怒りを溜める人ほど病気リスクが上がる? 感情を「毒」にしないコツ

内心怒る女性

仕事や日常生活において、“ストレスの種”は絶えず発生して私たちを悩ませます。そこでの「負の感情」は、心の病気だけでなく、高血圧や糖尿病といった生活習慣病を引き起こす要因にもなります。こうした感情とうまくつき合っていくには、どうすればよいのでしょう?福島県立医科大学医学部の大平哲也疫学講座主任教授に、「感情を“毒”にしないコツ」をうかがいました。

「感情」が生活習慣病を生む

生活習慣病が大きな病気の引き金になることはよく知られていますが、実際病気の8~9割は生活習慣病がもとになっています。そして、その生活習慣を支配しているものこそが「感情」なのです。病気のなりやすさは感情次第といっても過言ではありません。

日常生活を思い出してみてください。中でもわかりやすいのが、「つい食べすぎてしまう」というケースです。体重が増えすぎたらよくないことは誰でもわかっていますよね。減らせば健康になることもわかっています。でも、我慢できずに食べてしまう。食べたいという欲求や、おいしそうと思ってしまうイメージ。人間は弱い生き物ですから、そういったものにどうしても支配されてしまうのです。

もともと人間の感情というものは本能と関係していますから、コントロールするというのは至難の業です。

怒りを溜めやすい人は血圧が高い傾向

そもそも、私の研究は、「怒り」の感情を追究することからはじまっています。心療内科に来られる患者さんと日々接しているうちに、私はあることに気がつきました。それは「怒り」を我慢している患者さんがとても多いということでした。同時に、年齢が若くても血圧が高い人が多いことも気になりました。怒りと高血圧につながる循環器疾患は関係しているのではないか――こんな疑問を持ちはじめたのです。

実際に調べていくと、ストレスが体にどのような影響を与えるかについて研究、発表した雑誌がありました。しかもとても古く、1939年の『Psychosomatic Medicine』という心身医療向けの雑誌です。

そのなかで、「高血圧になりやすい人」を調べたところ、「怒りをためやすい人」であると書かれていました。つまり、私が思っていたとおり、怒りによる興奮は血圧を上げてしまうということです。

当然、血管系の病気である循環器疾患になるリスクも高くなります。また、私たちの研究グループでも「怒りと心血管疾患、循環器疾患との関係」について発表した論文があります(Tezuka K, et al. Psychosom Med, 2020)。

怒りの測定には、20問の質問に答えてもらって怒りのスコアを出し、怒りの強さを客観的なスコアとして出します。そのなかで、怒りと循環器疾患との関連を、都会と地方の田舎とで見ました。すると興味深いことに、都会でしか明らかな関係性が見られませんでした。

その理由は、おそらく都会のほうがストレスが高いということが影響しているのではないか、また都会のほうが人とのつながりが少ないことが影響しているのではないかと私たちは予想しています。全循環器疾患で見ると、都会では怒りのスコアが高い人は、低い人に比べて1.87倍も病気になりやすいという結果になりました。

また、長い目で見ると、怒りは心臓病などとも関係が深いこともわかりました。最終的には、心筋梗塞や脳梗塞など血管が「詰まる」病気に強く関係していて、怒りが強い人ではそのリスクが2.9倍高かったのです。

欧米の研究でも、喜ぶ、泣く、怒るなどの感情と血圧との関連を見た結果、怒ったときに血圧がいちばん上昇しやすいことがわかっています。さらに、怒りは突然死の原因となる心室頻拍などの不整脈を引き起こすことが報告されています

肉を食べすぎると敵意性が高くなる!?

怒り以外の感情にも、病気のリスクを高めるものがあります。それが「敵意性」です。敵意性とは文字どおり、相手に対して敵意を持つことです。怒りとも似ていますが、もっと相手を攻撃的にライバル視するイメージです。

いろいろな研究がされていますが、怒りと同様、敵意性が強い人は、病気のリスクを高めるといわれています。特に心筋梗塞などの冠動脈疾患について、敵意性との関連をメタ分析(これまで公表されている論文を集めて分析したもの)をおこなった結果、敵意性は怒りと同じように冠動脈疾患の発症を増やすことが報告されています(Chida Y, et al. J Am Coll Cardiol, 2009)。

