あなたが思うより早く「管理職への選別」は終わっている【佐藤優】

佐藤優

個人に運、不運があるように、世代にも運、不運があります。バブル崩壊後に成人となり、就職氷河期を経験した40代は、運が悪かった世代だと言えるかもしれません。作家の佐藤優さんが働く40代の人に焦点を当てて、生き残りのために実践的な指針を示してくれました。

会社はもうポストを用意できない

40代は、いろいろな意味で人生の分岐点となる時期だと思います。私自身、42歳だった2002年に鈴木宗男事件に関連し背任容疑で逮捕され、大きく人生が変わりました。その後東京地方裁判所で執行猶予つきの判決を受け、2009年、49歳のときに刑が確定すると同時に外務省の規定により失職となりました。

その間に執筆活動をスタートさせ、現在は作家としての人生を歩んでいます。自分自身としても、40代はまさに激動の時期でした。どんな形かは人それぞれですが、40代に何らかの人生の転機が訪れることは多いようです。

日本の大企業の場合、20代から30代前半までは表立った競争は少なく、給与も横一線です。それが30代なかばからは競争が明確になり、チームリーダーや主任など中間管理職に昇進する時期と給与に差が出るようになる。

45歳くらいで一応出世競争の決着がつきますが、そこから50歳くらいまでの5年間は、部長のイスを巡っての競争が待っています。さらに数年以内に、今度は役員になれるかどうかの競争がある。

ご存じの通り、役員になれるのはほんのひと握り。仮に部長まで進んだとしても57、58歳くらいのところで役職定年がある場合が多い。多くは子会社に出向することになるはずです。そう考えると、企業で最後まで勤め上げることができる人はごく少数で、多くは競争に敗れて会社を離れることになる。

いま多くの大企業は、30代ですでに幹部候補を絞り込んでいるとか。そのほかの社員のモチベーションを下げさせない狙いがあるためか、基本的に会社はそのことを公にしません。表向きは40代なかばまで管理職ポストの競争が続いているように見せかけるのです。

もはやレースは終わっているのに、昇進、出世の叶わぬ夢を描きながら、40歳を過ぎても競争に勝ち残ろうと必死で仕事を続ける──。そんな切ない現実があるわけです。

そう考えると、このイスとりゲームに参加して、時間と労力を費やすリスクについても考えなければいけません。まずはそうした現実があることを直視したうえで、40代以降の仕事の方向性や取り組み方を考える必要があります。

大企業などでは、50歳を過ぎたあたりでキャリアデザイン研修があるそうです。その研修は40代以降のベテランも参加するのですが、その研修の意味合いは、「40歳以降のキャリアには、会社に残る以外の選択肢もある」と意識させることにあるといいます。

会社には右肩上がりの時代のような余裕がなくなってきているのと同時に、組織のフラット化が進んで以前のように多くのポストを用意できないという事情があります。

ポストや昇進を社員のモチベーションにすることが困難になってきている。だからこそ、キャリアパスを自ら選択し、デザインする意識と能力を社員に持ってもらわなければならない。特に幹部候補から外れた社員には、さまざまな選択肢を意識してほしい。このような企業の思惑が見え隠れしています。

本当の意味での「働き方改革」とは

夢も希望もないような話のように聞こえるかもしれませんが、私はむしろ、働く人たちの意識を変えるチャンスでもあると感じています。

当たり前ですが、管理職になることが成功ではないし、管理職になれないことは失敗でも負けでもありません。たとえば、トップの成績を上げた営業マンが管理職になった途端に精彩を失ってしまうことはよくあります。

現場で営業活動をする能力と、チームをまとめ上げるマネジメント能力はまったく違うもの。これは単純にその人の能力うんぬんの問題というよりも、適性の問題です。

幹部候補選抜を早々に受け、管理職のラインに乗った人とそうでない人の違いは、その人の能力ではなく年次などの運や適性の違いにすぎない。能力と適性を混同して、いたずらに自分を責めたり自信を失ったりする必要はないのです。

政府の「働き方改革」は、一億総活躍社会を目指して時間外労働の削減や労働生産性の向上、女性や高齢者の活用などを目標にしています。聞こえのいい言葉が並んでいますが、その本音には直面する少子高齢化と労働人口の減少に対応して、より合理的に労働力を確保、活用したいという意図があります。

政府や役人が考えるこのような上から目線の改革とは別に、私たちは個々で仕事に対する向き合い方や意識を変革し、本当の意味での「働き方改革」をする必要があります。管理職、マネジメントの方向に進むにしろ、現場で自らのスキルを生かして一線で働くにしろ、これからは自分で選択し、主体的にキャリアをデザインしていく。会社の基準や価値観に合わせるのではなく、自らキャリアのストーリーを描きながらライフプランと人生の目的に合わせた仕事の仕方を考えるのです。

そのとき、40代が一つのポイントになります。20代はとにかく目の前の仕事を覚える。30代は会社組織の一員としてひたすら成果を出すことに努める。しかし40代になったら、自分の能力と適性についていま一度振り返るべきでしょう。そして、これから自分が進む道をしっかり絞り込む必要があります。

そこであらためて軌道修正をするなり、そのまま今の働き方を続けるなり、一つの結論を導かなければなりません。その客観的な尺度となるのが、40歳の時点で会社の課長以上の管理職になっているかどうか。30代でクリアしている人は、少なくとも会社から管理職としてのキャリアを期待されていると考えていいでしょう。

しかし40歳を過ぎてクリアしていない人は、自己評価はどうあれ会社としては管理職の適性を評価していないと考えられます。もちろん業種や職種によって差はありますが、少なくとも45歳で管理職になっていない人の挽回はまずないととらえておくべきです。

基準が厳しいと感じるかもしれませんが、評価というのは他人がするものであり、自分の思いとは関係ありません。会社の評価が厳然としてある以上、それに対応して働き方を変えていく必要があるのです。「会社はわかってくれない」とか、「自分の力を評価しようとしない」とグチを言ったところで何も始まりません。

大事なのは、たとえ会社がそのように評価したとしても、それは自分の絶対的な能力が低いのではないということ。その会社は、管理職としての適性を評価していないということにすぎません。そのような現実を見極めたうえで、自分でどう動くかという主体的な判断と選択が重要なのです。

  

 

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佐藤優

PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

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