課題の“ブレイクダウン”で、今度こそ「習慣作り」がうまくいく!

「良い習慣」を身につけようと思って、気合いを入れて取り組んだものの、いつの間にか挫折していた…ということはありがちです。中には、何度も挫折していて、もはや自信がなくなっているという人もいるでしょう。そんな人には、身につけたい習慣の中身を見直し、大きな課題であれば「切り分ける」ことが役立つようです。自身も習慣作りに試行錯誤してきたという、エッセイストの金子由紀子さんにお話を伺いました。

習慣は、じつは2種類に分けられる

先日、何通もの郵便物を作成するために、食卓の上で作業をしていました。

封筒、はさみ、のり、切手シートの束、印鑑と朱肉、ペン。書類や便せんなどもたくさんあったので、テーブルの上はたちまちいっぱいになってしまいました。

しばらくして、すべて封入され、切手の貼られた郵便物をポストに投函しに行こうとしたとき、ふと思いつきました。

「そうだ! さっきのあのテーブルの上、片づけておかないと。後回しにすればするやっかいほど厄介だから...」

そう思って食卓を振り返ると、上には何もありません。

「あれ? 誰か片づけてくれたのかな?」と思っても、私以外、誰もいません。

よくよく自分の行動を思い返してみたら、郵便物を作り終えた直後、今と同じことを思ってそそくさと片づけていたのでした。

「後回しにすると厄介だから」――

私はもともと、片づけが嫌いで苦手で、若い頃は、散らかしてしまう自分にいつもうんざりさせられてきました。

そんな私が、自分の弱点を少しずつ克服していけたのは、苦手なこと=片づけを、無意識のうちにできるレベルの「習慣」にしてきたことが最大の理由だと思います。

散らかりが広がらないうちに片づけてしまえば、いつもスッキリした環境で暮らせる。モノをなくしたり、探したりしなくて済む。これは大きな成果です。

「習慣」の力の大きさについては、多くの人が知るところでしょう。習慣は高利回りの投資みたいなもので、うまく運用(身につけ)すれば、少ない元手(労力)で大きな成果を得られます。だから皆、習慣を身につけようと努力します。でも、なかなかうまくいかない。私もそうでした。

失敗を重ねるうちに、習慣には実は2つの種類があるのだ、ということが、少しずつわかってきました。努力の蓄積がそのまま成果に反映する「積み上げる習慣」と、目の前にある問題を取り除き続けることで身につく「ためない習慣」です。

この二つを混同してしまうと、せっかくの努力が成果に結びつかなくなってしまいますし、特に「ためない習慣」を軽視すると、人生の質そのものが低くなってしまいます。

「ためない習慣」は、一見地味であまり価値のないもののように見えますが、私はこの習慣に着目し、身につけたことで、「積み上げる習慣」も比較的ラクに身につけることができるようになりました。

「ためない習慣」を身につけると、「積み上げる習慣」もうまくいく

「積み上げる習慣」とは、一般的に次のようなものです。

  • 勉強・研究・執筆(入試、資格取得、発表、出版など)
  • エクササイズ・練習(スポーツ、音楽など)
  • 貯金・投資

このほか、実現したい夢に向かって準備し、一つひとつ必要なパーツを集めていくような習慣は、「積み上げる習慣」といっていいでしょう。

これに対して「ためない習慣」は、一見とても地味です。それもそのはず、「積み上げる」のが目に見えて何かの形を作っていくのに対して、「ためない」は、「元に戻す」「常に一定の形を保つ」ことが目的なので、一見しただけでは、変化や成長が感じられないかもしれません。

それは、「ためない習慣」が、基本的に「生きることをスムーズにするための習慣」だからです。

具体的には、「体の健康・衛生・美容に関わる習慣」「食生活に関わる習慣」「衣服・服飾品に関わる習慣」「住居に関わる習慣」「家庭生活・社会生活に関わる習慣」などです。

栄養素でいえば、「積み上げる」がタンパク質(肉)や炭水化物(ごはん)、「ためない」がビタミンや無機質(野菜)といったところでしょう。

野菜が嫌いな人は、カロリーも食べごたえも少ない野菜をおろそかにしがちです。しかし、ビタミンや無機質が欠乏すると体調を崩すのと同じように、「ためない習慣」をおろそかにしていると、そのときすぐには問題が顕在化しなくても、心のどこかにひっかかりが生まれます。