実は敵意性があることによって、生活習慣にかなり影響が出ることがわかっています。想像してみればわかることですが、敵意のある人が、穏やかにいつも笑顔で暮らしているとは思えませんよね。具体的には、敵意性が高くなればなるほど、喫煙率が高くなります。また飲酒量も増えます。興味深いのは、身体活動量はほかの人とは変わらないのに、食事によるエネルギー摂取量が高いことです(Ohira T, et al. American Journal of Epidemiology, 2008)。

では、なんのエネルギー摂取が増えるのかというと、その原因は肉なのです。肉を食べすぎると敵意性が高くなるといわれていますが、これはその証拠といえるでしょう。肉を食べるから敵意性が高いのか、敵意性が高いから肉を食べるのか? 調べていくと、肉を食べるから敵意性が高くなることがわかりました。

わかりやすくいうと、肉を食べると元気になるのです。よく高齢者が肉を食べると元気になる、パワーが出るといいます。確かに高齢者にはいいのかもしれませんが、肉も食べすぎると攻撃的になるということは、知っておくといいかもしれません。

「負の感情」は上手く逃がしてあげる

最近では「アンガーマネジメント」などといわれて紹介されていますが、怒りを鎮める方法にはいろいろなものがあります。しかし、怒りを鎮めること、減らすことは、簡単ではありません。

人間関係においても、できれば怒りをゼロにできるのが理想的ですが、実際のところそれは難しい。では、せめて怒りが引き金となる病気を防ぐことはできないものだろうかと私は考えました。怒りを感じている人がみんな、なんらかの病気になってしまうのかというと、そういうわけではないからです。

怒りを感じている人でも、高血圧や脳卒中にならない人はもちろんいます。調べてみると、そのような人には共通点があることがわかりました。

大きく分けると次の3つです。

(1)趣味を持っていること
(2)怒り以外の感情(笑いなど)で発散すること
(3)話を聞いてくれる人がいること(周囲の人のサポート)

まず(1)「趣味を持っていること」。趣味をたくさん持っている人、特に運動をしたり、音楽を演奏するなど、外に出かける趣味がある人が怒りによる作用を弱めるということがわかってきました。

次に(2)「怒り以外の感情で発散すること」です。怒りを怒りで発散させようとすると、結局また怒りが倍増してしまいます。そこで怒りをためることがよくないのであれば、「笑う」「泣く」など、ほかの感情で出したほうがいい、という発想です。このことが、のちに私が「怒り」の研究から「笑い」の研究に移っていったきっかけにもなっています。

よく笑いについてお話しするときに説明するのですが、例えば体重は毎日測ることでコントロールできますね。歩数についてもそうです。歩数計があることによって、毎日の歩数を意識して、「もっと歩こう」という気持ちになり、歩数が増えていきます。笑いも意識することで増えます。感情の発散は“意識的に”することを心がけましょう。

最後に(3)「話を聞いてくれる人がいること」。怒りというものは1つの反応だと考えると、それ以前にどんな環境やシチュエーションか、そしてその人のキャパシティがどれくらいかということが影響してきます。

怒りの反応を抑えるような働きがあれば、当然、怒りは鎮まります。その代表が、ソーシャルサポート(社会的支援)です。例えば忙しい職場でストレスフルな状態であっても、上司や同僚が手助けしてくれたり、友だちが相談に乗ってくれたりすると、怒りは鎮まってきます。

ストレスの原因には、仕事や金銭問題、家族関係などがありますが、こういった環境はそもそも変えることが難しいものです。本人の性格もまず変わらないでしょう。つまり、変えられることがあるとしたら、周囲の人からのサポートということになります。

 

PROFILE
大平 哲也

福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授。同放射線医学県民健康管理センター健康調査支援部門部門長。大阪大学大学院医学系研究科招へい教授。日本笑い学会理事。
福島県いわき市生まれ。福島県立医科大学卒業。筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。大阪府立成人病センター、ミネソタ大学疫学・社会健康医学部門研究員、大阪大学医学系研究科准教授などを経て現職。専門は疫学、公衆衛生学、予防医学、内科学、心身医学。循環器疾患をはじめとする生活習慣病、認知症などの身体・心理的リスクファクターの研究および心理的健康と生活習慣との関連について研究。また、運動や笑いなどを使ったストレス解消法の研究でも知られており、テレビや雑誌などでも活躍している。