“できる上司”はやっている! 壁にぶつかった新人への寄り添い方

新年度に入り、若手スタッフを迎え入れるシーズンになりました。上司・先輩としてどう指導していけばいいのかと、頭を悩ませている人も多いかもしれません。相手と世代差が大きいほど、その傾向は強くなるでしょう。人気ビジネスコンサルタントの大塚寿氏に、悩める新人への効果的なアプローチ方法を教えていただきました。

壁にぶつかっている人に向き合うときの基本

どういった職種でも同じことが言えるとは思うのですが、新人・若手のうちは壁にぶち当たることの連続ではないでしょうか。

その壁を前にして、どうしていいかわからずに空転してしまったり、逃げ出したくなってしまう衝動に駆られる人さえ出てきます。

まず重要なのは、指導する側としては、日々の観察やコミュニケーションの中で、今その部下がどういう状況にあるのか、大きな壁、小さな壁に当たっている状態なのかをつかもうとすることです。

リモートや電話の場合は「言動の変化」を見逃さないようにしてください。

「いつもより元気がない」、「いつもより口数が少ない」、「なんか、いつもより暗い」

こうした相手の言動や表情以外に、「勤怠」にも変化が現れたら危険信号です。

この日々の観察の中で「壁に当たっている」と感じたなら、「共感」、「激励」というコミュニケーションが基本となります。

「〇〇さんの気持ち、よく分かる。今はつらいと思うけど、後で振り返った時に、あの時自分は成長できたって思える栄光の瞬間になるはずだよ。実は、私も〜(自分の経験を語る)」

という感じで、誰でも経験することだと伝えてあげましょう。

若手ながらスキルも高くモチベーションも高いという、ごく一部のハイパフォーマー予備群には「独力で壁を乗り越えさせるために、あえて放っておく」という選択肢もありますが、大多数の部下に対しては「寄り添う」系でないと逆効果になります。

部下・後輩の心に寄り添う言葉とは

「寄り添う」系という意味では、自身の「同じような壁に当たっていた経験」、「つらかった体験」、「もうダメかと思った瞬間」といったネガティブ体験を語ることは、非常に効果的です。

なぜなら、人は「なんてスゴイんだ」といった武勇伝や成功話より、逆に「自分もこんな壁に当たっていた、あの時はもうダメかと思った」というネガティブなエピソードに共感するからです。

「自分だけじゃない」、「先輩だって、皆そうだったんだ」と、いま自分が直面している壁を一般化できて、「どう乗り越えようか」と、次のステップに進めるようになるのです。

一例をあげれば、

「結局、自分は〜することで、その時は乗り越えることができたけど、〇〇さんの場合は他の方法もあると思うので、その乗り越え方を一緒に考えていこう」

といった流れになるでしょう。

また、できない自分が恥ずかしいとか、できないことによって恥をかいてしまったと自分を責めてしまっている人に対しては、

「人って恥をかかないと、成長できないものなんだよね」

といった言い方が効果的です。単に相手を慰めようとしたものではなく、一面の真実としてずっと企業内で使われてきた普遍的な事実ですので、使ってみてください。

希望の仕事、配属先ではない新人には「陽転思考」を

希望と不安の双方を抱いて新人は入社してくるものですが、その希望が損なわれた時、モチベーションは著しく低下してしまうものです。

その最初の関門が配属先の発表です。

希望していない地域への配属、希望していない部門への配属など、研修後の配属の発表では悲喜こもごものドラマが生まれます。

中でも多いのが配属される地域の問題。関東の生まれで、東京の大学を出ているのに関西支社(大阪)などに配属になってしまうケースです。

入社したのが自分一人の場合にはそれほどでもないのですが、問題はほとんどが東京本社に配属される場合です。

他との比較の中で「なんで自分だけが……」というやるせない思いが募ってモチベーションを下げてしまいます。

また、配属される地域ではなく、部署に関しても同様のことが起こります。

たとえば、花形の企画部門を希望していたのに、営業部門になってしまったり、インフラ部門を希望していたのに、アプリケーション開発の部門になってしまったりする場合です。