放置すればそのひっかかりは大きくなって、不安やイライラとなり、そのうちに〝滞り〟がさまざまな問題を引き起こすようになります。

しかし、「あとあとタイヘンになることがわかっているのに、つい面倒でなおざりにしてしまう」ことこそ、ためずに習慣化してしまえばラクになるのです。

「ためない習慣」(家事など)を誰かにやってもらっている人も、その人が家事をできなくなった途端、同じことが起こるでしょう。

といっても、「ためない習慣」を克服して、すっかりできるようになるまで「積み上げる習慣」に取りかかれないわけではありません。トラブルが起きたり、「積み上げる習慣」がうまくいかなくなったタイミングで、生活を修正・補完するように、「ためない習慣」を見直していけばいいのです。

穴を埋め、足元を固めることでトラブルを減らした方が、遠回りに見えても「積み上げる習慣」の獲得をスムーズにしてくれ、同時に生活の質も向上するはずです。

挫折しがちな課題は「ブレイクダウン」してみよう

二種類のどちらの習慣にも言えることですが、一見シンプルで、簡単に身につきそうに見えるのに、実は身につけるのがとても難しい、ハードルの高いものがあります。それは、〝大きな習慣〟です。

〝大きな習慣〟は、シンプルに見えるけれど、よく見るとその中には、いくつもの小さな習慣が隠れているものなのです。

「早起き」がそのいい例でしょう。「今までより○分早く、○時に起きる」。これ自体はたいへんシンプルな目標です。

これだけなら、目覚まし時計を今までより○分早くかければいいだけですから、誰でも翌朝からすぐにできそうに思えます。

それなのにこれができない。何度やってもできない。意志が弱いから? よく眠れていないからでしょうか? こんなときは、早起きという概念を一度、因数分解してみましょう。

バラバラにして最小レベルに分解して、もっと小さな習慣にブレイクダウンできないか、やってみるのです。

「朝、○時に起きるためにはどうしたらいいか?」

  • 今までより○分早く寝る
  • 就寝時間が変わって寝つけないなら、安眠のために、前の晩の食事を、消化のよいものにする
  • 毎朝の目覚まし時計のアラームを「強」に変える
  • 晩酌をしていたなら控えるようにする
  • 翌朝すぐに起きて行動できるように、着替えなどの準備をしておく
  • 寝室が暗くてもすぐに行動できるように、手元に照明を補う

.........

「早起き」とひとことでくくってしまうと、ずいぶん簡単な習慣のように思えますが、それが長年できずにいたなら、早起き以前に、これらの「改善しておくべき小さな習慣」がたくさんあったということかもしれません。

つまり、〝大きな習慣〟を分解して〝小さな習慣〟に変換し、それぞれ2週間かけて身につけていけばいいのです。時間はかかるかもしれませんが、最終的には〝大きな習慣〟である「早起き」が実現するはずです。

「ためない習慣」がある程度できていた人、パワーがあって意志が強い人は、こんな風に「因数分解」などしなくても、下位の小さな習慣が無意識のうちにクリアできるでしょう。

しかし、そうでない人にとっては、まず、自分が取り組もうとしている課題の大きさを明らかにすることが先決です。

たとえ、自分の手に余るような大きな課題だったとしても、ひるむことはありません。巨大なピラミッドも、最小単位まで分解すれば、人力で運ぶことのできる大きさ・重さの石の集まりです。

大きな課題は、切り分けて、自分が処理できる大きさにブレイクダウンしてしまえばいいのです。

身につけたい習慣が一日に1時間も2時間もかかるようなものでは、長く続かず挫折してしまいかねませんが、それを「1回15分」など、自分に必ずできるサイズに分解することで、無理なく続けることができるでしょう。

ちなみに、人間の集中力の周期は15分単位と言われているそうです。

ブレイクダウンして、一度にこなす量を減らせば、トータルでの時間はかかります。しかし、続かないような大量の作業を自分に課して、結局挫折してしまうよりは、時間をかけても、コツコツ気長に取り組んで目標を達成させる方がいいのではないでしょうか。

 

PROFILE

金子由紀子

1965年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスに。「シンプルで質の高い暮らし」を軸に、幅広い分野で執筆を行っている。総合情報サイトAll About「シンプルライフ」の初代ガイドを務める。
10年に及ぶひとり暮らしと、主婦・母親としての実体験をもとに、心地よい生活術を提案。継続性を重視したリアルな暮らしの知恵が、共感を呼んでいる。『ちょうどいい暮らし』『50代からやりたいこと、やめたこと』(小社刊)、『持たない暮らし』『買わない習慣』(アスペクト)、『片づけのコツ』(大和書房)、『クローゼットの引き算』(河出書房新社)、『40歳からのシンプルな暮らし』(祥伝社)など著書多数。

暮らしと心の「すっきり」が続く ためない習慣

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