歯磨きしながらできる! 「ストレスケア」を毎日の習慣にする方法

ストレスのない生活というと羨ましく感じられるかもしれません。しかし、健康のためには適度なストレスが必要であり、どうストレスと対応するかが重要なのだそうです。これまで多くの患者さんを診てこられたナチュラル心療内科院長の竹林直紀先生に、日常生活でラクに行えるストレスケアの方法をうかがいました。

ストレスは「まともに受けない」工夫が大事

私たちが健康を維持できるのは、次の3つのバランスが保たれているからです。

・身体が環境に合うよう調整する「自律神経系」
・ホルモン分泌をつかさどる「内分泌系」
・外部の細菌やウイルスなどや内部のがん細胞から身を守る「免疫系」

これらは、地球上で環境に適応しながら生きるための自動操縦システムで、互いにネットワークでつながりながら機能します。

このシステムのバランスを狂わせるのが、ストレスです。ストレスが免疫機能に影響を及ぼすということは、これまでの多くの研究でわかっています。

また、ストレスがあったとしても、十分な休息や睡眠をとることで免疫機能が高められるといわれています。

アメリカでおこなわれた、たいへん興味深い研究があります。風邪のウイルスを鼻からダイレクトに注入し、睡眠時間と感染の有無を比較検討したものです。睡眠8時間以上の人に比べて、7時間未満の人は「3倍」風邪を引きやすい、という研究結果が得られました。

また、中途覚醒の起こる率が2%以下の人は、7人に1人が発症したのに対し、中途覚醒率8%以上の人は、2人に1人が発症しました。熟睡できていないと、睡眠不足から免疫力低下を招き、風邪ウイルスに感染しやすくなってしまうのです。

この研究がおもしろいのは、風邪のウイルスを鼻から直接注入しても、十分な睡眠をとることで免疫機能を高め、発症を防ぐことができるという点です。

つまりウイルスは、宿主しゅくしゅ(共生する相手の生物)の免疫機能との関係性で、感染するかどうか決まるということ。また同じようにストレスも、受ける側の状態次第で良いものになるのです。

適度なストレスは「ストレスからの回復力」を高める

一般的には、ストレスをなくすことが大切だと思われていますが、過度なストレスが良くないのであって、日常的には適度なストレスが、じつは、健康を最適な状態に保ってくれます。

スタンフォード大学の心理学者ケリー・マクゴニガル博士によると、ストレスに対する心身の反応として「闘争・逃走反応」「チャレンジ反応」「思いやり・絆反応」の3つがあるといいます。

「闘争・逃走反応」では、筋肉や脳にエネルギーを十分供給するために「アドレナリン」や「コルチゾール」などのストレスホルモンが分泌されます。緊急時には、火事場の馬鹿力を出して、身を守ることもできます。

「チャレンジ反応」においては、自信が高まり、積極的に行動できます。アスリートやアーティストが最高のパフォーマンスを発揮できるフロー状態でも「チャレンジ反応」が認められます。また、数種類のストレスホルモンのなかでも「デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)」の割合が高く、ストレスからの回復をうながします。

「思いやり・絆反応」が起こるときには、社会的なつながりを高める「オキシトシン」というホルモンが分泌され、自分にとって大切な人々や社会を守ろうとする勇気が強まります。

同じようなストレス状況でも、「闘争・逃走反応」ではなく「チャレンジ反応」や「思いやり・絆反応」が起こる場合、そのストレス体験は脳にとって一種のストレスワクチンのような効果となり、ストレスからの回復力を高めることになるのです。

ストレスを感じたら、自律神経の働きを思い浮かべてみよう

私のクリニックには、知らずしらずのうちにストレスをまともに受けてしまい、心が折れやすくなった人がたくさん来られます。

困難や脅威に直面したストレスフルな状況に対して、うまく適応する回復力のことを、 「レジリエンス」といいます。

今の状況に一喜一憂せず、本来の力を発揮できるよう、レジリエンスの考え方はアスリートのメンタルトレーニングにも用いられます。

もし今の状況がつらい、苦しいとしても、そのつらさ、苦しさに飲み込まれない方法は必ずあります。

前回の記事で、自律神経を3つに分ける「ポリヴェーガル理論」について、〝可動ちゃん〟〝交流ちゃん〟“不動ちゃん〟というユニットにたとえてご紹介しました。

つらさ、苦しさを感じたら〝交流ちゃん〟〝可動ちゃん〟〝不動ちゃん〟がチームワークで「今の状況」に適応しようとしている様子を、まずは頭に浮かべてみてください。それが、自分でできるストレスマネジメントの第一歩となります。

ストレスケアの中心はマインドフルネス

自分自身でできるストレスマネジメントとして、心と身体の関係性を重視した「精神生理学的ストレスケア」があります。ここでは、この精神生理学的ストレスケア(以降、「ストレスケア」と表記) について、ポリヴェーガル理論の視点から解説したいと思います。

ストレスケアとは、ストレス疲れの状態から自律神経を整え、安心・安全な状態へと回復していくための手段。つまり、〝交流ちゃん〟を優位にさせ、ユニット「ポリヴェーガル」を最適なバランスに保つための方法です。

