普通の人は金融商品ではなく健康へ投資するのが一番効果的【佐藤優】

佐藤優

「これからの時代は投資で資産運用しなければならない」など、一般の個人に投資を促す声がよく聞こえてきます。しかし、「個人投資家は不利な条件で戦うことが前提だ」と作家の佐藤優さんは話します。さらに、お金を増やそうとする以前に、「自分の健康」へ投資することが先だというのです。どういうことか、詳しく聞いてみましょう。

リスクをどれだけとるべきか

このところの金融緩和の影響で日経平均株価はたしかに上がっていますが、「再び株式投資の時代がやってきた」「今、この波に乗らないと損をする」というような扇動に乗る前に、投資に対して学んでおくべきことや心得があります。

まず、個人投資家は圧倒的に不利な立場で勝負に臨んでいるということを知っておきましょう。個人投資家が投資の場で戦うのは機関投資家などのプロたち。たとえばボクシングの世界でプロとアマチュアが戦うことはありませんが、投資の世界にそうした区別はありません。プロの競輪選手と素人が自転車でレースして勝てるか? それと同じことが投資の世界では普通に行われているのです。

資金量からして大きく違います。ヘッジファンドなどは顧客から預かった巨大な資金で相場を意図的に上げ下げし、個人投資家たちが乗ったところで一気に決済して利ザヤをとります。

さらに、情報量もまったく違います。機関投資家とは銀行や生損保会社、ヘッジファンドなどが主体ですが、企業やお金の動きに関する最新情報はまずこの人たちに入ります。蚊帳の外の個人投資家は決定的に不利です。

彼らは世界中の市場を同時にモニターし、変化が起きた瞬間に最適な投資行動を自動でとれるようにプログラムを組んでいます。たとえば、米国雇用統計が発表され、個人がすぐ売買をしようとパソコンを開いても、すでに相場は大きく動いている……。

スイスフラン・ショックのときなどは典型的だったのではないでしょうか。2015年1月15日、スイス政府が1ユーロ=1・20スイスフランの上限撤廃を発表したところ、あっという間に前日比で30%以上も高騰しました。

このため個人投資家は一気に元手を失うどころか、何千万円もの借金を背負ってしまう人もいたようです。FXはゼロサムゲームですから、その背後にはおそらく大きく儲けた機関投資家がいるはずです。

よく、投資は誰もが参加できる平等な世界で、誰でも成果を上げられると主張する人がいます。しかし、実は誰もが参加できるからこそ危ない。まったく実力も体力も異なる相手と戦わなければならない点で、私はむしろ非対称で不平等な世界だと考えています。

投資をやるなら、まずそうした認識を持って入ったほうがいいでしょう。そうでないと、いきなり大きな資金を投じて一気に失ってしまうことにもなりかねません。

自分を律する力が必要

投資というのは市場における戦いというだけでなく、自分との戦いでもあります。パチンコをやったことがある人はよくわかると思いますが、やめどきが難しい。株でもFXでも、決済のタイミングを誤って損失を出してしまうことが多いのです。

勝っているときは、「もっと利益が出るのではないか」「今決済したらあとで後悔するのではないか」という感情を抑えることができず、売る決断ができない。負けているときは、「今決済したら損が確定する」「売ったとたんに上がったらどうしよう」などと考えてなかなか踏み切れない。自分をコントロールすることが一番難しく、相手ではなく自分の欲に負けてしまうのです。

怖いのは、損失を一気にとり返そうとさらに投資すること。焦りの気持ちがあるために冷静な判断力を失っており、そのためますます負けて赤字が膨らみます。

機関投資家というプロと、自分という制御しがたい存在―。投資とは、このような難敵を相手にしなければならないことを知っておきましょう。

それでも投資で運用するという場合、守るべきことがふたつあります。ひとつは投資をするお金は手取り給料から家賃や光熱費、食費などの生活費を引いた「可処分所得」の半分の金額に抑えること。可処分所得が10万円なら月に5万円しか投資に使わない。可処分所得が5万円なら2万5000円。きっぱりと決めておくのです。さらにそのお金は別会計にしておき、生活費などとは別にしておきましょう。

