脳医学者が実践! 認知症リスクを下げる「回想脳ワーク」とは

近年では認知症について、さまざまな対策法が伝えられています。そうしたなか、16万人の脳画像を見てきた瀧靖之医師は「回想脳ワーク」を提唱。日常生活に“懐かしさ”を覚える行動をプラスすることで、楽しみながら脳を刺激できるのだそうです。そのしくみと具体的な方法について、解説していただきました

楽しみながら脳を刺激する最高の方法があった!

私はこれまでに、多くの方々から得られた脳画像をデータベースとして構築し、それらの方々の生活習慣やものの考え方といったものを調査し、研究を重ねてきました。そうして私自身も、日常生活のなかで脳にいいと考えられる、さまざまなことを実践してきました。

その1つが、「過去を積極的に振り返る」ことです。

時間というものは、過去から未来へと流れていき、けっして戻ることはありません。そのため、未来に向かって行動していくことはポジティブで、過去を振り返ることは後ろ向きでネガティブな行為だと思われがちです。

しかし、さまざまな脳医学の研究によって、過去を振り返ることでむしろポジティブな気持ちになること、老若男女を問わず脳の健康を維持し、さらには将来の認知症リスクを下げる可能性があることなどがわかってきたのです。

これまでにも、認知症の進行を抑える方法として、写真や映像を見て積極的に過去を振り返る「回想法」という方法が知られていました。

しかし、回想の持つ力は、単なる認知症対策にとどまりません。

先行きの不透明な今、未来のことを考えようとしても、かえって不安になるばかりで、足がすくんでしまうかもしれません。しかし、過去を積極的に振り返ることで、自分のなかから幸福感が湧いてくるとともに、前に向かって進んでいこうと思えるようになる。

この回想によって健康な脳になることを「回想脳」と名づけました。そして、回想の素晴らしい力を、今こそ多くの方に知っていただきたいと思っています。

「回想脳ワーク」で脳を元気に保つ

「回想脳」をつくるためには、ただ過去を振り返ればいいかというと、そうではありません。
これまでの多くの脳医学研究で、いくつになっても脳が健康な「生涯健康脳」の人には、ある共通点があることがわかってきました。

それが、

知的好奇心
運動
コミュニケーション

の3つです。

実は、この3つのポイントは、脳の健康維持、さらには認知症の予防や進行を抑える効果があるとされる要素です。

アルツハイマー型認知症では、早い人では50歳前後からアミロイドβという物質が少しずつ脳内に蓄積し、それが一定レベルを超えると認知症を発症するというメカニズムが知られています。

しかし、アミロイドβがある程度たまっても、こうした知的好奇心、運動、コミュニケーションを意識することで脳が活性化され、発症を予防したり遅らせたりできるということも最近になってわかってきました。

この3つのポイントで脳が活性化されるのは、高齢者に限ったことではありません。20代、30代の人にも、中年の人にも、認知症の予防にとどまらず、広く脳を元気に保つために心がけてほしいことがらなのです。

私は、これまでの自分自身の体験や、脳医学者として研究してきたことを総合して、この3つのポイントと回想を結びつけるとよいのではないかと考えました。そうして編み出されたのが「回想脳ワーク」です。

もちろん、ただ昔を懐かしむだけでも効果はあるのですが、さらにこの3つのポイントのどれかを組み合わせることで効果をアップしようというわけです。

回想の脳への効果は、高齢者だけでなく、すべての年代の人に認められています。

学生やビジネスパーソンはストレス解消に、そして脳の老化が気になりはじめる40代あたりからは、将来の認知症リスクを減らすためにも、積極的に過去を振り返ってみませんか。

以下、3つのポイントと回想をどう組み合わせて日常生活に取り入れていけばよいかについてお伝えします。

1)「知的好奇心」が若々しい脳と体をつくる

久しぶりに同窓会で会ったクラスメートを見ていると、いつまでも若々しい人もいれば、ずいぶん老け込んだなと感じる人もいます。そうした違いをもたらす原因の1つに、知的好奇心があると私は思っています。

知的好奇心があり、何事にも興味をもって取り組んだり観察したりする人は、いつまでも若い脳を保つことができます。しかし、周囲の物事に関心をもつことの少ない人は、だんだん感情の起伏も減ってきて、年齢以上に老けてしまうのです。

そのことは、過去を振り返るときにも当てはまります。

例えば、昔住んでいた家の写真を見たときに、最初は「なんだ昔の家か」と感じるだけかもしれません。しかし、細部までよく観察したり思い出すと、その1つひとつが手がかりやきっかけとなる「キュー」(無意識の記憶を意識下に戻すための手がかり)になって、懐かしさをたっぷりと感じることができるのです。

