副業ではわからない「お金を手に入れること」の難しさ【佐藤優】

佐藤優

給料が一気に上がる見込みはない。一方で、会社を辞めて勝負することもリスクが大きい。となれば、スモールビジネスや副業で小遣いを稼ぐのが一番現実的で賢い方法かもしれません。ただし、作家でマルクスを長年研究している佐藤優氏は、商品を売ってお金を手に入れることには本質的な難しさがあると説いてくれます。

意外なものが意外な値段で売れる

自分でビジネスを立ち上げる場合、お金を儲けるには3つの方法しかありません。ひとつは他人ができないことをやる。自分の特別な才能や技術を生かして、オリジナルの商品やサービスを提供するのです。

ふたつ目は、人が嫌がる仕事をする。いわゆる3Kと呼ばれるような「きつい」「きたない」「危険」な仕事です。3つ目は、まだ人が気づいていない商売。ネットで商品を転売するような、ニッチな分野でのビジネスがそれに当たります。

1番目の「他人にできない仕事」は、誰にでもできるわけではありませんが、それ以外はやる気さえあればハードルはそれほど高くありません。ただし、2番目の「人が嫌がるきつい仕事」は、長続きできるかどうかが難しい。精神的にも肉体的にも疲弊してしまい、続かないことになりがちです。

3番目のニッチビジネスは、狙い目さえよければ基本的には誰にもチャンスがあります。ただし儲かる分野や商品を見つけたとしても、そのうち真似されて競争が激しくなりがちです。ネット転売などは、たくさんの競合との安値競争が起きてしまえば、利益を出すどころではありません。

それぞれ一長一短があり、どれがいいと一概に言うことはできません。また、1番目と2番目、2番目と3番目というように、要素が重なっているビジネスもあるはずです。

最近面白いと思ったのはプラモデルの制作ビジネス。プラモデルはつくることが楽しみなのかと思いきや、今は完成品が高額で取引されています。完成品は原価の10倍以上で売られていることも珍しくないので、かなり利益率は高いです。

ただし副業はあくまで副業。本業に差しさわりがあるほど力を入れては本末転倒なので、そのバランスを常に考えること。あくまで、家計の足しになる小遣い稼ぎくらいの気持ちで臨んだほうが、結果として上手くいきます。

商品をお金に換えることの難しさ

ここまではスモールビジネスの話ですが、ここから事業を大きくしようとしたり、別な展開を図ろうとしたりするところで道が分かれます。ビジネスを収益性という点で見ると、一人でやっているうちは限界があります。

さらに大きくしたり利益を出したりしたかったら、従業員を雇い、労働力を増やすことで生産量を上げるしかありません。そこで、一人ビジネスとは本質的な違いが発生します。すなわち資本主義の論理が生まれるのです。

マルクスは資本の運動を「G-W-G’」という簡単な式で表現しています。Gとはドイツ語のGeld(ゲルト=お金)で、WとはWare(ヴァーレ=商品)。G(お金)を使ってW(商品)をつくり、それを売ることでG’を生み出す。もちろんG’はGより大きい金額で、そのプラスアルファが利益であり、マルクスが言うところの「剰余価値」になります。

G<G’
G’─G=利益(剰余価値)

たとえば、100万円を使って屋台と麺と肉やキャベツ、ソースを買って焼きそばをつくったとしましょう。その売り上げが140万円になった。今度はこの140万円でさらに麺や野菜、肉を買ってさらにたくさん売る。するとさらに儲けが出る。あるいは、まったく違うビジネスに投資をしてさらに利益を拡大する。

最初の、GからWをつくり出すところに労働力が必要になります。ここに労働力をつぎ込めばたくさんの商品が生産でき、さらに大きな利益が生じる。資本というのは、このG-W- G’を半永久的に繰り返しながら自己増殖していくのだとマルクスは説きます。

マルクスはこの流れをシェークスピアの『真夏の夜の夢』のセリフを使って、文学的に説明しています。「商品(W)は貨幣(G)を愛する。しかし真まことの愛が穏やかに進んだためしはない」と。つまり、貨幣は常に商品に交換することができる(G-W)。ところが商品を貨幣に換える(W-G)ことはなかなかできません。

たとえば、100円あればいつでもどこでも100円のガムを買うことができます。ところが、そのガムを売ろうとしても、同じように100円で売れる保証はどこにもありません(むしろ、売れないことのほうが多いでしょう)。だからこそ、マルクスは「商品が貨幣に変わるには命がけの飛躍が必要だ」とまで言い切っています。

労働力は単なる材料費の一部

まして、つまり120円で売って利益を出そうとしたら、それこそ大変です。命がけの飛躍をするためには、運の要素が必要になります。多大な人間の力、すなわち労働力を投入した商品でも売れるという保証はありません。

みなさんも、日常の自分の仕事を考えればわかるでしょう。何か売れるものをつくるとなると、企画から商品開発、マーケティングや宣伝、広告、そして販売と、それはそれは莫大な労力が必要になります。もし売れたら莫大な利益を生む可能性もありますが、そこには計算だけでなく運の要素も絡んでいます。

この運こそが、マルクスが言うところの「命がけの飛躍」。真の愛を実らせるには、運が必要になるわけです。

利益を伸ばそうとするほど、つまりを大きくしようとするほど大きな労働力が必要になるし、そこに搾取という構図が生まれてくる。前にも触れましたが、資本家は商品の生産に必要な材料のひとつとして労働力を購入しているのだとマルクスは説いています。いわば、生産をするための「材料費」の一部です。

もしみなさんが商売をやるとしたら、材料費はできるだけ安く抑えようとするでしょう。そして利益がどれだけ上がろうが、その支払価格をアップすることはないはずです。生産に必要な金額をできるだけ安く抑えることで、利益を最大化しようとするわけです。

働く人の労働力を生産の手段や材料費ととらえることが資本主義の本質です。そこで搾取が生まれるのですが、ビジネスを大きくするということは、このような搾取の構造をつくり出して利益を最大化し、拡大再生産することに他なりません。

そのうえで、競争力を高めて他の企業に打ち勝ち、シェアを獲得しようとするわけです。食うか食われるかという、まさに弱肉強食の世界。これが資本主義でのビジネスの現実です。

スモールビジネスで毎月5万円、10万円稼げば十分だというなら楽しいものにもなり得ます。ところが、資本の論理にのっとって利益を出し、拡大再生産を行わなければならなくなると、まったく別物になるのです。

そういう世界にあえて飛び込む必要がどれだけあるか。それで人間的な幸福感がどれくらい得られるか。私としては大いに疑問があります。お金をたくさん得ることはできても、同時に失うものも多いのです。 

 

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佐藤優

PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

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  • メディア: 新書