疲れた心身にアプローチしていくとき、メインになるのが「マインドフルネス」です。

マインドフルネスとは、「今、この瞬間の心と身体の変化」に意識を集中させた状態で、「瞬間瞬間の評価(価値判断)をしない気づき」のこと。「あるがままを受け入れた状態」ともいわれます。

心がマインドフルネスな状態にないと、エネルギーを大量に消費してしまいます。

「どうしてあの人といつもうまく話せないのだろう」「自分は上司からダメなヤツだと思われているんじゃないか」などと悩みが頭のなかを堂々めぐりしたり、また別の悩みを呼び起こしたりして、絶えず心がざわついて落ち着かなくなってしまいます。

心が「今、この瞬間」の現実世界から離れているからです。

「今ここ」という目の前の現実に対して、良し悪しの判断をせず、ただ意識を集中させることができれば、心は波風も立たず穏やかです。海にたとえると、いでいます。

しかし、過去を悔やむことや未来を案じることに意識が向くと、心はザワザワしはじめます。さざ波が立つのです。

マインドフルネスは、本記事で紹介するストレスケアのベースになるものです。次にご紹介するトレーニングから始めましょう。

すでに習慣づいた日常作業・動作を「ストレスケア」として利用する

まずは、心をマインドフルネスな状態にするトレーニング「観察ワーク」をご紹介します。

呼吸の観察ワーク

①背筋を伸ばして座ります。
②目を閉じます。
③そのまま1分間、静かに呼吸をし、観察します。

 

「息を吸った」「息を吐いた」「お腹がふくらんだ」「お腹がへこんだ」といった身体の変化を、ただながめるような感じで観察します。

雑念が浮かんできたら、評価や判断をせず「〜と考えた」「〜と思った」とつけます。「今、この瞬間」ではない過去や未来のことを考えているとわかれば、その思いを手放し、ふたたび呼吸に意識を向けます。

日常作業の観察ワーク

何か新しいことを始めようとすると、ワクワクする一方で、面倒くささを感じることもあります。トレーニングを無理なく実践するには、今すでに習慣づいた日常の作業や動作をうまく利用することです。

 

歯磨きの観察……「歯ブラシが歯や歯肉に触れた感覚」「歯磨き粉の味」「水の冷たさ」といった感覚を、ただながめるように観察します。同様に、洗顔、入浴なども。

 

洗濯物たたみの観察……手のひら全体で、生地の肌触りや形を感じながら、ゆっくりシワを伸ばし、たたみます。

同様に、アイロンがけ、食器洗い、掃除機かけなども、その瞬間瞬間の感覚に意識を向け、良し悪しの評価をせず、ただ観察しつづけます。 

「流すワーク」で自分を客観視する練習をしよう

何か出来事が起きて感情がわき上がり、心がザワザワしたら、「流すワーク」で瞬時にリセットします。そうすることで自分を観察し、客観視できます。

川に流すワーク】

①目を閉じ、川の流れをイメージします。川は上流から下流へ、流れています。自分は川岸に座って、流れをただながめています。
②今、川面に落葉が浮かんでいます。その落葉も、下流へと流れ去っていきます。
③川をながめている途中で雑念が浮かんだら、「小さく丸めて川に投げ入れる」「落葉の上に乗せて、葉っぱごと下流へ流す」などの方法で流してしまいます。
④このようにして3分間ずっとその川をながめます。

苦手な上司に嫌味を言われたら、上司を葉っぱに乗せて流してしまいましょう。川にかぎらず、「滝に流すワーク」「ベルトコンベアーに乗せるワーク」などでもけっこうです。

焚火たきびにくべる「燃やすワーク」でもいいでしょう。実際に体験したことがあり、実感をもてるシチュエーションに設定することが大切です。

 

■おもな参考文献
ステファン・W・ポージェス『ポリヴェーガル理論入門:心身に変革をおこす「安全」と「絆」』花丘ちぐさ訳、春秋社、2018
津田真人『「ポリヴェーガル理論」を読む:からだ・こころ・社会』星和書店、2019
竹林直紀『薬にたよらない心療内科医の 自律神経がよろこぶセルフヒーリング』青春出版社、2015
ケリー・マクゴニガル『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』神崎朗子訳、大和書房、2015

 

seishun.jp

PROFILE
竹林直紀

ナチュラル心療内科 院長。1957年生まれ。愛知医科大学卒業後、関西医科大学、九州大学で心身医学の研修をおこなう。98年から米国サンフランシスコ州立大学ホリスティック医療研究所に2年間留学し、薬を使わない最先端の医療を学ぶ。帰国後、関西医科大学心療内科でホリスティック医学、統合医療の研究をおこなう。
2005年、神戸・三宮にホリスティックな統合医療施設として「ナチュラル心療内科クリニック」を開院。2009年から、薬を使わない自由診療の統合医療クリニックに。2019年12月から「ナチュラル心療内科」と名称を変更して新大阪駅前に移転。バイオフィードバック、マインドフルネス瞑想、分子栄養療法、臨床アロマセラピーなどによる統合医療を実践している。
著書に『薬にたよらない心療内科医の 自律神経がよろこぶセルフヒーリング』(小社刊)など。 

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