「家族だからわかるはず」は大間違い! 幸福度を上げる感謝の言葉

家族

コロナ禍で家族と過ごす時間が大幅に増えた昨今、家族の仲がギクシャクしてしまうこともあります。家族と長い時間過ごすことで、精神的ストレスが増えているのでしょう。心理学や統計学をベースに「幸福学」を研究している前野隆司氏・前野マドカ氏に、家族全員が幸せを感じるコミュニケーション方法を紹介してもらいました。

子どもには「存在していい」ことが安心になる

「認められている因子」は、「自分は家族から関心を持たれ、好ましい評価を受けていると思えている状態」です。家族同士、ちゃんと相手のことを気にしていて、その存在を認め合っているという意味であり、信頼関係を構築する上で、とても大切なことです。また、それぞれが社会で一個人として認められていることも、幸福のためには併せて必要です。

人にはもともと、認められたいと願う承認欲求があり、承認されると人は幸せになることがわかっています。ただし、承認されたあと、主体性を持って自己実現などの段階に進むと人はさらに幸せになるものなので、その前の“幸せの基盤”のようなものだと思ってください。

実は、人の承認欲求を満たす、非常に効果的な万能の言葉があります。

それは、「あなたがいてくれてよかった」です。

何か特別なことをしなくても、ただそこにいてくれるだけでいいという存在自体の承認ですから、もっとも根本的で安定した承認になります。

この言葉は、ユマニチュードという、高齢者や認知症の方を対象としたケア技法の専門家の医師に教えてもらいました。心の問題を抱えて生きている人を元気にする、万能の言葉だといわれています。

たとえば、子どもに対してであれば、「僕らの子として生まれてきてくれてよかった」と言い換えてもよいでしょう。親は、本当に子どもに対して「あなたがいてくれてよかった」と思っているものですが、改めてこういう言葉で口にする家庭は多くはないでしょう。しかし、ちゃんと口にしないと、残念ながら子どもにはなかなか伝わりません。どんなに親が子を愛していても、それがまったく伝わらずに、「親は全然自分のことを認めてくれていない」と感じて、ぐれてしまうこともあるのです。

こうした声がけは、子どもが大きくなればなるほど言いづらくなりますが、子どもが小さな頃から当たり前のようにやっていれば、簡単なことだと思います。子どものほうも慣れるでしょう。そういう言葉を投げかけられて育った子は、人にも自然とそういう言葉をかけられる人になるものです。

ですから、やはり親は、少々恥ずかしくても口に出して子どもをちゃんと認めてあげるべきだと思います。そうすれば子どもは自己肯定感が育まれ、「自分はここにいていいんだ」「ここは安心安全な場で、いつでも自分が受け入れてもらえるんだ」と思うことができるでしょう。そうした安心感は、 幸せにものすごく影響しますし、子どもがいろいろなことにチャレンジする原動力にもなるはずです。

もちろん、「あなたがいてくれてよかった」は、親から子に対してだけではなく、夫婦同士、そのほかの家族同士でも、口に出して伝えるべき言葉です。たまにでもこの言葉を交わしている家族の間には、よい信頼関係が築かれます。

家族でも“言葉”にしないと伝わらない

「認められている因子」を高めるキーワードには、「あなたがいてくれてよかった」という究極の言葉のほかに、「感謝」と「承認」の言葉が挙げられます。

「感謝」は言うまでもなく、「ありがとう」の言葉です。「うれしいな」など、喜びを表現する言葉でもよいと思います。「承認」は、「いつもしっかり掃除をしてくれているよね」「今日の料理すごくおいしいね」など、その人自身、あるいは、その人がやってくれたことに対する、良い評価の言葉です。

こうした感謝や承認が家族間でしっかり伝われば、お互い、自分のことをしっかり見てもらっている、自分はちゃんと評価されている、という心地良い実感が得られるはずです。

しかし、日本には、これができていない夫婦がかなり多いようです。特に日本の男性はシャイなので、なかなか妻をほめたり、感謝の言葉を伝えたりしていないのではないでしょうか。むしろ、「そういうことは、男が言うもんじゃない」ぐらいに思っている人もいるようです。若い世代ではだいぶ変わってきたようですが、それでも照れくさがって、なかなか口にしない人が少なくありません。

