中小企業の倒産は自己責任!? 菅政権の「自助」政策とは【浜矩子】

シャッター商店街

自民党総裁選の時から一貫して、目指す社会像として「自助・共助・公助」を掲げてきた菅義偉首相。「まずは自助」ということで、「自分でできることは、まず自分でやってみる」と「自助」の重要性を説いてきた。エコノミストの浜矩子氏によると、その裏にはこれから厳しい環境に置かれる中小企業を突き放す動きが透けて見えるという。

「大企業並み自助力を」で進められる中小企業の大企業化

菅首相が首相となって始めての所信表明演説が2020年10月に行われた。この所信表明演説の中で菅首相は「大企業で経験を積んだ方々を、政府のファンドを通じて、地域の中堅・中小企業の経営人材として紹介する取組を、まずは銀行を対象に年内にスタートします」と方針を打ち出した。

さらに年が明けた2021年1月の施政方針雑談の方にも、一語一句、ほぼ同様の文章がある。違うのは時制だけだ。所信表明で「年内にスタートします」と言っている取り組みが実際に銀行を対象に始まったと報告している。その上で、対象業種を向こう3年拡大するのだと言っている。

これは一体何だろう。大企業風を吹かせる「人材」を様々な固有事情を抱える地域の中堅・中小企業に送り込むことが、どれほど、本当に中小企業の助けになるのだろうか。どこまで、彼らの地域貢献力を高めることにつながるのだろうか。

「大企業で経験を積んだ方々」という言い方は年配者を示唆している。年の功は貴重ではある。だが、長らく大企業の経営環境に浸ってきた年配者たちは、どこまで、地域密着型の中小企業が当面している諸問題を深く理解することができるだろうか。

どうも、大企業経験者を「経営人材」として地域の中小企業に送り込むという言い方には、中小企業に対する「上から目線」を感じる。大企業のように強くなれ。大企業並みの自助力を身につけろ。公助に頼らずにすむようになれ。そのために、大企業経営者のご指導を仰げ。このように言っているように聞こえる。

菅政権の中小企業政策の出所にいる外国人社長

首をかしげていると、かなり気になる関連情報に行き当たった。菅政権の狙いの中に、どうも「中小企業の大企業化」という目論見が含まれているようなのである。この発想の出どころは、奸佞首相の知恵袋の一人である小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長だ。

2020年12月1日、政府の「成長戦略会議」が開催された。この日の会合では、当面の経済政策の方向性を定める「実行計画」が取りまとめられた。菅首相の施政方針演説は、この「実行計画」を踏まえて書き上げられたものだと考えていいだろう。

「実行計画」の策定に向けて、「成長戦略会議」の議論は、日本の中小企業の労働生産性を引き上げることが成長戦略上の差し迫った課題だというところに収斂する展開になった。このテーマについて、アトキンソン氏が「生産性を上げるために十分な企業規模まで各社の成長を促進する政策に切り替えるべきだ」(日本経済新聞 2020年12月2日付)と訴えたのだという。

地域密着型の経営を続けてきた中堅・中小企業を無理やり大企業化させ、生産性を上げさせる。それに奏功すれば、彼らの自助力が高まるから、彼らを支えるための公助は必要なくなる。その上、彼らの生産性上昇が日本経済全体としての成長力アップにもつながる。一石二鳥! いかにも菅政権らしいロジックだ。

そこには、地域経済やそれを支える中小企業に支援の手を差し伸べるという発想がない。強い国家の下支え役になれるよう、中小企業を鍛え直す。そのために、「大企業で経験を積んだ方々」を差し向けるというわけだ。

セットになった「中小企業対策」と「地域金融機関対策」

地域経済の担い手である中小企業に関連する政策は、中小企業だけでなくそれを支える「地域金融機関の経営基盤強化、統合支援」がある。このテーマについては、施政方針雑談の方で次の通り言及されている。

「地域の経済の核となる地域金融機関の経営基盤を強化することとし、統合などの支援を日本銀行とも連携しつつ進めます」(施政方針)

