「○○しないと△になる」という恐怖指導が自分から動けない子を生む

子どもに接するとき、大人は“よかれと思って”いろいろなかかわり方を試すものです。しかし実際には、子どものためになっていないケースもよくあるようです。たとえば、「○○しないと〜になるよ」という指導もそのひとつ。長年にわたり保健室の先生を務めてきた、NLP教育コンサルタントの桑原朱美氏にお話をうかがいました。

簡単に使われるようになった「愛情不足」ということば

養護教諭(保健室の先生)をしていた頃、何か問題を起こす子どもがいると「あの子はきっと愛情不足だよね」ということばがよく聞かれました。でも、そもそも愛情ってなんでしょうか?

なんとなくわかったようなわからないような「愛情」が不足していると言われると、親としては非常に不安になります。

愛情をかけなければ! 愛情不足と言われるのは親として恥ずかしい! 愛情不足になると問題行動を起こす! そんな漠然とした不安が、それぞれの解釈で「愛情」をとらえ、それが逆効果になっている場合もあります。

大人の中には、察してあげることだけでなく、先回りして目の前の石ころを全部取り除いてあげること、成功体験ができるようすべてをお膳立てして状況を整えてあげることが愛情だと思っている人が多いように思います。

その結果、子どもたちの中には、「単語でものを言う子」が増えています。家の中で、単語で何かを言えば、すべて察して動いてくれる大人がいるのです。日本語は最後まできちんと言わないと意図が伝わりません。最後まで言っても、伝わらないこともあります。小さい頃からの自己表現のトレーニングができていないのではないかと考えています。

たとえば、子どもがプリンを食べようとしたら、スプーンがなかったとします。子どもは「お母さん、スプーンがない」と言います。すると、多くのお母さんは、「ごめんごめん。スプーンなかったのね。今、持っていくね」と言って、スプーンを持っていってしまいます。

でも、ちょっと待ってほしいのです。子どもは、「スプーンがない」と言いました。しかし「スプーンを持ってきてほしい」とは言っていないのです。

役に立たなければという想いが強い人は、子どもはこうしてほしいのだろうと先読みし、こまっているのだろうと気持ちを察し、言われてもいないのに動いてしまうのです。子どもからすれば、ちゃんと全部言わなくても、全部思ったように動いてくれるのですから、とても都合がいいですよね。

してあげることが愛情だと勘違いして、子どものために尽くしてしまうと、子どもの主体性を奪い、他人軸の子どもを育ててしまうことになります。

私は現在、養護教諭や教員向けの研修を行っていますが、そこでは、「察して動かず」「物わかりの悪い大人になれ」ということを伝えています。

「察する」のはとても大切なことですが、教育という視点で大切なのは、きちんと自分の言いたいことを伝える力、自分の頭で考える力、自分で決める力、決めたことを行動する力、経験を学びに生かす力を育てることです。

厳しくしろと言っているのではなく、大人があきらめずにじっくりと付き合う覚悟を持つことです。その瞬間だけ優しくすることは簡単ですが、本気でかかわっていくには根気が必要です。長い目で見て、腹をくくることも必要です。

本来は子どもを受け容れるべき大人が、自分が受け容れてもらう立場になっているのではないかと感じる親子も見受けられるのは、とても心配な状況です

自信を持たせれば自己肯定感が上がるという幻想

多くの人が、「自己肯定感」とは自分のことを好きになることという実に抽象的なイメージを持っています。

しかし、私が保健室で出会った子どもたちは、この「自分を好きになる」という解釈に苦しんでいました。この思い違いが、「よい自分だけを見せたい」「マイナスな自分がいるからその自分を好きになれない。ダメな自分をすべて消したい」というストレスになっているようでした。

「自分を好きになれない自分はダメなんだ」と自分を責める子もいました。

大人は大人で「自己肯定感の高い子どもに育てなければ」という想いがあだとなって逆効果なこともたくさんしてしまっています。

多くの大人が、失敗すると自信をなくす。自信をなくすと自己肯定感が下がる。と考えています。間違いだとは言い切れませんが、正解とも言えません。問題は、自信をもたせるための次のような行動です。

『失敗させないように、すべて段取りをしてしまう』『子どもが転ばないように、目の前にある石ころを全部、先回りして取り除いてしまう』『子どもの目の前にレッドカーペットを敷き詰め、親の価値観どおりの成功体験のみの人生を歩ませようとする』

本当に、失敗しないようにすることで、子どもの自己肯定感は上がるのでしょうか?

