「負の感情」に正面から向き合うのはNG! 美味しいもので発散を

食べる女性

仕事や日常生活において、“ストレスの種”は絶えず発生して私たちを悩ませます。そこでの「負の感情」は、心の病気だけでなく、高血圧や糖尿病といった生活習慣病を引き起こす要因にもなります。こうした感情とうまくつき合っていくには、どうすればよいのでしょう? 前回に続いて、福島県立医科大学医学部の大平哲也疫学講座主任教授に、「感情を“毒”にしないコツ」をうかがいました。

「怒り」や「不安」はなくせない

怒りや不安を感じたとき、それを上手に手放す方法はあるのでしょうか。怒ったときの対処法はいろいろ紹介されています。たとえば、キレそうになったとき、10まで数字を数えて……などといわれることがありますが、怒っている人に「ひと呼吸おいて」などといっても、耳に入ってこないでしょう。それができないから怒ってしまうわけです。

正直なところ、怒りをなくしたり、怒りそのものに対処したりするのは難しいと私は思っています。もし怒りの原因がわかっているのであれば、その原因に対して対策を講じるしかないでしょう。怒る「前」の対処が重要です。

それ以外に怒りについてできるのは、普段の生活に気をつけることです。睡眠不足や栄養バランスの乱れなど、不規則な生活からイライラが生じることが多いので、生活習慣から心身の健康を保つ努力はしてほしいと思います。また、怒りはずっと続くわけではないので、怒ってしまった「あと」にどのような行動をとるかが大切です。ここは自分で制御できるのではないでしょうか。

一方、不安も自分でなくせるものではないため、基本的にはそのままにしましょう。そのまま“ある”ものとしておき、闘ったり、あらがおうとしたりしないことです。

これまで何度も不安を経験してきた人や、パニック症状がある人ならなおさら、経験的に不安がいつかは消えるものだとわかっているはずです。不安がずっと続くことはないのです。つまり、嵐が過ぎ去るのを待つのです。

そのうえで、自分がこれまでやってきて効果があったことをやってみるのもいいでしょう。不安を経験してきた人は、だんだん何をしたらリラックスできるのか、不安を減らすことができるのか、わかるようになるものです。

今まで試したもので比較的よかったもの、例えば歌を歌うのもいいですし、好きな音楽を聴いてお茶を飲むのもいいですし、寝てしまうのでもいい。何かしら自分がおこなうことで不安を減らせるのであれば、それだけで十分です。不安があるから何もできないという状態よりも、何か自分でできることがある状態のほうが、ずっとラクになれます。

よく、「何が不安なのか客観的に考える」とか、「自分の不安としっかり向き合って」などといわれることがあります。もちろん、人によっては、「これが起こると不安になる」と原因がはっきりわかっている方もいます。そういう人はその不安と向き合って対処してもいいのですが、なかには、なんだかわからないけれど不安がワーッと押し寄せてくるという人もいます。

そういう原因不明の不安については、実際、抑えようにも抑えられませんし、対処することも難しいのです。そういう不安については、不安は不安としてあるがままに受け入れるというのが1つの方法だと思います。

「行動」を変えると感情も変化する

ストレスやネガティブな感情というものは、個人個人の力だけではなくせないものです。また、ストレスはある意味、人生のスパイスという見方もあります。ストレスがまったくない人生も退屈かもしれません。むしろスパイス程度のストレスがある生活によってメリハリがついたり、生きがいを感じたりすることもあるでしょう。

人は自分自身で感情をコントロールすることは非常に難しいものです。先にもお話ししたように、怒りや不安は自分で完全に抑えられるものでもありません。でも、「行動」を変えることはできるのです。

不安だからといっても、歩くことも、食べることも、笑うことだってできるわけです。感情に対して、感情そのものをどうにかしようとするよりも、行動を変える。非日常の体験を取り入れることが、感情を切り替えるコツでもあり、そのほうがずっと早いのです。

日常生活のルーティンが続くと、それがストレスになることがあります。それをいったんリセットするには、非日常的な体験がおすすめです。

「いいレストランで美味しい食事」も効果的

非日常体験というと、ハードルが高そうな印象を受けるかもしれませんが、とても簡単。具体的には次のようなことです。

  • 歌を歌う
  • 運動する
  • 映画館に行く
  • ちょっといいレストランで食事する
  • 温泉やマッサージに行く

歌を歌うときは、できれば自分の部屋ではなく、違う環境で歌うほうが効果的です。新型コロナウイルスの影響で、なかなかカラオケも行きにくくなってしまいましたが、自分の部屋だったとしても、できるだけ歌手になりきって歌うとストレス解消になります。

また、運動をすることは気分転換になるのはもちろんですが、運動によって血流がよくなり、脳内のドーパミン(快楽物質)が増える効果もあります。

家でDVDを観るよりも映画館で映画を観るメリットは、そこが非日常空間であることです。家にいればスマホをチェックしたり、ちょっと家事をしてしまったりしますが、日常と断絶された空間で映画に入り込むことで、日常生活を忘れ、ストレス解消につながりやすくなります。

いつもより少しいいレストランでおいしいものを食べるのもおすすめです。ストレスがたまると、人はどうしても甘い物や脂っこい物に手が伸びてしまいがちですが、そうなる前に、おいしいものを食べて気持ちをリラックスさせることで、ストレスによる無駄な食べすぎを防ぐ効果もあります。もちろんレストランでなくても、それが美容院だったり、温泉やスーパー銭湯やマッサージでもなんでもいいのです。

忙しくてストレスが多い人は、得てしてすぐに「時間がない」といいます。運動する時間がない、ごはんを食べに行く時間がない、映画を観る時間がない、というように。でも、非日常的な時間というものは、意識的につくったほうがいいでしょう。まず先に、スケジュールに非日常時間のための予定を入れてしまうくらいしないと、難しいかもしれせん。

ちなみに私自身のストレス解消法は、「ジョギングをしながら落語を聞くこと」です。落語が終わるまでなんとなく走ってしまうので、途中で止めにくいというメリットがあます。運動と笑いのダブルの効果があるのでおすすめです。笑いながら走っているので、怪しまれてしまうことがあるのが難点なのですが……。

それ以外にやっているのは、「寝ること」です。睡眠が妨げられると翌日のパフォーマンスが落ちますし、イライラもします。仕事のためにも、ストレス解消のためにも、睡眠時間はしっかりとるようにしています。

先行きが見えない時代、私たちはこれからも多くの種類のストレスや不安と向き合っていかなければなりません。どんな小さなことでもよいので、生活の中に「生きがい」「楽しみ」「目標」といったポジティブなものを増やしてみてください。それが、きっとストレスや不安とうまくつき合う自分をつくってくれるでしょう。

 

 

PROFILE
大平 哲也

福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授。同放射線医学県民健康管理センター健康調査支援部門部門長。大阪大学大学院医学系研究科招へい教授。日本笑い学会理事。
福島県いわき市生まれ。福島県立医科大学卒業。筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。大阪府立成人病センター、ミネソタ大学疫学・社会健康医学部門研究員、大阪大学医学系研究科准教授などを経て現職。専門は疫学、公衆衛生学、予防医学、内科学、心身医学。循環器疾患をはじめとする生活習慣病、認知症などの身体・心理的リスクファクターの研究および心理的健康と生活習慣との関連について研究。また、運動や笑いなどを使ったストレス解消法の研究でも知られており、テレビや雑誌などでも活躍している。