所信表明の方には地銀への言及はない。だが、就任早々の記者会見の折、奸佞首相は「地方の銀行について将来的には数が多過ぎるのではないか。再編も一つの選択肢になる」と言った。地銀再編への思い入れはかなり強そうである。中小企業への大企業経験者の送り込みが彼らの自助力アップ策なら、地域金融機関の「統合などの支援」は、地域ベースの共助力アップ策だと考えられる。

地域金融機関の体力強化は、確かに地域経済の下支え要因として重要だ。だが、再編や統合が進む中で懸念されるのは、弱者の切り捨てだ。統合する以上、それに伴う収益力アップは確実でなければならない。それを保証するためには、経営基盤の弱い企業とのお付き合いはほどほどにしておかないといけない。

そのような心理が、菅政権に「統合などを支援」される地域金融機関の中に広がれば、彼らは有力企業との関係形成ばかりに邁進し始める恐れがある。その結果、例えば、地域経済内のサプライチェーンの安定確保の観点から不可欠の企業を冷遇するというような事態が発生しかねない。それでいいのか。

結局のところ、結局のところ、「地域中堅・中小企業への人材派遣」と「地域金融機関の経営基盤強化、統合支援」はセットになっている。キーフレーズは「大きくすることで強くする」なのだろう。小さくて多様な能力とニーズを持つ地域密着型諸企業の存在を否定する。そのような諸企業をきめ細かく支える群小地域金融機関の存在も否定する。集約と大型化を通じて効率と生産性を引き上げる。そのことで、菅政権の成長戦略への地域の貢献度を高める。それと同時に、地域への公助の必要性を引き下げる。これが菅政権の戦略なのだと考えられる。

観光地への休業要請と資金援助は公助だからできない?

では、菅試験はどのようにして地域経済を回していこうとしているのか。キーワードは「観光立国再び」だろう。二つの演説の言及は次の通りだ。「新しい日常においても旅は皆さんの日常の一部です。日本に眠る価値を再発見し、観光地の受入れ環境整備を一挙に進め、当面の観光需要を回復していくための政策プランを、年内に策定してまいります」(所信表明)

「わが国には内外の観光客を惹きつける『自然、気候、文化、食』が揃っており、新型コロナを克服した上で、世界の観光大国を再び目指します」(施政方針)

施政方針の方には、この他にも「全国100程度の地域で、街中に残る廃屋を撤去し、魅力ある施設へとリニューアル」、「国宝・重要文化財級の美術品の地方貸し出し」、「日本酒・焼酎などのユネスコ無形文化遺産への登録を目指す」等々、各種の具体策も盛り込まれている.
かなりの気合いの入れ方である。

ここで気になるのが、所信表明の方の「新しい日常においても旅は皆さんの日常の一部です」という言い方だ。これが、どうしても、かの「Go To トラベル」を連想させる。

ご承知の通り、このキャンペーンは医療関係者から、この施策がコロナの感染拡大を助長しているという指摘があった。世論の批判も高まり、菅政権への支持率急落につながった。そうした中で、2020年12月14日に、停止の判断が出た。「ようやく」感の強い停止判断だった。

コロナの猛威が勢いを増す中でも、なお、我々に旅をさせることに固執する。この感性が前出の「新しい日常においても、旅は皆さんの日常の一部」という言い方につながっていると感じる。停止判断後に行なわれた施政方針雑談の中には、さすがに「Go Toトラベル」への言及はない。だが、所信表明の方では、次のように言っている。

「Go To キャンペーンにより、旅行、飲食、演劇やコンサート、商店街でのイベント
を応援します。これまで、延べ2500万人以上の方々が宿泊し、感染が判明したのは数十名です」

必死で「Go To」をかばい、その感染拡大効果を否定しているのである。コロナ下の観光地への支援は、休業要請と資金援助の組み合わせを短期集中的に徹底して実施するのが筋だろう。だが、それだと公助になってしまう。だから、人々に旅をさせる。これまた、実に菅政権らしい論理だ。 

 

 

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PROFILE
浜矩子

1952年、東京都生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱総合研究所初代英国駐在員事務所所長、同社政策・経済研究センター主席研究員などを経て、同志社大学大学院ビジネス研究科教授。エコノミスト。近著に『統合欧州の危うい「いま」』(詩想社新書)、『「共に生きる」ための経済学』(平凡社新書)、『「通貨」の正体』(集英社新書)などがある。