自己肯定感とは、できたという結果から生まれるのではありません。できることだけをやってよい結果が出たとしても、その子の人生の血肉にはならないのです。

本当の自己肯定感は、やると決めたことをやり、試行錯誤するその過程の中で生まれるものだからです。

大人がよかれと思って、子どもの目の前の障害物を取り除いたとしても、成長とともに、先回りには限界が生まれます。本当の自信は、結果にとらわれることなく、どうしたいのかを自分で考え、試行錯誤して達成していく過程を通して感じ取るものです。そのチャンスを奪う行動をするのは、とても残念なことです。

どんな経験も成長に変換できる思考力を育てる

小石につまづいて、転倒し、小さな擦り傷をしながらも前へ進む経験を奪われてしまった子どもは、大人になるにつれ、本当に生きづらくなります。

転んでけがをしたときは痛いけれど、いつかそれはかさぶたになり治癒していきます。その経験を、かわいそうとか、自信をなくしてしまっては大変だ、あるいは、転んだ姿をほかの人が見たら、親としての自分がダメな人と思われるのでは……などの大人側の想いによって奪われてしまっては、そちらのほうがマイナスではないでしょうか?

試行錯誤し、ちょっと痛い思いをして獲得した体験をもって成長した子と、お膳立てされた成功ばかりを体験してきた子では、大人になるにつれ、大きな違いが表れてきます。

本当に必要なのは、転んだときに、どんなことばがけをし、その経験を成長につなぐことができるかという大人側のアプローチです。

さらには、うまくいかなかったとき、どのように考えると、それを成長に変換できるかということを生きる知恵として、子どもたちに伝えることなのです。

「恐怖指導」をして子どもを正そうとすることの弊害

日本人は、問題回避思考であるといわれます。そのため、無意識に「恐怖指導」をしてしまいがちです。私たち大人も子ども時代に言われてきた「○しないと△になるよ」という教え方です。

しかし、人間の脳は意識する焦点の方向性に沿って思考し、答えを探すという性質があります。恐怖指導は、そうした脳がもっているナビゲーションシステムから考えると「こうなるのは嫌だ、こうなりたくない」という未来を目的地として設定していることになります。否定しているものを言語にしている段階で、脳は、「それが目的地」と認識します。

部活動やクラブチームでも、「ミスするな」という否定を指示する監督のチームは、子どもの脳に「ミス」という目的地を無意識に与えてしまうので、ミスしてしまいます。

「高めのボールに手を出すな」と言われるから、出してしまうのです。家庭でも「こぼさないように持っていくのよ」という指示をするから、こぼすのです。

「遅刻しないように」「忘れ物しないように」「叱られないように」「嫌われないように」「風邪をひかないように」「バカにされないように」……等々、たくさんの否定語を用いて、ことばをかけています。

「……にならないように」とか「……は嫌でしょう?」という指導をすると、脳が認識するのは、「……」の部分です。

しかも、恐怖と不安という強烈な感情をセットにしているのです。喜びに比べると恐怖のほうが何倍も強烈なエネルギーを持っています。つまり、マイナス(こうなったら嫌)を見せると、ワクワクよりも何倍ものスピードでそれを達成してしまうことになります。目標に強烈な感情が乗ると、早く実現します。嫌いや怖いの感情を乗せれば、そちらのほうが先に実現します。

「脳は否定語を処理できない」などもよく言われることばです。しかし、その反対語は、肯定的なことばではありません。具体的に何をすればよいのかがイメージできることばを使うことです。

先ほどの例を言い換えてみると、

「高めのボールに手を出すな」→「ボールをよく見て打て」
「ミスしないように」→「深呼吸して、落ち着いてプレーしよう」
「遅刻しないように」→「○時までに家を出よう」
「忘れ物しないように」→「持ち物を一つひとつチェックしようね」

となります。

禁止語や否定語を使って指示されるより、体の力がふっと抜けるのを感じるのではないでしょうか?

失敗を排除しよう、正そうとすることも、時には必要かもしれませんが、主体的な行動は生まれにくくなります

前の代から引き継がれてきた「恐怖指導」はなぜ効果がないのかは、「ことばの使い方と脳の習性の関係」を理解することで、どう変えていけばよいのかがわかるのではないでしょうか。

 

seishun.jp

 

PROFILE
桑原朱美

NLP教育コンサルタント。株式会社ハートマッスルトレーニングジム代表。主体的人生を構築する人材育成トレーナー。島根県生まれ。愛知教育大学卒業。教育困難校等の保健室の先生として25年間勤務。全国1000以上の学校現場で採用されているオリジナル教材や、「保健室コーチング」など独自のメソッドで研修、講演会などで活躍中。「主体的人生を構築する人材育成トレーナー」とも呼ばれる。『保健室コーチングに学ぶ! 養護教諭の「現場力」』(明治図書出版)ほか、新聞、テレビなどへの執筆、出演多数。
本書は、保健室コーチングの事例をベースに教員や親など子どもに関わる全ての大人たちに向けた一冊である。

 

保健室から見える親が知らない子どもたち

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  • 作者:桑原 朱美
  • 発売日: 2021/02/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)