子どもより自分自身がチヤホヤされたい!…「自己愛」が強い親の闇

自分を大事にすることは必要ですが、それがいきすぎたり歪んだ形で現れたりすると、周囲の人に悪影響を及ぼすことになります。心理学・社会学の大家である加藤諦三先生によれば、日本にはナルシシスト(ナルシスト)の親があふれているのだそうです。いったい、どんなタイプの親なのでしょうか。

自信がない人は「自分以下」を求める

あるナルシシストの夫が病弱な部下の女性と交換日記をしていた。

それを奥さんが見た。「愛している、愛している」とそんなことが書いてある。ご主人は奥さんに「彼女は小さい頃から病弱であったから、彼女と友達になって助けてくれ」と言う。

ご主人も「はじめは同情のつもりでつきあった」と言う。さらにご主人は奥さんに「おまえが俺と彼女の間に入ってくれれば緩和する」と訳の分からないことを言う。

ご主人は奥さんに言う必要のないことまで言う。奥さんが聞かないことまで言う。彼は奥さんから許しを得ないと何一つ行動できない。

このご主人は奥さんと一緒になって別の女性とかかわろうとしているのである。このご主人は奥さんの前で彼女のことを話す。奥さんに聞いてもらいたいという雰囲気なのである。

実はご主人は24歳の女性への気持ちを奥さんと共有したい。「主人はいつもかわいそうだと言っている」と奥さんは言う。

この男性は病弱な部下の女性で自分の傷ついたナルシシズムを癒し、奥さんで「母なるものへの願望」を満たそうとしている。

この夫は奥さんを代理ママにして、病弱な女性を恋人にして、男としての自信を持ちたいとあがいているのである。この二人の女性は一時的に彼に男としての自信を表面的に回復させる。

一方病弱である女性は心の底で自信がないから「自分は男運の悪い女です」と言って不幸をアピールして、自分の不幸を売り物にする。不幸を手放すと誰も自分に注目をしてくれないと思うからである。彼女は自分の不幸を手放さない。

一方この奥さんは「自分を抑えて抑えて、家で母親になってしまっている」と嘆きながらも、「そうしないと家がもたない」と自分の態度を合理化する。

この奥さんは、本当は女性としての自信がないからこうしているだけである。そして奥さんはこの夫を心の底では蔑視している。

この集団は性役割に自信を失った似たもの同士が群れを成しているに過ぎない。この奥さんの努力は、「自分を抑えて、抑えて、頑張って」いるのだが、まさに報われない努力である。

ナルシシストにとって、不幸でない人は脅威

一般にナルシシストは、病弱な人や実際に病気の人、あるいは知能や教育程度や家柄などで自分より劣った相手を選ぼうとするという。

ナルシシストの男達にとって、病弱である女性は自分のナルシシズムが傷つく恐怖を感じさせない。したがってナルシシストの男にとって病弱な女性は魅力がある。彼女が病弱であることが彼の傷ついたナルシシズムにとって心地よい。病弱である女性は彼の傷ついたナルシシズムの脅威にならない。

病弱である女性は脅威にならないどころか、傷ついた心の癒やしになる。だからナルシシストの男性にとって病弱な女性とか不幸な生い立ちの女性は魅力がある。

逆に不幸でない人は自分の自我にとって脅威である。できれば深くつきあいたくはない。

社会的に活躍している有能な女性とか、社会的に確立している立場の女性とか、名門の家の女性とかはそれだけで自我の脅威になり、深く接するなら、単に接することだけで傷つくのである。

「こんなに楽しい家族は世界にない」という自惚うぬぼ

ナルシシストは他人に関心を持てない。関心を持つ能力がない。他人に関心を持つどころではない。自分の心にもっと緊急に解決しなければならない問題を抱えている。

子どもは心理的に成長するためには「積極的関心」を必要とする。しかしナルシシストには他者に対する積極的関心はない。したがってナルシシストの親をもった子どもは心理的に成長できない。

とにかくナルシシストは自分に囚われている。自分の心の苦しみに囚われている。ナルシシストの親は子どもに対する関心はない。そうしたナルシシストのいる親の家族生活が楽しいわけがない。

しかしナルシシストの親の側は「こんなに楽しい家族は世界にない」と自惚れている。ナルシシストの親は努力していると思っている。子どもの側が、こうした家族といるときに生きがいを感じられないということは、当たり前の話である。

ナルシシストの親は、自分の心の葛藤で精一杯であるから、子どもの喜びや悩みには関心がいかない。

そもそもナルシシストの親は子どもの喜びや悩みに共感する能力そのものがない。とにかく自分が今生きていることが精一杯であるから、現在の親子関係が子どもにとって悲劇的であることを理解できない。