しかし、いくら家族でも、「感謝」や「承認」はちゃんと言葉で表現しないと、なかなか伝わりません。せっかく感謝や承認の気持ちがあるのなら、言葉でしっかり伝えないと、もったいないと思います。

また、感謝や承認は、伝え方も大切です。私(マドカ)もよくやってしまうのですが、帰宅が遅くなったときに義母がご飯を作っていてくれたりすると、まず最初に「すみません」と言ってしまいがちです。でもそこは、「お義母さん、ありがとうございます。助かりました!」のほうがいいはずです。

基本的に人は、「すみません」と言われるより、「ありがとう」と言われたほうが、うれしいものです。もちろん、表現は言葉が100%ではありませんから、「すみません」と言ってしまったとしても、笑顔で明るく言っていれば、感謝の気持ちが伝わる部分もあるでしょう。そのあたりも含めて、感謝の気持ちを伝えることを常に意識していれば、自然と上手に気持ちを伝えられるようになってくるものだと思います。

「話をしっかり聞いてあげる」も承認の一つ

「相手を承認する=認める」というと、家族に対する積極的な声がけが必要なイメージもありますが、実際には、相手の話をじっくり聞いてあげることも、相手を認めてあげることになり得ます。

我が家のケースを、ひとつご紹介しておきましょう。長男が生まれたばかりの頃、夫は仕事が大変忙しく、帰ってくるのが毎晩10 時、11時過ぎでした。その頃、私(マドカ)は子育てと家事のほぼすべてをやっていたわけですが、マイナスな気分になったことはありませんでした。

それは、毎晩のように夫が私の話をしっかり聞いてくれたことが、大きく影響していたと思います。夫は、毎晩夜11頃に帰ってくると、夜中の2時頃まで私が話すその日あった出来事を延々と聞いてくれたり、話し合ったりしていたのです。

小さな子どもは一日一日と成長しますから、私がどうしたらいいかわからず困ったことや、子どもの微笑ましい失敗など、話し合うことはいくらでもありました。夫は、そんな私の話を楽しそうに聞いてくれた上に、「よく頑張っているね」と言ってくれていたのです。

私としては、夫が自分の子育てを信頼してくれていることがはっきりと伝わってきたので、とても励みになりました。また、夜中を除くと夫はほとんど家にいませんでしたが、それでも夫婦一緒に子育てをしているという、前向きな気持ちにもなれました。

世の中には、子育ては妻に任せきりで、仕事から帰ると「明日早いから寝かせてくれよ」とさっさと寝てしまう男性も未だにいるようです。これでは、妻は承認されている気持ちにはとてもなれないでしょう。夫の承認があるだけで、妻は元気をもらえるし、幸せな気持ちで頑張れるものだと思います。

ほんの少し接し方や会話の仕方を変えるだけで、家庭の中がぐっと明るくなり、雰囲気も変わるはずです。先行きが見えない不安な時代ではありますが、これを機に家族との向き合い方を見直してみてはいかがでしょうか。

 

PROFILE
前野隆司

1962年山口生まれ。広島育ち。84年東工大卒。86年東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。前野マドカの夫。専門は、幸福学、システムデザイン、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学、地域活性化、イノベーション教育など。 著書に『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』『感動のメカニズム』(講談社現代新書)、『幸せな職場の経営学』(小学館)、『7日間で「幸せになる」授業』(PHP研究所)、『「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

PROFILE
前野マドカ

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員。EVOL株式会社代表取締役CEO。IPPA(国際ポジティブ心理学協会)会員。一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。前野隆司の妻。幸せを広めるワークショップ、コンサルティング、研修活動およびフレームワーク研究・事業展開、執筆活動を行っている。最近では、ウェルビーイングダイアログカードの普及活動を精力的に行なっている。 著書に『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』(ヴォイス)、『ニコイチ幸福学 研究者夫妻がきわめた最善のパートナーシップ学』(共著・CCCメディアハウス)がある。

家族の幸福度を上げる7つのピース

家族の幸福度を上げる7つのピース