昔を思い出すキューの数が多ければその分だけ、長期記憶として保存されている記憶を意識下に呼び戻す機会が増えます。つまり、たくさんのキューを持つことができれば、それだけ懐かしさの感情が脳を刺激するチャンスが増えて「回想脳」になっていき、どんどん脳を元気にしていくことができるわけです。

そして、脳が元気になれば、さらに知的好奇心が湧いてくるという好循環になり、ますます脳が若返っていきます。

2)「運動」と「回想」の相乗効果

「適度な運動が健康によいことは、どなたもご存じでしょう。そこで私は、「回想脳ワーク」として、運動と過去を振り返る行動を組み合わせることを考えました。

過去をただ振り返るだけでも脳によい効果があるのですが、それに運動を加えることで、さらに相乗効果をもたらすのではないかと考えたのです。

とくに、無理のない運動として、広い世代におすすめできるのがウォーキングです。ウォーキングで脂肪を燃焼させることで生活習慣病を予防することは、脳の健康にも効果的です。さらに、心拍数が増えて、脳の血流を活発にしてくれます。

私がおすすめしたいのは、町並みや家並みを観察しながら歩く「町歩き」です。

ウォーキングによって酸素をたっぷりと取り入れて脂肪の燃焼を促すだけでなく、町歩きでは同時に脳を働かせることで「回想脳」をつくることができます。そこが単なるウォーキングと違う点です。

1日1万歩、あるいは8000歩歩くのがいいといった話がありますが、家の周囲の見慣れた道を何周もしているだけでは、なかなかそんな歩数にはなりません。その点、町歩きは次々に景色が変わるので飽きることがありません。知らず知らずのうちに長い時間を歩くことができるというメリットがあるのです。

ある程度の規模の町になると資料館が整備されており、その町の歴史が詳しく紹介されています。意外な人物がその町の出身であったり、明治維新のころにはいろいろな事件が起きたりといったエピソードを見ていくと、歴史的ノスタルジアにひたることができます。

さらに、自分が歩いていた道の上を、何百年も前に人々はどんなことを考えて行き来していたのだろうと考えると、知的好奇心が満たされて脳がフル回転していきます。

鉄道の駅や道の駅に行くと、その町や地域を紹介する観光パンフレットが置かれています。そこには、あまり知られていない隠れた名所や旧街道などが記されていることが多いので、これも町歩きのいいヒントになるはずです。

3)アフターコロナこそ「コミュニケーション」が大切

脳にとって、会話をするというのは大きな意味があります。会話を交わすことは、脳の言語に関わる領域はもちろん、相手の気持ちを理解したり、社会的判断を行うなど、多くの脳の領域を用いて行うものだからです。

一方、他人と話す機会が減っていくと、使わない神経細胞のネットワークが衰えていってしまいます。社会的に孤立して、他人としゃべらないこと自体が、認知症のリスクになります。また、高齢者に限らず、脳の健康を維持するには、「人とのつながり」が欠かせないのです。

ところが、新型コロナの感染拡大によってステイホームが求められ、なかなか他人とのコミュニケーションがとりづらい世の中になってしまいました。思うように出歩くことが難しくなったり、気軽に飲食にも出かけられなくなったりして、ストレスがたまってしまった人は多いと思います。

強いストレスを受けているときは、なかなか新しいことをする気持ちになれません。実際に、私もまた新しいことをはじめるよりも、懐かしいものを振り返っている時間が増えたような気がします。

しかし、明けない夜はありません。いつかこのコロナ禍も下火になり、収束していくことでしょう。そのときには、途切れがちになった人とのつながりを再び取り戻すことが大切になってきます。

たまりきったストレスを解消して、心身ともに健康に生きていくためにも、「アフターコロナ」の時代こそ、コミュニケーションが大事になることでしょう。

社会的に人との交流関係のある高齢者は、そうでない方々よりも認知症リスクが低いといった研究報告もあります。やはりもっとも重要なことは、ノスタルジアを通して人とかかわること、人を思うことなのではないでしょうか。

それが、いつまでも若々しい脳を保つための秘訣なのです。

 

seishun.jp

 

 

PROFILE

瀧靖之

東北大学加齢医学研究所教授。医師。医学博士。1970年生まれ。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。東北大学加齢医学研究所機能画像医学研究分野教授。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター副センター長。MRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究に従事。

回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣

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  • 作者:瀧 靖之
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