明確な希望を持っていればいるほど、その希望がかなわなかった時、新人は落胆し、人によってはモチベーションを落としてしまいます。

実際、それが原因となって1年以内に会社を辞めてしまう新人は、昔からいましたが、年々漸増傾向にあります。

こうした新人を先輩や上司として担当することになったら、まずは気持ちを切り替えてもらいたいはずです。が、「ポジティブに考えよう」では単純すぎて、効果は出ません。

お勧めなのが「陽転思考」です。

「陽転思考」とは、何か自分にとって良くないことが起こった時、そのネガティブな事態の前に「せっかく」という言葉をつけて、その後に続く言葉を考えさせる方法です。

たとえば、てっきり東京本社の配属と思っていたのに、関西支社の配属になってしまった場合は、「せっかく関西支社の配属になったのだから〜」の「〜」を考えさせるのです。

「せっかく」から始まりますから、ポジティブなことしか思い浮かばないはずです。

「前向きなことを考えてみようよ」と促すより、はるかに効果的です。

せっかく関西支社に配属になったのだから、「週末は京都を観光しつくそう」とか「大阪、神戸のB級グルメを食べつくそう」といったワクワクするポジティブなことが考えられると、負の感情は一掃されます。

「せっかくアプリケーション開発の部門に配属になったのだから、インフラもアプリケーションも両方分かる技術者になろう」

と思えればしめたものですが、このケースではアプリケーション開発で経験したことが将来インフラの分野でも生かせるということを具体的に語ってあげるのもいいでしょう。

最初に配属された部門で得られるメリットを具体的に伝えるのもいいし、本人に考えさせるのもいいし、ロールモデルになるような人がいれば、その人のエピソードを紹介するのも効果的です。

〝やる気〟が感じられない新人が納得する話とは?

 新人の仕事は一見、単純作業や雑用に思えてしまうことが多いですが、そこだけに注目してしまえば、そうした仕事に「意義が感じられない」と思ってしまうのは、ありがちなことです。

そう感じてしまうのは、「もっと価値のある仕事を」、「やりがいのある仕事がしたい」というモチベーションからでしょうし、「こんな単純作業の繰り返しばかりじゃ成長できない」という焦りもあるでしょう。

もちろん、この場面で「もうひとつ上のランクのタスク、徐々に負荷の高いタスク」をアサインする手もありますし、遠からずそうすべきではあるのですが、やはり、その前に基本的な仕事、ルーティンにはどういう意味や意義があるのかということを、しっかりと本人に納得させるのが第一義となります。

相手に「腹落ち」させるには、何かを例にして伝えるのがベストですが、よく用いられるのが、学生時代の部活や子供の頃の習い事です。

中学、高校時代の部活、スポーツでも音楽でも分かりやすいのですが、本番の試合や大会の時間などはごくわずかで、大部分の時間を練習に費やしてきませんでしたか?

しかも試合形式、本番形式の練習は最後で、最初は基本練習を繰り返してきたはずです。

いきなり試合や演奏が始まるケースなど皆無に違いありません。スポーツならケガをしてしまうでしょうし、練習なしの演奏など考えられません。

仕事もまったく同じであることを新人に伝えましょう。

そもそもどんな仕事も95%は定型・反復業務の繰り返しで、残り5%程度が問題解決・創造業務という自己表現のチャンスといった割合なのではないでしょうか。

しかも、この5%は、95%が完璧にこなせた後にあるようなものです。「価値のある仕事」や「成長」を希望するなら、なおさら基本や日々のルーティンを完璧にこなせるようになるのが近道であることを伝えましょう。

説得力を高める「量質転化」という考え方

その時に使って欲しい考え方が「量質転化」という概念です。これは文字通り「質」は「量」からしか生まれないという意味です。

この話をする時、例え話としてよく用いられるのが、日本人なら英会話の習得の方法です。英語が母国語でない日本人がマスターするためには、英語に触れる延べ時間が1000時間必要と言われています。この1000時間を閾値いきちと呼んだりしますが、英会話の教材などはこの閾値を目安に作られています。

経験された方もいるかもしれませんが、英語の習得というのは、その学習のために費やした延べ時間と上達が正比例しません。閾値の1000時間を超えた瞬間にいきなり、英語がクリアに聴こえるようになり、ペラペラと話せるようになるという話です。

スポーツや楽器の演奏も、ある一定のレベル(質)になるには閾値に達する練習の量が不可欠という意味で同じではないでしょうか。

まさにこれは仕事も一緒ですので、こうした話で基本的な仕事やルーティンの重要さを諭すようにしましょう。

 

PROFILE
大塚寿

1962年群馬県生まれ。株式会社リクルートを経て、サンダーバード国際経営大学院でMBA取得。現在、オーダーメイド型企業研修、営業研修を展開するエマメイコーポレーション代表取締役。リクルート社の伝説の営業パーソンが講師陣に名を連ねるオンライン営業研修「営業サプリ」において「売れる営業養成講座」の執筆・総合監修を務める。著書に『リクルート流』(PHP研究所)、『“惜しい部下”を動かす方法ベスト30』(KADOKAWA)、ベストセラー『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社)、『50代 後悔しない働き方』(青春新書インテリジェンス)などがある。

 

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