親は自分が子どもから愛を搾取している恐ろしい人間であることなど想像もできない。親としての責任感など想像もできない。親という立場は重荷であり苦役であり、不公平なものとしか感じない。

ナルシシストの父親には「なんでオレだけが働かなければならないのだ」という怒りがある。そこでよく家族の者に「出て行け!」と言う。もちろん実際に家族が出て行ったら発狂してしまう。死にものぐるいで出て行くことを妨害する。

家事をしている母親も同じである。「なんで私がこんなことをしなければならないのだ」と怒る。

親がナルシシストなら、家族は形式的には家族だけれども、お互いの心の中はバラバラである。何を体験してもお互いに共感がない。心のふれあいはない。

こんな家族で、子どもが家族といるときに生きがいを感じるということはありえない。それにもかかわらず、親は「自分の家は世界一の家族」と自惚れている。

ナルシシストの親は、子どもより自分がチヤホヤされたい

世界の中で家族といるときに最も生きがいを感じないのは日本の若者である。つまり日本はナルシシストの親が溢れている国なのである。

自分の心の葛藤で精一杯で、その心の葛藤に気持ちを奪われている以上、親は子育てが楽しいということはありえない。

自分が生きることに精一杯で、心にゆとりがないときに、子育てが楽しいわけがない。子育てが楽しいという人がたくさんいれば、人々は子どもが欲しいと思うだろう。

しかし子育ての負担だけが、これでもかこれでもかと語られる今の世の中では、未婚の若い人達は「どうしても子どもが欲しい」とは思わないだろう。

ナルシシストほど親に適していない性格はない。子どもはチヤホヤされながら成長する必要がある。

ところがナルシシストの親は、親である自分自身がチヤホヤされたい。自分がまだあやされたい。しかもその自分が「そういう幼稚な人間だ」と分かっていない。

だから、親が「家族は、楽しいことばかりです」と言いながら、子どもはマンションから飛び降り自殺をするのである。

親が無意識にしている“投影”という闇

子どもに甘えている親は、子どもにいつも機嫌よくしていてもらいたい。しかし子どもはいつも機嫌よくしていられない。

すると「イヤだなー、その顔は、どうして、そんな顔をしているんだ」と子どもを責める。そして「どうして、こんなことできないの」になる。

そして「どうして」症候群になる。「どうして」症候群は「親の言うことをきかないあなたは許せない」ということである。

「どうして」症候群の親は「子どもは親の何が嬉しいのか?」などとは全く考えない。逆に「何で私の気持ちをくまないの?」と思っている。

「どうして」を言う人は、心が満たされていない。心が満たされている親は、子どもに「どうして」とは言わない。「どうして」を言う親は心に葛藤を持っている。しかし決して自分の心の葛藤に直面しようとはしない。

自分のことで精一杯。そのうえ素直でない。素直でない親がどんなに子育てに努力しても子育てはうまくいかない。報われない努力になる。

親が素直でないから、子どもも言うことをきかない。ところが「親子の役割逆転」をする親は、この「言うことをきかない子ども」が許せない。

「どうしてまだ寝ないんだ」とか「どうして勉強しないんだ」から始まって「どうしてそういう顔をしているんだ」まで「どうして」を連発する親は、実は子どもとの関係が薄い。子どもが嫌いだけれども、子どもに嫌いと知られたくないし、子どもから嫌われたくない。

一番ひどいのは、子どもが自分の期待したとおりの反応をしないと「どうしちゃったんだ」と渋い顔をする親である。「どうして」ならまだいいが「どうしちゃったんだ」となると甘えといじめの心理が両方ある。

自分の無意識にある感情を子どもに投影する。

本当は心の底にある自分の劣等感を子どもに投影している。本当は心の底にある劣等な自分を自分が許せない。そこで子どもに投影する。つまり「劣っている自分」が許せないのに、「劣っている子ども」が許せない、になる。

投影には憎しみがある。投影の深刻な問題は親子関係で起きるときである。

親は子どもに「どうして誰それさんのようになれないのよ」と言う。それは受け身的投影である。

「誰それさん」が、出世した叔父さんだとする。「誰それさん」というのが、投影している人が抑圧している劣等性の部分である。本当は、親は自分自身が叔父さんのように成功したい。しかし成功できない。その成功できない自分を許せない。

成功できない自分を子どもに投影して、成功できない子どもが許せないのである。

 

PROFILE
加藤諦三

1938年生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院修士課程修了。現在、早稲田大学名誉教授、ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員。ラジオの「テレフォン人生相談」レギュラーパーソナリティーを半世紀つとめている。ベストセラー『自分に気づく心理学』『心の休ませ方』等、著書多数。

他人に気をつかいすぎて疲れる人の心理学

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  • 作者:加藤 諦三
  • 発売日: 2021/03/10
  • メディア: 単行本