協力して胃腸などの内臓の働きを調整しています。
これら3つの自律神経は、生物の進化の過程で、

①〝不動ちゃん〟(不動化)

②〝可動ちゃん〟(可動化)

③〝交流ちゃん〟(社会的交流)

という順番で進化・発達してきました。そこで、いちばん新しく登場した〝交流ちゃん〟を、私は「第3の自律神経」とよんでいます。

「副交感神経」の役割は〝交流ちゃん〟と〝不動ちゃん〟が分担

ところで「自律神経って、交感神経と副交感神経の2種類じゃなかったの?」と疑問を抱くかもしれませんね。たしかに、これまでは2種類に分けられていました。

ところが、ポージェス博士は自律神経の研究を進めるなかで「副交感神経には、リラックス&癒しの役割のほか、鉄壁の守りという役割もある」と発見したのです。

そして、副交感神経の役割は(本記事でいう)〝交流ちゃん〟と〝不動ちゃん〟の2人が分担している、と考えました。

自律神経の説明として、「交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキ」という、車のたとえを見聞きしたことがあるでしょう。このたとえにならうと、〝可動ちゃん〟はアクセル、〝交流ちゃん〟と〝不動ちゃん〟はともにブレーキです。

ただ、同じブレーキでも〝交流ちゃん〟はマイルドブレーキで、「スピード調整」という大事な役目を担います。

それに対し、〝不動ちゃん〟は急ブレーキ。たとえば理不尽な目に遭ったとき、傷つかないよう「急停止」して身を守れるのは、〝不動ちゃん〟のおかげです。

「アクセルかブレーキか」の2択ではなく、3つの神経が循環しながら包括的に心身のバランスをとっていく。その考え方がポリヴェーガル理論の特徴であり、自律神経の新しいとらえ方なのです。

3つの自律神経は、アイドルユニットのように一体となって活動している

すばやい反応が得意でパワフルな〝可動ちゃん〟。リラックス&癒し系の〝交流ちゃん〟。鉄壁の守りの〝不動ちゃん〟。

〝交流ちゃん〟〝可動ちゃん〟〝不動ちゃん〟は、常に三位一体です。そして、環境や状況に応じて、どれかひとつが優位になり、心身のバランスをとろうとします。

それぞれに個性があり、異なる役割をもっていますが、優位なポジションをとろうともめたりすることはなく、お互いに助け合い仲良しです。

いわば、楽曲によって臨機応変にメインボーカルが変わる3人組アイドルユニットのようなイメージだとお考えください。

また、状況によっては、ふたつの神経が同時に働き、心身にとってミラクルな状態を生み出すこともあります。ユニット内の組み合わせによって、アイドル活動が広がっていくイメージですね。

イラストレーション・カヤヒロヤ

コロナ禍、日本全国レベルで「不動化」が起こっていた

安心・安全な状況では〝交流ちゃん〟の出番です。〝交流ちゃん〟がユニットの「メインボーカル」を生き生きと務め、ほかのメンバーを率いている。〝可動ちゃん〟〝不動ちゃん〟もバックにつき、お互いに支え合って活動している、といったイメージです。

コミュニケーションと深くかかわる〝交流ちゃん〟が優位になると、社会生活がうまく回り、心身のバランスも絶好調です。

反対に、安心・安全とはいえない状況がつづくと、どうなるか……。

私たちはそれを、イヤというほど思い知りました。

新型コロナウイルスの流行により、私たちはしばらくのあいだ、行動の自由を奪われ、人と会うこともままなりませんでした。そのうえ、テレビや新聞はコロナ関連一辺倒で、不安と恐怖をあおる報道がつづきましたね(そして2021年3月現在も、この状況がつづいています)。

閉塞的な状況下で、毎日ネガティブな報道を見聞きしていると、人間の脳はフリーズしてしまいます。不安や恐怖と同時に「外に出るな」「移動するな」という情報ばかりが入ってきて、危険から身を守るため、脳がその状態に自動的に反応するからです。

そして同時に、神経にも影響がおよびます。何か行動を起こそうと思っても、「やっぱり無理」「しんどい」「もう何もしたくない」と感じ、そんな状態をつらく感じた方もいたでしょう。

あれは、神経を不動化させる〝不動ちゃん〟が優位になっていたからです。目に見えない「ウイルス」に対して、闘うことも逃げることもできないため、(その方法が有効かどうかは関係なく)本能的にフリーズすることで、身を守ろうとしていたのかもしれません。

コロナ禍において日本全国レベルで、いえ、世界レベルで、ポリヴェーガル理論でいう自律神経の「不動化」が起こっていたのだと私は考えます。

〝不動ちゃん〟の役割は、つらい体験の記憶や今まさに目の前にあるリスクを鋭敏に感じすぎないよう守ってくれる、大切なものです。

しかし、不動化の状態が長くつづくと、心身ともにつらくなります。

〝不動ちゃん〟ががんばってくれたぶん、〝交流ちゃん〟の出番が封じられがちだったことが、じつはコロナ疲れのいちばん大きな要因だったと考えられます。

リスクを「避ける」から「どうつきあうか」にシフトチェンジを

このように、大きなストレスにさらされたとき、心身はダメージを受けます。

自分の身体と心は自分のものですが、すべて思いのままになるわけではありません。心に身体がついてこないこともありますし、身体に心がついてこないこともあります。

そして、これまで経験したことのない状況になると、ソーシャル・ストレスもあいまって、さらにコントロールが難しくなります。

しかし、生きるとは、リスクを引き受けながら生活していくこと。そもそも、リスクをゼロにはできないのが人間社会なのです。

「リスクをどう避けるか」という考えから、「リスクをどの程度引き受けて、どうつきあっていくか」という考え方へシフトチェンジする。今、私たちはその時機を迎えているのかもしれません。

■おもな参考文献
ステファン・W・ポージェス『ポリヴェーガル理論入門:心身に変革をおこす「安全」と「絆」』花丘ちぐさ訳、春秋社、2018
津田真人『「ポリヴェーガル理論」を読む:からだ・こころ・社会』星和書店、2019
竹林直紀『薬にたよらない心療内科医の 自律神経がよろこぶセルフヒーリング』青春出版社、2015

 

PROFILE
竹林直紀

ナチュラル心療内科 院長。1957年生まれ。愛知医科大学卒業後、関西医科大学、九州大学で心身医学の研修をおこなう。98年から米国サンフランシスコ州立大学ホリスティック医療研究所に2年間留学し、薬を使わない最先端の医療を学ぶ。帰国後、関西医科大学心療内科でホリスティック医学、統合医療の研究をおこなう。
2005年、神戸・三宮にホリスティックな統合医療施設として「ナチュラル心療内科クリニック」を開院。2009年から、薬を使わない自由診療の統合医療クリニックに。2019年12月から「ナチュラル心療内科」と名称を変更して新大阪駅前に移転。バイオフィードバック、マインドフルネス瞑想、分子栄養療法、臨床アロマセラピーなどによる統合医療を実践している。
著書に『薬にたよらない心療内科医の 自律神経がよろこぶセルフヒーリング』(小社刊)など。 

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