自分なりのルールをつくることで、熱くなってついお金をつぎ込んでしまう危険を避けるのです。投資において一番いけないのは素人が借金をして投資すること。自己破産への道をまっしぐらなので、これだけは避けましょう。あるいは、会社のお金に手をつけたりしたら、これはもう犯罪であり、とり返しがつかないことになります。

私が投資をするなら、短期的に結果を出そうとはせず長期投資をします。株の場合、将来性があると思う銘柄を買って塩漬けにしておく。株価に一喜一憂するのではなく、配当を確保し株主優待も楽しむくらいの感覚です。その点で、航空会社の株主優待は航空券が半額になるので、飛行機によく乗る人ならメリットがあります。

目先の利益を追う短期投資をしていると、どうしても常に株価が気になってしまいます。すると仕事中もパソコンやスマホで株価をチェックしたりして、本業に差しさわりが出てしまうのです。仕事に身が入っていないことは上司もすぐに気がつくので、「最近、あいつはどうも動きがおかしい。副業でもやっているんじゃないか」と陰で噂になり、それが人事に影響を与える可能性もあります。

健康には惜しみなく投資する

そうであれば、実は金融商品などへの投資などより、よっぽど効果の高い投資先があります。それが「健康への投資」です。

まず自分の体の状態をよく知ること。会社の健康診断を受けている方も多いでしょうが、受けないよりはましというレベルで、それだけでは不十分です。特に40歳をすぎたら、独自に検査を受けたほうがいいでしょう。

会社の健康診断は必要最低限のことしか調べません。社員を労働力としてどれだけ使い続けられるか、耐えられるかを調べているわけです。

医者のほうも積極的に異変を見つけるというより、基準をクリアしているかどうかチェックするという定量的な診断になりがち。わずかな異変や病変を見つけ出そうと努力をしてもらうには、それを目的にした人間ドックで検査してもらうべきです。

自分でお金を払うということが大事なのです。会社の健康診断は会社側が費用を負担します。一方、自分で高いお金を払って検査を受けに来る相手に対して、医者はより真剣に悪い部分を探してくれるはずです。

たとえ今すぐ治療の必要がないという結果が出ても、自分の体の弱点はどこかをあらかじめ把握しておくことができます。30代後半から40代前半までは2年に1回、40代半ばからは1年に1回、会社の健康診断とは別に、自費で同じ病院で同じ健康診断を受け続けていれば、時系列で自分の体が把握できるでしょう。

早期に何かが発見されれば早い段階で治療が可能ですし、40代、50代になってガタがきそうなところはどこかを知っておく。それに気をつけて生活し大事を未然に防げれば、医療費の節約につながります。

ただし、医療は健康保険のきく「保険診療」と、それが使えない「自由診療」のふたつに分かれますが、人間ドックは治療を目的としていないため、保険がきかない「自由診療」。しっかりやれば最低でも10万円くらいかかってしまうのです。

ただ、会社の加入している健康保険組合や自分の住んでいる自治体が人間ドックに助成金を出していることも多いはずです。助成金の額は健康保険組合や自治体によって違いがあるので、一度確認してみてください。

VIPとされる政治家や要人、会社の経営陣の多くは、それこそ毎年2回くらい、徹底的に健康チェックをしています。会社で出世している人や役員以上になっている人を調べると、まず高確率で30代の終わりくらいから、そういう独自の診断を受けています。

健康に投資すると、病気を防げるだけでなく、生活自体が規則正しく、節度のあるものになります。毎晩決まったメンツで深酒をするようなこともなくなりますし、タバコなど健康によくないものを自然に遠ざけるようになるでしょう。

そうやって自分を律し生活全体をマネジメントできる人だからこそ、出世するのだとも言えそうです。健康が維持できていて体力もある。すると仕事にも好影響を与えるし、上司からもしっかりした人間だと認識され、出世が近くなる。そんな正のスパイラルができ上がっているのでしょう。

  

 

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佐藤優

PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

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